この単元は「沖縄と北海道の知識をおぼえる」授業ではありません。気候というひとつの条件から、家・仕事・行事までが決まっていくすじ道をたどる授業です。
5年生の社会は、まず日本全体の位置・地形・気候をながめるところから始まりました。そこで学んだのは「日本は南北に長いので、場所によって気候がちがう」という事実です。
ただし、そこで話が終わると、気候はただの天気の話で終わってしまいます。この単元の役わりは、その先を見せることにあります。
つまり調べるのは天気ではなく人です。「暑いから大変ですね」で止まらず、「暑さに対して、この土地の人は何をしたのか」まで進みます。ここが3・4年生の地域学習との大きなちがいです。
教科書が沖縄県と北海道という両はしを選んでいるのにも理由があります。差が大きいほど、工夫のちがいがはっきり見えるからです。中くらいの土地から始めると、何がふつうで何が工夫なのか区別がつきません。
沖縄というと「1年中あたたかくて楽そう」という印象を持ちがちです。しかし、実際にくらしの形を決めているのは、暑さそのものよりも別の3つです。
昔ながらの沖縄の家は、屋根が低く、まわりを石垣とふくぎの木で囲んであります。低くするのは風を上に受け流すため、石垣は風そのものを弱めるためです。屋根がわらをしっくいで固めてあるのも、かわらが飛ばされないようにする備えです。
今のコンクリートの家も、見た目はふつうでも考え方は同じです。木の家よりも風にこわされにくく、しかも火にも強い。台風という毎年来る条件に対して、材料そのものを変えたわけです。
沖縄は雨がとても多い土地です。それなのに水不足になるのは、島が小さく、川が短くて急なため、降った雨がすぐ海へ流れ出てしまうからです。地面がサンゴのかけらでできていて水がしみこみやすいことも重なります。
そこで屋根の上に置かれているのが、白い水タンクです。断水にそなえて各家庭が水をためています。県全体としてはダムをつくって水をためる方法をとってきました。個人の備えと地域全体の備えが、二段がまえになっているのです。
沖縄の畑で多く見られるのは、さとうきび・パイナップル・マンゴー、そして菊です。前の3つは暑さと強い日ざしを好む作物で、寒い土地では育ちません。
おもしろいのは菊です。菊は本来、秋に咲く花です。ところが電灯で夜も光を当てて咲く時期をおくらせ、他の産地が出せない冬に出荷しています。これを電照ぎくといいます。あたたかい気候そのものを売っているわけです。
北海道側も同じ読み方をします。ここでくらしの形を決めているのも、寒さだけではありません。
北海道の家は、まどが二重(または三重)になっています。ガラスとガラスの間の空気が熱を通しにくいので、部屋の熱をにがしません。かべにも厚い断熱材が入っていて、家全体を魔法びんのようにしてあります。
屋根は昔と今で答えが変わりました。昔は雪が自然に落ちるように急な角度にしていましたが、落ちた雪が家のまわりにたまり、道やとなりの家に迷惑がかかります。そこで今は、あえて平らに近い形で雪を上にのせておく「無落雪屋根」が増えました。とけた水は屋根の中の管から下ろします。
玄関が二重になっているのも、外の冷たい空気が一気に入らないようにするためです。灯油タンクが庭に置かれているのは、暖房を長い期間、大量に使うからです。
備えは家の中だけではありません。道路の下に温水の管を通して雪をとかすロードヒーティング、信号機を縦型にして雪が積もる面積を減らすやり方、地下街や屋根つきの商店街。個人ではなくまち全体で寒さに対応しているのが、雪国の特ちょうです。
北海道はもともと、夏が短く冷たい風がふくため米づくりに向かない土地でした。それでも今、石狩平野は日本有数の米どころです。理由は二つあります。ひとつは寒さに強い品種を長い時間をかけて作り出したこと。もうひとつは、泥炭地という作物の育ちにくい土に、よその土を運び入れて土そのものを入れかえた客土です。
