6年 社会 裁判所のはたらき

裁判所と裁判員制度 ── 争いは、力ではなく理屈で決める

けんかを、強いほうが勝ちで終わらせない。そのために国が用意した場所が裁判所です。

もし裁判所がなかったら

友だちに貸した本が、いつまでも返ってこない。返してと言っても「借りてない」と言われる。こういうとき、どうやって決着をつけるでしょうか。

裁判所がない世界での答えは、たった一つしかありません。力の強いほうが自分の言い分を通す、です。声が大きい人、お金を持っている人、なかまが多い人が勝ちます。それは決着ではなく、ただの押しつけです。

そこで国は、当事者ではない第三者に判断してもらうしくみを作りました。それが裁判で、その場所が裁判所です。判断のよりどころになるのは腕力でも人気でもなく、法律と証拠だけと決められています。

裁判所が引き受けている仕事 ・お金や約束をめぐる争いに決着をつける ・罪をおかしたかどうかを見きわめ、罰を決める ・国や役所のしたことが憲法に反していないか判断する

この三つが、教科書で裁判所のはたらきとしてまとめられている内容です。三つ目は少し意外かもしれません。裁判所は、国そのものを相手に判断を下せるのです。この点があとで出てくる三権分立とつながります。

民事裁判と刑事裁判は別物

ニュースで「裁判」と一語で呼ばれているものは、じつは大きく二種類に分かれます。混ざりやすいので、先に切り分けておきます。

二つの裁判の見分け方 【民事裁判】 人と人(会社もふくむ)の争い 例:貸したお金が返ってこない/事故の弁償でもめている うったえた人=原告 うったえられた人=被告 決まること=どちらの言い分が正しいか、いくら払うか 【刑事裁判】 罪をおかした疑いのある人をさばく 例:ぬすみ、傷害、詐欺 うったえる側=検察官(国の代理) うったえられた人=被告人 決まること=有罪か無罪か、有罪ならどんな罰か

ちがいの本質はだれが相手をうったえているかです。民事は個人どうしがぶつかっていて、国は審判役に徹します。刑事はちがいます。罪は社会全体への裏切りとみなされるので、被害者本人ではなく検察官が社会を代表してうったえます。

被告と被告人が一字ちがいなのも、テストでよくねらわれるところです。人がからむ争いなら被告、罪を問われているなら被告人。この対応で覚えると混ざりません。

三回まで挑戦できる ── 三審制

裁判官も人間ですから、まちがえることがあります。まちがった判決で人生が変わってしまうのは取り返しがつきません。そこで日本は、同じ事件を最大三回まで調べ直せるしくみにしています。これが三審制です。

三審制の流れ 第一審(地方裁判所など) ↓ 納得できない → 控訴 第二審(高等裁判所) ↓ まだ納得できない → 上告 第三審(最高裁判所) ← ここで確定

上に行くほど慎重になり、最高裁判所の判断が最終結論になります。最高裁判所は東京に一つだけで、「憲法の番人」とも呼ばれます。ある法律が憲法に反していないかを最終的に決めるのが、この裁判所だからです。

ただし、三審制は「三回やればいつか勝てる」しくみではありません。回数を重ねるほど時間もお金もかかります。それでも用意されているのは、まちがいを一度で確定させないためです。速さより正確さを選んだ設計だと考えてください。

裁判官が守られている理由

裁判官は、だれの指示も受けずに判断してよいと憲法に書かれています。総理大臣にも、国会にも、上司にあたる裁判官にも従わなくてよい。これを司法権の独立といいます。

なぜそこまで守るのでしょう。もし裁判官が国の言うとおりに判決を書くなら、国が悪いことをしたときに、だれもそれを止められなくなるからです。国の行いを裁くには、裁く側が国から離れていなければ意味がありません。

三権分立の中の裁判所 国会(法律をつくる) ↕ おたがいに行きすぎを止め合う 内閣(法律にそって仕事をする) ↕ 裁判所(法律に照らして判断する) 裁判所 → 国会・内閣へ:「その決まりは憲法違反だ」と言える 国会 → 裁判官へ:ふさわしくない裁判官をやめさせる裁判ができる

