5年 社会 低い土地・高い土地のくらし

低い土地・高い土地のくらし ── 同じ気候でも、高さがちがえば仕事が変わる

この単元でくらべているのは、南と北ではありません。土地の高さです。高さがちがうだけで、相手にする自然も、畑に植えるものも、まるで変わります。

「あたたかい・寒い」の次に、もう一本の軸を立てる

沖縄と北海道をくらべる単元では、南北という軸で日本を見ました。南に行くほどあたたかく、北に行くほど寒い。分かりやすい軸です。

ところが日本には、それだけでは説明できない場所があります。同じ県の中なのに真夏でもすずしい土地。海からはなれていないのに、地面が川の水面より低い土地。ここで必要になるのが二本目の軸、高さ(標高)です。

日本を見る二本の軸 たて軸(南北) … 沖縄 ←→ 北海道 気温のちがい よこ軸(高さ) … 海面より低い ←→ 標高1000m 水と気温のちがい → 二本そろって、はじめて日本の地形が読める

覚えておくと便利な数字があります。標高が100m上がるごとに、気温はおよそ0.6℃下がります。1000mなら約6℃です。この6℃が、群馬県のような関東の県に、真夏でもすずしい畑を生み出しています。

つまりこの単元の問いは一つです。その高さだからこそ困ることは何で、その高さだからこそできることは何か。低い土地でも高い土地でも、読み方はこの一つで通せます。

低い土地 ── 水より低い場所で生きる

教科書によく出てくるのは、岐阜県海津市のあたりです。木曽川・長良川・揖斐川という三本の大きな川(木曽三川)が集まる場所で、土地の多くが川の水面より低くなっています。

低い土地で起きること 川の水面 ━━━━━━━━━━━ ↓ しみ出す 家・田んぼ ‥‥‥‥ ← 川より低い ① 雨がふっても水が出ていかない ② ふだんでも水がしみ出してくる ③ 川があふれれば、まっ先に水につかる

輪中 ── まわりを堤防で囲む

昔の人が出した答えが輪中です。村と田んぼをまるごと堤防でぐるりと囲み、川の水が入ってこないようにしました。「輪」の形の中に住むから輪中です。

それでも水は完全には防げません。そこで家は少し高く土をもった場所に建て、さらに敷地の中でいちばん高いところに水屋という小屋を用意しました。水屋には食料と舟が置いてあります。水が来ると分かっているから、来たあとどうするかまで先に決めてあるのです。

今のくらしを支えているのは機械

今は堤防が強くなり、水屋を実際に使うことはほとんどありません。かわりに働いているのが排水機場です。輪中の中にたまった雨水は、土地が低いので自然には流れ出ません。そこでポンプで川へくみ上げています。

ここが低い土地の大事なところです。この土地は、機械を動かし続けることで乾いているのであって、放っておけば水にもどります。電気代も点検の費用もかかり、それを地域のみんなで負担しています。

不利なはずの土地が、強みになる

水が多いことは、悪いことばかりではありません。水が豊かで土地が平らなので、米づくりにはとても向いています。昔は形も大きさもばらばらだった田を、機械が入りやすいように四角く整え(耕地整理)、用水路と排水路を分けたことで、大型機械の使える広い水田地帯になりました。

くわえて、水を抜く技術が進んだことで、田の一部を畑としても使えるようになりました。低い土地の物語は「水とたたかう話」であると同時に、「水を使いこなす話」でもあります。

高い土地 ── すずしさを売る

もう一方の代表が、群馬県嬬恋村や長野県野辺山原のような高原です。標高はおよそ1000mから1300m。夏でも平地よりずっとすずしく、冬の寒さと風は厳しい土地です。

高い土地の条件 ① 夏がすずしい … 平地より約6℃低い ② 冬が長く寒い … 作れる期間が短い ③ 火山灰の土で、米づくりには向かない → 「作れる時期が短い」が最大の弱点

もともとは、農業に向かない土地だった

高原の多くは火山灰が積もった土地で、水はけがよすぎて米づくりには向きません。野辺山原のように、戦後になってから開拓されて畑になった場所もあります。最初から実りの多い土地だったわけではないことは、おさえておきたい点です。

時期をずらす、という発想

ここで生まれたのが抑制栽培という考え方です。キャベツやレタス、はくさいはすずしさを好む野菜で、平地の暑い夏の中ではうまく育ちません。

そのため平地の産地は、春と秋に出荷して夏は出せません。ちょうどその夏に、高原はすずしい。だから高原では、他の産地が出せない7月から9月に集中して出荷します。

時期平地の産地高原の産地
春出荷できるまだ寒くて作れない
夏暑くて育たない出荷の最盛期
秋出荷できる収穫を終える
冬あたたかい地域が担当雪と寒さで休み

売る相手が少ない時期に出すので、ねだんが下がりにくくなります。すずしさそのものを売っていると言ってよい農業です。

「早く運ぶ」までが仕事

ただし、これは道路と保冷技術がなければ成り立ちません。とった野菜は冷やしたまま大型トラックで大都市へ運ばれます。高速道路が通ったことで、朝とった野菜が翌日には大都市の店に並ぶようになりました。

