6年 社会 選挙と国民の政治参加

選挙のしくみ ── 一票は、だれかを選ぶ紙ではない

投票用紙に書くのは人の名前です。けれど、そこで実際に決まっているのは「集めたお金を、この先何年、何に使うか」のほうです。人ではなく使い道が動く。それが選挙の正体です。

投票で「決まっているもの」は何か

教科書ではこの単元を「選挙と国民の政治参加」と呼びます。ところが選挙の説明はたいてい「代表者を選ぶこと」で終わります。まちがってはいませんが、それだと、なぜ大人が真剣になるのかが伝わりません。

選ばれた人は、集められたお金の配分を決める場所に座ります。だから投票の結果として動くのは、人の名前ではなく配分の向きです。

投票用紙に書くもの → 人の名前 そこから実際に動くもの → 保育園を増やすか → 古い橋をかけ直すか → 学校の冷房を先にするか → 医りょう費の負担をどうするか 人を選んでいるのではなく 使い道を選んでいる

候補者が配る紙には、たいてい「何を先にやるか」が書いてあります。全部やります、とは書けません。お金にも時間にもかぎりがあるからです。だから選挙は、多くの願いのうちどれを先にするかの順番争いになります。

ここが分かると、「どうせ自分ひとりが行っても」という気持ちの正体も見えます。行かない人が多い側の願いは、順番の後ろに回されやすくなるのです。

四つの原則 ── どれも、なかった時代がある

いまの選挙には四つの決まりがあります。当たり前に見えますが、四つとも最初からあったものではありません。

原則内容なかったころ
普通選挙一定の年れいなら、だれでも投票できる税を多く納める男性だけだった
平等選挙一人が一票。だれの票も同じ重さお金持ちの票を重く数える国もあった
直接選挙自分の手で、自分の票を入れる代理人がまとめて選ぶやり方もあった
秘密選挙だれに入れたかを言わなくてよい名前を書いて出させた時代があった

とくに分かりにくいのが秘密選挙です。「言ってもいいのに、なぜ秘密なの」と思う子は多いのですが、逆から考えると意味が出てきます。

もし、だれに入れたかが 全部わかる仕組みだったら 雇い主に見られる ↓ 「うちはこの人に入れてくれよ」 ↓ ことわりにくい ↓ 自分の考えで選べなくなる → 秘密は、弱い立場の人を守る決まり

秘密選挙は、かくすための決まりではなく、気がねなく決めるための決まりです。だから投票所では、記入する場所が仕切られています。

衆議院と参議院で、選び方がちがう

国の選挙は二種類あります。同じ「国会議員を選ぶ」なのに、任期も選び方もそろえていません。これもわざとです。

衆議院参議院
任期4年(とちゅうで解散あり)6年(3年ごとに半分ずつ)
立候補できる年れい25さい以上30さい以上
性格そのときの国民の声を反映しやすいじっくり考え直す役目

衆議院はとちゅうで解散があるので、今の気持ちが早く反映されます。参議院は解散がなく任期も長いので、そのときの勢いだけで国が動かないようにするブレーキになります。急ぐ側と落ち着かせる側、両方を置いているわけです。

選び方にも二つの方式が混ざっています。

小選挙区 その地域で一番多く取った一人だけ当選 → だれが代表かがはっきりする → 落選した人に入れた票は残らない 比例代表 政党の得票数に応じて議席を分ける → 少数の意見も議席になりやすい → 顔が見えにくくなる どちらも欠点がある → だから両方を組み合わせている

「どちらが正しいか」ではありません。片方の弱点をもう片方で補っていると考えると、二本立てになっている理由がつかめます。

身近な選挙のほうが、生活に早く効く

選挙というと国のものを思いうかべますが、回数が多いのは市区町村や都道府県の選挙です。

身近な選挙で決まること 通学路に信号をつけるか 図書館を何時まで開けるか ごみの集め方を変えるか 給食のしくみをどうするか → 家から歩ける範囲の話が動く

しかも、こうした選挙は投票する人の数が少ないため、一票あたりの影響が国の選挙より大きくなります。数百票の差で当落が決まることもめずらしくありません。「一票では変わらない」が、いちばん当てはまらないのが身近な選挙です。

