6年 社会 政治の仕組み

法律ができるまで ── 決まるのがおそいのは、わざとおそくしてあるから

ニュースで「法案が審議入り」「今国会で成立へ」と聞いても、そのあいだに何が起きているかは見えません。国会での決め方をたどると、そこにあるのはわざと時間をかけるための関所だと分かります。

法律は、空から降ってこない

自転車に乗るときはヘルメットをかぶるようにと言われます。18歳になれば大人としてあつかわれ、自分だけで契約ができるようになります。どちらも「昔からそうだった」わけではありません。ある年に国会で決められて、ある日から使われ始めたきまりです。

6年生で学ぶ政治の仕組みでは、国会・内閣・裁判所の三つが出てきて、国会は「法律を作るところ」と説明されます。ここまでは覚えやすいのですが、どうやって作るかは表からは読み取れません。実はこの「どうやって」の部分にこそ、日本の政治のいちばん大事な考え方がしまってあります。

先に結論を書きます。法律を作る手続きは、すばやく決めるためではなく、まちがったまま決まってしまわないために組み立てられています。だから途中に何度も止まる場所があり、時間がかかります。おそいのは失敗ではなく、設計です。

「こういうきまりを作りたい」は、どこから出てくるのか

法律のもとになる案を法律案(法案)といいます。出し方は大きく二つです。

出す人よび方ふつうの流れ特ちょう
内閣(=役所のまとまり)内閣提出の法律案担当の省庁が原案を作り、内閣が国会に出す数が多く、成立することが多い
国会議員議員提出の法律案議員が案を作り、決められた人数の賛成を集めて出す数は少なく、成立する割合も低い

議員が自分で出す場合、一人では出せません。衆議院なら20人以上、参議院なら10人以上の賛成が必要で、お金の使い道をふくむ案ならもっと多くの賛成が要ります。思いつきをそのまま議題にできない、という最初の関所です。

「役所が案を作っているなら、国会は何をしているの?」と思うかもしれません。役所は毎日その仕事をしているので、問題のくわしい中身をよく知っています。けれども役所の人は選挙で選ばれていません。だから、くわしい人が案を書き、選ばれた人が中身をたしかめて決める、という分け方になっています。書く人と決める人が別なのは、それだけでチェックになるからです。

委員会 ── 少人数の小部屋で、まず細かく見る

出された法律案は、いきなり全員の集まりにはかけられません。まず委員会という小さな会議に送られます。

理由は数を考えると分かります。衆議院の議員は465人、参議院は248人です。700人以上が一つの部屋に集まって、1本の法律案の言葉づかいまで一つずつ議論していたら、1年に1本も決まりません。そこで、教育のことは文部科学委員会、お金のことは財務金融委員会、というように分野ごとの小部屋を作り、そこに関係する議員が入って先に細かく調べます。学校の委員会活動と考え方は同じで、全校朝会で全部決めるかわりに、係を分けて詰めてから全体に持っていく形です。

委員会では、賛成の議員も反対の議員も、案を出した大臣や担当者に直接質問します。必要なら、その分野にくわしい人や実際に困っている人を呼んで意見を聞くこともあります。ここで問題が見つかれば、案の一部が書き直されることもあります。

委員会でやっていること ① 質疑 「この言葉はどこまでをふくむのか」 「お金はいくらかかるのか」 「今ある法律とぶつからないか」 ↓ ② 参考人・公聴会(必要なとき) 現場の人・専門家の話を聞く ↓ ③ 討論 賛成の理由・反対の理由を述べる ↓ ④ 採決 委員会としての結論を出す → 本会議へ送る/送らない

ニュースで「委員会を通過」と言うのは、この④のことです。ここを通らないまま会期が終わると、その案はそこで止まります。

本会議、そしてもう一つの議院へ

委員会を通った案は、その議院の議員が全員集まる本会議にかけられます。ここで賛成が多ければ、その議院としての結論が出ます。

ところが、これで成立ではありません。衆議院で決まった案は参議院へ送られ、参議院でも委員会から本会議へという同じ道をもう一度たどります。つまり同じ案が、ちがう人たちの前で合計4回調べられることになります。

法律ができるまで(ふつうの道すじ) 法律案(内閣 または 議員) ↓ 議長へ提出 → 委員会へ送られる ↓ 〔衆議院〕委員会で審査 → 本会議で議決 ↓ 〔参議院〕委員会で審査 → 本会議で議決 ↓ 両方の議院で可決 = 法律が成立 ↓ 天皇が国民の名において公布(官報に載る) ↓ 《ここで時間が空くことが多い》 ↓ 施行 = その日から実際に効き始める ※先に参議院に出されることもある ※予算・条約・総理大臣の指名は別のきまり

なぜ二度なのか。答えは「一度目を疑うため」です。同じ紙を同じ人がもう一度読んでも、見落としは同じところで起きます。けれども、選ばれ方も任期もちがう人たちがもう一度読めば、一度目に気づかれなかった穴が見つかることがあります。日本国憲法(6年)が二院制を定めているのは、時間を使ってでもそのやり直しを入れる、という判断です。

