5年の社会で、都市ごとの気候を見くらべるときに必ず出てくる図があります。雨温図です。棒がならんでいて、その上を折れ線が横切っている、あの図です。テストでは「この雨温図はどの都市ですか」と聞かれます。ところが多くの人が、この図を1枚のグラフだと思ったまま読もうとして、つまずきます。棒が折れ線より上に出ている月を見つけて「ここが暑い月だ」と答えてしまうのは、その典型です。雨温図は1枚に見えて、じつはまったくちがう2つのグラフを重ねたもので、左と右で目もりも単位もちがいます。だから、棒と折れ線の高さをくらべることには意味がありません。では、どこを読めばいいのか。この記事では、なぜ片方だけが棒なのかという理由から始めて、読む順番を3つにしぼるところまでを、ひとつづきでたどります。
この図の名前は、雨と温でできています。雨=降水量、温=気温。つまり名前の時点で、2つの数をあつかう図ですと宣言しているわけです。
どこに何があるかを、先に決めてしまいます。
横の目もりだけが2つに共通で、たての目もりは左と右に2本あるということです。ここが雨温図のいちばん大事なところなのですが、図の見た目では左右の目もりは同じ高さにならんでいるので、つい1本だと思ってしまいます。
覚えるのはここまでで十分です。問題は次です ── なぜ気温は折れ線で、降水量は棒なのでしょうか。どちらも折れ線にしてしまってはいけないのでしょうか。
4年の算数で、折れ線グラフをならったときのことを思い出してください。折れ線グラフは「変わっていくようす」をあらわす形でした。点と点を線でつなぐのは、その線の途中にもちゃんと数があるからです。
気温はまさにそういう数です。6月の平均気温と7月の平均気温の間には、6月15日の気温も、6月16日の気温もあります。今この瞬間にも気温はあります。いつ測っても、そこに必ず1つの気温がある。だから点と点の間を線で結んでよいし、結んだ線のかたむきが「上がっている・下がっている」を語ってくれます。
ところが降水量は、まったくちがう種類の数です。雨温図の6月の数は、6月のあいだじゅうに降った雨を、ぜんぶ足した合計です。1か月ぶんをバケツにためて、あとで深さをはかった数だと思ってください。
ここで、ためしに降水量を折れ線にしてみます。6月の点と7月の点を線で結ぶと、その線のまん中の高さは何を表しているでしょうか。「6月なかばの降水量」ではありません。6月なかばには、まだ6月ぶんの合計は出そろっていないからです。結んだ線の途中が、何も表さないのです。
だから降水量は棒にします。棒は、1本1本が独立した「ひとかたまりの合計」で、となりの棒とつながっていません。形がちがうのではなく、数の種類がちがうから形を変えているのです。雨温図は、種類のちがう2つの数を、それぞれにふさわしい形で1枚にのせた図だということになります。
ここまで分かると、いちばん多いまちがいの正体が見えます。東京の8月を例にします。だいたいの数はこうです。
27 と 150 では 150 のほうが大きい ── たしかに数としてはそうです。しかし、この2つをくらべることに意味はありません。たんいがちがうからです。1kgと1mでは、どちらが大きいか決められないのと同じです。
では、図の上では? 図の上では、どちらが高く見えるかは目もりの取り方で決まってしまいます。同じ27℃と150mmで、右の目もりだけを取りかえてみます。
| 右の目もり | 150mm は目もりのどのへんか | 見た目 |
|---|---|---|
| 0〜300mm | ちょうど まん中(150÷300=0.5) | 棒はまん中まで |
| 0〜600mm | 下から 4分の1(150÷600=0.25) | 棒はぐっと低い |
| 0〜200mm | 上から 4分の1のところ(150÷200=0.75) | 棒はとても高い |
気温も降水量も1つも変えていないのに、絵だけが3通りに変わりました。棒が折れ線の下にも上にもなります。つまり「棒が折れ線より上に出ている」という見え方は、その教科書を作った人が右の目もりをどう決めたかを見ているだけなのです。都市のことは何も言っていません。
これはグラフと表の読み方の記事で見た「目もりのしかけ」と同じ話です。あちらでは、たて軸を0から始めないと差が大げさに見える、という例を見ました。雨温図では、そのしかけが最初から2本ぶんあることになります。
だから、2つの都市の雨温図をならべてくらべるときは、いちばん先に左右の目もりが同じかどうかをたしかめてください。ちがっていたら、棒の高さを見くらべても何も分かりません。
