6年 算数 倍速と反比例

1.5倍速は「1.5倍おトク」ではない ── 倍速の正体は、比例ではなく反比例

動画を見るとき、再生速度を1.5倍や2倍にしている人は多いと思います。では聞きます。60分の動画を1.5倍速で見ると、何分でしょうか。「1.5倍おトクだから、半分より少し多く減って……」と考えた人は、もうつまずいています。答えは40分で、うくのは20分。ぜんたいの3分の1しか減りません。速さを50%上げたのに、時間は33%しか減らないのです。しかもこのズレは、速さをどれだけ上げても消えません。なぜこうなるのか──その答えは、6年生でならう反比例ひとつで全部説明がつきます。教科書では水そうに入れる水の量のような、ふだんやらない例で出てくる単元です。でも本当は、あなたが毎日ボタン1つで動かしているものが、いちばん身近な反比例でした。

まず、倍速の「倍」は何にかかっているのか

ここを取りちがえると、あとの計算がぜんぶずれます。1.5倍速の「1.5倍」は、進む速さにかかっています。時間にかかっているのではありません。

ふつうの速さのとき、1秒間に動画は1秒ぶん進みます。1.5倍速にすると、1秒間に1.5秒ぶん進むようになります。速さが1.5倍になったので、同じところまで行くのにかかる時間は、そのぶん少なくてすむ。ここまでは感覚どおりです。

問題は「そのぶん」がいくつかです。速さが1.5倍になったとき、時間は1.5分の1倍になります。1.5倍おトクなのではなく、1.5でわるのです。

かかる時間 = 動画の長さ ÷ 速さ 60分の動画を1.5倍速で見る 60 ÷ 1.5 = 40 (分)

1.5でわるという計算に、なじみがない人もいるかもしれません。そういうときは分数にもどすと見やすくなります。1.5は2分の3なので、それでわるのは3分の2をかけるのと同じ。60の3分の2で40分です。

やり方① 小数のまま 60 ÷ 1.5 = 40 やり方② 分数になおして 60 ÷ 3/2 = 60 × 2/3 = 40 → 2つとも40分。合った

別々のやり方で出して同じになったので、この40分は信じてよい数です。この記事では、出てくる数をできるだけ2通りで出します。合っているかどうかを、自分の手で決められるようにするためです。

60分の動画を、速さごとに計算してみる

1つだけ計算しても、しくみは見えません。速さを少しずつ変えて、表にならべてみます。どの行も、60をその速さでわっただけです。

速さかかる時間うく時間ういた割合
1倍(そのまま)60分0分0%
1.25倍48分12分20%
1.5倍40分20分約33%
1.75倍約34分約26分約43%
2倍30分30分50%
3倍20分40分約67%
4倍15分45分75%

いちばん左の列と、いちばん右の列をくらべてください。おかしなことが起きています。

速さを1.25倍にしたということは、速さを25%上げたということです。ところが減った時間は20%しかありません。1.5倍は速さを50%上げたのに、減ったのは33%。2倍は速さを100%も上げたのに、減ったのはたったの50%です。

上げた割合より、減った割合のほうが小さい。しかも、どの行でもそうなっています。まぐれではなさそうです。

なぜ、上げた割合より減る割合が小さくなるのか

原因は、かけ算とわり算の形のちがいです。速さを上げるときはかけるのに、時間が減るときはわる。この2つは、同じ数を使っても動き方がちがいます。

速さ側 : 1 → 1.5 (+0.5ぶん、50%ふえた) 時間側 : 1 → 1 ÷ 1.5 = 0.666…(-0.333ぶん、33%へった)

1.5をかけると0.5ふえるのに、1.5でわると0.333しか減りません。ふえるほうは1より大きい数の世界で動き、減るほうは1より小さい数の世界に押しこめられるからです。1をこえて減ることはできません。減る側には0という床があるのに、ふえる側には天井がない。この非対称が、表のズレの正体です。

もうひとつ、覚えておくと得な見方があります。ういた割合は、いつも「1から、速さでわった数を引いたもの」になります。

ういた割合 = 1 -(1 ÷ 速さ) 1.25倍 → 1 - 0.8 = 0.2 = 20% 1.5倍 → 1 - 2/3 = 1/3 = 約33% 2倍 → 1 - 1/2 = 1/2 = 50% 4倍 → 1 - 1/4 = 3/4 = 75%

