同じ「食品ロス」について書かれた二つの文章を渡され、一方は「へらせる」と言い、もう一方は「へらすのは難しい」と言っている。どちらかがまちがっているように見えます。けれども多くの場合、二人とも本当のことを書いているのです。読み比べとは、そのからくりを見つける読み方のことです。
五年生までの説明文の学習は、たいてい一本の文章を深く読むものでした。筆者の言いたいことをつかみ、そのための理由をたどる。それだけで十分に読めていました。
六年生で出てくる読み比べは、そこから一段上がります。一本ずつ読めているのは前提で、問われるのは二本のあいだにある差です。差は文章の中には書かれていません。読む人が並べて初めて見えるものなので、自分で作りにいく必要があります。
だから読み比べは、思ったことを言い合う活動ではなく、手順のある作業です。順番どおりにやれば、だれがやっても同じちがいが見つかります。
やることは次の四つだけです。一つ目をとばすと、あとが全部くるいます。
| やること | 見るところ | |
|---|---|---|
| ① | 話題をそろえる | 本当に同じことを論じているか |
| ② | 主張を一文で取り出す | 終わりのほうの言い切りの文 |
| ③ | 根拠の種類を並べる | 数字か、体験か、人の言葉か |
| ④ | ちがいの理由をさがす | 立場・時期・範囲 |
①がいちばん見落とされます。「どちらもごみの話」と思って並べたら、一方はプラスチックごみ、もう一方は食べ残しの話だった。これでは、ちがっていて当たり前です。ちがいを比べられるのは、同じ土俵に乗っているときだけです。
二つの文章を要点ごと並べようとすると、量が多すぎて手に負えません。まず、それぞれの主張を一文にしぼります。
取り出す場所には見当がつけられます。説明文の主張は、多くが終わりのまとまりにあり、「〜べきだ」「〜のではないだろうか」「〜が必要である」といった言い切りの形をしています。そこに線を引き、自分の言葉に直さずそのまま書き写します。ここで言いかえてしまうと、比べているのが筆者の考えなのか自分の理解なのか分からなくなります。
もし一文にしぼれないときは、その文章はまだ読めていません。もう一度、段落ごとに小見出しをつけながら読み直します。
主張が並んだら、次はそれぞれが何を証拠にしているかを見ます。ここでうまくいくこつは、中身ではなく種類で分けることです。
| 種類 | 強いところ | 弱いところ |
|---|---|---|
| 数字・調査 | 広い範囲をまとめて言える | 一人ひとりの事情は消える |
| 自分の体験 | くわしくて分かりやすい | その人だけかもしれない |
| くわしい人の話 | 調べた人の判断が入る | 言った人の立場にかたよる |
| 前に起きた例 | 先の出来事を手がかりにできる | 今も同じとは限らない |
この表で分けると、多くの読み比べは同じ形に行き着きます。Aは数字で語り、Bは現場の体験で語っている。だから結論がずれる、という形です。
そして大事なのは、どちらの種類が上ということはない、という点です。数字は体験より正しいわけではありませんし、体験の話だから弱いわけでもありません。それぞれ見えるものと見えないものがちがうだけです。
最後に、なぜ結論が分かれたのかをさがします。原因はたいてい次の三つのどれかです。
さきほどの食品ロスの例なら、Aは家庭という範囲だけを見て「へらせる」と言い、Bは店から家庭までをふくめた範囲で「難しい」と言っている。範囲がちがえば、両方とも正しくなります。くいちがいの正体は、たいてい言い争いではなく範囲のずれです。
ここまで来ると、「どちらが正しいか」という問いの立て方そのものがあらいと分かります。読み比べの答えは、勝った負けたではなく「Aは〇〇の範囲では正しく、Bは△△まで考えたときに正しい」という形になります。
読み比べの学習は、たいてい自分の考えを書くところで終わります。書き方の型は決まっています。
この型を使うと、「Aのほうがなんとなく分かりやすかった」で終わらずにすみます。3で選ぶこと自体は自由ですが、4で選んだわけを根拠の種類にひもづけるのが六年生の水準です。「Bはお店で働く人の話を根拠にしているので、家庭だけでは足りないという指摘に納得できる」といった形になります。
なお、文章から言葉をそのまま持ってくるときは、かぎかっこと出典が必要です。読み比べでは二本の文章を行き来するので、どちらから取ったのかを必ず書き分けます。
一、「両方大切だと思いました」で終わる。いちばん多い着地です。まちがいではありませんが、これは読み比べる前でも書ける文でもあります。両方大切だと思ったのなら、どの場面ではAが、どの場面ではBが役に立つのかまで書きます。場面を分けて初めて、比べた成果が文章に残ります。
ここで止まってしまう原因は、たいてい手順④をやっていないことにあります。ちがいの原因が分からないままだと、決め手がないので引き分けにするしかなくなるのです。
二、書き方の好みで決めてしまう。読みやすい、たとえがうまい、やさしい言葉で書いてある。どれも文章のよさですが、主張が正しいかどうかとは関係がありません。読みにくい文章のほうが確かな数字を持っていることはよくあります。比べるのは書きぶりではなく、主張と根拠です。
三、片方だけ何度も読んでしまう。先に読んだほうや、自分の考えに近いほうを深く読み、もう一方をざっと流す。こうなると、ちがいさがしではなく「自分の意見に合う文章さがし」になります。ふせんの数を両方そろえる、線を引いた数を数えるなど、目に見える形で読む量をそろえると防げます。
新聞の投書欄でも、教科書の二つの説明文でもかまいません。ノートを横に使い、真ん中に線を引いて次のように書き出します。
最後の一行が書ければ、その日の読み比べは成功です。うまく書けないときは、四つの行のどこかが空いているはずなので、そこにもどります。慣れてくると、二本を並べた時点で「これは範囲のずれだな」と見当がつくようになります。
読み比べは、大人が日々やっていることそのものです。同じできごとを伝える二つの記事、同じ商品についての二つの評価。どちらが正しいかを決める前に、書いた人の立場と、扱っている範囲を見る。その習慣を六年生のうちに手順として渡しておく学習だとお考えください。
ご家庭では、正解を教える必要はありません。「この人はどういう立場の人だと思う?」と一言たずねるだけで、手順④の練習になります。答えが的外れでも直すのを急がず、そう考えたもとになった部分を本文から指ささせると、自分で気づけることが多くなります。
気をつけたいのは、比べさせる二本を大人が選ぶときです。片方が明らかにかたよっていると、比べるまでもなく答えが決まってしまい、手順を使う場面がなくなります。どちらにも言い分がある二本を選ぶと学習になります。
この読み方は、中学以降の資料の読み取りや、情報が確かかどうかを見きわめる場面へそのまま続いていきます。急いで身につくものではないので、学期に何度か思い出せれば十分です。