6年 国語 日本語の文字

日本語の文字 ── ひらがなもカタカナも、漢字から生まれた

今、この文章を読んでいるあなたは、じつは世界でもめずらしい「はなれわざ」をしています。「わたしはケーキを食べた」──たったこれだけの文に、ひらがな・カタカナ・漢字という3種類の文字が入っていて、あなたはそれを無意識に読み分けているのです。英語はアルファベット26文字だけ。韓国語もハングルという1種類が中心です。何種類もの文字を日常的にまぜて書く言語は、世界を見わたしてもほとんどありません。なぜ日本語は、こんな手間のかかる書き方をするのでしょうか。じつはこれは手間ではなく、千年以上かけて作り上げた発明なのです。

入り口のなぞ ── ぜんぶひらがなで書くと、なぜ読みにくい?

まず、かんたんな実験をしてみましょう。次の文を声に出して読んでみてください。

「にわにはにわにわとりがいる」

……どこで区切ればいいのか、一度ではわかりませんね。では、同じ文を漢字をまぜて書き直します。

「庭には二羽にわとりがいる」

今度は一回で読めたはずです。文の中身は一文字も変わっていないのに、読みやすさがまるでちがう。ここに、日本語の文字のしくみを解くかぎがあります。

思い出してほしいのですが、1年生のころの教科書は「わたしは がっこうへ いきます」のように、言葉と言葉の間にすきまが空けてありました(これを分かち書きといいます)。ところが学年が上がって漢字がふえると、すきまはいつの間にか消えました。英語は今でも単語の間にスペースを入れないと読めないのに、日本語はスペースなしでスラスラ読めます。なぜか。文字の種類が切りかわる場所が、目に見えない区切りの印になっているからです。この話はあとでくわしく見るとして、まずは3種類の文字がそれぞれ「何者なのか」から調べましょう。

文字には2つの型がある ── 意味を表す字と、音を表す字

世界中の文字は、大きく2つの型に分けられます。一つは、1つの字が意味を背負っている型。漢字がその代表で、「山」という字は「やま」という音よりも先に、あの三角にもり上がった地形そのものを指しています。だから中国の人と日本の人は、発音がまったくちがっても「山」と書けば通じ合えます。

もう一つは、1つの字が音だけを表す型。ひらがな・カタカナ・アルファベットはこちらです。「あ」という字に意味はありません。「あ」という音を書き取るための記号です。音さえ表せればよいので、字の数は少なくてすみます。

文字表すもの字の数おもな仕事
漢字意味(と音)数万(小学校で学ぶのは1,026字)言葉の意味の中心を示す
ひらがな音46字(清音)「てにをは」や送りがなど、文法の部品
カタカナ音46字(清音)外来語・外国の名前・音やなき声
ローマ字音26字の組み合わせ駅名表示やローマ字入力など

表を見ると、日本語は意味を表す字(漢字)と音を表す字(仮名)を、1つの文の中で分業させていることがわかります。意味の中心は漢字が受け持ち、言葉と言葉をつなぐ細かい部品はひらがなが受け持つ。この分業が、さっきの「スペースなしで読める」しくみの正体です。でも、そもそもなぜ日本語には音を表す字が2種類もあるのでしょう。その答えは、約1,500年前の日本にさかのぼります。

仮名の由来 ── 文字のなかった日本語が、漢字を借りた

おどろくかもしれませんが、大昔の日本語には文字がありませんでした。話し言葉はあっても、それを書き取る手段がなかったのです。そこへ中国から漢字が伝わってきました。日本の人々は大よろこびで漢字を使い始めます──が、すぐに大問題にぶつかりました。漢字は中国語を書くための文字なので、日本語にしかない「は」「を」「けり」のような部品や、人の名前・土地の名前がうまく書けないのです。

そこで昔の人は、とんちのような解決策を思いつきます。漢字の意味を捨てて、音だけを借りるのです。たとえば「やま」と書きたければ、「夜」(ヤ)と「麻」(マ)を借りて「夜麻」と書く。夜も麻も、意味はまったく関係ありません。ただの音の当て字です。日本最古の歌集『万葉集』がこの方法で書かれたため、この使い方の漢字を万葉仮名とよびます。

ただし万葉仮名には弱点がありました。音1つに漢字1字──画数の多い漢字を、音のためだけに一画ずつ書くのは、あまりにも手間がかかります。そこで平安時代のころ、万葉仮名は2つの方向に「ダイエット」を始めました。

生まれた字作り方例おもに使った人
ひらがな漢字全体をくずして丸くする安→あ、以→い、宇→う、衣→え、於→お和歌や物語を書く人々
カタカナ漢字の一部分だけを取り出す阿→ア、伊→イ、宇→ウ、江→エ、於→オお経を学ぶお坊さんたち

ひらがなは、漢字を筆で速く書くうちに形がくずれ、丸みをおびて生まれました。「安」を続け字でサラサラと書くと、だんだん「あ」の形に近づいていきます。一方カタカナは、お坊さんがお経の行間のせまいすきまに読み方をメモするため、漢字の一部だけをちょんと書いたのが始まりです。「阿」の左側だけ取れば「ア」。同じ「宇」という漢字から、くずせば「う」、一部を取れば「ウ」が生まれた──ひらがなとカタカナは、同じ親から生まれ方のちがう、きょうだいのような文字なのです。