ただし、二つの議院の意見が割れたままでは何も決まらなくなります。そこで、参議院が反対したときでも、衆議院がもう一度、出席議員の3分の2以上の賛成で可決すれば法律は成立します。参議院が受け取ってから60日たっても結論を出さない場合は、否決されたものとみなすことができます。止まりすぎないための出口も、あらかじめ用意されているわけです。

成立した日から使えるわけではない

ここがいちばん誤解されるところです。法律には、日付が三つあります。

ことば意味そのとき起きること
成立国会で決まった中身がここで確定する
公布広く知らせた官報という国の新聞に全文がのる
施行効き始めたこの日から守らなければならない

成年年齢を20歳から18歳に変える改正は2018年に成立しましたが、実際に18歳が大人としてあつかわれるようになったのは2022年4月1日です。あいだが4年近くあります。この時間は無駄ではありません。学校で教え、会社の書類を作り直し、注意すべきことを知らせる。知らないうちに守れないきまりが増えていた、という事態を防ぐための時間です。

自転車のヘルメットを「かぶるように努める」と定めた改正も、公布から実際に効き始めるまで、およそ1年の間が置かれました。急ぐ必要のある法律なら公布した日から効かせることもありますが、人の暮らしのやり方を変える法律ほど、あいだを長く取るのがふつうです。

速さと、まちがえにくさのつり合い

ここまで数えると、一つの法律案は少なくとも、賛成者集め・衆議院の委員会・衆議院の本会議・参議院の委員会・参議院の本会議という五つの関所を通っています。もっと速く決める方法はいくらでもあります。一人で決めればいちばん速い。けれども、速く決められる仕組みは、まちがった案も速く通してしまいます。

法律は、守らない人に罰を与えたり、集めた税金の使い道を変えたりする力を持っています。くらしと税・社会保障(6年)で学ぶお金も、もとをたどればこの手続きを通って決められたものです。強い力をあつかう道具ほど、動かすまでに手間をかける。国会の進み方がじれったいのは、この考え方の結果です。

だから「国会は話し合ってばかりで何も決まらない」というのは、半分だけ当たっていて半分はずれています。決まらないことがあるのは事実ですが、その遅さは、選挙のしくみ(6年)で選んだ代表たちが、たがいに口を出し合えるようにした結果でもあります。

つまずきやすいところ

その1 総理大臣が法律を作ると思っている

作るのは国会です。内閣総理大臣や大臣がするのは、案を用意して国会に出すことと、決まった法律にしたがって実際の仕事を進めることです。政治の仕組み(6年)でいう「国会は作る、内閣は行う」の区別が、ここでそのまま効いてきます。

その2 多数決だけで決まっていると思っている

最後の決め方は多数決です。しかしその前に、質問し、専門家に聞き、賛成と反対の理由を述べる時間が置かれています。手を挙げるだけなら5秒ですむのに何か月もかけているのは、手を挙げる前の部分こそが本体だからです。

その3 成立した日から守らないといけないと思っている

効き始めるのは施行の日です。ニュースで「成立」と聞いた日と、「きょうから変わります」と聞く日が別なのは、そのためです。テストでは、成立・公布・施行の三つを並べかえる形でよく出ます。

やってみよう

Q1 法律案は、だれが国会に出すことができますか。二つ答えましょう。

A 内閣と、国会議員です。議員が出す場合は、衆議院なら20人以上、参議院なら10人以上の賛成が必要です。

Q2 本会議の前に委員会で審査するのは、なぜですか。

A 700人以上が一度に細かい議論をするのは無理だからです。分野ごとの小さな会議に分けて、くわしい議員が先に中身を調べます。

Q3 同じ法律案を衆議院と参議院の両方で審議するのは、なぜですか。

A 一度目の見落としを見つけるためです。選ばれ方も任期もちがう人たちがもう一度読むことで、気づかれなかった問題が出てくることがあります。

Q4 「成立」「公布」「施行」を、早い順に並べて、それぞれ何をする日か書きましょう。

A 成立(国会で決まった日)、公布(官報にのせて広く知らせた日)、施行(実際に効き始める日)の順です。成年年齢を18歳にする改正のように、成立から施行まで数年あくこともあります。

まとめ

おうちの方へ

この単元は言葉が多く、「委員会」「本会議」「公布」「施行」を字面で覚えると、すぐに混ざります。効くのは、身近な法律を一つだけ選んで、「いつ決まって、いつから使われているか」を一緒に調べることです。成年年齢の引き下げ、自転車のヘルメット、レジ袋のことなど、家庭で話題にしやすいものが向いています。成立と施行が何年も離れている例に出会うと、手続きの意味が言葉ではなく時間の感覚として入ります。
もう一つ、国会中継を数分だけ見せるのも有効です。だれかが質問し、だれかが答えている画面を見た経験があると、「話し合ってから決める」が実感になります。長く見せる必要はありません。
なお、どの政党が正しいかという話に踏みこむ必要はありません。ここで身につけてほしいのは、決め方そのものにルールがあるという感覚のほうです。