車輪のついた道具を使うと、重いものが軽く持ち上がります。でも「軽くなった分は、どこへ行ったのか」を追いかけると、自然のきまりが見えてきます。
滑車と輪じくのテストで点を落とす子の答案を並べると、まちがいはだいたい同じところに集まります。力の大きさは合っているのに、ひもを引く長さが書けていないのです。
「動滑車を使うと力は半分」というところまでは、みんな覚えています。ところが「では、ひもは何cm引きますか」と聞かれると止まってしまいます。半分と覚えた頭のまま「10cm上げるならひもも10cm」と書いてしまう。ここが最大のつまずきです。
この記事では、力と長さをいつも2つセットで考えます。片方だけ覚えると必ず崩れるからです。
滑車は、みぞのついた車輪にひもをかけた道具です。見た目はどちらもよく似た円ばんですが、まん中の軸が動くか、動かないかで、はたらきがまるでちがいます。
見分けるコツは、車輪そのものを見ることです。荷物が上がったとき、車輪もいっしょに上がるなら動滑車。車輪がその場に残るなら定滑車です。「上についているのが定滑車」と場所で覚えると、横向きに取り付けた問題で間違えます。
定滑車は、引く力の大きさをまったく変えません。600gの荷物を持ち上げるには、やはり600g分の力が必要です。
それでは何の役に立つのか、と思うかもしれません。ところが向きが変わるだけで、作業はぐんと楽になります。井戸から水をくむとき、綱を上へ持ち上げ続けるのは大変ですが、下へ引くなら自分の体重を使えるからです。旗を高いポールの先まで上げられるのも、手元で下へ引けるおかげです。
「力が同じなら意味がない」ではなく、「同じ力を、使いやすい向きに変える道具」と覚えます。
ここが単元の中心です。動滑車を1つ使うと、引く力は荷物の重さの半分になります。
なぜ半分になるのか。動滑車にはひもが2本かかっているからです。荷物の重さを、2本のひもが分け合って支えます。だから1本ぶんの手にかかる力は半分で済みます。
ひもを引く長さがなぜ2倍なのかは、図の上で「ちぢむひもを数える」と納得できます。荷物が20cm上がるとき、動滑車の両側にあるひもが両方とも20cmずつ短くなります。短くなった分は消えません。すべて手の側に出てきます。だから手は40cm引くのです。
力は半分、長さは2倍。この2つはいつもセットで入れかわると覚えてください。
動滑車を増やすと、荷物を支えるひもの本数がさらに増えます。力は支えているひもの本数で割るだけです。
表をたてに見ると、うまい規則が見えます。力を割った数と、長さにかけた数がぴったり同じです。動滑車2つなら、力は4分の1で、長さは4倍。数字がそろっているかどうかが、答えの見直しに使えます。
片方だけ変えてしまった答えは、その場で気づけます。「力は4分の1にしたのに、長さを2倍にしか書いていない」なら、どこかで数え間ちがえています。
輪じくは、太さのちがう2つの車輪を同じ軸にくっつけた道具です。太い輪のほうに手をかけ、細い軸のほうに荷物をつるします。
これは、てこの「重さ × 支点からの距離」がつり合うきまりと同じです。軸のまん中が支点、半径が距離にあたります。半径が5倍の輪を回すなら、必要な力は5分の1。かわりに手を動かす長さは5倍になります。
身のまわりでは、ドライバーの太い柄、自転車のギア、水道のじゃ口のハンドルが輪じくの仲間です。じゃ口のハンドルを外して軸だけをつまんで回そうとしても、固くて回りません。ハンドルという「大きい輪」が力を助けていたことが、これで分かります。
定滑車・動滑車・輪じく・てこを並べると、共通のきまりが1本通っています。
力を小さくすると、そのぶんだけ動かす長さが増えます。かけ算の答えは変わりません。道具は力を作り出しているのではなく、必要な力を長さに振りかえているだけなのです。
この「力 × 長さ」は、中学校で仕事という名前で学びます。小学校のうちは名前を覚える必要はありません。「うまい話はない」と分かっていれば十分です。道具を使えば力は減る、でも手を動かす長さは増える。どちらもタダにはなりません。
① 動滑車で、引く長さを荷物と同じにしてしまう
いちばん多いまちがいです。力を半分と書いたその行のすぐ下に、必ず長さを書く習慣をつけます。「半分と書いたら、2倍も書く」を対にして覚えます。
② 定滑車でも力が減ると思ってしまう
「滑車=楽になる道具」という思い込みから来ます。定滑車の役目は向きの変更だけです。天井に固定されているものは力を変えない、と切り分けます。
③ 滑車そのものの重さを忘れる
実験では動滑車自体にも重さがあります。荷物600g・動滑車40gなら、支えるべきは640gで、引く力は320gです。テストでは「滑車の重さは考えない」と書かれていることが多いので、問題文にその一言があるかを先に確かめます。実験結果が計算より少し大きくなるのは、この重さとまさつのせいです。
④ 輪じくで、半径の比を上下ぎゃくにかける
「手をかける輪が大きいなら、力は小さい」という向きだけを先に決めます。計算の前に「答えは荷物より軽いはず」と見当をつけておくと、ぎゃくにかけたときすぐ気づけます。
⑤ ひもの本数を、車輪にかかっている数で数える
数えるのは動滑車を下から支えている向きのひもだけです。手が引く先の1本や、荷物へ下りる1本を混ぜると本数が合わなくなります。図の動滑車の下に横線を引いて、それをまたぐひもを数えると確実です。
ほうき1本でできる動滑車の実験
長いひもの片方を柱にしばり、もう片方を手に持ちます。ひものまん中をほうきの柄にかけ、家の人にほうきを両手で持ってもらいます。あなたがひもを引くと、ほうきが近づいてきます。このときあなたが引いたひもの長さと、ほうきが動いた長さを、床にテープを貼って比べます。ほうきが20cm動くのに、あなたは40cm引いているはずです。
買い物ぶくろで力を比べる
重い買い物ぶくろを、持ち手を直接つかんで持ち上げます。次に、持ち手にひもを通してV字にし、ひもの両はしを持って持ち上げます。2本で分け合うので、片手あたりは軽くなります。かわりにひもを長く引き上げることになります。
ドライバーの太さ比べ
柄の太いドライバーと細いドライバーで、同じねじを回してみます。太いほうが軽く回るのが、輪じくの効果です。細いほうは指がすべって痛いくらい力が必要だと分かります。
この単元は、公式を覚えるよりひもを引いた長さを実際に測るほうが確実に身につきます。テープと物差しがあれば台所でも確かめられます。
お子さんが「力が半分になるなら、ずっと得じゃないの」と言ったら、それは良い疑問です。「手を動かす長さも測ってみよう」と返してください。得をした分だけ損をしている、という自然のきまりに自分でたどり着けます。
計算でつまずく場合、原因は理科ではなく算数の比や反比例であることが多いです。「半径10cmと2cmは5倍ちがう」という比の読み取りができているか、先に確かめると回り道になりません。
じゃ口やドライバー、自転車のギアなど、家の中には輪じくがたくさんあります。実物を触って「どちらが軽いか」を体で確かめるのが、いちばん記憶に残ります。