3年 国語 書写(毛筆)

書写(毛筆) ── 筆で習っているのは、字のうまさではなく形の決まり方

3年生になると、書写の時間に筆が出てきます。墨で手がよごれ、半紙はしわになり、思ったところに線が引けません。それでも学校が毛筆をやらせるのには、はっきりした理由があります。筆は、うまい字を書くための道具ではありません。鉛筆では見えていなかったものを、見えるように大きくする道具です。

なぜ、わざわざ筆で書くのか

鉛筆で書いた線は、どこも同じ太さです。強く書いても濃くなるだけで、太さはほとんど変わりません。ところが筆の線は、力を入れれば太くなり、力をぬけば細くなります。この差が、書写でいちばん大事なところです。

字の終わり方には三つの種類があります。ぴたりと止める「とめ」、上にはねる「はね」、すっと細くなって消える「はらい」です。鉛筆ではこの三つがほとんど同じ形に見えてしまい、自分が書けているのかどうか分かりません。筆だと、できていないことが一目で分かります。

同じ「はらい」を書いたとき 【鉛筆】 ━━━━━━━ 太さが変わらない → できているか分からない 【筆】 ━━━━─── だんだん細くなる → 途中で止まると、 そこに黒いかたまりが残る 筆は、うまさを見る道具ではなく 「できていない場所」を見せる道具。

つまり毛筆は、鉛筆の字とは別のものを習っているのではありません。ふだんの鉛筆の字を大きくして、確かめているのです。だから書写でやったことは、そのままノートやテストの字に返ってきます。

硬筆と毛筆は、同じことを別の大きさでやっている

書写の授業には、鉛筆で書く硬筆と、筆で書く毛筆の二つがあります。この二つは別の勉強ではなく、同じ内容を、見える大きさを変えてやっています。毛筆で「はらいは、はらい終わるまで筆を紙から離さない」と体で覚えた人は、鉛筆でも自然と最後まで線を引くようになります。

用具は、置く位置を先に決めてしまう

毛筆の時間がうまくいかない原因の多くは、字ではなく机の上にあります。墨をこぼす、そでが半紙にふれる、文鎮がじゃまになる。これらは書き始める前に決まってしまうことです。

用具役目置く場所
下じき(フェルト)墨が机に通るのを防ぎ、筆のあたりをやわらかくするいちばん下に、まっすぐ
文鎮半紙が動かないよう押さえる半紙の上のはし、横向きに
すずり(墨池)筆に墨をふくませ、量を調節する利き手の側、少し前
筆線の太さを変えるすずりの手前、ころがらない向きに

とくに文鎮は、半紙の上のはしに置きます。まん中や下に置くと、書いている手とぶつかります。半紙が動くのは紙が悪いのではなく、押さえる場所がちがうことがほとんどです。

墨は、つけすぎない

初めのうちは、たっぷりつけたほうが濃く書けそうに感じます。実際には逆で、墨が多すぎると線がにじみ、はらいの先が丸くふくらんで形が消えます。すずりのふちで筆をしごき、余分を落としてから書くのが基本です。しごく回数は、書き始めが少しかすれるくらいがちょうどよい目安になります。

筆の持ち方と姿勢は、線の太さを変えるためにある

筆は、鉛筆のようにねかせません。紙に対してできるだけ立てて持ちます。ねかせると穂先が横を向いてしまい、力を入れても太くならず、ぬいても細くなりません。太さを変えられる道具を、変えられない持ち方で使っていることになります。

持ち方と姿勢の骨組み ① 筆は立てる(紙に垂直に近く) ② 親指・人さし指・中指で軽く持つ ③ わきを少し開け、ひじを机につけない ④ 左手は半紙の下のはしを押さえる ⑤ 体は机から こぶし一つ分 はなす ※ 力を入れるのは指ではなく うで全体。指に力が入ると 線がふるえる。

ひじを机につけないのは、うで全体を動かして書くためです。指先だけで書こうとすると、動かせる範囲が数センチしかなく、大きな字の後半が縮みます。半紙いっぱいの字は、指では書けない大きさに作られています。

左手の役目もはっきりしています。半紙を押さえることです。両手を机の下におろして書いている人は、紙が少しずつずれていき、字の中心もいっしょにずれていきます。

字の形は、感覚ではなく決まりで作れる

「整った字」と聞くと、生まれつきの上手さの話に聞こえます。しかし書写で見ているのは、次の三つが守れているかどうかという、数えられることです。

決まり見るところくずれたときの見え方
中心をそろえる字の中心が、半紙のたての線の上にあるか行が右か左へ流れていく
間を等しくする横画どうし、たて画どうしの間かく上がつまって下がすかすかになる
長さを変えるいちばん長い画はどれか全部同じ長さで、平たく見える

