6年 英語 me・him・her のはたらき

I が me になるとき ── 英語は「する側」と「される側」で形を変える

教科書で Please tell me about your dream. という文に出会ったとき、ふしぎに思ったことはないでしょうか。「わたし」は I のはずなのに、ここでは me になっています。同じように he は him に、she は her に着がえます。これは I をまちがえて書いたのでも、くだけた言い方でもありません。英語では、同じ人でも役目がちがえば別の形になるという、はっきりしたきまりがあるのです。日本語にはない習慣なので、知らないまま中学に入ると、正しい文を見ても「まちがいでは?」と感じてしまいます。この記事では、その着がえのしくみを最後まで通して見ていきます。

日本語は、うしろが変わる。英語は、言葉そのものが変わる

まず、日本語で「わたし」がどう使われているかを並べてみます。

わたし は 走る。 わたし を 見て。 わたし に 話して。 わたし の かさ。

4つとも、先頭は「わたし」のままです。動いているのは、そのうしろについているは・を・に・ののほうだけ。日本語を話す人にとって、これはあまりに当たり前で、意識することすらないきまりです。

同じ4つを英語にすると、こうなります。

I run. Look at me. Talk to me. my umbrella.

今度は、うしろについている言葉が何もありません。そのかわりに、I・me・my と、言葉そのものが着がえています。日本語が「うしろに部品をつけて」役目を表していたところを、英語は「言葉を着がえさせて」表しているわけです。

この時点で、わたしたちが覚えるべきことははっきりします。英語で「わたし」を言いたいとき、いつも I と言えばよいわけではない。文の中でどんな役目なのかを決めてから、その役目にあった形を選ぶ。これが英語の作法です。

そして役目は、大きく分けると2つしかありません。する側か、される側・うけとる側か。この2つを区別するために、英語は形を分けているのです。

する側 I like him. ← わたし が 好き される側 He likes me. ← わたし を 好き

上の文と下の文は、出てくる人も動詞も同じです。それなのに意味は正反対で、だれがだれを好きなのかが入れかわっています。日本語では「が」と「を」がそれを教えてくれますが、英語にはその2文字がありません。かわりに I と me、he と him という形のちがいが、その仕事をしているのです。

語順で分かるのに、なぜ形まで変えるのか

ここで、するどい人ほど引っかかる疑問が出てきます。英語の語順の記事で見たとおり、英語は置く場所で役目が決まる言葉でした。動詞の前が「する側」、動詞のうしろが「される側」。場所で分かるのなら、形まで変える必要はないはずです。

そのとおりで、じつは必要はありません。その証拠に、着がえない言葉が英語にはちゃんとあります。

You like it. ← する側の you と it It likes you. ← される側になっても you と it のまま

I と you の記事で見た you は、する側でもされる側でも you のままです。it も同じで、ずっと it のままです。それでも文の意味が分からなくなることはありません。置いてある場所を見れば役目が分かるからです。

つまり英語は、場所という印と、形という印を、二重に持っている言葉だということになります。そして二重にする必要がないので、you と it は着がえるのをやめてしまった。残りの言葉だけが、昔からの着がえる習慣を持ちつづけている ── そう考えると、覚える対象がぐっと少なくなります。

ここが大事なところです。着がえる言葉は、そう多くありません。名前(Tom、my brother、the dog など)は、する側でもされる側でも形が変わりません。

Tom likes Ken. Ken likes Tom. ← Tom も Ken も、位置が変わるだけで形はそのまま

着がえるのは、人の名前のかわりに使う短い言葉だけです。he と she の記事で見た「2回目から言いかえる言葉」、あのなかまだけが着がえます。

着がえる言葉は、たった5組

全部で何通りあるのか、いちど表にしておきます。数えてみると、覚えるところは思ったより少ないことが分かります。

意味する側(動詞の前)される側(動詞のうしろ)着がえる?
わたしIme○
あなた/あなたたちyouyou×(そのまま)
かれhehim○
かのじょsheher○
それitit×(そのまま)
わたしたちweus○
かれら/かのじょら/それらtheythem○

