ふん火の絵をかいてみてください。たいてい、山のてっぺんから赤いものがドロドロあふれて、ふもとへ流れ落ちていく絵になります。ところが、じっさいに人の命をうばってきたのは、その赤い流れではありません。そこがこの記事の芯です。
まず言葉から整理します。火山の「火」という字のせいで、地下で何かがもえているように思えますが、火山はたき火の親分ではありません。地下にあるのは、岩石が高い熱でとけてドロドロになったものです。これをマグマといいます。
マグマは、まわりの岩よりわずかに軽いので、ゆっくりと上へ上へと集まってきます。地下数kmのところにたまり場を作ることもあります。この「たまっている」状態のままなら、地上では何も起きません。問題は、そこから先です。
マグマが地上へふき出すことをふん火といい、ふき出したマグマそのものをよう岩と呼びます。名前が変わるだけで、中身は同じものです。地下にあるうちがマグマ、外に出たらよう岩。呼び分けの理由はそれだけなので、テストで迷ったら「いま地面の中か外か」で決めれば当たります。
では、静かにたまっていたマグマは、なぜあるとき急にふき上がるのでしょうか。カギは、マグマにとけこんでいるガスです。
マグマの中には、水蒸気になる成分や二酸化炭素が、強い圧力でぎゅうぎゅうにとけこんでいます。とけている間は目に見えません。ところがマグマが上へ動くと、上にのっている岩の重さが減るので、圧力が下がります。すると、とけていられなくなったガスがいっせいに泡になるのです。
これとそっくり同じことが、台所で毎日起きています。炭酸のペットボトルです。ふたを閉めている間は、中の飲み物はただの液体に見えます。ふたをひねったしゅんかん、しゅわっと白くにごって泡が立ちのぼる。あのとき何が変わったかというと、味でも温度でもなく、圧力だけです。ふたという「上からのおさえ」が消えたので、とけていた気体が泡にもどったのです。
ふって開ければ中身がふき出すことも知っているはずです。あれは泡が一気にふえて、液体を押し出したから。ふん火のしくみは、これを地球の大きさでやっていると考えてください。もえているのではなく、泡が発生して押し出しているのです。
ここで、火山にはずいぶん形のちがうものがあることを思い出してください。おわんをふせたようになだらかな山もあれば、するどくとがった山もある。まんじゅうのようにこんもりもり上がっただけの山もあります。この形のちがいは、たまたまではありません。マグマのねばりけで決まります。
| ねばりけが小さい | ねばりけが大きい | |
|---|---|---|
| たとえると | みそしる | お好み焼きのたね |
| よう岩は | 遠くまでよく流れる | あまり流れずに積み上がる |
| できる山の形 | おわんをふせた形・平たい | もり上がった形・ドーム |
| ふん火のしかた | わりと静か | ばく発的になりやすい |
なぜねばりけでふん火のはげしさまで変わるのか。泡で考えると、すっと通ります。ねばりけが小さいマグマでは、できた泡がすいすい上へぬけていけます。ガスが逃げていくので、あとに残ったよう岩は静かに流れ出るだけです。
ねばりけが大きいマグマでは、泡がぬけられません。ぬけないまま泡だけがふくらみ、圧力がどんどん高まっていきます。そしてたえきれなくなったとき、マグマは自分ごとこなごなにくだけ、粉と気体になって一気にふき上がります。ばく発的なふん火は、ガスが逃げそこねた結果なのです。
身近な例でいうと、みそしるをふっとうさせても泡はぽこぽこ出るだけですが、カレーやシチューを煮ると「ぼたっ」とはねて、こわい思いをします。ねばりけがあると泡がたまってから一気にはじけるからです。台所で起きているのと同じことが、山の下でも起きています。
さて、いちばん最初の話にもどります。ふん火の絵といえば赤い流れ。ではあのよう岩流は、どれくらいの速さでせまってくるのでしょうか。
