みそ汁、パン、ヨーグルト、チーズ。実はぜんぶ、目に見えない小さな生き物が作るのを手伝っています。
微生物とは、目では見えないくらい小さな生き物のことです。「微」という漢字には「とても小さい」という意味があります。どのくらい小さいかというと、パンをふくらませるこうぼ菌は、大きさが約100分の1ミリメートル。この文の「。」の中に、数千びきが入ってしまうほどです。
見えないからといって、いないわけではありません。微生物は、空気の中にも、土の中にも、水の中にも、そしてわたしたちの体の中にも、数えきれないほどたくさんいます。人のおなかの中だけでも、微生物はおよそ100兆いるといわれています。人の体をつくる細ぼうの数よりも多いのです。
微生物を見るには、けんび鏡を使います。オランダのレーウェンフックという人が、約350年前に手作りのけんび鏡で初めて微生物を観察しました。「水の中に、小さな生き物がうようよいる」──この発見は、世界をおどろかせました。
微生物が食べ物の中で働いて、人にとって役に立つものに変えることを、発酵といいます。
たとえばパン。こうぼ菌は、パン生地の中の糖を食べて、二酸化炭素の小さなあわを出します。このあわが生地の中にたくさんできることで、パンはふっくらとふくらむのです。焼き上がったパンにあいている小さな穴は、こうぼ菌が出したあわのあとです。
ヨーグルトを作る乳酸菌は、牛乳の中の糖を食べて乳酸というすっぱい成分を出します。この乳酸のはたらきで牛乳が固まり、ヨーグルトになります。ヨーグルトのすっぱさは、乳酸菌が働いた証こなのです。
みそは、蒸した大豆にこうじ菌をつけて、時間をかけて発酵させたものです。こうじ菌は大豆のタンパク質を細かく分解して、うまみのもとに変えていきます。みそ作りに何か月もかかるのは、微生物がゆっくり働くのを待っているからです。
ここでひとつ、面白い事実があります。微生物が食べ物を変化させたとき、それが人の役に立てば「発酵」、害になれば「腐敗」(くさること)と呼ばれます。
つまり、発酵と腐敗は、微生物から見ればどちらも同じ「食べて分解する」という活動なのです。なっとうは大豆が発酵したものですが、初めて見る外国の人には「くさった豆」に見えるかもしれません。人間の都合で呼び方が変わる──理科の言葉としては、どちらも微生物による「分解」です。
食べ物がくさるのを防ぐ工夫は、微生物のはたらきをおさえる工夫でもあります。冷ぞう庫に入れるのは、温度を下げると微生物の活動がにぶくなるから。塩づけやさとうづけにするのは、微生物が使える水分をうばうから。昔の人は微生物の存在を知らないまま、経験から保存の方法を編み出していたのです。
微生物のはたらきは、食べ物作りだけではありません。もっと大きな仕事があります。それは、自然界のそうじ係という仕事です。
落ち葉、かれた植物、動物のふんや死がい。もしこれらがそのまま残り続けたら、地球は数年で落ち葉と死がいの山になってしまいます。そうならないのは、土の中の微生物が、これらを細かく分解して、土の養分にもどしているからです。このはたらきをする生き物を分解者といいます。
森の土がふかふかしているのは、微生物が長い時間をかけて落ち葉を分解し、栄養たっぷりの土に変えてきたからです。「生物と環境」の単元で学んだ食物連鎖の輪は、この分解者がいて初めて一周してつながるのです。
微生物のはたらきは、現代のくらしのあちこちで利用されています。
下水処理場では、よごれた水をきれいにするために微生物が活やくしています。水の中のよごれを微生物に食べてもらい、きれいになった水を川にもどす。町の水がじゅんかんできるのは、微生物のおかげです。
薬にも微生物が関わっています。世界初の抗生物質ペニシリンは、アオカビという微生物から発見されました。病気を治す薬のもとが、カビから見つかったのです。
もちろん、人に害をあたえる微生物もいます。食中毒を起こす菌や、病気のもとになるウイルスなどです。手洗いや食べ物の加熱が大切なのは、こうした微生物から体を守るためです。役に立つ微生物とうまく付き合い、害のある微生物から身を守る。これが、微生物と人のかしこい付き合い方です。
微生物のはたらきは、家庭でも観察できます。おすすめはパン生地のふくらみ観察です。ドライイースト(こうぼ菌)・小麦粉・さとう・ぬるま湯をまぜて、あたたかい場所に置いてみましょう。30分〜1時間ほどで、生地がぷくぷくとふくらんできます。これはこうぼ菌が糖を食べて、二酸化炭素を出している真っ最中の姿です。
観察するときは、生地の高さのところに輪ゴムやテープで印をつけておくと、どれだけふくらんだかが正確に分かります。10分ごとに高さを記録してグラフにすれば、こうぼ菌の活動のようすを数字で表すこともできます。においの変化にも注目してみましょう。発酵が進むと、ほんのり甘いような、パン屋さんに近いにおいがしてきます。これもこうぼ菌が働いているしるしです。
もうひとつは温度による違いの実験。同じ生地を「あたたかい場所」と「冷ぞう庫」に分けて置くと、ふくらみ方がまったく違います。微生物の活動と温度の関係が、目で見て分かります。条件を1つだけ変えて比べる──これは理科の実験の基本の考え方です。冷ぞう庫から出した生地をあたたかい場所にもどすと、また少しずつふくらみ始めます。微生物は死んでいたのではなく、寒さで活動を休んでいただけだと分かります。
この単元は「生物と環境」の発展にあたる内容で、中学の「自然界のつり合い(分解者)」に直結します。
いちばんの近道は、台所です。みそ・ヨーグルト・なっとう・パンを手に取りながら「これはどんな生き物が作ったでしょう」と話すだけで、暗記ではなく実感として定着します。
ドライイーストのふくらみ観察は材料費も安く、失敗してもそれ自体が「条件がよくなかったのはなぜか」を考える教材になります。
「くさる」と「発酵する」が同じ現象だという話は、子どもが人に話したくなる豆知識です。ぜひ食卓で聞いてみてください。