「なんで夏は暑いの?」と聞かれたら、たぶん多くの人がこう答えます。「地球が太陽に近づくから」。ストーブに近づけば暑いのだから、いかにも正しそうです。ところが、事実はまるきり逆でした。日本がいちばん暑い7月はじめ、地球は1年のうちでいちばん太陽から遠いところにいます。近づいているのは、こたつを出している1月のほうです。では、何が夏を作っているのでしょうか。
6年生の理科では「月と太陽」を学び、太陽の形は変わらないのに月の形が日ごとに変わることを、位置関係から考えます。3年生では日なたと日かげ、影のでき方をやりました。4年生では1日の気温の変化を折れ線グラフにして、いちばん気温が高いのは正午ではないことをたしかめています。
けれど、そのどれもが「1日」か「月の満ち欠け」の話です。1年という長さで、なぜ暑い時期と寒い時期ができるのかは、小学校の教科書ではほとんど説明されません。毎年かならず全員が体験しているのに、理由だけ抜けている ── そのすき間にあるのが、この太陽と地球の位置関係の話です。
この記事では、まず「近づくから説」をきちんとつぶします。つぶすときにいちばん気持ちがいいのは、数字と、一発で決まる証拠が両方そろっているときです。今回はその両方があります。
地球が太陽のまわりを回る道は、きれいな円ではなく、ほんの少しだけつぶれた輪になっています。だから、近いときと遠いときがあります。そこまでは「近づくから説」と同じです。問題は、近づくのがいつかです。
日本でいちばん暑いのは8月、いちばん寒いのは1月下旬から2月です。ところがきょりのほうは、いちばん寒い時期に近く、いちばん暑い時期に遠い。もし「近いから暑い」が本当なら、日本は1月に真夏で、8月に真冬でなければおかしいことになります。
しかも差が小さい。500万kmというと大きな数に見えますが、もとが1億5000万kmなので、たった3%です。教室の横はばが6mだとして、その3%は18cm。ほとんど同じきょりだと言っていい大きさです。
近づくと暑いのなら、日本の真夏は1月になっていたはずです。
数字よりもっと強い証拠があります。オーストラリアやニュージーランドでは、7月が冬です。むこうのクリスマスは真夏で、海水浴をしている写真を見たことがある人もいるでしょう。
ここがこの記事のいちばん大事なところです。落ちついて考えてみてください。地球は1つしかありません。日本が7月のとき、オーストラリアも同じ7月です。同じ日、同じ1個の地球が、太陽から同じきょりにあります。
きょりというのは、地球ぜんたいに同じようにかかるものです。地球ぜんたいに同じようにかかるものでは、「北は夏で、南は冬」という食いちがいを作れません。作るためには、北と南でちがうものが要ります。それが、次の話です。
地球は、こまのように回りながら太陽のまわりを1年かけて1周しています。このとき、地球の回転のじくはまっすぐ立っていません。23.4度かたむいています。しかも、まわりながらかたむきの向きを変えることもしません。ずっと同じ向きにかたむいたまま、1年かけて太陽のまわりを1周します。
かたむきの向きが変わらないのに、地球が反対がわに移動するせいで、太陽に向いているのが北がわか南がわかが入れかわる。これが季節の正体です。きょりとちがって、北と南で正反対になってくれます。さっきの「日本は真夏でオーストラリアは真冬」が、これならきちんと説明できます。
では、太陽のほうへおじぎしていると、具体的に何が変わるのでしょうか。変わるのは2つだけです。太陽の高さと、昼の長さです。
太陽のほうへおじぎしていると、正午に太陽が見える高さが上がります。東京で実際にどれくらいちがうかを見てみましょう。
47度というのはとんでもない差です。冬の正午の太陽は、夏の夕方4時ごろの高さくらいしかありません。冬は、1日じゅう夕方のような角度で光が当たっていると言ってもいいくらいです。
ここで、光の束を1本のうどんのようなものだと思ってください。同じ太さの束が地面に当たるとき、真上から当たれば、せまい丸の中に全部入ります。ななめから当たれば、同じ束が細長くのびて、広い範囲に散らばります。光の量は同じなのに、当たる面積だけが広くなる。だから1か所あたりは弱くなります。
