ニュースで「日本の人口がへっています」と聞いた同じ年に、「住むところがたりない」「家賃が上がっている」とも聞きます。人がへるなら家はあまるはずなのに、逆のことが言われている。どちらかがうそなのだろうか ── そう思ったなら、いいところに気づいています。そして、どちらも本当です。この2つが同時に成り立つ理由は、むずかしい言葉では出てきません。日本の人数を、日本の家の数でわる。わり算1回で見えます。この記事では、その1回のわり算から始めて、「人はへっているのに家はたりない」が矛盾していないことを最後までたしかめます。
まず、2つのニュースが何を数えているかを分けます。人口のニュースが数えているのは人の数です。家のニュースが数えているのは家の数です。当たり前に聞こえますが、ここを混ぜたままだと一生かみ合いません。
人の数がへっても、家の数はへりません。家は、人がへったからといって自分でこわれてなくなったりしないからです。それどころか、今も新しい家が建ち続けています。だから「人はへる、家はふえる」は、同時に起きてよいことです。
でも、それだけでは「家がたりない」の説明になりません。家がふえていて人がへっているなら、なおさらあまるはずです。ここに、人口のグラフには出てこないもう1つの数があります。世帯という数です。
世帯とは、いっしょに住んでごはんを食べている人のまとまりのことです。ざっくり言えば「1つの家に住んでいる1グループ」で、世帯の数は使われている家の数とほとんど同じ意味になります。人口と世帯は、どちらも日本の大きさを表す数ですが、数えているものは人とグループでまるでちがいます。
今の日本のだいたいの数を2つ並べます。
この2つでわり算をします。1世帯に何人いるか、という単位量あたりの大きさを出す計算です。
答えは1世帯あたり約2.2人。日本の家には、平均するとたった2人ちょっとしか住んでいません。4人家族の家に住んでいる人は、ここでおどろくはずです。自分の家は4人なのに、日本の平均は2.2人。自分のまわりが平均だと思っていると、日本の数はまちがえます。
この2.2という数がすごいのは、昔とくらべたときです。60年ほど前、1960年ごろの日本のだいたいの数はこうでした。
| いつ | 人口 | 世帯 | 1世帯あたり |
|---|---|---|---|
| 1960年ごろ | 9400万人 | 2300万世帯 | 約4.1人 |
| 今 | 1億2400万人 | 5600万世帯 | 約2.2人 |
1960年のほうも自分でわってみます。
4.1人と2.2人。1つの家に住む人数は、60年でおよそ半分になりました。4.1 ÷ 2.2 = 1.8…で、ざっと1.9倍ちがいます。おじいさんやおばあさんが子どものころ、家の中は今の2倍にぎやかだったということです。
理由は1つではありません。きょうだいの人数がへったこと、結婚した子どもが親と別の家に住むようになったこと、お年よりだけで住む家がふえたこと、ひとりで住む人がふえたこと ── どれも「1つの家に何人入るか」を小さくする向きにはたらきます。この記事ではこの先、なぜ小さくなったかではなく、小さくなると何が起きるかを数で追いかけます。
同じ表を、たての向きにわってみます。60年で人口は何倍になり、世帯は何倍になったかです。
ここが、この記事でいちばん見てほしいところです。人は1.3倍にしかなっていないのに、家は2.4倍になりました。人のふえ方より、家のふえ方のほうがずっと速い。2.4 ÷ 1.3 = 1.8…で、およそ1.8倍の速さで家がふえてきたことになります。
60年間、日本ではものすごい数の家が建てられました。それは人がふえたからではなく、1つの家に入る人数がへったからです。人口のグラフだけを見ていると、この事実は一度も姿を見せません。
ここまで来たら、いよいよ「人がへっているのに家がたりない」を計算で言いきれます。実験のつもりで、人口を今の1億2400万人にとめておいて、1世帯の人数だけを動かします。必要な家の数がどうなるか、わり算で出します。
人が1人もふえていないのに、必要な家が2600万戸ふえました。これが答えです。人口がへっても、1世帯の人数がもっと速くへれば、必要な家の数はふえます。人の数と家の数は、同じ向きに動かないのです。
たとえるなら、遠足のバスです。90人の子どもを、1台に45人ずつ乗せるならバスは2台。ところが「1台に15人まで」に変わったら、子どもは1人もふえていないのにバスは6台いります。人数ではなく、1台あたりの人数が台数を決めている。日本の家で起きているのは、これと同じことです。
1世帯2.2人という平均の中身を見ます。今の日本で、ひとりだけで住んでいる世帯は約2100万世帯あります。全体の5600万世帯にしめる割合を出します。
10軒に4軒です。しかもこの2100万世帯のうち3分の1ほど(約700万世帯)は65歳以上の人のひとりぐらしです。平均2.2人という1つの数の中には、ひとりで住んでいる家がこれだけ入っています。
ここで、2.2という数の正体が分かります。2.2人は「どの家にも2.2人いる」という意味ではありません。1人の家と4人の家がまざっていて、ならしたら2.2になったというだけです。平均は、中身をならしてしまう数です。
1人の家が4軒と、4人の家が1軒。どちらも合計人数は4人で同じです。でも必要な家の数は4軒と1軒で4倍ちがいます。台所も、おふろも、げんかんも、4つ必要になります。人口が同じでも世帯が小さくなるほど、家も、水道も、電気の線も、ごみ集めの回る道も、たくさん必要になる ── 世帯の数は、まちの大きさを決める数でもあります。