投票率という数字の読み方

ニュースで「投票率」という言葉が出ます。これは投票できる人のうち、実際に行った人の割合です。

この数字が下がると、何が起きるのでしょうか。当選する人数は変わりません。変わるのはだれの声が届くかのかたよりです。

100人が投票できる町で 70人が行った場合 → 70人分の願いから順番が決まる 30人が行った場合 → 30人分の願いから順番が決まる → 行かなかった70人の願いは 数として見えない 当選者は、見えている数を見る

投票に行かないことは、「まかせる」ではなく「自分の願いを数に入れない」という選び方になってしまいます。ここは6年生でも十分に理解できるところです。

18さいまでに、できること

日本では18さいから投票できます。以前は20さいでしたが、2016年から18さいに引き下げられました。小学6年生なら、あと6年ほどです。

それまでにできることもあります。投票そのものはできなくても、政治に関わる方法は投票だけではないからです。

できることぐたい的に
選挙公報を読む家に届く紙を見て、主張のちがいを比べる
投票所を見る保護者と一緒に入れる。中の様子が分かる
市の広報を読む税がどこに使われたかが書いてある
意見を出す自治体の子ども議会や意見ぼ集に応じる

投票日にとつぜん判断できるようになるわけではありません。読んで比べる練習をした年数が、そのまま判断の質になります。

つまずきやすいところ

その1 選挙で総理大臣を選んでいると思う

投票所で総理の名前を書くと思っている子がいます。
国民が書くのは国会議員(または政党名)です。そこから先は国会の中で決まります。「自分が届けられるのは一段目まで」と押さえておくと混乱しません。

その2 だれに入れたか言わないといけないと思う

秘密選挙の意味を、こっそりやる後ろめたいことだと感じてしまう。
逆です。だれにも遠りょせず決められるように守られているのです。言いたければ言ってもよく、言わなくてもよい、という自由です。

その3 「一票では何も変わらない」と思う

人数が多いから自分の分は無意味だ、と考える。
選挙は一票の勝ち負けではなく、どの願いが何票集まったかの集計です。同じ考えの人が行かなければ、その願いごと数から消えます。とくに身近な選挙では、数百票で結果が入れかわります。

その4 小選挙区と比例代表を別々に覚えようとする

用語として丸暗記すると、すぐ混ざります。
一人だけ選ぶのが小選挙区、割合で分けるのが比例代表。そして「どちらにも弱点があるから両方使う」という一文まで一緒に覚えると、定着します。

やってみよう

Q1 選挙の四つの原則を挙げましょう。

A 普通・平等・直接・秘密の四つです。年れいだけで投票でき、一人一票で、自分の手で入れ、だれに入れたかは明かさなくてよい、という決まりです。

Q2 秘密選挙は、何のためにありますか。

A まわりに遠りょせず、自分の考えで選べるようにするためです。だれに入れたか分かると、立場の弱い人が押し切られてしまいます。

Q3 衆議院に解散があり、参議院にないのはなぜですか。

A 衆議院は今の国民の声をすばやく反映する役、参議院は勢いだけで決めさせないブレーキの役だからです。役わりを分けています。

Q4 投票率が下がると、何が変わりますか。

A 当選する人数は変わりませんが、数として見える願いがかたよります。行かなかった人の要望は集計に残りません。

Q5 次の選挙で家に届く選挙公報を読み、二人の候補者が「先にやる」と言っていることのちがいを一つ見つけましょう。

A 多くの場合、限られたお金をどこに先に回すかでちがいが出ます。順番のちがいに気づけたら十分です。

まとめ

おうちの方へ

この単元は用語が多く、暗記に流れがちです。ただ、子どもが本当につまずくのは語句ではなく「自分に関係がある話だと思えない」という点にあります。
おすすめは、選挙の時期に届く選挙公報を一緒に開くことです。全部読む必要はありません。二人分だけ選んで「この人が先にやると言っていることは何だろう」と見比べるだけで、政治が順番の話であることが伝わります。
投票所へ連れて行くのも有効です。多くの自治体では、子どもの同伴が認められています。仕切られた記入台や投票箱を実際に見た経験は、秘密選挙の意味を言葉より早く伝えます。
また、市区町村の広報紙には税の使いみちが載っています。「この公園の改修、去年の広報に出ていたね」と結びつけられると、身近な選挙の重さが実感に変わります。
なお、家庭内で特定の政党や候補者の支持を教えこむ必要はありません。むしろ「意見が分かれてよい」ことを見せるほうが、この単元の目的に合っています。18さいまでに必要なのは結論ではなく、比べて自分で決めた回数です。