「先生がおっしゃられました」。一見、とても丁寧に見える言い方ですが、これは間違った敬語です。5年生で習った敬語には、それ自体ですでに尊敬や謙譲の意味を持つ特別な形があります。そこへもう一度、敬語の仕組みを重ねてしまうのが「二重敬語」です。
「おっしゃられる」を分解してみましょう。
「おっしゃる」は、「言う」という動詞がまるごと形を変えた特別な尊敬語です。この時点で、すでに「先生を敬う」意味が入っています。そこにさらに、ふつうの動詞を尊敬語にするときに使う「れる・られる」を付け足すと、同じ意味を2回くり返すことになり、文法として誤りになります。
「おっしゃる」か「言われる」か、どちらか一方だけを選べば、十分に丁寧な尊敬語になります。
5年生の敬語の学習で、「特別な形に変わる動詞」を習いました。これらはすべて、それだけで尊敬語・謙譲語が完成している動詞です。
| ふつうの動詞 | 特別な尊敬語 | 特別な謙譲語 |
|---|---|---|
| 言う | おっしゃる | 申す・申し上げる |
| 行く・来る | いらっしゃる・おいでになる | 参る・伺う |
| いる | いらっしゃる | おる |
| する | なさる | いたす |
| 食べる・飲む | 召し上がる | いただく |
| 見る | ご覧になる | 拝見する |
| 聞く | (お聞きになる) | 伺う・拝聴する |
| 知っている | ご存知だ | 存じ上げる |
この表の中の言葉は、どれも「特別な形」になった時点で、もう尊敬語・謙譲語として完成しています。ここに「れる・られる」や「お〜になる」をもう一度付け足すと、すべて二重敬語になってしまいます。
二重敬語は「れる・られる」だけの問題ではありません。「お〜になる」という尊敬語の形自体にも、もう一度「られる」を付けてしまう間違いがよく見られます。
「お〜になる」は、「お」と「になる」で動詞をはさむだけで、尊敬語が完成する便利な形です。だからこそ、そこに「られる」まで付け足しても、文としては読めてしまい、間違いだと気づきにくいのです。
見分け方はいつも同じです。「お〜になる」か「〜れる・られる」か、どちらか一方だけを選ぶ。これだけ覚えておけば、新しい動詞が出てきても自分で正しい形を作れます。
二重敬語は、相手を高める尊敬語だけでなく、自分をへりくだらせる謙譲語でも起こります。ニュースやあいさつでよく聞く、次の言い方を考えてみましょう。
「伺う」はそれだけで十分に丁寧な謙譲語です。そこへ「させていただく」を重ねた「伺わせていただきます」は、国語辞典や新聞社の用語の手引きでは敬語を重ねすぎている(過剰敬語)と説明されることが多い言い方です。
ただし、二重敬語とまったく同じようには言い切れない面もあります。「おっしゃられる」のように文法としてはっきり誤りとされる形とちがい、「伺わせていただきます」は実際の社会でとても広く使われていて、相手の許可を得て行うという気持ちを付け加えたい場面では、そのまま使われることも多いのが実情です。シンプルに言うなら「伺います」で十分丁寧ですが、「伺わせていただきます」が絶対にだめ、とまでは言い切れない、という少し複雑な位置づけの言い方だと覚えておきましょう。
二重敬語かどうかを見分けるには、次の順番で考えます。
つまり、1つの動詞に、尊敬や謙譲の仕組みを2回使わないというのが、二重敬語を防ぐ一番の原則です。
「お越しになられる」「おっしゃられる」は、アナウンサーや大人の会話でもしばしば耳にします。よく聞く言い方だからといって、文法的に正しいとは限りません。見聞きした言い方を、そのまま覚えて使う前に、分解して確かめるくせをつけましょう。
「もっと丁寧にしたい」という気持ちが強いほど、敬語を重ねたくなります。しかし敬語は、足せば足すほど丁寧になるわけではありません。特別な形を1つ使えば、それだけで十分です。
「お見えにおなりになる」のように、「お〜になる」の形そのものを2回使ってしまう間違いもあります。「お〜になる」は1つの動詞につき1回だけ、と覚えておきましょう。
Q1 「校長先生がおっしゃられました」の、どこが間違っていますか。
A 「おっしゃる」(尊敬語)に、もう一度「られる」(尊敬)を付けているところです。正しくは「おっしゃいました」、または「言われました」です。
Q2 「先生がこちらをご覧になられた」を、正しい形に直しましょう。
A 「先生がこちらをご覧になった」、または「先生がこちらを見られた」です。
Q3 「お客様が商品をお使いになられる」を、正しい形に直しましょう。
A 「お客様が商品をお使いになる」、または「お客様が商品を使われる」です。
Q4 「召し上がられる」が二重敬語になる理由を説明しましょう。
A 「召し上がる」の時点ですでに「食べる」の特別な尊敬語になっているのに、そこへさらに尊敬の「られる」を付け足しているからです。
Q5 二重敬語を防ぐために、文を作るときに確かめることは何ですか。
A その動詞がもとから特別な尊敬語・謙譲語の形になっていないかを確かめ、なっていればそこに「れる・られる」や「お〜になる」を重ねて付けないことです。
二重敬語は、テレビのニュースや店員の接客などでも実際によく使われているため、大人でも「どちらが正しいか」自信を持てないことが多い分野です。「お越しになられる」「おっしゃられる」はその代表例で、NHK放送文化研究所などの放送用語の解説でも、二重敬語の典型として取り上げられています。
お子さんと一緒に、テレビや町の看板、店員さんの言葉づかいから「これは二重敬語かな?」と探してみると、生きた教材になります。ただし、「伺わせていただきます」のように、文法的には重複と説明されつつも社会で広く定着している言い方もあり、「絶対に間違い」と言い切れない微妙な例があることも、あわせて伝えてあげてください。敬語は正しさだけでなく、相手にどう伝わるかも大切にする言葉です。