夕方のニュース番組は30分ほど。でも、その日に日本と世界で起きたことが30分でおさまるはずがありません。ニュースを作る仕事の中心は、集めることではなく落とすことです。
テレビをつけるとニュースが流れています。あまりにも当たり前なので、ニュースは川の水のように自然に流れてくるものだと感じがちです。しかし実際には、何百人もの人が朝から動いて、その日のうちに組み立て直している製品です。
5年生の社会で「情報を生かす産業」を学ぶのは、この点をつかむためです。米づくりに田おこしから収穫までの順番があるように、ニュースにも取材 → 選ぶ → まとめる → 届けるという工程があります。工場の生産ラインとちがうのは、材料がいつ手に入るか分からないことと、その日のうちに完成させなければならないことです。
だから放送局では、朝の時点で「今日は何を放送するか」がまだ決まっていません。決まっていないまま、放送の時刻だけが決まっている。この状態から時間どおりに番組を完成させるために、仕事は細かく分けられています。
2分間のニュースが1本流れるまでに、少なくとも次のような人たちが関わります。
| 役わり | すること | いちばん気にすること |
|---|---|---|
| 記者 | 現場へ行き、見て、聞いて、たしかめる | 本当かどうか |
| カメラマン | 映像と音を記録する | 一度きりの場面をのがさないこと |
| デスク | 集まった材料から、放送する・しないを決める | 今日いちばん必要な情報はどれか |
| 映像編集 | 長い素材を決められた秒数に切る | 切ったことで意味が変わっていないか |
| アナウンサー | 原こうを声にして届ける | 速すぎず、まちがえずに読むこと |
| 技術・美術 | カメラ・音声・字幕・図表を出す | 秒単位でずれないこと |
ここで注目してほしいのは、「取ってくる人」と「決める人」が別だということです。記者は自分が取材したニュースを放送したいと思います。しかし放送するかどうかを決めるのはデスクです。もし記者が自分で決められたら、その人が興味を持ったことばかりが流れてしまいます。役わりを分けること自体が、かたよりを減らすしくみになっているのです。
夕方6時に始まるニュース番組を例にすると、1日はおおよそこう進みます。
注目すべきは、1日に2回以上、「決める会議」が入ることです。朝に決めた予定は、昼までにほぼ必ず変わります。事故や災害、大きな発表は予告なしに起きるからです。そのため夕方の会議でもう一度組み直す。予定どおりに進まないことを前提にした計画になっているのが、この産業の特ちょうです。
番組の中では、ニュース1本の長さが「1分30秒」のように秒で決められています。原こうは1分におよそ300字。だから1分30秒なら450字前後。言いたいことがそれ以上あっても、入らないものは入らない。何を残して何を捨てるかを、記者は文字数の形で毎日つきつけられています。
編集会議では「なんとなく大事そう」で決めているわけではありません。長い間の経験から、次のような目安が共有されています。
| 目安 | 意味 | 例 |
|---|---|---|
| 影響の大きさ | どれだけ多くの人の生活が変わるか | 電車の運休、法律の改正 |
| 近さ | 見ている人の住む地域に関係があるか | 県内で起きた事故 |
| 新しさ | 今日はじめて分かったことか | 速報、新しい発表 |
| めずらしさ | ふだん起きないことか | 記録的な大雪 |
| 今後への関わり | これから何かが起きそうか | 台風の進路 |
この目安のうち、「近さ」があるおかげで、地方の放送局は全国の局と別のニュースを流せます。全国では小さくあつかわれる出来事でも、その県に住む人にとっては最も大事、ということがあるからです。ローカル局が県内の話題を長く放送するのは、手をぬいているのではなく、役わりがちがうのです。
逆に言うと、この目安から外れた出来事は放送されません。放送されなかったからといって、起きなかったわけでも、大切でなかったわけでもない。ニュースを見ることは「世の中のすべてを知ること」ではないという理解が、ここから出てきます。
同じ日の同じ出来事を、A局は3分、B局は40秒で伝えることがあります。新聞なら1面の記事と、社会面のすみの数行というちがいになります。うそをついているわけではありません。選ぶ目安のどれを重く見たかがちがうのです。
また、伝える順番そのものが意見になります。番組の最初に置かれたニュースは「今日いちばん大事」と言っているのと同じです。順番は、局が考えた重要さの表明です。