表の数字と見くらべてください。ぜんぶ合っています。表は60分の動画で計算したものですが、この式には60が出てきません。ういた割合は、動画の長さに関係なく決まるということです。10分の動画でも3時間の動画でも、1.5倍速でうくのは3分の1。長さが変わるたびに計算し直す必要はありません。

速さを倍にするたび、うく時間は半分ずつになる

ここからが、いちばんおもしろいところです。速さをどんどん上げていったら、いつか0分になるのでしょうか。

60分の動画で、速さを倍・倍・倍とためしていきます。前の行よりあと何分ういたかに注目してください。

1倍 → 60分 2倍 → 30分 (さらに30分ういた) 4倍 → 15分 (さらに15分ういた) 8倍 → 7.5分 (さらに7.5分ういた) 16倍 → 3.75分(さらに3.75分ういた) ういた合計 30 + 15 + 7.5 + 3.75 = 56.25分

速さを16倍にしても、ういたのは56.25分。60分には届いていません。次に32倍にすれば、あと1.875分だけうきます。そのまた次は0.9375分。新しくうく時間は、毎回きっちり半分ずつになっていくので、足しても足しても60には手が届かないのです。

つまり、はじめの「1倍から2倍へ」の1回で、うかせられる時間の半分をもう使い切っている。そのあとどれだけがんばって速さを上げても、残り半分を細かく分け合うだけです。2倍速の人が4倍速に変えても手ごたえがうすいのは、そのせいです。60分が30分になったときの驚きに対して、30分が15分になる変化は半分の大きさしかありません。

これが反比例。グラフが軸に触れない理由

ここまでの話には、ちゃんと名前がついています。倍速と反比例は、名前がちがうだけで同じ話です。

反比例とは、2つの量をかけた答えがいつも同じ数になる関係のことでした。速さと時間でためしてみます。

1倍 × 60分 = 60 1.5倍 × 40分 = 60 2倍 × 30分 = 60 3倍 × 20分 = 60 4倍 × 15分 = 60

どの行も60になりました。この60は、動画のもとの長さです。速さを x、かかる時間を y とすれば、式は x × y = 60、つまり y = 60 ÷ x。教科書に出てくる反比例の式の形そのものです。

そして、この単元でいちばん「言われても意味が分からない」と言われるのが、グラフの説明です。反比例のグラフは軸に近づいていくけれど、けっして交わらない──何のことだか分からないまま、形だけ覚えた人も多いはずです。

もう分かったと思います。あれは「いくら速くしても0分にはならない」と言っているだけです。横の軸は、時間が0のところ。グラフがそこに触れるというのは、どれかの速さで見終わる時間が0分になるという意味になってしまいます。そんな速さはありません。だから触れない。かわりに、どこまでも近づいていく。16倍で3.75分、32倍で1.875分、64倍で0.9375分──小さくはなるけれど0にはならない数が、この先ずっと続きます。

覚え方より、たしかめ方

反比例かどうかを見分けたいときは、2つの数をかけて同じ答えになるかを2〜3組ためすのがいちばん速いです。比例なら、わって同じ答えになります。どちらも1組では決まらないので、必ず2組以上でくらべてください。

遅くする側には、上限がない

速くする話ばかりしてきましたが、再生速度は0.5倍などに下げることもできます。外国語の聞き取りや、むずかしい説明を聞くときに使う人がいます。こちら側はどうなるでしょうか。

0.75倍速 → 60 ÷ 0.75 = 80分 (20分ふえる) 0.5倍速 → 60 ÷ 0.5 = 120分 (60分ふえる) 0.25倍速 → 60 ÷ 0.25 = 240分 (180分ふえる)

速くする側では、どんなにがんばっても節約できるのは60分に届きませんでした。ところが遅くする側は、いくらでも時間をふやせます。0.1倍速なら600分、0.01倍速なら6000分。上に天井がありません。

同じ1本の動画、同じ1つの式なのに、速さを上げる向きと下げる向きで、こんなに景色がちがう。反比例のグラフを見たとき、右のほうはぺったりと平らなのに、左のほうは急に上へ立ち上がっていて、左右で形がちがうように見えたはずです。あれはグラフのくせではなく、いま計算したことがそのまま絵になっているだけです。