最後の数です。日本にある住宅の数は、約6500万戸。使われている家の数、つまり世帯の数は5600万でした。引いてみます。
だれも住んでいない家が約900万戸。全体の約14%、7軒に1軒が空き家です。数だけ見れば、家は足りていないどころか900万戸あまっています。それなのに「住むところがない」と言われる。ここに最後のしかけがあります。
家は動かせません。900万戸の空き家は、人が出ていった場所に900万戸そのまま残っています。仕事や学校のある場所に人が集まり、集まった場所では家がたりず、人が出ていった場所では家があまる。日本ぜんたいで数えると余っていて、場所ごとに数えると足りない。だから両方のニュースが同時に正しいのです。
この「ぜんたいの数では見えないこと」は、割合やグラフを読むときにいつもついてきます。日本ぜんたいの1つの数字は、場所ごとのちがいをきれいに消してしまいます。数字が1つしかないときは、その1つに何がまぜこまれて消えたのかを考えるのが、社会の読み方です。
たしかめ方を1つ紹介します。クラスの全員に「あなたの家に住んでいる人は何人ですか」と聞いて、合計を人数でわります。平均が出ます。
やってみると、ほぼ確実に2.2人よりずっと大きい数が出ます。3人台や4人台になるはずです。日本の平均は2.2人なのに、なぜ合わないのでしょうか。計算をまちがえたのでも、このクラスが特別なのでもありません。
理由は、聞く相手の選び方です。クラスで聞くと、答えるのは全員「小学生がいる家」の人です。ひとりぐらしの2100万世帯には小学生はいません。だから、いちばん人数の少ない家が、はじめから1軒も混ざらないのです。人数の多い家ばかりを集めて平均を出せば、平均は大きくなります。
これは、アンケートや調べ学習でいちばん起きやすいまちがいです。だれに聞いたかで、答えは動きます。「クラスで聞いたら4人だった」は、クラスについては正しく、日本については正しくありません。自分の調べた数を日本の数として出す前に、この聞き方でははじめから入ってこない人がいないかを、一度考えてみてください。
人口と家の数を、同じ向きに動くものだと思ってしまうまちがいです。家の数を決めているのは人口ではなく、人口 ÷ 1世帯の人数です。わる数が小さくなれば、わられる数がへっても答えは大きくなります。1億2400万 ÷ 2.2 が 1億2400万 ÷ 4.1 より大きいのと同じことです。
2.2人ぴったりの家は、この世に1軒もありません。0.2人はいないからです。平均はならした数で、実際にある数ではありません。1人の家が4割もあるという中身を知ってから平均を見ると、同じ2.2という数字がぜんぜんちがって見えます。
空き家の中には、人に貸すために空けてある部屋、売るために空けてある家、こわれて住めない家、別荘などがまざっています。数えられたものと、使えるものは同じではありません。統計の数を見たら「これは何を数えた数か」をたしかめる ── 数の意味は、数字の大きさより先に読むものです。
電たくがなくてもできます。答えはすぐ下に書きます。
1つめ。9000 ÷ 3000 = 3人です。
2つめ。9000 ÷ 2 = 4500世帯。もとは3000世帯だったので、4500 - 3000 = 1500世帯ふえます。人口は1人もふえていないのに、家は1500軒いります。この記事の2600万戸と同じ計算を、小さい数でやったものです。
3つめ。5000 - 4500 = 500戸が空き家。500 ÷ 5000 = 0.1 で10%です。10軒に1軒が空き家、ということになります。
自分の住んでいる市や町の名前と「人口」「世帯数」を並べて調べると、その2つの数はたいてい同じページに書いてあります(市役所や町役場のホームページの、毎月更新される表です)。そこでわり算を1回してみてください。出てきた数が2.2より大きければ家族で住んでいる人が多い町、小さければひとりで住んでいる人が多い町です。同じ県のとなりの市でもちがう数が出ます。その差が、駅からのきょりや、大学や工場があるかどうかと関係していることに気づけたら、それはもう社会の研究です。
この記事の人口・世帯数・ひとりぐらしの数・住宅数・空き家数は、いずれもけたを読みやすく丸めた概数です(1億2400万人/5600万世帯/2100万世帯/6500万戸/900万戸など)。正確な数は国勢調査や住宅・土地統計調査の年によって動きますので、実際の値を調べるときは最新の公表値をご確認ください。ただし、この記事の結論は細かい数字に寄りかかっていません。「1世帯あたりが半分になれば、同じ人口でも家は約2倍必要になる」という関係は、人口が1億2000万人でも1億2600万人でも変わりません。数字の精度ではなく、わり算の向きを読み取ることをねらいにしています。空き家約900万戸には、賃貸の募集中・売却予定・別荘・老朽化して住めない家がふくまれており、そのまま住める家が900万戸あるという意味ではない点も、本文中でふれています。
人口ピラミッドの読み方… 人口を年れいごとに分けて見る図。世帯が小さくなる理由がここに写っている。
グラフと表の読み方… 1つの数字に何がまぜこまれているかを見分ける、同じ考え方の基本。
平均… ならした数が実際にはない数であること(この記事の2.2人)。
単位量あたりの大きさ… 「1世帯あたり何人」を出すわり算そのもの。