だから同じ出来事について知りたいときは、ちがう会社のニュースを二つ以上見くらべるのがいちばん確実です。同じ部分は事実である可能性が高く、ちがう部分はどちらかの見方が入っているところです。
| メディア | 強いところ | 弱いところ |
|---|---|---|
| テレビ | 映像と音で現場の様子が伝わる。速い | 時間が限られ、くわしくは伝えられない |
| 新聞 | くわしい。あとから読み返せる | 届くのが翌朝になる |
| ラジオ | 停電や災害に強い。ながら聞きができる | 映像がない |
| インターネット | いちばん速い。自分で選んで読める | だれが書いたか分からないものが混じる |
報道の仕事で最も大変なのは、この二つを同時に満たすことです。速く出したい。しかしまちがっていたら、取り返しがつきません。
そこで行われるのが裏取り(うらどり)です。「そうらしい」という話を聞いたら、それをそのまま流さず、別の人や役所に確かめる。二つ以上のところから同じ答えが返ってきて、はじめて放送できる材料になります。この作業のせいで放送が他局より遅れることもありますが、それでも確かめます。
それでもまちがいは起きます。まちがった内容を伝えてしまうことを誤報(ごほう)といい、起きたときは番組の中で訂正を出します。ここで大事なのは、訂正を出すことは信用を落とす行為ではなく、信用を守る行為だということです。まちがえないことより、まちがいを直せることのほうが、情報を届ける仕事では重く見られています。
ニュースでは、事件に関係した子どもの名前が出なかったり、通行人の顔がぼかされていたりします。これは報道の自由と、個人の権利がぶつかったときの調整です。伝える必要のあることと、その人の暮らしをこわしてしまうことは別だ、という判断が毎回されています。
放送に乗ったものだけが世の中の出来事だ、と受け取ってしまうまちがいです。実際には、朝の会議に出た候補の多くは放送されません。
「放送されたもの」と「起きたこと」はちがう、と一度はっきりさせておくと、この単元全体の見通しがよくなります。
局によって伝え方がちがうと知ると、「どこかがうそをついている」と考えがちです。多くの場合、事実は同じで、どれを大きくあつかうかがちがうだけです。
うそかどうかではなく、どこに重さを置いたかを見くらべる、と考え方を切りかえます。
記者・デスク・編集と名前だけ覚えても、テストで使えません。
覚えるべきは名前ではなく「取ってくる人と、決める人が分かれている」という関係です。関係が言えれば、名前は後からついてきます。
速さと正しさは別のものです。ネットが速いのは、確かめる手間を省いても出せてしまう場合があるからでもあります。
速いものほど裏取りが済んでいない可能性がある、と考えるくらいでちょうどよいです。
Q1 放送局で、取材する人と、放送するかどうかを決める人が分かれているのはなぜですか。
A 同じ人が両方をやると、その人の興味や思いこみだけでニュースが選ばれてしまうからです。役わりを分けることで、かたよりをおさえるしくみにしています。
Q2 同じ日のニュースなのに、局によって最初に伝える内容がちがうことがあります。これは何を表していますか。
A その局が「今日いちばん大事」と考えたものを表しています。順番そのものが、重要さについての局の判断になっています。
Q3 「裏取り」とは何をすることですか。また、なぜ必要ですか。
A 聞いた話を、別の人や役所など二つ以上のところに確かめることです。まちがった内容を流すと取り返しがつかないため、速さより先にこの作業をします。
Q4 1分30秒のニュース原こうは、およそ何字になりますか。そこから何が言えますか。
A 1分およそ300字なので、450字前後です。言いたいことが多くても入らないので、記者は毎日「何を落とすか」を決めていることが分かります。
この単元は、暗記させようとすると「記者・デスク・編集」の言葉だけが残って中身が抜けやすいところです。効くのは、実際のニュース番組を親子で最後まで一度見て、「最初に出たのは何だった?」「なぜそれが最初だったと思う?」の2問を聞くことです。順番に意味がある、と気づいた時点で、この単元の半分は終わっています。
余力があれば、同じ日の別の局のニュース、あるいは新聞の1面と見くらべてください。ちがいが見つかると、「情報は選ばれて届いている」という感覚が言葉ではなく実感として入ります。
なお、事件・事故の映像を長く見せる必要はありません。ここで学ばせたいのは出来事の中身ではなく、届き方のしくみのほうです。