7つならんでいますが、実際に着がえるのは I・he・she・we・they の5つだけ。you と it は、どこにいてもそのままです。

形をよく見ると、覚えるための手がかりもあります。される側の5つのうち、him と them は m で終わっています。する側の he と they は m で終わらないので、おしりに m があるかないかで、この2組は見分けられます。残る me・us も、する側の I・we とは見た目がはっきりちがうので、取りちがえにくい形です。

ひとつだけ、注意がいる言葉があります。her です。

I like her. ← される側の「かのじょを」 This is her bag. ← 「かのじょの」= 持ち主を表す形

her は、される側の形と「〜の」の形がたまたま同じつづりなのです。ほかの言葉では his・my・your のように分かれているのに、her だけ2つの役目をかけもちしています。だれの?をたずねようの記事でみた「持ち主を表す形」と見た目が重なるので、her が出てきたときは、うしろに名詞(bag・name など)が続いているかどうかを見てください。続いていれば「かのじょの」、続いていなければ「かのじょを」です。

見分け方は、動詞のどちら側にいるか

表を丸ごと覚えなくても、文の中で迷ったときは、次の1つを確かめれば決まります。

動詞より 前   → する側の形(I / he / she / we / they) 動詞より うしろ → される側の形(me / him / her / us / them)

実際にやってみます。

( ) helped Ken. → 動詞 helped より前   → He helped Ken. Ken helped ( ). → 動詞 helped よりうしろ → Ken helped him.

穴の場所を見るだけで、入れる形が決まりました。意味を日本語にしてから考えると「かれが」「かれを」と助詞で迷いますが、場所で決めるなら迷いようがありません。

もうひとつ、短い文で確かめておきます。

She teaches us English. ← teaches のうしろ → us We study English.    ← study の前 → we

同じ「わたしたち」でも、動詞の前なら we、うしろなら us。この2つは音も形もかなりちがうので、いったん区別がつくと、あとはまちがえにくくなります。

前置詞のうしろは、いつも される側の形

教科書で me や him に出会う場面は、じつは動詞のうしろよりも、with・for・to・about のうしろのほうが多いかもしれません。

Play with me. いっしょに あそぼう This is a present for you. これは あなたへの プレゼント Please tell me about him. かれのことを 教えて Let's go to her house. かのじょの家へ 行こう

in・on・at の記事で見た in・on・at のように、場所や時をしめす短い言葉のことを、まとめて前置詞といいます。with も for も to も about も、そのなかまです。そして前置詞には、うしろに来る言葉は必ず される側の形になるという、例外のないきまりがあります。

× with I ○ with me × for he ○ for him × about they ○ about them

なぜでしょうか。前置詞は「その言葉に向かって何かをする」ための道具なので、うしろに来るのはいつも受け取る側だからです。with me は「わたしといっしょに」、for you は「あなたのために」。どちらも、その人が何かをしているのではなく、何かを向けられている側です。

ここまで来ると、次のこともすっきり分かります。教室でよく使う Excuse me. や Let's ~. にも、この形がかくれています。

Excuse me. = 「わたしを」ゆるしてください Let's go. = Let us go. の短い形(us が入っている)

とくに Let's がおもしろいところです。毎日のように使っているこの言葉は、もともと Let us(わたしたちに〜させて)を縮めたもので、アポストロフィのところに us がそのまま入っています。Let we という形が世の中に1つもないのは、let のうしろが「される側」の場所だからです。

Tom and I か、Tom and me か

最後に、大人でも迷うことがある形を片づけておきます。2人をならべて言うときです。

Tom and (I / me) went to the park. Ken played soccer with Tom and (I / me).

and でつながれていると、とたんに分からなくなります。けれども、確かめる方法はとても簡単です。Tom and を消して、1人だけにして言ってみるのです。

( ) went to the park. → I went to the park. ○ → Me went to the park. × ∴ Tom and I went to the park. Ken played soccer with ( ). → with me ○ → with I × ∴ Ken played soccer with Tom and me.

