「何も思いつかない」のは、想像力が足りないからではありません。決める順番がちがうからです。
物語を書きましょう、と言われて原稿用紙を前にすると、多くの人はまず「何が起きるか」を考えます。宝の地図を見つけた。犬が話しかけてきた。転校生が来た。たしかに出来事です。けれど、それを順番に並べただけでは、読んだ人は「それで?」と言います。
これは出来事の記録で、物語ではありません。ではどこが足りないのか。主人公が、はじめと終わりで変わっていないのです。
これまで読んできた物語を思い出してみてください。こわがりだった子が一歩ふみ出す。友達を悪く言っていた子が、その子の事情を知る。ひとりで平気だと思っていた子が、ひとりではないと気づく。どの話も、最後のページの主人公は、最初のページの主人公と同じ人ではありません。
だから物語を書くとき、いちばん先に決めるのは事件ではなく、この一行です。
この一行が書けたら、もう物語の半分はできています。事件は、この気づきを起こすための道具として、あとから選べばいいからです。順番が逆だと、いくら面白い事件を思いついても話がまとまりません。
書けなくなる人のほとんどは、頭から順に書こうとしています。けれど物語は、読む順番と作る順番がちがいます。
| 決める順 | 決めること | 例 |
|---|---|---|
| 1 | 終わりの主人公 | 妹をうるさいと思わなくなっている |
| 2 | はじめの主人公 | 妹が自分の物をさわるのが許せない |
| 3 | 変えた出来事 | 妹がこわしたと思った物が、妹が直そうとした物だった |
| 4 | 場所と時 | 夏休み、家の中の三日間 |
| 5 | 書き出しの一文 | その日、ぼくは妹の部屋のドアをける寸前だった。 |
1と2は、同じ主人公の前後の姿です。ここが離れているほど話は動き、近すぎると「何も起こらなかった話」になります。かといって、いじわるだった子が急に聖人になるほど離すと、読む人が信じません。三日で変われるくらいのはばがちょうどいい、と考えてください。
3が、いわゆる山場です。ここで注意したいのは、山場は大きな事件である必要がないということ。竜が出てこなくても、妹の手にばんそうこうが貼ってあった、それだけで人は変われます。物語の大きさは、事件の大きさではなく、気づきの深さで決まります。
4の場所と時をせまくするのも、じつは大事なこつです。「世界中を三年かけて旅する話」より「家の中の三日間」のほうが、細かいところまで書けます。書けることが多いほうが、読む人には豊かに感じられます。
原稿用紙3〜5枚なら、場面は四つで十分です。多くすると、一つ一つが説明だけで終わってしまいます。
| 場面 | 役わり | 目安の量 |
|---|---|---|
| ①はじまり | 主人公が「こう思っている」と分かる行動を見せる | 2割 |
| ②ゆれ | 思っていたのとちがうことが起きる | 3割 |
| ③山場 | 気づく・決める。いちばん細かく書く | 3割 |
| ④むすび | 変わったあとの主人公を、行動で一つだけ見せる | 2割 |
とくに④で失敗が多く出ます。「ぼくは妹を大切にしようと思いました。」と書いてしまうのです。これは感想文の終わり方であって、物語の終わり方ではありません。物語なら、こう書きます。
気持ちは書かれていませんが、変わったことは伝わります。読む人の中に気持ちが生まれる ── これが、読んだあとに残る終わり方です。
「ぼくの名前は山田太郎です。小学六年生です。妹が一人います。」 ── この書き出しは、読む人がまだ興味を持っていないうちに、覚えることだけを渡しています。
人物の設定は、動いている場面の中に混ぜて出します。
| 伝えたいこと | 説明で出す | 場面の中で出す |
|---|---|---|
| 妹がいる | 妹が一人います。 | 妹の上ばきが、ぼくのとなりに並んでいた。 |
| おこっている | ぼくはおこっていました。 | ふでばこを、いつもより強く閉じた。 |