高さをくらべてはいけないなら、何を読むのか。読むのは形です。順番を決めてしまえば、はじめて見る雨温図でも同じ手つきで読めます。
①で北半球か南半球かが決まります。②で海の近くか内陸か、南の国か北の国かがしぼれます。③で日本海側か太平洋側かが分かります。この3つを出してから、はじめて都市の名前を考えます。都市名を先に当てにいかないのがコツです。
この3ステップが、雨温図の読み方のぜんぶです。覚えることは多くありません。あとは、①②③のそれぞれで何が言えるのかを、順番に見ていきます。
②の引き算で出てくる数には名前があります。年較差です。1年のうちでいちばんあたたかい月の平均気温から、いちばん寒い月の平均気温を引いた数のことです。日本の3つの都市で出してみます。
| 都市 | いちばん寒い月 | いちばんあたたかい月 | 年較差(引き算) |
|---|---|---|---|
| 那覇 | およそ 17℃ | およそ 29℃ | 29 - 17 = 12℃ |
| 東京 | およそ 5℃ | およそ 27℃ | 27 - 5 = 22℃ |
| 札幌 | およそ -3℃ | およそ 22℃ | 22 -(-3)= 25℃ |
札幌の引き算だけ、0をまたぎます。マイナスの計算はまだならっていなくてもだいじょうぶです。0までの分と、0からの分に分けて足すと考えれば出ます。
那覇の12℃と札幌の25℃をくらべます。
同じ国の中で、1年の上がり下がりの大きさが2倍もちがう。これが「細長い国」ということの中身です。
ここで、表をたてに読み直すと、もっとおもしろいことが出てきます。あたたかい月の列と、寒い月の列を、それぞれ上と下で引いてみてください。
夏は7℃しかちがわないのに、冬は20℃もちがうのです。北海道でも夏はそれなりに暑くなり、沖縄の冬もそれなりに下がりますが、それでも冬のほうが差がずっと大きい。日本の南北のちがいは、夏ではなく冬に出る ── これは表を横に読んでいるだけでは見えず、たてに読んで引き算したときに出てきます。
③の棒に移ります。1年ぶんの棒をぜんぶ足した数を年降水量といいます。3つの都市でだいたいの数をならべます。
| 都市 | 年降水量 | 棒が高い時期 | 理由 |
|---|---|---|---|
| 金沢 | およそ 2400mm | 冬 | 日本海側。冬の風が雪を降らせる |
| 東京 | およそ 1600mm | 夏から秋 | 太平洋側。梅雨と台風で山が2つできる |
| 高松 | およそ 1150mm | とくにない | 瀬戸内。山にはさまれて風が雨を落としてから来る |
金沢と東京をわり算でくらべます。
大事なのは、合計だけでなくいつ降るかのほうです。金沢と東京の年降水量がもし同じだったとしても、雨温図を見れば見分けがつきます。棒の山が冬にあるか、夏にあるかでちがうからです。合計は1つの数ですが、雨温図は12本の棒で「いつ」まで見せてくれます。
数の大きさを実感しておきましょう。1600mmは1.6mです。1年に東京に降った雨を1つも逃さずためたら、深さが1.6m。5年生の身長より高くなります。
ついでに、平均だけを見てはいけない理由もここにあります。
この133という数だけを見ると、東京では毎月同じくらい雨が降っているように聞こえます。しかし実際は、月50mmほどの月もあれば、200mmをこえる月もあります。ならしてしまうと、梅雨も台風も消えてしまうのです。1つの数にまとめると分かりやすくなるかわりに、必ず何かが見えなくなります。
日本の雨温図をよく見ると、気温の折れ線のてっぺんは8月にあります。ところが、太陽がいちばん高くのぼるのは夏至(6月21日ごろ)です。いちばん日ざしが強い月と、いちばん暑い月が、2か月ずれているのです。
これはグラフのまちがいではありません。やかんの湯で考えると分かります。火をいちばん強くした瞬間に、お湯がいちばん熱いでしょうか。ちがいます。火を強くしているあいだ、お湯は上がり続けます。
夏至は「入ってくる熱がいちばん多い日」であって、「たまった熱がいちばん多い日」ではありません。地面と海はあたたまるのに時間がかかるので、たまった熱が追いつくのが1〜2か月あとになります。冬も同じで、冬至は12月22日ごろなのに、いちばん寒いのは1月の終わりから2月です。
くわしくは夏が暑いのは、地球が太陽に近づくからではないの記事で見たとおりですが、雨温図を読むときにも役に立ちます。折れ線のてっぺんが7月や8月にあるのは正常で、ずれていることのほうが自然なのだと知っておけば、「グラフがおかしい」と迷わずにすみます。
最後に、形だけで一発で分かることを1つ。世界の都市の雨温図には、折れ線が谷の形(U字)になっているものがあります。