ひらがなの誕生は、日本の文化を大きく動かしました。漢字だけの時代には書けなかった、日本語の細かい気持ちの動きが、そのまま文章にできるようになったからです。約1,000年前、紫式部の『源氏物語』や清少納言の『枕草子』という、世界の文学の歴史に名前が残る作品が生まれたのは、ひらがなという道具があったからこそでした。

まぜ書きは発明 ── 文字の切りかわりが、見えない区切りになる

さて、入り口のなぞにもどりましょう。「庭には二羽にわとりがいる」が一回で読めるのはなぜか。

この文の中で、漢字は「庭」「二羽」──つまり意味の中心の場所に立っています。ひらがなは「には」「がいる」──言葉と言葉をつなぐ文法の部品の場所に立っています。読む人の目は、「ひらがなから漢字に切りかわった。ここから新しい言葉が始まるな」と、無意識のうちに区切りを見つけているのです。英語がスペースでやっている仕事を、日本語は文字の種類の切りかえでやっている。だからスペースがいらないのです。

1年生の教科書に分かち書きがあったのは、ひらがなしか習っていない時期には、この「切りかわりの印」が使えないからです。漢字を習うにつれて分かち書きが消えていったのは、いじわるではなく、もう印なしで区切れるようになったからだったのですね。

では、カタカナの仕事は何でしょう。カタカナは今、「ケーキ」「アメリカ」のような外国から来た言葉(外来語)や、「ワンワン」「ガシャン」のような音を書くのが主な仕事です。これも区切りの印として働いています。文の中でカタカナが現れると、「ここは外から来た言葉ですよ」「ここは音ですよ」と知らせる目印のラベルになるのです。3種類の文字は、かざりでまざっているのではなく、それぞれ別の仕事を受け持って、文を読みやすくしています。

まちがえやすいところ

1. ローマ字は「英語」ではない

ローマ字はアルファベットを使いますが、書いているのは日本語の音です。「yama」と書いても、それは英語ではなく、日本語の「やま」をアルファベットという音の記号で写しただけ。英語で山は「mountain」です。道路の案内板や駅名にローマ字があるのは、日本語を知らない人でも「音だけは読める」ようにするためです。

2. カタカナ語が、外国でそのまま通じるとは限らない

カタカナで書く言葉は「外国から来た言葉」ですが、来た先は英語の国だけではありません。「パン」はポルトガル語、「アルバイト」はドイツ語から来ました。さらに「ノートパソコン」のように、日本で組み立てられた和製の言葉もあります。カタカナだから英語で通じる、とは思わないほうが安全です。

3. ひらがなが「先」に生まれたのではない

習う順番は、ひらがな→カタカナ→漢字でした。でも生まれた順番は漢字→(万葉仮名)→ひらがな・カタカナで、まったく逆です。かんたんに見えるひらがなのほうが、じつは漢字を材料にして、あとから作られた新製品でした。習う順と歴史の順がちがう──ここは、テストでもよく問われるところです。

やってみよう ── 文字の分業を目で確かめる

① 文字の色分け実験: 新聞や本から1つの文をえらび、漢字を赤、ひらがなを青、カタカナを緑でなぞってみましょう。赤(意味の中心)と青(つなぎの部品)が交互に現れる「しまもよう」が見えたら、それがスペースの代わりをしている区切りの印です。

② 自分の名前を万葉仮名で書く: 昔の人になったつもりで、自分の名前を「音だけ借りた漢字」で書いてみましょう。「ゆい」なら「由衣」「夕伊」──どの漢字を借りるかで印象が変わります。千年前の人たちも、同じ遊びをしていました。

③ ぜんぶひらがなの手紙: 短い文章をわざとひらがなだけで書いて、家の人に読んでもらいましょう。どこで読みつかえたかを聞くと、ふだん漢字がどれだけ「区切りの仕事」をしているかが実感できます。

まとめ

次に本を開いたら、ページの中の「しまもよう」を思い出してください。千年以上前の人たちが漢字を借り、くずし、けずって作り上げた3種類の文字が、今日もあなたの読書を陰で支えています。文字の歴史を知ったあなたは、もう文を「読む人」であると同時に、文字という発明を「見ぬける人」です。

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本記事は6年国語の「日本語の文字と仮名の由来」にあたる単元(教科書により「文字の文化」「仮名の由来」等)の解説です。ひらがな・カタカナがともに漢字を母体とすること(草書体をくずしたひらがな、字画の一部を取ったカタカナ)に加え、本記事では「なぜ3種類をまぜて書くのか」を機能の面から説明しました。漢字かな交じり文では表記の切り替わり自体が語の境界の手がかりとなり、分かち書きなしでの読解を可能にしています。低学年の教科書が分かち書きなのはこの手がかりが使えないためで、お子さんが1年生だったころの教科書が残っていれば、見比べてみると実感がわきます。
また、「ローマ字=英語ではない」「カタカナ語の出身はさまざま(パン=ポルトガル語、アルバイト=ドイツ語)」という2点は、外国語活動との混同が起きやすいところです。食卓の外来語の「出身国あてクイズ」など、言葉の由来を話題にしていただくと、辞書を引く動機づけにもつながります。