止める力が一方通行ではないところが大事です。裁判所も、まったくの野放しではありません。おたがいににらみをきかせ合うから、どこか一つが暴走しにくくなるのです。

裁判員制度 ── ふつうの人が判決に加わる

2009年から、重い刑事事件の第一審に裁判員が加わるようになりました。裁判員は法律の専門家ではありません。選挙人名簿からくじで選ばれた、ふつうの大人です。

裁判員裁判のすがた 裁判官 3人 + 裁判員 6人 = 9人で話し合う 対象=殺人など、とくに重い罪の第一審だけ えらび方=選挙人名簿からくじ引き(20歳以上、のちに18歳以上) 決めること=有罪か無罪か/有罪ならどんな罰か

ここでよく誤解されるのが役割分担です。裁判員は、罰の重さまで裁判官と対等に話し合って決めます。「見学するだけ」ではありません。いっぽうで、法律の解釈のような専門的な判断は裁判官が受け持ちます。

なぜ専門家でない人を入れるのか。専門家だけで長年やっていると、判断が世の中の感覚から少しずつずれていくおそれがあるからです。国民の常識を持ちこむことで、判決を社会に近づけるねらいがあります。

もちろん、いいことばかりではありません。人の一生を左右する判断を背負う重さは相当なもので、事件のむごい証拠を見なければならない場面もあります。参加した人が話してはいけないと決められている秘密もあります。負担が重い制度であるという事実も、あわせて知っておく必要があります。

「疑わしきは罰せず」という考え方

刑事裁判には、判決が出るまでその人は罪をおかしていないものとしてあつかうという大原則があります。推定無罪と呼ばれます。

逮捕された時点で「犯人だ」と決めつけたくなりますが、それは順番がちがいます。逮捕は疑いが強いというだけで、罪が確定したわけではありません。証拠を調べ、本人の言い分を聞き、そのうえで裁判所が判断してはじめて有罪になります。

そして、証拠を出す責任はうったえた検察官の側にあります。うたがわれた人が「やっていない証明」をする必要はありません。もし証拠が足りず判断がつかないなら、罰しない。これを「疑わしきは罰せず」といいます。

この原則のせいで、実際に罪をおかした人を取りのがすことがあります。それでもこう決めているのは、やっていない人を罰するほうが社会にとってずっと危険だからです。ニュースで容疑者の名前を見たとき、この順番を思い出せる人でいてください。

たしかめ問題

Q1 人と人のお金の争いをあつかう裁判を何といいますか。

A 民事裁判です。うったえた側を原告、うったえられた側を被告といいます。

Q2 第一審の判決に納得できないとき、上級の裁判所にうったえ直すことを何といいますか。

A 控訴です。第二審にも納得できなければ上告し、最高裁判所へ進みます。

Q3 裁判員裁判は、何人の裁判官と何人の裁判員で行われますか。

A 裁判官3人と裁判員6人の合計9人です。重い刑事事件の第一審だけが対象です。

Q4 最高裁判所が「憲法の番人」と呼ばれるのはなぜですか。

A 法律や国の行いが憲法に反していないかを、最終的に判断する役目を持っているからです。

Q5 証拠が足りず有罪か判断できないとき、裁判所はどうしますか。

A 罰しません。「疑わしきは罰せず」。やっていない人を罰しないことを最優先しています。

まとめ

おうちの方へ

この単元は用語が多く、暗記に流れがちです。入口はニュースで十分だと思います。「この事件、民事かな刑事かな」と一言たずねるだけで、分類の練習になります。
裁判員制度は、保護者の方自身にいつ通知が来てもおかしくない制度です。「もし来たらうちはどうする」と食卓で話すと、他人事ではなくなります。
推定無罪は、大人でも実践がむずかしい考え方です。逮捕の報道を見て家族で決めつけた言い方をしていないか、一緒に振り返る機会にもできます。
裁判所は見学を受け入れており、傍聴は多くの場合だれでも無料でできます。長期休みの社会科見学として、選択肢に入れてみてください。