6年 社会 新しい人権

新しい人権 ── 憲法に書かれていない権利

日本国憲法には、「知る権利」も「環境権」という言葉も出てきません。それでも、どちらも権利として守られています。なぜでしょうか。

憲法に書いていない権利がある

日本国憲法には、教育を受ける権利や表現の自由など、たくさんの権利が文字で書かれています。

しかし、今の暮らしで大切にされている権利の中には、憲法の文章そのものには出てこないものがあります。

憲法ができたのは1947年 その年、まだなかったもの ・インターネット ・スマートフォン ・SNS ・大規模な公害問題への対策 → 想定できなかった問題が その後、次々に起こった

社会が変わり、憲法が作られたときには考えられていなかった問題が出てきました。

たとえば ・行政が何をしているか 市民は知りたい → でも「知る権利」という 条文はない ・勝手に写真を ネットに載せられたら困る → でも「プライバシーの権利」 という条文もない

こうした権利は、「新しい人権」と呼ばれます。

根拠は憲法第13条

条文にない権利を、なぜ「憲法の権利」と言えるのでしょうか。その手がかりが憲法第13条です。

憲法第13条(要約) すべて国民は 個人として尊重される 生命、自由及び 幸福追求に対する権利は 最大限に尊重される

この「幸福追求権」という言葉が、新しい人権のよりどころになっています。

13条の読み方 幸せを追い求める権利は 最大限に守られる ↓ だから、幸せに生きるために 必要な権利は 憲法で守られていると考える ↓ たとえ条文に名前がなくても

つまり、憲法を改正して条文を追加しなくても、裁判所が「この権利は13条で守られる」と判断することで、新しい人権が認められてきたのです。

憲法は変わっていない

日本国憲法は、施行から一度も改正されていません。
それでも新しい人権が増えているのは、条文を変えたのではなく、13条の「解釈」を広げてきたからです。
社会が変化しても、憲法の言葉を少し読み広げることで対応できる。これも憲法のしくみの一つです。

知る権利

政治や行政がどんな仕事をしているか、国民が知ることができる権利です。

知る権利が必要な理由 行政が何をしているか 見えないままだと ↓ 税金の使い方が分からない 不正に気づけない ↓ 国民が主権者でいられなくなる

この権利を実現するために、情報公開制度が作られています。

情報公開請求のしくみ 市民が「この文書を見たい」 と役所に請求する ↓ 役所は原則として開示する ただし ・個人情報 ・安全に関わる情報 などは非開示になる場合がある

たとえば、自分が住む市が新しい施設に予算をどう使ったかを知りたいとき、情報公開請求を使えば、関係する文書を見ることができます。

環境権

よい環境の中で生活する権利です。きれいな空気、きれいな水、静かな暮らし、といったものを守る権利です。

この権利が注目されるようになったきっかけの一つが、公害です。

公害病原因
水俣病工場排水に含まれた有機水銀
新潟水俣病工場排水に含まれた有機水銀
四日市ぜんそく工場からの排煙(大気汚染)
イタイイタイ病工場排水に含まれたカドミウム

これらは、経済の発展を優先した結果、多くの人の健康が損なわれた出来事です。

公害から生まれた考え方 経済の発展と 健康・環境を守ることは 両方とも大切 ↓ どちらかを切り捨てない ↓ 「よい環境で暮らす権利」 として位置づける

今では、大きな工事や工場を作る前に、環境への影響を事前に調べるしくみ(環境アセスメント)も整えられています。

プライバシーの権利・自己決定権

プライバシーの権利は、自分に関する情報を、自分の意思に反して公開されない権利です。

身近な例 ・友達の写真を本人に 聞かずにSNSへ載せる → 肖像権の侵害になりうる ・名前や住所、成績などを 勝手に他人に伝える → 個人情報の侵害になりうる

インターネットが広まったことで、一度公開された情報は取り消しにくいという新しい問題も生まれました。だからこそ、公開する前の確認が重要です。

もう一つ、自己決定権という考え方もあります。自分の生き方や治療方法を、自分で決める権利です。

医療での自己決定権 医師が治療方法や リスクをきちんと説明する ↓ 本人が納得して選ぶ ↓ これを 「インフォームド・コンセント」 と呼ぶ

医師にすべてを任せるのではなく、本人が選ぶという発想も、新しい人権の一つとして理解されています。

なぜ「新しい」人権と呼ばれるか

社会は、これからも変わり続けます。インターネットが広まったように、これまでなかった問題がまた出てくる可能性があります。

新しい人権が増えていく流れ 社会が変化する ↓ これまでになかった 困りごとが生まれる ↓ 憲法13条(幸福追求権)に 照らして考える ↓ 裁判所などが 「これも守られる権利だ」 と認める

ここまで見てきた4つの権利は、今のところ代表的な新しい人権としてよく挙げられるものです。ですが、これで終わりではありません。

条文を書き加えなくても、考え方を広げることで対応できる。これが、日本国憲法が長く変わらずに使われてきた理由の一つでもあります。

つまずきやすいところ

その1 新しい人権は憲法にそのまま書いてあると思う

「知る権利」「環境権」という言葉が、憲法のどこかに条文として載っていると考えてしまう。
条文には出てきません。憲法第13条の幸福追求権から読み取られている権利です。

その2 知る権利と表現の自由を混同する

どちらも情報に関する権利なので、同じものだと思ってしまう。
知る権利は情報を受け取る側の権利、表現の自由は情報を発信する側の権利です。向きがちがいます。

その3 プライバシーの権利があれば何でも拒否できると思う

自分に関する情報は絶対に公開されないと考える。
事件報道や、公共のために必要な情報公開など、他の権利や利益との調整が必要な場合もあります。無制限の権利ではありません。

やってみよう

Q1 新しい人権の根拠になっている憲法の条文は何条ですか。

A 第13条(幸福追求権)です。

Q2 代表的な新しい人権を2つ挙げましょう。

A 知る権利・環境権・プライバシー・自己決定権などから2つ。

Q3 なぜ憲法を改正しなくても新しい人権が認められるのですか。

A 第13条の幸福追求権の「解釈」を広げることで対応しているからです。

Q4 友達の写真をSNSに載せる前に、確認すべきことは何でしょうか。

A 本人に載せてよいか聞くことです。肖像権やプライバシーの権利に関わります。

まとめ

おうちの方へ

「新しい人権」は、日本国憲法の三原則(国民主権・基本的人権の尊重・平和主義)を学んだあとに出てくる、少し進んだ内容です。
ポイントは、憲法の条文そのものには書かれていないのに、権利として守られているという点です。「法律や憲法は、一度決めたら変えられないもの」という誤解をほどくよい機会にもなります。
お子さんにとって一番身近なのは、SNSでの写真の扱いに関わるプライバシーの権利かもしれません。「人の写真を勝手に載せない」というルールの背景に、こうした権利の考え方があることを伝えると、単なる注意ではなく理由のある行動として理解しやすくなります。
公害の歴史も、環境権を学ぶ入り口になります。経済の発展と健康・環境のどちらも大切にする、というバランスの取り方は、今の社会でも通じる考え方です。