学校のろうかにも、駅にも、お店の前にも、ポスターがはってあります。みんな毎日見ているのに、「ポスターを読んだ」ことがある人は、じつは少ないかもしれません。ポスターには、文章とはまったくちがう読み方があります。かぎは、どの字が大きくて、どの字が小さいか。「ポスターを読もう」の単元です。
まず、教科書の説明文とポスターを、「読む人」の側からくらべてみます。
教科書の説明文は、およそ800字あります。読む人は、いすにすわって、はじめからおわりまで読んでくれます。声に出して読む速さは1分間におよそ300字、つまり1秒間におよそ5字ですから、800字を読むのにかかる時間はこうなります。
いっぽう、ろうかにはってあるポスターの前で、歩いている人が足を止めずに見てくれる時間は、せいぜい3秒ほどです。3秒で読めるのは、何字でしょうか。
たったの15字。ここに、ポスターという紙のひみつがぜんぶつまっています。作った人は、2分40秒かけて読んでくれる読者ではなく、3秒で通りすぎてしまう人に向けて書いているのです。だからポスターは、はじめからぜんぶ読ませないように作られています。これは手ぬきではなく、作戦です。
では、たった3秒しかくれない相手に、どうやってつたえるのか。ポスターの道具は3つあって、それぞれ役わりがちがいます。
| 道具 | 役わり | だれにとどくか |
|---|---|---|
| 絵・写真 | 足を止めさせる | ろうかのはしを歩いている人にも |
| 大きい字 | いちばんつたえたいことを さけぶ | 通りすがりの人(3秒の人) |
| 小さい字 | くわしいことを 説明する | 足を止めて、近づいてきた人だけ |
大きい字は、遠くまでとどくさけび声です。小さい字は、近くに来た人にだけ聞こえるふつうの声です。つまり、字の大きさは声の大きさ。そしてここが大事なところですが、声の大きさがちがうということは、読む順番が決められているということです。
ポスターは、上から順に読むものではありません。①絵が目に入る → ②大きい字を読む → ③気になった人だけが近づいて、小さい字を読む。作った人は、見る人がこの順番で読むことを、はじめから計算しています。説明文の要点では段落の中から中心の一文を自分でさがしましたが、ポスターでは、中心がもう大きい字で教えられているのです。
音楽会のお知らせポスターを、ことばで書き表すとこうなります。
大きい字は「もりの おんがくかい」。空白を数えずに9字です。さっきの計算にあてはめると、9字 ÷ 5字 で2秒かからずに読めます。3秒しかない通りすがりの人にも、ちゃんととどく長さに作ってあるわけです。15字より短いかどうか ── これが、大きい字が「さけび声」の仕事をできるかどうかの分かれ目です。
そして小さい字の3行には、日にち・時こく・場しょ・お金のことがならんでいます。この3行は、通りすがりの3秒では読み切れません。でも、それでいいのです。小さい字を読むのは、大きい字にさそわれて足を止めた人だけ。その人は、もう3秒の人ではないからです。
よく見ると、大きい字と小さい字には、書いてある中身にもはっきりした分担があります。
大きい字「もりの おんがくかい」には、じつは「いつ」も「どこ」も書いてありません。書いてあるのは、来てほしいという気持ちの中心だけです。ぎゃくに小さい字のほうには、「いつ(10月26日ごご2時)」「どこ(中央公園)」「いくら(無料)」という、行くために必要な情報がもれなくそろっています。同じことを2回書かず、さけぶ係と説明する係で、きれいに手分けしているのです。
さいごの「入場無料・雨の日もやります」も、ただのおまけではありません。「お金がかかるなら、やめておこうかな」「雨がふったら、どうせ中止でしょ」── 行かない理由を1つずつ先回りして消しています。ポスターのすみの小さな一言にまで、来てもらうための仕事がわりあてられているのです。
