6年 理科 酸のはたらき

むし歯をつくっているのは、さとうではない ── 歯をとかすのは酸で、勝負は「量」ではなく「回数」

6年生の理科では、うすい塩酸にアルミニウムを入れて、あわを出しながらとけていくのを見ます。酸には、物をとかすはたらきがある。これは実験で自分の目で確かめたはずです。いっぽうで、みなさんは「甘いものばかり食べるとむし歯になる」も知っています。ところが、この2つが頭の中でつながっている人は、ほとんどいません。理科の酸は試験管の中の話、むし歯は歯医者さんの話。べつべつの引き出しに入ったままです。この記事では、その2つを1本の線でつなぎます。つないだ先にあるのは「甘いものを減らそう」という標語ではなく、さとうの量がまったく同じでも、食べ方だけで結果が4倍以上ちがうという、自分の手で計算して出せる事実です。

教科書のどこに出てくるか

6年理科の「水よう液の性質」では、まず色のついていない5種類ほどの水よう液を、リトマス紙で酸性・中性・アルカリ性に分けます。そのあと、うすい塩酸に金属を入れて、とけるかどうかを見ます。酸のはたらきを、試験管の中で自分の目で確かめる単元です。ここで分かるのは「酸性の水よう液には、金属をとかすものがある」ということでした。

いっぽう、歯の話が出てくるのは1年生の生活科です。どこがみがき残しになりやすいか、歯ブラシをどう当てるか。手の動かし方の話です。6年生になっても、理科の時間に歯が出てくることはありません。

つまり、「酸が物をとかす」は6年理科に、「歯をきれいにする」は1年生活科にあって、その間をつなぐ「では口の中で、その酸はどこから来るのか」はどの学年にもないのです。空いているのはそこです。しかもこの空きは、毎日3回以上ふさがれるチャンスがあるのに、ふさがれないまま大人になります。

まず、さとうは歯をとかさない

いきなり結論から言います。さとうそのものには、歯をとかす力はありません。

確かめ方は、6年理科の道具だけでできます。さとうを水にとかして、リトマス紙をつけてみてください。青いリトマス紙は青いまま、赤いリトマス紙は赤いまま。さとう水は中性です。中性の水よう液には、金属も、歯も、とかす力はありません。塩酸のようにあわを出したりもしません。

では、なぜ甘いものがむし歯につながるのか。間に、もう一人登場人物がいるからです。

 さとう → 口の中の菌 → 酸 → 歯がとける  (中性) (ミュータンス菌など) (酸性)   さとうと歯は、直接さわっていない。   あいだに「菌」と「酸」が入っている。

口の中には、目に見えない菌がたくさんすんでいます。その中にミュータンス菌という種類がいて、この菌はさとうをえさにして、酸を出します。菌にとっての「食べたあとに出るもの」が、たまたま酸だった、というだけのことです。

そしてこの菌は、歯の表面にネバネバした膜を作って、そこに住みつきます。これが歯垢(プラーク)です。白っぽくて、歯ブラシでこすらないと落ちません。うがいだけで落ちないのは、水にとけているのではなくくっついているからです。

この膜の中で出された酸は、外へ流れ出さずに、歯の表面に押しつけられたまま残ります。歯垢は、酸を歯に密着させておくための入れ物になっているわけです。歯みがきが効くのは、酸を洗い流すからではありません。酸を作っている工場と、その入れ物ごと、はがし取っているからです。

ここまでを言いかえると、菌がいなければ、さとうをいくら食べても歯はとけません。生まれたばかりの赤ちゃんの口の中には、この菌はいません。あとから外から入ってくるのです。

「とける」の境目には、はっきりした数がある

酸性の強さは、pHという数で表します。7が中性で、数が小さいほど酸性が強く、数が大きいほどアルカリ性が強い。リトマス紙では「酸性かどうか」しか分かりませんが、pH試験紙を使えば、どのくらい酸性かまで分かります。

歯の表面はエナメル質といって、体の中でいちばんかたい部分です。それでも、とけはじめる境目があります。

 エナメル質がとけはじめる境目 = pH 5.5   pH 7 ┃ 中性。とけない   pH 6 ┃ とけない   pH5.5 ┃ ←────── ここが境目   pH 5 ┃ とける   pH 4 ┃ とける   pH 3 ┃ とける   pH 2 ┃ とける

この5.5という数を、臨界pHといいます。5.5より上か下かで、とけるかとけないかが分かれます。境目があるというのが大事なところで、「酸性が強いほど少しずつ危ない」のではありません。5.5をこえていないあいだは、どれだけ時間がたっても歯はとけないのです。