答えは、多くの場合人が歩くより、はるかにおそいです。ねばりけのあるよう岩なら、1日に数メートルしか進まないこともあります。真っ赤で目立つので危険の代表のように見えますが、近づかないかぎり、人がよう岩流に追いつかれることはあまりありません。
ただし、家や畑や道路は動けません。よう岩が通った場所は、建物ごと焼かれ、うめられます。よう岩流は、命ではなく土地をうばう災害だと整理しておくと、次の話との区別がはっきりします。
では、火山災害で人がなくなってきた原因は何か。大きく3つあります。
1つめは火さい流です。数百℃の高温のガスに、こまかい灰や軽石が混ざって、山の斜面を流れ下る現象です。重い気体のかたまりが地面をはうように落ちてくると考えてください。速さが問題で、時速100kmをこえることもあります。見えてから走って逃げるのは不可能です。1991年、長崎県の雲仙普賢岳で起きた火さい流では、報道関係者や消防団など43人が亡くなりました。よう岩ではなく、この流れです。
2つめはふん石です。ふん火のときにふき飛ばされた岩のかけらが、放物線をえがいて落ちてきます。大きなものは数十cm、時には人の背たけほどにもなり、時速数百kmで飛んできます。2014年の御嶽山のふん火では、このふん石によって多くの登山者が犠牲になりました。予知がむずかしい水蒸気ばく発だったことも重なり、戦後の日本で最も多くの人が亡くなった火山災害になっています。火口の近くにあるシェルターやヘルメットは、これに対する備えです。
3つめは火山灰です。灰という字から、たき火のあとのふわふわしたものを想像すると見あやまります。火山灰の正体は、細かくくだけた岩やガラスのつぶです。角があり、かたく、水にとけません。
火さい流やふん石は、火口から数kmの範囲の話です。ところが火山灰だけは、けたちがいに遠くまで行きます。高く上がった灰は上空の風に乗って運ばれるからです。
日本の上空には西から東へふく強い風が流れています。天気が西から東へ変わっていくのと同じ理由で、火山灰もおおむね火山の東側に多く降ります。鹿児島市が桜島の灰になやまされるのも、市街地が火山の風下にあたる日が多いからです。
1707年の富士山のふん火では、およそ100kmはなれた江戸(今の東京)にも灰が積もったという記録が残っています。「火山のふもとに住んでいないから関係ない」とは言いきれません。灰の災害は、都市の災害になりうるのです。
もし灰が降ったら、やることは意外と地味です。外に出ない。出るならマスクとゴーグル。洗たく物は外に干さない。積もった灰は、ほうきではらう前に水でしめらせてから集める。かわいたまま動かすと、また舞い上がって吸いこんでしまいます。
地震とくらべたときの火山のいちばんの特ちょうは、場所が動かないことです。地震は日本のどこでも起こりえますが、火山がふん火する場所は決まっています。日本には活火山が111あり、その位置はすべて地図にのっています。
ここでいう活火山とは、「今けむりを出している山」という意味ではありません。およそ1万年以内にふん火したことがある山を活火山と呼びます。人の一生から見れば静かでも、大地の時間では「ついこの間ふん火した山」だからです。6年生の大地のつくりと変化という単元で、地層が何万年もかけて積もると習うのは、この時間感覚を作るためでもあります(地層は、大地が書いた日記)。
場所が分かっているので、備えも作れます。ハザードマップは、過去のふん火の跡を調べて「よう岩はここまで流れた」「火さい流はこの谷を通った」「灰はこの向きに積もった」を地図にしたものです。次のふん火も、だいたい同じ道すじを通ります。大地はくせを変えないからです。
さらに気象庁は、山ごとにふん火警かいレベルを出しています。
| レベル | 意味 | とるべき行動 |
|---|---|---|
| 1 | 活火山であることに留意 | ふだんどおり |
| 2 | 火口周辺規制 | 火口に近づかない |