ここまでくれば、ポスターの「読み方」がまとまります。書いてある字をなぞるだけでなく、次の3つの質問に答えられたら、ポスターを読めたことになります。
もりのおんがくかいなら、①近くにすむ子どもと家の人に、②10月26日に中央公園へ来てほしくて、③どうぶつの絵で足を止めさせ、9字のさけび声でさそい、小さい字で行き方の情報をそろえ、無料と雨の心配を先に消している ── と答えられます。
だいじなのは、質問3の答えを「かわいいから」「カラフルだから」という感想ではなく、紙の上の場しょを指さして言えることです。「この字が大きいのは」「この一言がすみにあるのは」と指させたら、それはもう感想ではなく、資料の読み取りにつながる立派な分せきです。
感想がだめなのではありません。でも感想は、ポスターを見たしょうこにはなっても、読んだしょうこにはなりません。見分け方はかんたんで、紙のどこかを指さして言えるかどうかです。「ここの字がいちばん大きいのは、いちばん来てほしい気持ちだから」と言えたら、読めています。
まじめな人ほど、小さい字から順にぜんぶ読もうとして、「ポスターを読むのはたいへんだ」と感じてしまいます。順番がぎゃくです。絵、大きい字、それから必要なら小さい字。作った人が決めた順番にのってしまうほうが、速くて正確に読めます。
つたえたいことがたくさんあると、ぜんぶを大きく書きたくなります。でも、ぜんぶの字でさけんでしまうと、声の大きさの差が消えて、どれもさけび声に聞こえなくなります。大きい字がきくのは、まわりに小さい字があるからです。しらべたことをつたえるときも、さけぶ一言を1つだけえらぶ ── この「えらぶ」が、作る側にまわったときのいちばんの仕事です。
Q1 ポスターの字が、教科書の説明文よりずっと少ないのはなぜですか。
A ポスターを見る人は歩いたまま、およそ3秒で通りすぎてしまうからです。1秒に5字として、3秒で読めるのは15字ほど。だから、ぜんぶ読ませない形に作ってあります。
Q2 「もりの おんがくかい」のポスターで、「いつ・どこ」が大きい字ではなく小さい字に書いてあるのはなぜですか。
A 大きい字は通りすがりの人をさそう「さけび声」の係、小さい字は足を止めた人に行き方を説明する係、と仕事が分けてあるからです。日にちや場しょは、足を止めた人が読めればたります。
Q3 ポスターを「読めた」かどうかは、どうやって見分けますか。
A 紙の上の場しょを指さして、くふうのわけを言えるかどうかです。「この字が大きいのは○○だから」と言えたら読めています。「きれいだから」は感想で、まだ読めていません。
Q4 学級の音読会のポスターを作ります。大きい字にする一言を、どうやって決めますか。
A 見た人にしてほしいことを1つに決めて、それをさそう一言だけを大きくします。めやすは15字より短いこと。のこりの「いつ・どこ」などは、小さい字の係にわたします。
「ポスターを読もう」は3年生で初めて出会う、メディアの読み取りの単元です。文章の読解と違い、正解は「書いてあることが分かった」ではなく「作り手の意図と工夫を指させた」になります。本文では、音読速度(毎分約300字=毎秒約5字)と掲示物の前の滞在時間(約3秒)から「大きい字は15字以内」という目安を導きました。実際の商業ポスターのキャッチコピーの多くもこの長さに収まっており、散歩や買い物の途中で検証できます。
家庭で遊ぶなら「ポスター探偵」がおすすめです。駅やお店のポスターの前で「いちばん大きい字はどれ?」「これはだれに、何をしてほしいのかな?」と聞いてみてください。指をさして理由を言えたら合格です。
この「作り手の意図を読む」目は、高学年で学ぶ資料の読み取りや、広告・ネット情報を鵜呑みにしないメディアリテラシーの土台になります。感想(きれい・かわいい)を否定せず、「どこを見てそう思った?」と場所を指させる問い返しが効果的です。