6年 社会 災害復興と政治

災害復興と政治 ── 避難所の毛布は、やさしさだけでは届かない

夜中に大きな地震が起きたとします。家にいられなくなった人たちが、近くの小学校の体育館に集まってきます。すると、その夜のうちか、おそくとも次の日には、毛布と水と食料が体育館に届き始めます。コンビニもスーパーも閉まっているのに、だれが、どうやって届けたのでしょうか。「だれかが親切で持ってきてくれた」──それだけでは、何千人分もの毛布は説明がつきません。じつはこの毛布は、約80年前から「届ける」と決めてあった毛布なのです。災害のあとで動き出す、ふだんは見えない政治のしくみを追いかけてみましょう。

入り口のなぞ ── 助けは「自動で」来るのではない

災害のニュースを見ていると、避難所が開かれ、おにぎりが配られ、自衛隊のトラックが到着する様子が、まるで当たり前の流れのように映ります。でも、よく考えると不思議です。体育館のかぎはだれが開けたのか。毛布は何まい必要だと、だれが数えたのか。自衛隊は、たのまれてもいないのに勝手に来てよいのか。お金はだれが払うのか。

この一つ一つに、じつは「決める人」が法律で決められています。災害の助けは、自然に わき出てくるのではなく、だれかが決断のボタンをおすたびに、一段ずつ動くのです。そして、そのボタンの順番こそが、6年生で学ぶ「政治のはたらき」そのものです。政治の仕組み(6年)で学んだ国会・内閣などの登場人物が、災害のときには総出演します。

助けのリレー ── 市町村から始まり、県、国へと広がる

災害対応の基本のルールを定めているのが、災害対策基本法という法律です(1959年の伊勢湾台風という大きな被害をきっかけに、1961年に作られました)。この法律の考え方は、はっきりしています。住民にいちばん近い市町村が最初に動き、手に負えなくなったら県へ、県でも足りなければ国へ──助けを、リレーのようにつないでいくのです。

動く人おもな仕事例
市町村避難の呼びかけ、避難所を開く、住民の安否確認体育館のかぎを開けるのは市町村の仕事
都道府県市町村の応援、物資の手配、自衛隊への派遣要請毛布を何万まい単位で集めて送りこむ
国(政府・国会)お金と法律の手当て、省庁をまたぐ調整予算を組み直して復旧工事費を出す

順番に意味があります。地域の道路のどこが通れるか、お年寄りがどの家に住んでいるかを知っているのは、国ではなく市町村だからです。「避難してください」という呼びかけ(避難指示)を出すのも市町村長の仕事です。逆に、こわれた港や高速道路を直すような大工事のお金は、一つの町では出せないので国が引き受けます。近くのことは近くの政治が、大きなことは大きな政治が受け持つ──この分担が、リレーの正体です。

テレビでよく見る自衛隊も、このリレーの中にいます。自衛隊の災害派遣は、原則として都道府県知事が要請して初めて動くしくみです(連絡さえ取れないほどの緊急時には、要請を待たずに動ける例外も用意されています)。「軍隊のような大きな力は、地元の政治の求めに応じて使う」という順序を、法律がきちんと決めているのです。

法律は災害の「前」に作ってある ── 80年近く待機していた災害救助法

避難所の毛布や食事、そして被災した人が入る仮設住宅。これらを用意する直接の根きょが災害救助法という法律です。おどろくのはその生まれた年で、戦後まもない1947年。つまり80年ちかく前から、「大きな災害が起きたら、避難所を設け、食べ物と毛布を配り、仮の住まいを建てる。費用は県と国が出す」と、もう書いてあったのです。

なぜ前もって作っておくのでしょうか。法律ができるまで(6年)で見たとおり、法律は国会で何度も話し合いを重ねて作るため、完成までに長い時間がかかります。災害が起きてから「さて、助けるための法律を作ろう」と始めたのでは、国会で審議しているあいだに、避難所の人たちは何週間も毛布なしで過ごすことになってしまいます。だから順番を逆にしたのです。しくみは平時に作っておき、災害が起きたらスイッチだけを入れる。このスイッチ(災害救助法の適用)をおすのは都道府県知事で、大きな災害なら発生したその日のうちにおされます。