では、身のまわりの飲み物はどのあたりにいるのでしょうか。おおよその数ですが、並べてみます。

飲み物だいたいのpH5.5との関係あまいか
水道水約 7.0上(とけない)あまくない
牛にゅう約 6.8上(とけない)少しあまい
むぎ茶約 6.5上(とけない)あまくない
炭酸水(あまくないもの)約 5.0下(とける)あまくない
スポーツドリンク約 3.5下(とける)あまい
オレンジジュース約 3.5下(とける)あまい
コーラ約 2.2下(とける)あまい
レモンのしる約 2.1下(とける)すっぱい

この表を見て、つじつまの合わないところに気づいた人がいるはずです。牛にゅうはあまいのに、とけない側にいます。炭酸水はあまくないのに、とける側にいます。

つまり「あまさ」と「酸性」は、まったく別のものさしなのです。舌が感じ取っているのはあまさで、歯がやられているのは酸性。舌は、歯の味方ではありません。「あまくないから大丈夫」という言い方は、ものさしを取りちがえたまま安心している、ということになります。

口の中のpHは、飲んだあとどう動くか

ここからが、この記事のいちばん大事なところです。

ふだん、口の中は中性、pH7くらいに保たれています。ところが、さとうの入ったものを口に入れると、菌がすぐに酸を作りはじめて、pHがぐんと下がります。そのあと、ゆっくり元に戻ります。この下がって戻るまでの形を、グラフにするとこうなります。

 pH  7 ●━━━┓              ┏━━━● ← 元にもどった      ┃           ┏━┛  6 ‥‥‥┃‥‥‥‥‥‥‥‥┏━┛ 5.5 ┄┄┄┄╂┄┄┄┄┄┄┄┄╂┄┄┄┄┄┄┄┄ ← 境目  5    ┗━━━━━━━┛    └───────────────────┘   0分                 約40分   ↑口に入れた            ↑もどった

下がるのはあっという間です。数分で5.5を割りこみます。ところが、元に戻るのにはおよそ40分かかります。この「下がるのは速く、戻るのはおそい」という形が、むし歯のすべてを決めています。

戻してくれているのは、だ液です。だ液はpH6.8〜7.2くらい、中性から少しアルカリ性よりで、酸をうすめ、打ち消していきます。これは6年理科で習う中和と同じはたらきです。試験管の中でやっているのと同じことが、口の中で毎日何回も起きている、というだけの話です。

ただし、だ液の量はかぎられています。いっぺんにどっと出るわけではないので、中和には時間がかかる。その時間が、およそ40分だということです。

だから、勝負は「量」ではなく「回数」になる

40分という数が手に入ったので、計算ができます。

1回の飲食で、口の中が5.5より下にいる時間は、およそ40分。ここを出発点にして、1日ぶんを足してみましょう。

1日の食べ方口に入れた回数式とけている時間
朝・昼・夕の食事だけ3回40 × 3120分
食事+おやつ1回4回40 × 4160分
食事+あめを1時間おきに6個9回40 × 9360分

1日は24時間、つまり 60 × 24 = 1440分です。いちばん下の360分は、1440分のどれだけにあたるでしょうか。

 360 ÷ 1440 = 0.25   0.25 = 25% = 4分の1   1日のうち、合わせて6時間、歯がとけている。

ここで、もっとはっきりした比べ方をしてみます。あめ6個を、食べ方だけ変えて比べます。さとうの量は、どちらもまったく同じです。

【A】6個をまとめて口に入れる   食べ終わるまで 10分 + もどるまで 40分    10 + 40 = 50分 【B】1時間おきに1個ずつ、6回に分ける   1個ごとに 40分 × 6回    40 × 6 = 240分   240 ÷ 50 = 4.8   → 同じ6個なのに、Bのほうが 約4.8倍 長くとけている。

Bのほうが、ずっと行儀よく見えるかもしれません。少しずつ、がまんしながら食べている。けれども歯にとっては、Bのほうが約4.8倍ひどい。これが「だらだら食べ」がいちばん危ないと言われる理由で、その根拠はこの掛け算ひとつです。

5年生の算数で習った「単位量あたりの大きさ」の考え方が、ここで効いてきます。「1日あたり、歯がとけている時間」という新しいものさしを作ったとたん、「食べた量」では見えなかった差が見えるのです。量というものさしで見るかぎり、AもBも同じ6個でした。時間というものさしに持ちかえた瞬間に、4.8倍の差が現れました。