1人にすれば、正しい形はすぐ耳で分かります。だれかと並んでいても、自分の役目は変わらないからです。and は2つを横にならべているだけで、役目まで変えてはいません。

この「1人にして言ってみる」は、覚え方ではなく確かめ方です。答えを暗記していなくても、その場で自分で確かめられるので、テストでも実際に話すときでも使えます。

つまずきやすいところ

よくあるまちがいは、ばらばらに見えて、どれもここまでの筋の1か所を落としただけです。

× Please tell I about it. → Please tell me about it. × Come with we. → Come with us. × Ken and me went to school. → Ken and I went to school. × This is she bag. → This is her bag. × He helped she. → He helped her. × Let we play together. → Let's play together.

1つめは、日本語の「わたしに」をそのまま I に置きかえた形です。tell のうしろは受け取る側なので me になります。

2つめは、with のうしろを「する側」の形にしてしまった例。前置詞のうしろは、例外なく される側です。

3つめは、and でつながれて迷った形。Ken and を消すと Me went ~ になるので、すぐ気づけます。

4つめは、she と her の取りちがえ。うしろに bag という名詞が続いているので、ここは「かのじょの」を表す her です。

5つめは、逆に着がえ忘れた形。helped という動詞のうしろにいるので、she ではなく her に着がえます。

6つめは、Let's の中身を知らないと必ず起きるまちがいです。let のうしろは される側なので、we ではなく us が入ります。

6つとも、「動詞や前置詞のうしろに来たら、される側の形に着がえる」という1行で説明がつきます。表を丸暗記するより、この1行を手放さないほうが長もちします。

たしかめてみよう

Q1 「かのじょはわたしが好きです」を英語にすると。

A She likes me.(好きになっているのは she のほうなので she が動詞の前、好かれている「わたし」は動詞のうしろなので me)

Q2 Please tell (I / me) about your dream. どちらが入りますか。

A me。tell(話す)という動詞のうしろにいて、話を受け取る側だからです。

Q3 着がえない言葉が2つだけあります。どれですか。

A you と it。する側でもされる側でも形が変わりません。置いてある場所を見れば役目が分かるので、着がえる必要がないのです。

Q4 Ken played with Tom and (I / me). どちらを選びますか。理由も答えてください。

A me。Tom and を消して1人にして言ってみると、正しいのは with me のほうだと自分で確かめられます。

Q5 Let's go. の中には、どの言葉がかくれていますか。

A us。Let's は Let us を縮めた形です。let のうしろは される側の場所なので、we ではなく us が入ります。

Q6 I like her. と This is her bag. の her は、同じ意味ですか。

A ちがいます。前者は「かのじょを」(される側の形)、後者は「かのじょの」(持ち主を表す形)です。her はこの2つを同じつづりでかけもちしているので、うしろに名詞が続いているかどうかで見分けます。

まとめ

おうちの方へ

ここで扱ったのは、中学で「目的格」という名前で習う内容です。名前こそ難しそうですが、実際には小学校の教科書にすでに何度も出ている形で、Please tell me ~. / It's fun for me. / Let's ~. / Excuse me. などは6年生が日常的に読み書きしています。つまり子どもたちは、説明を受けないまま正しい形だけを丸ごと覚えている状態にあります。それ自体は悪いことではないのですが、中学で「I の形を変えなさい」と言われた瞬間に、覚えていた言い回しと結びつかず、別物として覚え直そうとしてしまうことがあります。

お子さんが Ken and me went ~. のような形を書いたときは、まちがいとして赤を入れるかわりに、「Ken and を消して言ってみて」と声をかけてみてください。ほとんどの場合、自分で気づいて直します。日本語には助詞という便利な目印があるぶん、英語の「言葉そのものが着がえる」という発想は説明されないと届きにくいものです。逆に、いちど「する側かされる側か」という見方が入ると、この先に出てくる受け身や関係代名詞まで、同じ物差しで読めるようになります。