これは日なたと日かげの話ではありません。どちらも日なたなのに、こさが2倍ちかくちがうという話です。3年生で調べた影の長さが、じつはこの目印になっています。夏の正午の影は短く、冬の正午の影は長くのびます。影が長いということは、光がななめだということで、うすいということです。
もう1つは、昼の長さです。太陽のほうへおじぎしている半分は、太陽に当たる時間そのものが長くなります。
同じ場所、同じ地面なのに、6月と12月では受けとる光が約3倍ちがう。これが暑さと寒さの正体です。冬に寒いのは、うすい光が短い時間しか来ないからで、太陽が遠いからではありません。
おまけにもう1つ、ななめの光は空気の中を通る道のりも長くなります。長く通るぶん、とちゅうで少し弱められます。夕日が赤くてまぶしくないのと同じ理由です。ただしこれは3番目の小さな効果で、主役は上の2つです。
ここまでの2つを、最初の「近づくから説」と、同じものさしで並べてみます。きょりが3%ちがうと、届く光の量は何%変わるのか。光は遠ざかるほど広がって弱まるので、3%遠いと約7%弱くなります。
7%は0ではありません。ちゃんとある効果です。けれど3倍のとなりに置くと、あってもなくても季節の向きは変わりません。むしろ北半球の夏にはマイナス7%としてはたらいていて、それでも夏は暑い。つまりきょりは、かたむきに完全に負けているのです。
「まちがい」と「小さすぎる」は別のことです。近づくから説がだめなのは、効果がまったく存在しないからではなく、効果の向きが逆で、しかも小さすぎるからでした。理科では、こういう「けたを見くらべて主役を決める」やり方をよく使います。
光がななめになるとうすくなることは、家で1分で確かめられます。
ライトの明るさは1回も変えていないのに、当たり方だけで明るさが変わります。太陽も、夏と冬でまったく同じことをしています。太陽の側は、何も変えていません。
もう1つ、外でできることもあります。自分の影の長さを、夏と冬の同じ時こくにはかって記録しておくことです。同じ人の同じ身長なのに、冬の影は2倍以上長くなります。その長さの差が、そのまま光のうすさの差です。
ここまでを読むと、ふしぎなことに気づくはずです。太陽がいちばん高く、昼がいちばん長いのは6月21日ごろの夏至です。なのに、いちばん暑いのは8月。2か月近くずれています。
これは4年生でやった「気温がいちばん高いのは正午ではない」と、まったく同じ話の、長い版です。日ざしがいちばん強いのは正午なのに、暑さのピークは午後2時ごろでした。あれは、地面があたたまり、その地面が空気をあたためるまでに時間がかかるからです。
お風呂でたとえると分かりやすいかもしれません。お湯を入れ始めた瞬間がいちばん熱いわけではなく、入れ続けているあいだはずっと温度が上がっていきます。夏至を過ぎても、7月も8月も「もらう熱のほうが、出ていく熱より多い」状態が続くので、温度は上がり続けます。上がるのが止まるのは、もらう量と出ていく量がつり合ったときで、それが8月なのです。
いちばん寒いのも同じで、冬至は12月22日ごろなのに、寒さの底は1月下旬から2月になります。日本のまわりに海が多いことも、このおくれを大きくしています。
かたむきの効果は、北へ行くほど強くなります。いちばん極端なのが北極です。
北極は、6月ごろには地球のかたむきのせいでずっと太陽の当たる側にいます。地球が1回転しても、太陽が地平線の下に入りません。夜中の12時になっても、太陽が空の低いところで光っています。これが白夜です。反対に12月ごろは、1日じゅう太陽が出てきません。
ここでおもしろいのは、北極の夏は、昼の長さでいえば24時間で日本の夏より長いのに、日本よりずっと寒いことです。時間では日本に勝っているのに、角度で大負けしているからです。北極の太陽はどれだけ上がってもかなり低い位置までしか届かず、光はうすくのびきっています。さらに雪と氷は白いので、せっかく来た光も多くをそのまま照りかえしてしまいます。