だから、もしどちらか一方しか選べないとしたら、さとうの量を半分にするより、口に入れる回数を半分にするほうが効きます。量を半分にしても、回数が同じなら、酸性の時間はほとんど変わらないからです。

とけた歯は、少しなら戻っている

ここまで「とける」話だけをしてきましたが、それは片側だけの話です。

だ液の中には、カルシウムやリンが、目に見えない形でとけこんでいます。口の中のpHが5.5より上に戻ると、今度はそのカルシウムやリンが、とけた歯の表面に戻っていきます。これを再石灰化といいます。

 pH が 5.5 より下 → とける (脱灰)  pH が 5.5 より上 → もどる (再石灰化)   1日の中で、この2つがずっと入れかわっている。

つまり歯は、毎日「少しとけて、少し戻る」をくり返しています。どちらか一方ではありません。とける時間より戻る時間のほうが長ければ、歯は何ともない。ところが、とける時間のほうが長い日が何か月も続くと、戻りきらなかったぶんが積み重なって、あるとき穴になります。

さっきの計算を、この目で見直してみてください。とけている時間を360分にした人は、戻る時間を 1440 - 360 = 1080分しか残していません。120分の人は 1440 - 120 = 1320分を残しています。回数を減らすというのは、がまんのことではなく、歯に戻る時間を返してやることだったわけです。

そして、もうひとつ知っておくべきことがあります。いったん穴があいてしまうと、そこは二度と戻りません。すりむいたひざは1週間でふさがるのに、歯だけは自分で作り直せない。エナメル質には、作り直すための細胞が入っていないからです。骨は折れても作り直されますが、エナメル質は一度できあがったら、あとは減っていくだけの部品です。体の中で、ここだけがそういうつくりになっています。

あまくないほうが安全、とはかぎらない

表をもう一度見てください。炭酸水はあまくないのにpH約5.0で、5.5より下にいました。菌がいようといまいと関係ありません。飲み物そのものが酸性なので、口に入れた瞬間から歯はとけはじめます。

つまり、歯がとける道は2本あります。

どこから来た酸か例何をすれば減るか
①菌がさとうから作った酸あめ、チョコ、ジュースさとうを減らす/回数を減らす/歯みがき
②飲み物にもともと入っていた酸炭酸水、かんきつ類、酢の物回数を減らす(さとう対策は効かない)

①には手だてが3つありますが、②には1つしかありません。さとうゼロの飲み物を、1日じゅうちびちび飲むという飲み方は、②の道をまっすぐ進んでいます。「あまくないから何本飲んでもいい」というのが、いちばんあぶない取りちがえです。

スポーツドリンクは①と②の両方に入っているので、二重にきびしい相手だということも、表から読み取れます。

自分で確かめる

ここまでの話は、6年理科の道具でいくつか確かめられます。

ひとつめ。飲み物のpHを自分で測る。 pH試験紙があれば、家にある飲み物を全部並べて測れます。上の表の数と合うかどうか。多少ずれてもかまいません。大事なのは5.5の線をこえているかどうかなので、細かい数がちがっても、とける側かとけない側かは分かります。

ふたつめ。卵のからを酢につける。 卵のからの主な成分は炭酸カルシウムで、歯のエナメル質(こちらはリン酸カルシウムが主)と同じものではありませんが、どちらも酸にあうととけるカルシウムの化合物だという点は同じです。酢(pH約2.5)にひと晩つけると、あわを出しながら表面がとけ、指でこすれるほどやわらかくなります。塩酸とアルミニウムの実験で見たのと、同じことが起きています。あわが出ているあいだ、歯の表面でも同じことが起きていると考えれば、この記事の話は全部、実験で見た現象のつづきだと分かります。

ひとつだけ、やってはいけないことがあります。自分の歯で試さないこと。卵のからはいくらでも代わりがありますが、エナメル質には代わりがありません。

なお、すっぱいものを飲んだ直後は表面がやわらかくなっているので、すぐに強くこするよりも、水で口をゆすいでしばらく置いたほうがよい、と言われます。これも理由は同じで、再石灰化で表面がかたさを取りもどす時間を待っているということです。

まとめ

つながっている記事

水よう液の性質… 酸性・中性・アルカリ性の分け方と、酸が金属をとかす実験。
微生物のはたらき… 目に見えない菌が、何を食べて何を出しているか。
人と動物の体… だ液のはたらきと消化。
はの みがき方… みがき残しが決まった場所にできる理由。