たとえば「土」という字は、横画が二本あります。上より下を長くすると安定して見え、逆にすると上に重みが乗って不安定になります。「川」は三本のたて画の間を等しくあけ、まん中を短く、右をいちばん長くします。どれも好みではなく、そう書けばそう見えるという決まりです。

この「どの画が長いか」「どこで交わるか」という見方は、漢字そのものの成り立ちともつながっています。部分の組み合わせで漢字を見る話は漢字の組み立てでくわしく扱っています。書写は、そこで覚えた形を、実際に手で再現する時間だと考えてください。

名前は、本文と同じ大きさで書かない

作品の左下に書く名前は、本文よりずっと小さく書きます。目安は本文の三分の一ほどです。ここを同じ大きさで書いてしまうと、名前が主役になってしまい、せっかくの字がしずんで見えます。名前を書く場所も、書き始める前に半紙の左下として空けておきます。

後かたづけまでが、書写の時間

筆は、使ったあとに必ず洗います。水を流しながら、穂の根元を指でもみほぐすようにして墨を出します。表面だけを洗って根元に墨を残すと、そこで固まって穂が開かなくなり、次の時間に細い線しか書けません。筆がだめになる原因のほとんどは、書き方ではなく洗い残しです。

洗ったあとは、穂先を指先で整えてから、つるすか、ねかせて乾かします。穂を上に向けて立てると、水が根元にたまってくさります。すずりも、墨を流してから洗います。かたまった墨は、次に水を入れてもうまく溶けません。

送りがなや読み方のように、国語には「決まっているから、その通りに書く」ことがいくつもあります。送りがなのつけ方と同じで、書写の約束も理由を知ってしまえば覚え直す必要がなくなります。

つまずきやすいところ

その1 はらいの終わりで、筆を持ち上げてしまう

細くしようとして、途中で紙から筆を離す人が多い部分です。そうすると、線がぷつりと切れて先が丸くなります。正しくは、紙につけたまま少しずつ力をぬきながら進め、ぬき終わったところで自然に紙から離れるようにします。「細くする」ではなく「力をぬきながら最後まで動かす」と言いかえると、手が合いやすくなります。

その2 濃く書きたくて、墨を足しつづける

かすれるのがいやで、一画ごとに墨をつけていると、線がふとってつぶれ、字の中の白い部分がなくなります。一つの字は、はじめに一度つけた墨で最後まで書ききるのが目安です。少しかすれた線は失敗ではなく、筆の動いた速さが見える線です。

その3 書く前に、どこから始めるかを決めていない

いきなり書き出すと、一画目が半紙の高い位置に寄りすぎて、下が足りなくなります。筆を持つ前に、書く字の高さと中心を目で決めておきます。空中で一度なぞってみるだけでも、置く場所のずれはかなり減ります。書く字が音読みか訓読みかで形が変わることはありませんが、意味の切れ目を意識して書くと字の並びが落ち着きます。読み方そのものについては音読みと訓読みを見てください。

Q1 毛筆をがんばると、ふだんの鉛筆の字も変わりますか。

A 変わります。毛筆で確かめているのは、とめ・はね・はらいと字の形という、鉛筆でも同じ中身だからです。

Q2 筆はどのくらい立てて持てばよいですか。

A 紙に垂直に近い角度です。ねかせると穂先が横を向き、太さを変えられなくなります。

Q3 書いている間に、半紙がずれてしまいます。

A 文鎮を上のはしに置き、左手で下のはしを押さえます。両手を机の下におろしていると必ずずれます。

Q4 線がかすれるのは失敗ですか。

A 失敗ではありません。墨をつけすぎてにじむほうが、形は大きくくずれます。

Q5 筆の根元まで洗わないと、どうなりますか。

A 残った墨が固まって穂が開かなくなり、太い線が書けなくなります。根元をもみほぐして洗います。

まとめ

おうちの方へ

3年生は毛筆が始まる学年です。習字教室に通っていないと不利に見えますが、学校の書写で評価されるのは作品の美しさそのものではなく、とめ・はね・はらいや字の中心といった約束が守れているかという部分です。ここは練習量よりも、何を見ればよいかを知っているかどうかで差がつきます。
ご家庭で見てあげるときは、「上手だね」「もっとていねいに」ではなく、書いた字の中心が一本の線の上に乗っているか、横画の間が同じくらい空いているかを、いっしょに指でなぞって確かめてみてください。直すところが言葉になると、子ども自身が次に何をすればよいか分かります。
用具については、筆を洗うところまでを本人にやらせてください。書写がきらいになる原因の一つは、道具がうまく動かないことです。根元に墨が固まった筆では、どれだけ気をつけても細い線しか出ず、本人には理由が分かりません。
なお、家庭で新しい道具をそろえる必要はありません。学校で配られる用具でこの記事の内容はすべて実行できます。