| 夏である | 季節は夏でした。 | せんぷう機が、首をふるたびに紙をめくった。 |
右の列は、どれも目に見えるものしか書いていません。物語を書くときの原則は、これに尽きます。気持ちは、物や動きに置きかえる。これを「気持ちを外に出す」と言います。
会話文は、物語を生き生きさせる一番の道具です。けれど、こう書いてしまうと台なしになります。
心配という言葉が二重になっている上に、人はふつう、自分の気持ちをこんなにはっきり口に出しません。実際の会話は、もっと外れます。
心配という言葉は一度も出ていないのに、心配していることは分かります。会話文のこつは三つです。
また、会話文は行を変えてかぎかっこから書き始め、句点とかぎを同じますに入れます。書き方のきまりは、読む人が話し手を追うための道具です。守るほど、内容が伝わりやすくなります。
| よくある状態 | 原因 | 直し方 |
|---|---|---|
| 思いつかない | 事件から考えている | 「〜だと思っていたが、〜と気づいた」の一行を先に書く |
| 長くなって終わらない | 場面が五つ以上ある | 山場に関係ない場面を、丸ごと消す |
| 感想文みたいになる | 気持ちを直接書いている | その気持ちのときにする行動を一つ探して、置きかえる |
| 登場人物が多すぎる | 出したら出しっぱなし | 三人までにする。名前を出すのは、二回以上出てくる人だけ |
書き終えたら、声に出して読んでみてください。つっかえたところが、直すところです。読み返しのやり方は、文章の推敲でくわしく説明しています。
ここまで読んで気づいたかもしれません。物語を書くときに決めることは、物語を読むときに探すことと、ぴったり同じです。
| 読むとき探すもの | 書くとき決めるもの |
|---|---|
| 主題 | 終わりの主人公 |
| 人物像 | はじめの主人公 |
| 山場 | 変えた出来事 |
| 情景びょうしゃ | 気持ちを外に出した一文 |
つまり、一度自分で書いた人は、次から物語を読むときに作者の設計図が見えるようになります。物語の主題や人物像のとらえ方で学んできたことは、そのまま書く力になっています。
Q1 物語を書くとき、いちばん先に決めるのは何ですか。
A 事件ではなく、終わりの主人公です。「〜だと思っていたが、〜と気づいた」の一行を先に書きます。
Q2 「ぼくは妹を大切にしようと思いました。」という終わり方の、どこが問題ですか。
A 気持ちを直接書いているので感想文の終わり方になっています。変わったことが分かる行動を、一つだけ書きます。
Q3 「ぼくはおこっていました。」を、目に見える形に書きかえましょう。
A 例「ふでばこを、いつもより強く閉じた。」のように、そのときにする行動や物の様子に置きかえます。
Q4 場面はいくつにするとよいですか。また、いちばん長く書く場面はどれですか。
A 原稿用紙3〜5枚なら四つ。いちばん細かく書くのは③山場で、全体の3割ほどが目安です。
創作が苦手なお子さんの多くは、想像力ではなく手順でつまずいています。「自由に書いていいよ」は、実はいちばん難しい指示です。「主人公は、はじめはどんな子? 最後はどう変わってる?」と二つだけ聞いてあげると、そこから先は自分で進められることがよくあります。
書きあがったものに、内容の評価をする必要はありません。物語は正解のない領域なので、「ここ、どきっとした」「この一行が好き」と、読者としての感想を一つ返すだけで十分です。直したいところがあっても、誤字と読みにくさにとどめてください。
題材は、遠い世界より近い場所のほうがうまくいきます。家族、学校、通学路。よく知っている場所ほど、細かいところが書けるからです。
この単元で育つのは、物語を作る力だけではありません。人は、きっかけがあれば変われるという見方そのものです。読書感想文や説明文とはちがう、この単元にしかない価値だと考えています。