前半と後半で速さを変えたら、平均ではない

ここでひとつ、大人でもよくまちがえる問題を出します。

60分の動画のうち、前半の30分を1.5倍速で、後半の30分を2倍速で見ました。ぜんたいでは何倍速で見たことになるでしょうか。

多くの人が、1.5と2を足して2でわり、1.75倍速と答えます。たしかめてみましょう。

前半 30 ÷ 1.5 = 20分 後半 30 ÷ 2 = 15分 合計 20 + 15 = 35分 ぜんたいの速さ = 60 ÷ 35 = 1.714…倍速

1.75ではなく、1.714でした。ほんの少しですが、確かに足りません。そしてこのズレは、2つの速さが離れているほど大きくなります。前半を1倍速、後半を3倍速にしてみると、前半は30分まるまるかかり、後半は 30 ÷ 3 = 10分。合計40分なので、60 ÷ 40 = 1.5倍速です。足して2でわれば2倍速のはずなのに、実際は1.5倍速。だいぶちがいます。

理由は、遅いほうの区間に時間を長く取られるからです。1倍速の30分は30分まるまるかかるのに、3倍速の30分は10分で終わってしまう。かかった時間で見ると、遅いほうが3倍も長く居すわっています。だから全体をならすと、遅いほうへ引っぱられるのです。

5年生の平均のところで、平均は足して個数でわるとならいました。あれが通じるのは、足す相手が同じ重さで並んでいるときだけです。速さのように、あとから時間の長さがちがってくるものは、そのまま足してはいけません。中学でも高校でも同じつまずきが出てくる場所なので、ここで一度ひっかかっておくと得をします。

時間のほうから、速さを逆算する

ここまでは「この速さなら何分か」を出してきました。向きを逆にしてみます。この時間で終わらせたいから、何倍速にすればいいか。じつはこちらのほうが、日常でよく起きる考え方です。

60分の授業動画を、45分で見終わりたいとします。速さ × かかる時間 = もとの長さ をそのまま使います。

速さ × 45 = 60 速さ = 60 ÷ 45 = 4/3 = 1.333…倍速

ところが、たいていのアプリで選べるのは1.25倍・1.5倍・1.75倍・2倍のように、とびとびの数だけです。1.333倍は選べません。だから実際には1.25倍で48分か、1.5倍で40分かの二択になります。計算で出した答えが、そのまま選べるとはかぎらない。これは算数の問題では起きにくいのに、現実ではしょっちゅう起きることです。45分で終わらせたいなら、1.5倍速にして5分あまらせるほうを選ぶことになります。

もうひとつ、積み上げの計算もしてみましょう。毎日60分の動画を見る人が、それをずっと1.5倍速にしたら、1年でどれだけうくでしょうか。

1日にうく時間 60 - 40 = 20分 1年ぶん 20 × 365 = 7300分 やり方① 時間になおす 7300 ÷ 60 = 121.66… → 約121時間40分 やり方② 日数になおす 121.66… ÷ 24 = 5.07 → 約5日ぶん

1日20分は小さな数に見えますが、1年ためるとまる5日ぶんになります。1日あたりの量に日数をかけるだけの計算で、5年生の単位量あたりの大きさでやったことと同じです。ただし、この5日はまだ「見ない時間ができた」というだけで、その時間で何をするかまでは計算してくれません。そこは自分で決めるところです。

倍速にしても減らないもの

最後に、勘ちがいされやすい点をひとつ。倍速で減るのは時間だけです。通信量、つまりギガは減りません。送られてくる絵の枚数が同じだからです。むしろ1分あたりで見れば、短い時間に同じ量を受け取ることになるので、1分あたりの通信量はふえます。

音についても、ふしぎに思ったことがあるかもしれません。昔のテープやレコードは、速く回すと声が高くなりました。いまのアプリで倍速にしても声の高さがほとんど変わらないのは、速さだけを変えて高さをもとにもどす処理が中に入っているからです。3年生の理科で、音は震え方で高さが決まるとならいました。速く回すと震える回数がふえて高くなる──その仕組みを、あとから打ち消しているわけです。