逆に赤道の近くでは、1年じゅう太陽がほぼ真上を通り、昼の長さもほとんど変わりません。だから季節による気温の差が小さく、そのかわり雨がよく降る時期と降らない時期で1年が分かれます。季節というものが、どこでも「暑い・寒い」で分かれているわけではないのです。
この記事で使った言葉は、ほとんどが中学3年の「地球と宇宙」で正式に出てきます。そこでは、正午の太陽の高さを計算で出せるようになります。
この式の中に、23.4度というかたむきがそのまま入っているのが見どころです。もし地球がかたむいていなければ、23.4を足し引きする部分が消えて、1年じゅう同じ高さになります。かたむきがなければ、季節そのものが無くなるということが、式の形からも分かります。
高校では、光が遠ざかるほど弱まる割合が「きょりの2乗に反比例する」という形で出てきます。今回の「3%遠い → 約7%弱い」は、この計算そのものです。
Q1 「夏は地球が太陽に近いから暑い」という説明は、どこがまちがっているでしょう。2つ答えてください。
A 1つめは向きが逆であること。日本が真夏の7月はじめ、地球は1年でいちばん遠いところにいます。2つめは大きさが足りないこと。きょりの差は約3%で、光の量にすると約7%しか変わりません。季節を作っているかたむきの効果は約3倍なので、けたが2つちがいます。
Q2 「近づくから説」がまちがっていることを、数字を使わずに一発で示すには、何を言えばよいでしょう。
A 「同じ7月に、オーストラリアは冬です」と言えば足ります。地球は1つしかないので、日本とオーストラリアは同じ日には太陽から同じきょりにいます。きょりが理由なら、同じ日に真夏と真冬が同時に存在することはできません。
Q3 夏の正午の影は短く、冬の正午の影は長くなります。これは暑さとどうつながっていますか。
A 影が長いということは、光がななめから当たっているということです。ななめの光は同じ量のまま広い面積に散らばるので、1か所あたりはうすくなります。つまり影の長さは、その日の光のこさをはかる目盛りになっています。長い影=うすい光=あたたまりにくい、です。
Q4 日ざしがいちばん強いのは6月下旬なのに、いちばん暑いのが8月なのはなぜでしょう。
A 地面と海があたたまり、その熱で空気があたたまるまでに時間がかかるからです。夏至を過ぎても、もらう熱のほうが出ていく熱より多いあいだは温度が上がり続けます。つり合うのが8月なので、そこがピークになります。1日の中で暑さのピークが午後2時ごろになるのと同じしくみです。
Q5 もし地球のじくがまったくかたむいていなかったら、季節はどうなるでしょう。
A ほとんど無くなります。正午の太陽の高さも昼の長さも1年じゅう同じになるので、受けとる光の量が変わりません。残るのは、きょりによる約7%の差だけです。そうなると1月のほうがわずかに暖かく、7月がわずかに涼しい、という今とは逆向きのとても弱い変化だけになります。
「夏は太陽に近いから暑い」は、大人にも非常に多い誤解です。責められるような間違いではなく、むしろ筋の通った推論です。熱源に近づけば熱い、という日常の経験をそのまま当てはめているだけだからです。お子さんがそう答えても、まず「すじは通っているね」と受けとめていただけたらと思います。
そのうえでおすすめしたいのが、本文でも使った「じゃあ、同じ7月にオーストラリアは何の季節だろう」という一言です。これは知識を足す質問ではなく、自分の説明が成り立たない場面を自分で見つけてもらう質問です。反例を1つ出されただけで説明が崩れる、という体験は、理科のいちばん大事な部分に直接つながります。
かい中電灯の実験は、暗くした部屋で30秒あればできます。ポイントはライトの明るさを一度も変えないことを口に出して確認することです。「太陽は何も変えていないのに、こっちの向きだけで変わった」が実感として残ります。
この記事では、公転・自転・南中高度・太陽定数といった用語は本文では使わず、「かたむき」「正午に太陽が見える高さ」という言い方にとどめました。中学3年でこれらの言葉に出会ったときに、今回の数字と図がそのまま使えるようにするためです。数値は理科年表などで一般に知られている概数を、小学生が計算しやすい形に丸めて使っています。