気温がこわれているのではありません。南半球では季節が逆だからです。1月が夏で、7月が冬。だから横の目もりを1月から12月の順にならべると、山ではなく谷になります。
形が逆になるだけで、読み方は1つも変わりません。①のかたちを見て谷なら南半球、②の引き算はそのまま年較差、③の棒も同じように読めます。ならった読み方がそのまま使えるのに、場所は地球の反対側というのが、この図のおもしろいところです。
まちがえやすいところを7つならべます。ばらばらに見えますが、どれも「1枚に2枚重なっている」ことを忘れた形です。
1つめと2つめと3つめは、同じまちがいです。左と右でちがう目もりを使っているので、上下の位置関係そのものに意味がありません。交わる場所は、目もりを取りかえれば動いてしまいます。
4つめは、くらべる前の確認を飛ばした形です。目もりがちがう2枚は、そのままでは見くらべられません。
5つめは、棒が合計であることを忘れた形です。同じ150mmでも、1日に150mm降った月と、30日かけて毎日5mmずつ降った月では、くらしはまるでちがいます。雨温図の棒は、そこまでは教えてくれません。
6つめは、月の平均どうしの差だという決め方を落とした形です。1日ごとの最高・最低で引くと、もっとずっと大きな数になってしまいます。
7つめは、南半球です。
7つとも、「左と右はちがう目もり」と「読むのは高さではなく形」の2行で説明がつきます。
Q1 雨温図で、ぼうと折れ線はそれぞれ何を表していますか。どちらの目もりで読みますか。
A ぼうが降水量(右の目もり・mm)、折れ線が気温(左の目もり・℃)です。横の目もり(1月〜12月)だけが2つに共通で、たての目もりは左右に2本あります。
Q2 なぜ気温は折れ線で、降水量はぼうなのですか。
A 気温はいつ測ってもその時の値がある数なので、点と点の間を線で結んでよく、かたむきが変化を表します。降水量は1か月ぶんをためた合計なので、月と月の間に値がなく、線で結んでも途中が何も表しません。だから独立した棒にします。
Q3 東京の8月は気温27℃、降水量150mmです。図ではぼうのほうが高く見えました。「気温より雨のほうが多い」と言えますか。
A 言えません。℃とmmでたんいがちがうので、くらべること自体に意味がありません。しかも右の目もりを0〜300mmから0〜600mmに変えるだけで、同じ150mmのぼうはずっと低くなります。見た目の高さは、目もりの決め方を見ているだけです。
Q4 札幌はいちばん寒い月がおよそ-3℃、いちばんあたたかい月がおよそ22℃です。年較差はいくつですか。
A 25℃。0をまたぐので、-3℃から0℃までの3と、0℃から22℃までの22に分けて足します。3+22=25です。那覇の12℃とくらべると、25÷12=2.08…でおよそ2倍になります。
Q5 ある都市の雨温図は、1月の気温がいちばん高く、7月がいちばん低くなっていました。この都市はどこにありますか。
A 南半球です。折れ線が山ではなく谷(U字)になるのは、季節が逆で1月が夏、7月が冬だからです。グラフがまちがっているわけではなく、読み方は北半球とまったく同じで通じます。
Q6 太陽がいちばん高いのは6月の夏至なのに、日本の雨温図では折れ線のてっぺんが8月にあります。なぜですか。
A 地面と海はあたたまるのに時間がかかり、入ってくる熱が出ていく熱より多いあいだは気温が上がり続けるからです。夏至は「入ってくる熱がいちばん多い日」であって「たまった熱がいちばん多い日」ではありません。だから1〜2か月おくれて8月にてっぺんが来ます。冬も同じで、冬至は12月なのにいちばん寒いのは1〜2月です。
雨温図は、社会の資料でありながら中身はほとんど算数のグラフです。つまずいている子の多くは気候の知識が足りないのではなく、1枚の紙に目もりが2本あるという構造に気づいていないだけです。実際、「棒が折れ線より上だから雨の多い月」という読み方をしている子はとても多く、これは覚え不足ではなく、読み方のすじ道の問題です。
ご家庭では、用語を覚えさせるかわりに「この図、目もりはいくつある?」と一度だけ聞いてみてください。左と右で2本あると自分で気づけば、そのあとの読み方はほとんど自動的に直ります。もう1つおすすめなのは、教科書と資料集で同じ都市の雨温図を見くらべることです。右の目もりの取り方がちがうと絵の印象が変わるので、「数は同じなのに見た目がちがう」を実物で体験できます。グラフは事実を運ぶ道具であると同時に、作り方で印象が変わる道具でもある ── この感覚は、この先どの教科でも効いてきます。