体育館に毛布が届くまでが速いのは、だれかが徹夜でがんばったからだけではありません。決めるべきことの大半が、起きる前に決めてあったからなのです。

毛布代はだれが払うのか ── 税金・予備費・補正予算

毛布も、おにぎりも、仮設住宅も、タダでは用意できません。この費用のおおもとはくらしと税・社会保障(6年)で学んだ税金です。ただし、国の予算は前の年に「来年はこれに使います」と決めてしまっています。予定にない大災害のお金は、どこから出すのでしょう。ここに2つの工夫があります。

工夫しくみたとえるなら
予備費予算の中に、あらかじめ「使い道を決めないお金」を取っておくさいふの中の「もしものときの千円」
補正予算災害のあとに国会を開き、予算を組み直して追加するおこづかい帳を作り直して、家の人と相談し直す

2011年の東日本大震災では、被害が大きすぎて一度の補正予算では足りず、同じ年のうちに何度も予算を組み直して復旧・復興のお金をつぎこみました。さらに、復興の仕事を専門に引き受ける復興庁という役所が2012年に新しく作られ、「復興特別所得税」という税金が新設されました。これは全国の働く人の所得税に少しだけ上乗せされ、2037年まで続く予定です。つまり東北の復興は、全国のみんなが、四半世紀かけて少しずつお金を出し合って支えるかたちになっているのです。遠くに住んでいても、災害と無関係な人はいない──税金のしくみが、それを形にしています。

まちがえやすいところ

1. 自衛隊は「自動で」出動するのではない

ニュースの印象から「大きな災害=自衛隊がすぐ来る」と思いがちですが、先ほど見たとおり原則は知事の要請が先です。政治の手続きをふんで動く、という順序は試験でもねらわれます。

2. 義援金と税金は、はたらきがちがう

募金箱に入れる義援金は、善意のお金で、おもに被災した人たちへ直接分配されます。一方、道路や港の復旧工事、避難所の運営といった「しくみを動かすお金」は税金から出ます。義援金はとても大切ですが、義援金だけでは町は直せない──だからこそ政治の出番があるのです。

3. 「復旧」と「復興」は別の言葉

復旧は、こわれたものを元どおりに直すこと。復興は、元にもどすだけでなく、前よりも安全で暮らしやすい町に作り直すことです。高い土地に住宅地ごと引っこしたり、より強い堤防を備えたりするのは復興にあたります。自然災害を防ぐ(5年)で学んだ「防ぐ備え」は、復興の中で一段と強化されるわけです。

やってみよう ── 自分の町の「決めてあること」を見つける

① 避難所をさがす: 自分の市や町のホームページで「避難所一覧」を調べ、家からいちばん近い避難所がどこか確かめましょう。その体育館が避難所に「指定」されているのは、市町村が前もって決めた結果です。

② ニュースの中の政治用語をつかまえる: 災害報道で「災害救助法を適用」「激甚災害に指定」「補正予算を編成」という言葉が出てきたら、今日の記事のどのボタンがおされたのかを考えてみましょう。意味がわかると、ニュースが立体的に見えてきます。

③ 家族会議で小さなリレーを作る: 災害時にだれが何を持ち出すか、どこで落ち合うかを家族で決めておきましょう。「起きる前に決めておく」という災害救助法の知恵は、一つの家の中でもそのまま役に立ちます。

まとめ

次に災害のニュースを見るとき、画面にうつる毛布の一まいの後ろに、80年前に法律を書いた人、リレーの順番を決めた人、予算を組み直した国会の議論があることを思い出してください。政治は選挙のときだけのものではなく、いちばん困った日に、いちばん大きく動くしくみなのです。

おうちの方へ

本記事は6年社会の「災害復興と政治のはたらき」にあたる単元(教科書により「震災復興の願いを実現する政治」「国や地方の政治」等)の解説です。政治学習は抽象的になりがちですが、この単元は「避難所の毛布がなぜ届くのか」という具体から、災害対策基本法(1961年)・災害救助法(1947年)・予備費・補正予算・復興庁という制度の連なりを実感できる、格好の入り口です。
ご家庭では、お住まいの自治体の指定避難所やハザードマップを一緒に確認していただくのが、学習と防災を兼ねた最良の実践になります。なお本文の「自衛隊の派遣は原則知事の要請」には、要請を待ついとまがない場合の自主派遣という例外があること、復興特別所得税は2013年から2037年までの時限であることを補足しておきます。4年「地震にそなえるまちづくり」、5年「自然災害を防ぐ」が備えの学習だったのに対し、本記事は「起きたあとの政治」を扱う続編にあたります。