あわせて、広い土地とすずしい気候をいかした酪農や畑作もさかんです。条件に合わせるだけでなく、条件のほうを変えることもある──ここが5年生の学習で一番おもしろいところです。
ばらばらに覚えるとすぐ混ざります。同じ項目で表にして、上下でくらべるのがおすすめです。
| くらべる点 | 沖縄(あたたかい土地) | 北海道(寒い土地) |
|---|---|---|
| 相手にする自然 | 台風・強い日ざし・水不足 | 雪・長い冬・短い夏 |
| 屋根 | 低くして風を受け流す | 雪をのせる/落とす形にする |
| まど | 風を通す・日ざしをさえぎる | 二重にして熱をにがさない |
| おもな農業 | さとうきび・果物・電照ぎく | 米・じゃがいも・酪農 |
| 観光の季節 | 夏の海 | 冬の雪・夏のすずしさ |
表にすると、二つの土地が反対のことをしているのではなく、同じ問いに別の答えを出していることが見えてきます。問いはどちらも「この気候で、どうすれば気持ちよく安全にくらせるか」です。
観光の行も見のがせません。沖縄も北海道も、自分の気候を不利な条件のままにせず、他の土地にはないみりょくとして売っています。雪まつりも、青い海も、その土地の気候そのものです。
「沖縄=さとうきび」「北海道=じゃがいも」と結果だけ暗記すると、少し形を変えた問題で答えられません。
覚えるのは理由つきの一文です。「暑さと強い日ざしを好むからさとうきび」「すずしく広い土地に合うからじゃがいも」。テストで問われるのはたいてい理由のほうです。
教科書の写真には赤がわらの家も、コンクリートの家も出てきます。どちらが正解かではなく、同じ目的に対する新しい答えだと考えます。
屋根の話も同じです。北海道の急な屋根と平らな屋根は、時代と考え方のちがいで、両方とも雪への答えです。
沖縄と北海道のやり方は見つけられるのに、自分の家のやり方には気づけない子が多くいます。
実際には、どの土地にも気候への答えがあります。雨どい、すだれ、風よけの木、エアコンの室外機の位置。自分の家を三番目の事例として調べると、この単元は一気に自分ごとになります。
Q1 沖縄で、屋根の上に白いタンクが置かれているのはなぜですか。
A 川が短く雨がすぐ海に流れてしまい、水不足や断水が起こりやすいため、各家庭で水をためておくからです。
Q2 北海道の家のまどが二重になっているのは、何のためですか。
A ガラスの間の空気が熱を通しにくく、部屋のあたたかさをにがさないためです。
Q3 電照ぎくは、なぜ夜に電気を当てるのですか。
A 咲く時期をおくらせて、他の産地が出荷できない冬に売るためです。
Q4 米づくりに向かなかった北海道が米どころになった理由を、二つ挙げましょう。
A 寒さに強い品種を作り出したことと、客土で土を入れかえたことです。
Q5 自分の家や町で、気候に合わせたやり方を三つさがしてみましょう。
A 見つけたら「どの自然を相手にしたものか」も一言そえてみてください。それが社会科の考え方です。
この単元でつまずくお子さんの多くは、内容が難しいのではなく、暗記すべき固有名詞が急に増えたことに圧倒されています。沖縄・北海道の地名や特産物を一つずつ覚えようとすると、量に負けてしまいます。
おすすめは、覚える前に「どんな自然が相手か」を先に一言で決めてしまうことです。沖縄なら台風と水不足、北海道なら雪と短い夏。この軸さえ立っていれば、家の形も農業も、そこからぶら下げて思い出せます。
ご家庭では、天気予報の全国の気温を一緒に見るだけでも効果があります。同じ日の那覇と札幌の気温差を口に出してみると、教科書の数字が現実の話になります。
旅行の予定があれば、行き先の家の屋根やまどをお子さんと観察してみてください。写真より、実物を一度見た経験のほうが長く残ります。
最後に、ぜひご自宅のくふうも話題にしてみてください。すだれ、雨どい、風よけの木など、身近なものが同じ理屈で説明できると分かった瞬間に、社会科は暗記科目ではなくなります。