すずしい気候(自然の条件)と、高速道路・保冷車(人がつくった条件)の両方がそろって成り立っている点は、テストでもよく問われます。

もう一つの収入は、気候そのもの

高原は、夏の別荘地・キャンプ地としても、冬のスキー場としてもにぎわいます。牧場が広がるのも、すずしさが牛に向いているからです。農業だけでなく観光まで、すべてが標高から出てきています。

二つの土地を、同じ形でならべる

正反対の土地に見えますが、話の運び方はまったく同じです。表にすると、それが目で分かります。

くらべる点低い土地(海津市など)高い土地(嬬恋村など)
土地の高さ川の水面より低い標高1000m前後
相手にする自然水(こう水・しみ出す水)寒さ・短い生育期間
昔の工夫輪中の堤防・水屋・舟開拓・土の改良
今の工夫排水機場のポンプ・耕地整理抑制栽培・保冷輸送
おもな産業広い水田での米づくり高原野菜・酪農・観光
強みへの変え方豊かな水を米に生かすすずしさを出荷時期に生かす

どちらも「弱点を消す工夫」と「弱点を強みに変える工夫」の二段構えになっています。堤防やポンプは前者、米づくりや抑制栽培は後者です。この二段が見えると、どんな土地の学習にも同じ読み方が使えます。

つまずきやすいところ

その1 輪中を「昔の話」だと思ってしまう

水屋や舟の写真が印象に残るため、輪中を過去の話として読み終えてしまう子がいます。
実際には今も、ポンプで水をくみ出し続けることで人が住めています。今もつづいている工夫は何かを、必ず一つ書き出しておきましょう。

その2 「すずしいから高原野菜」で止まってしまう

すずしいだけなら、北海道でも東北でも作れます。高原がとくべつなのは、大都市に近い場所にすずしさがあることです。
「すずしい+近い+速く運べる」の三つがそろって、はじめて夏の出荷が商売になります。

その3 高さと気温の関係があいまいなまま進む

なぜ同じ関東地方で夏がすずしいのか説明できないと、あとの内容がすべてぼんやりします。
100mで約0.6℃、1000mで約6℃。この数字を一度計算しておくと、地図の等高線が急に意味を持ちはじめます。

やってみよう

Q1 輪中とは、どのような場所ですか。

A 川より低い土地で、水が入ってこないようにまわりを堤防で輪の形に囲んだ地域のことです。

Q2 低い土地に排水機場が必要なのはなぜですか。

A 土地が川より低く、たまった雨水が自然には流れ出ないため、ポンプでくみ上げて川へ出す必要があるからです。

Q3 高原でキャベツを夏に出荷すると、どんな利点がありますか。

A 平地の産地が暑さで出荷できない時期にあたるため、ねだんが下がりにくく、よく売れるという利点があります。

Q4 標高1000mの高原は、同じ地方の平地より気温がおよそ何℃低いですか。

A 100mで約0.6℃下がるので、約6℃低くなります。

Q5 低い土地と高い土地に共通している考え方を、一文で書きましょう。

A 例:不利な条件をおさえこむ工夫をしたうえで、その条件を強みに変えて売っている。

まとめ

おうちの方へ

この単元は、沖縄・北海道の単元と似て見えるため、お子さんが「またくらしの工夫か」と流し読みしてしまいがちです。ちがいは軸にあります。前の単元は南北(気温)、この単元は高さ(水と気温)で日本を切っています。ここを最初に一言で確認しておくだけで、混ざりにくくなります。
おすすめは、地図帳の等高線や色分けを一緒に見ることです。緑は低い土地、茶色は高い土地という色の意味が分かると、教科書の写真と地図がつながります。海津市と嬬恋村を実際に地図帳でさがしてみるのも効果的です。
スーパーでの会話も使えます。夏のキャベツやレタスの産地表示を見ると、群馬県や長野県と書かれていることが多いはずです。「なぜこの季節だけ群馬なんだろう」と一度たずねてみてください。教科書の抑制栽培が、その場で自分の生活の話になります。
お住まいの土地の高さを調べてみるのもおすすめです。ハザードマップには標高や浸水の想定が書かれており、防災の話にもそのままつながります。
覚える量が多く見える単元ですが、軸は「その高さで困ることと、できること」の二つだけです。地名や用語は、その二つにぶら下げると驚くほど楽に整理できます。