それから、これは正直に書いておきます。倍速で見ても同じように分かるのかどうかは、この記事では答えを出せません。人によっても、動画の中身によってもちがいますし、はっきりした答えを私は持っていません。ただし、自分でたしかめる方法ならあります。同じくらいの長さの説明動画を2本用意して、1本は等速、1本は1.5倍速で見て、見終わったあとに何が書いてあったかを紙に3つ書き出してみる。書けた数を数えるだけです。かかる時間は計算で分かりますが、分かったかどうかは計算では出ません。そこは実験するしかありません。

つまずきやすいところ

気をつける

「2倍速だから時間も2倍減る」と言ってしまう。2倍減るという言い方は、算数では意味を持ちません。減る量が2倍なのか、残りが2分の1なのかが決まっていないからです。正しくは、時間が2分の1になる。言い方をそろえるだけで、まちがいはほとんど消えます。

気をつける

わり算の向きを逆にしてしまう。1.5倍速のときに 60 × 1.5 = 90分としてしまう人がいます。速くしたのに時間がふえてしまったら、それは向きがちがう合図です。出た答えを見て、速くしたのに長くなっていないかを毎回ひとこと確かめると、この種のまちがいは自分で見つけられます。

気をつける

もとの長さを忘れて、割合だけで話す。1.5倍速なら3分の1うく、というのは正しいのですが、3分の1が何分なのかは動画の長さを見ないと決まりません。10分の動画なら3分20秒、3時間の動画なら1時間です。割合は、もとにする量とセットではじめて時間になります。

たしかめてみよう

Q1 20分の動画を1.25倍速で見ると、何分かかりますか。

A 20 ÷ 1.25 = 16分。たしかめは逆向きに、16 × 1.25 = 20 でもとにもどります。1.25は4分の5なので、4分の5でわる=5分の4をかけると考えても、20 × 4/5 = 16 で同じになります。

Q2 45分の動画を1.5倍速で見ると、うく時間は何分ですか。

A 45 ÷ 1.5 = 30分かかるので、うくのは 15分です。割合から出すこともできます。1.5倍速でうくのはいつも3分の1なので、45 × 1/3 = 15。2通りで合いました。

Q3 1.5倍速で見たら24分で終わりました。この動画のもとの長さは何分ですか。

A 36分。速さ × かかる時間 = もとの長さ なので、1.5 × 24 = 36 です。念のため 36 ÷ 1.5 = 24 にもどるかを見ておくと安心できます。

Q4 速さを10倍にすると、ういた割合は何%ですか。100倍ではどうなりますか。

A 1 - 1/10 = 0.9 で 90%、1 - 1/100 = 0.99 で 99%。100倍にしても1%は残ります。どこまで上げても100%にならないことが、グラフが軸に交わらないことにあたります。

Q5 40分の動画の前半20分を2倍速、後半20分をそのままの速さで見ました。ぜんたいでは何倍速で見たことになりますか。

A 前半は 20 ÷ 2 = 10分、後半は20分のままなので合計30分。40 ÷ 30 = 約1.33倍速です。2と1を足して2でわった1.5倍速にはなりません。遅い区間のほうが時間を長く取るからです。

Q6 15分の動画を3本、ぜんぶ1.5倍速で見ます。かかる時間は何分ですか。

A 30分。まとめて 45 ÷ 1.5 = 30 としても、1本ずつ 15 ÷ 1.5 = 10 を3倍して30としても同じです。どちらでも合うのは、かかる時間が本数のほうには比例しているからで、ここだけは比例の関係になっています。

まとめ

おうちの方へ

反比例は、6年の算数でとくに使いどころが見えないと言われる単元です。水そうや歯車の例は正しいのですが、子どもが自分で動かした経験のないものばかりで、式を覚えて終わりになりがちです。いっぽう再生速度は、多くの子がすでに毎日ボタンで動かしています。結果を先に知っている数を、あとから式で説明するという順番が作れるので、反比例の入口としてはかなり条件のよい題材です。

ご家庭でためすなら、正解を教える前に「60分の動画を1.5倍速にしたら何分だと思う?」と予想を言わせてから電卓を渡すのがおすすめです。多くの子は40分より短い数を言います。その差が、この記事でいちばん伝えたかったズレそのものです。予想が外れた経験があると、そのあとの 1 -(1 ÷ 速さ)が、ただの公式には見えなくなります。なお、倍速で見ることの良しあしはご家庭によって考えのちがうところだと思います。ここは算数の題材として扱うのが続けるコツで、見方の是非は別の場で話したほうが、どちらの話もうまく進みます。