投票用紙に書くのは人の名前です。けれど、そこで実際に決まっているのは「集めたお金を、この先何年、何に使うか」のほうです。人ではなく使い道が動く。それが選挙の正体です。
教科書ではこの単元を「選挙と国民の政治参加」と呼びます。ところが選挙の説明はたいてい「代表者を選ぶこと」で終わります。まちがってはいませんが、それだと、なぜ大人が真剣になるのかが伝わりません。
選ばれた人は、集められたお金の配分を決める場所に座ります。だから投票の結果として動くのは、人の名前ではなく配分の向きです。
候補者が配る紙には、たいてい「何を先にやるか」が書いてあります。全部やります、とは書けません。お金にも時間にもかぎりがあるからです。だから選挙は、多くの願いのうちどれを先にするかの順番争いになります。
ここが分かると、「どうせ自分ひとりが行っても」という気持ちの正体も見えます。行かない人が多い側の願いは、順番の後ろに回されやすくなるのです。
いまの選挙には四つの決まりがあります。当たり前に見えますが、四つとも最初からあったものではありません。
| 原則 | 内容 | なかったころ |
|---|---|---|
| 普通選挙 | 一定の年れいなら、だれでも投票できる | 税を多く納める男性だけだった |
| 平等選挙 | 一人が一票。だれの票も同じ重さ | お金持ちの票を重く数える国もあった |
| 直接選挙 | 自分の手で、自分の票を入れる | 代理人がまとめて選ぶやり方もあった |
| 秘密選挙 | だれに入れたかを言わなくてよい | 名前を書いて出させた時代があった |
とくに分かりにくいのが秘密選挙です。「言ってもいいのに、なぜ秘密なの」と思う子は多いのですが、逆から考えると意味が出てきます。
秘密選挙は、かくすための決まりではなく、気がねなく決めるための決まりです。だから投票所では、記入する場所が仕切られています。
国の選挙は二種類あります。同じ「国会議員を選ぶ」なのに、任期も選び方もそろえていません。これもわざとです。
| 衆議院 | 参議院 | |
|---|---|---|
| 任期 | 4年(とちゅうで解散あり) | 6年(3年ごとに半分ずつ) |
| 立候補できる年れい | 25さい以上 | 30さい以上 |
| 性格 | そのときの国民の声を反映しやすい | じっくり考え直す役目 |
衆議院はとちゅうで解散があるので、今の気持ちが早く反映されます。参議院は解散がなく任期も長いので、そのときの勢いだけで国が動かないようにするブレーキになります。急ぐ側と落ち着かせる側、両方を置いているわけです。
選び方にも二つの方式が混ざっています。
「どちらが正しいか」ではありません。片方の弱点をもう片方で補っていると考えると、二本立てになっている理由がつかめます。
選挙というと国のものを思いうかべますが、回数が多いのは市区町村や都道府県の選挙です。
しかも、こうした選挙は投票する人の数が少ないため、一票あたりの影響が国の選挙より大きくなります。数百票の差で当落が決まることもめずらしくありません。「一票では変わらない」が、いちばん当てはまらないのが身近な選挙です。
ニュースで「投票率」という言葉が出ます。これは投票できる人のうち、実際に行った人の割合です。
この数字が下がると、何が起きるのでしょうか。当選する人数は変わりません。変わるのはだれの声が届くかのかたよりです。
投票に行かないことは、「まかせる」ではなく「自分の願いを数に入れない」という選び方になってしまいます。ここは6年生でも十分に理解できるところです。
日本では18さいから投票できます。以前は20さいでしたが、2016年から18さいに引き下げられました。小学6年生なら、あと6年ほどです。
それまでにできることもあります。投票そのものはできなくても、政治に関わる方法は投票だけではないからです。
| できること | ぐたい的に |
|---|---|
| 選挙公報を読む | 家に届く紙を見て、主張のちがいを比べる |
| 投票所を見る | 保護者と一緒に入れる。中の様子が分かる |
| 市の広報を読む | 税がどこに使われたかが書いてある |
| 意見を出す | 自治体の子ども議会や意見ぼ集に応じる |
投票日にとつぜん判断できるようになるわけではありません。読んで比べる練習をした年数が、そのまま判断の質になります。
投票所で総理の名前を書くと思っている子がいます。
国民が書くのは国会議員(または政党名)です。そこから先は国会の中で決まります。「自分が届けられるのは一段目まで」と押さえておくと混乱しません。
秘密選挙の意味を、こっそりやる後ろめたいことだと感じてしまう。
逆です。だれにも遠りょせず決められるように守られているのです。言いたければ言ってもよく、言わなくてもよい、という自由です。
人数が多いから自分の分は無意味だ、と考える。
選挙は一票の勝ち負けではなく、どの願いが何票集まったかの集計です。同じ考えの人が行かなければ、その願いごと数から消えます。とくに身近な選挙では、数百票で結果が入れかわります。
用語として丸暗記すると、すぐ混ざります。
一人だけ選ぶのが小選挙区、割合で分けるのが比例代表。そして「どちらにも弱点があるから両方使う」という一文まで一緒に覚えると、定着します。
Q1 選挙の四つの原則を挙げましょう。
A 普通・平等・直接・秘密の四つです。年れいだけで投票でき、一人一票で、自分の手で入れ、だれに入れたかは明かさなくてよい、という決まりです。
Q2 秘密選挙は、何のためにありますか。
A まわりに遠りょせず、自分の考えで選べるようにするためです。だれに入れたか分かると、立場の弱い人が押し切られてしまいます。
Q3 衆議院に解散があり、参議院にないのはなぜですか。
A 衆議院は今の国民の声をすばやく反映する役、参議院は勢いだけで決めさせないブレーキの役だからです。役わりを分けています。
Q4 投票率が下がると、何が変わりますか。
A 当選する人数は変わりませんが、数として見える願いがかたよります。行かなかった人の要望は集計に残りません。
Q5 次の選挙で家に届く選挙公報を読み、二人の候補者が「先にやる」と言っていることのちがいを一つ見つけましょう。
A 多くの場合、限られたお金をどこに先に回すかでちがいが出ます。順番のちがいに気づけたら十分です。
この単元は用語が多く、暗記に流れがちです。ただ、子どもが本当につまずくのは語句ではなく「自分に関係がある話だと思えない」という点にあります。
おすすめは、選挙の時期に届く選挙公報を一緒に開くことです。全部読む必要はありません。二人分だけ選んで「この人が先にやると言っていることは何だろう」と見比べるだけで、政治が順番の話であることが伝わります。
投票所へ連れて行くのも有効です。多くの自治体では、子どもの同伴が認められています。仕切られた記入台や投票箱を実際に見た経験は、秘密選挙の意味を言葉より早く伝えます。
また、市区町村の広報紙には税の使いみちが載っています。「この公園の改修、去年の広報に出ていたね」と結びつけられると、身近な選挙の重さが実感に変わります。
なお、家庭内で特定の政党や候補者の支持を教えこむ必要はありません。むしろ「意見が分かれてよい」ことを見せるほうが、この単元の目的に合っています。18さいまでに必要なのは結論ではなく、比べて自分で決めた回数です。