理科室に入ると、最初の授業できまりを読み上げられます。走らない、なめない、かってにさわらない。数が多くて、覚えるものだと思っている人が多いはずです。でも、理科室のきまりは暗記ではありません。危ないものの正体が4種類しかないと分かれば、きまりはその4つから自分で作り直せます。
教室と理科室のいちばんのちがいは、元にもどせないことが起きうることです。ノートに書きまちがえたら消しゴムで消せますが、こぼした薬品は消せませんし、われたガラスも元にもどりません。
とはいえ、危ないものの種類は多くありません。小学校の理科室にあるのは、次の4つだけです。
きまりが何十個あるように見えても、そのほとんどはこの4つのどれかに結びついています。「なぜこのきまりがあるのか」が言えるようになると、書かれていない場面でも判断できるようになります。それが、覚えるのとの決定的なちがいです。
4つの危ないものに対して、理由の側はもっと少なく、次の2つに集約されます。
| 理由 | そこから出てくるきまりの例 |
|---|---|
| 体に直接ふれさせない | 味見をしない・においは手であおぐ・保護めがねをかける・手をあらってから帰る |
| 予想しない動きを起こさせない | 走らない・かってに混ぜない・使わない器具を机のはしに置かない・ふたを開けたまま持ち歩かない |
「走らない」が理科室でとくに強く言われるのは、ろうかで走るのと意味がちがうからです。人がぶつかったときに、その人が持っているのがランドセルなら痛いだけですが、熱い液体の入ったビーカーなら結果がまるでちがいます。
アルコールランプやガスバーナーを使う日は、つけ方より先に消し方を確認します。順番が逆になっている人がとても多い部分です。
アルコールランプは、上からふたをかぶせて空気を止めることで消します。息をふきかけて消してはいけません。中のアルコールの蒸気に火が回るおそれがあるからです。消したあと一度ふたを取り、もう一度かぶせ直します。熱いままふたをしておくと、冷えたときに中の気圧が下がってふたが取れなくなるためです。
ガスバーナーには、ねじが2つあります。下が空気、上がガスというように役目が分かれていて、火をつけるときはマッチに火をつけてからガスを出すのが順番です。ガスを先に出してしまうと、たまったガスに一気に火がつきます。
「消すときはつけたときの逆」という形で覚えると、手順を1つ思い出せなくても復元できます。青い火にするのは、赤い火だと不完全な燃え方をしていて温度が低く、器具にすすがつくからです。この理由はものの燃え方で学んだ、燃えるには空気が必要だという話とそのままつながっています。
まず水で冷やします。すぐに、10分以上です。ぬり薬より先に水、と決めておきます。そしてだまっていないこと。理科室での小さなけがが大きくなるのは、たいてい「言い出せなかった」ときです。
6年では塩酸や水酸化ナトリウム水よう液など、皮ふにつくと危ないものを使います。ここでのきまりは、次の3つに整理できます。
| 場面 | すること | 理由 |
|---|---|---|
| 受け取る前 | 置く場所を先に空けておく | 持ったまま迷うと、こぼす |
| 使う量 | 指示された量だけ取る | 余りをもどすと、びん全体が使えなくなる |
| においを調べる | 手であおいでかぐ | 直接吸いこむと、のどをいためる |
とくに大事なのが、いちばん上の「置く場所を先に空ける」です。薬品を持ったまま机を見わたして、置くすきまをさがしている数秒が、いちばんこぼしやすい時間だからです。
また、使いすぎた分をびんにもどしてはいけません。一度容器の外に出たものは、空気にふれたり、ほかのものが混じったりしています。もどすと、その日以降、その班だけでなく学校中の実験結果がずれる可能性があります。もったいないと感じるかもしれませんが、これは節約より正確さを取るという判断です。
皮ふについてしまったら、すぐに大量の水で洗い流し、先生に伝えます。「少しだけだから」と自分で判断しないことが、ここでの唯一のきまりです。液の性質そのものについては水よう液の性質でくわしく扱っています。
ガラス器具は、急な温度の変化に弱いという性質があります。熱した試験管をすぐに水につけると、外側だけが縮んで割れます。加熱したものは、そのまま置いて冷ますのが原則です。
試験管を加熱するときは、口を人のいない方に向けます。中身が急にふき出したときに、だれの顔にもかからないようにするためです。これは自分ではなく、周りの人を守るためのきまりです。
われたガラスは、絶対に手で拾いません。ほうきとちりとりを使い、細かい破片は最後にぬらした紙でふき取ります。そして、われたことを必ず伝えます。伝えないと、次の時間に別のクラスがその場所を使うことになります。
回路は、組み立て終わってから電流を流します。つなぎながら電池を入れておくと、ショートしたときに導線が一気に熱くなります。電源そうちを使うときは、目もりを0にもどしてから電源を入れる、という順番も同じ考え方です。
器具そのものの正しい使い方は実験器具の使い方にまとめています。この記事のきまりは、その器具を「けがをせずに」使うための外側の枠だと考えてください。
この考え方だと、先生が見ていない場面で判断できません。きまりは相手が人ではなく、火や薬品との約束です。だれも見ていなくても、熱い試験管は熱いままです。
こぼした、われた、ちがう量を入れた。こうしたことは理科室で普通に起きます。問題は起きたこと自体ではなく、だまっていることです。伝えれば数分でかたづく話が、放っておくと次の班や次のクラスの事故になります。
器具が目の前にあると、早くさわりたくなって手が先に動きます。班で1人、その時間だけは手を出さずに手順を読み上げる役を決めておくと、この形のミスはほとんど消えます。役は毎回交代します。
Q1 保護めがねは、目に何も入らなそうな実験でもかける必要がありますか。
A かけます。目に入るのは、たいてい「入るはずがない」と思っていた場面だからです。
Q2 理科室で手をあらうのは、実験の前ですか、あとですか。
A 両方です。前は器具をよごさないため、あとは薬品を持ち帰らないためで、目的がちがいます。
Q3 薬品を、少しだけ多く取ってしまいました。もどしていいですか。
A もどしません。指示された捨て方にしたがいます。もどすと、びんの中身全体が信用できなくなります。
Q4 アルコールランプの火を、息でふき消してはいけないのはなぜですか。
A 中のアルコールの蒸気に火が回るおそれがあるからです。ふたをかぶせて空気を止めて消します。
Q5 熱した試験管を早く冷ましたいときは、どうすればよいですか。
A 急いで冷ますことはしません。そのまま置いて自然に冷まします。急な温度差でガラスは割れます。
この記事は特定の実験単元ではなく、6年理科のすべての実験に共通する安全の考え方を扱っています。学校では年度はじめに一度説明されるだけのことが多く、その後は「知っている前提」で進みます。実験のたびに思い出すきっかけがないまま、扱うものだけが危なくなっていくのが6年生の一年です。
ご家庭では、きまりを言えるかどうかより、理由を言えるかどうかを聞いてみてください。「なんで走ったらだめなんだっけ」に自分の言葉で答えられれば、書かれていない場面でも判断できます。逆に「決まりだから」としか出てこないときは、覚えているだけの状態です。
実験でこぼした、われたという話を持ち帰ってきたときは、まず伝えられたことを認めてあげてください。理科室での事故が大きくなる原因のほとんどは、失敗そのものではなく、しかられることを心配して黙ってしまうことです。
なお、家庭で薬品を使った実験を再現する必要はありません。この記事で扱っているのは学校の理科室での話で、家庭で同じ器具や薬品をそろえることは想定していません。