| 3 | 入山規制 | 山に登らない |
| 4 | 高齢者等避難 | お年よりなどは先に避難 |
| 5 | 避難 | 危険な地いきから避難 |
ただし、レベルはいつも1から順に上がるとはかぎりません。地下水が熱せられて起きる水蒸気ばく発は前ぶれが出にくく、レベル1のままいきなりふん火することがあります。御嶽山がそうでした。「レベル1だから安全」ではなく「レベル1でも活火山」と読むのが正しい使い方です。
① ふん火を「地下でもえている」と説明してしまう
もえる、つまり燃焼には酸素が必要ですが、地下深くに酸素はほとんどありません。地球の内部の熱で岩がとけているだけです。赤いのは、もえている色ではなく高温でかがやいている色です。鉄をうんと熱すると赤くなるのと同じで、火がついているわけではありません。
② よう岩・マグマ・火山灰をごちゃまぜにする
地下のドロドロがマグマ、出てきたらよう岩、こなごなにくだけて飛んだものが火山灰。同じ材料が、場所と形を変えているだけです。「どこにあるか」「かたまりか粉か」の2つで整理すると、混ざらなくなります。
③ 火山を「ただの災害」だと思ってしまう
おそろしい面ばかり見ると、なぜ人が火山のふもとに住み続けるのか分からなくなります。火山のはたらきは、わき出る湯や、水はけのよい土や、地下の熱を使った発電など、その土地のくらしを支える側面も持っています。同じ一つのしくみに、災いと恵みの両方があるというのが、この単元でいちばん大人びた見方です。
Q1 炭酸の入ったペットボトルを用意して、ふたを開ける前と開けたあとをよく見てください。何が泡を生んだのでしょうか。
A 変わったのは圧力だけです。中身も温度も同じなのに泡が出るということは、気体はもともと液体にとけていたことになります。ふたが岩の重さ、しゅわしゅわがふん火にあたります。ふってから開ければ中身がふき出しますが、後かたづけが大変なので、頭の中の実験にしておくほうが安全です。
Q2 ケチャップとしょうゆを、少しかたむけた皿の上に同じ量だけ落として、どこまで流れるかくらべてみましょう。
A しょうゆは皿のはしまで走り、ケチャップはほとんど動かずにもり上がります。この差がねばりけです。しょうゆのようなマグマは平たい山を作り、ケチャップのようなマグマはドーム状の山を作ります。
Q3 自分が住んでいる市町村に、いちばん近い活火山はどこか調べてみましょう。
A 気象庁のウェブサイトや、市町村が配っているハザードマップで分かります。何kmはなれているかまで見ると、灰は届くのか、火さい流の範囲の外なのかが自分で判断できます。「近くにない」と分かることも、りっぱな結果です。
Q4 火山灰が数cm積もった朝、学校へ行くまでに困ることを3つあげてみましょう。
A 例をあげると、歩くと灰が舞って目と口に入る、自転車のブレーキやチェーンに灰が入ってきしむ、電車やバスが止まる、道がすべる、洗たく物が干せない、などです。答えは1つではありません。「とけない細かいガラスのつぶが積もる」と考えると、いくらでも出てきます。
この単元は、教科書では地層と並べて短く扱われることが多く、印象としては「昔むかしの話」で終わりがちです。けれども日本は世界の活火山の約1割が集まる国で、内容はそのまま暮らしの話になります。
ご家庭でおすすめしたいのは、お住まいの市町村のハザードマップを一度だけ開いてみることです。火山の範囲に入っていなければ「入っていなかった」と確かめられますし、入っていれば避難の向きが分かります。どちらにしても5分で終わります。
会話のきっかけとしては、炭酸飲料のふたを開けるときに「これ、ふん火と同じしくみらしいよ」と言ってみてください。理由をお子さんが説明できたら、この記事の中心は伝わっています。
なお、火山灰への備えは防災用品を買いそろえるより、マスクとゴーグル(水泳用で代用可)が家にあるかを確認するほうが現実的です。