レジで店員さんが商品を通すと、ピッと鳴って、画面にねだんが出ます。だから多くの人が、あの白黒の線にはねだんが書いてあると思っています。はっきり思っていなくても、そう聞かれたら「たぶんそうだろう」と答えます。ところが、入っていません。あの線に書いてあるのは商品の番号だけで、ねだんは1円ぶんも入っていないのです。この記事では、その証拠を家にあるお菓子の袋で確かめ、13けたの数字がどう分かれているのか、いちばん右の1けたがなぜ計算で出せるのかまで、自分の手で計算しながら見ていきます。
5年生の社会「情報を生かす産業」では、コンビニやスーパーのPOSシステムが出てきます。レジで商品を読み取ると「いつ・何が・いくつ売れたか」がデータになり、そのデータを使って店は仕入れる数を決める ── という話です。
ただし、教科書が書いているのはそこまでです。レジが読み取っているものの正体、つまりバーコードそのものについては、まず説明がありません。読み取られるほうが何者かを知らないまま、読み取ったあとの話だけを習うことになります。
それでもこの記事を書いたのは、バーコードが「習う前に全員が毎日見ているもの」の代表だからです。お菓子の袋、牛乳のパック、ノート、シャープペンシルの芯のケース、図書室の本。1日に何十個も見ているのに、あれが何なのかを聞かれて答えられる人はほとんどいません。しかも「ねだんが入っている」という、まちがったほうの答えが広まっています。
家にあるお菓子の袋かペットボトルを1つと、本を1さつ。あとは紙と鉛筆です。かけ算とたし算、それに「10でわったあまり」が分かれば、最後まで自分の手で計算できます。
「入っていない」と言われても、すぐには信じられないと思います。そこで、だれでも思い当たる事実を3つならべてみます。
もしバーコードにねだんが入っているのなら、この3つはどれも起こせません。店ごとにねだんを変えるには、店ごとに袋を作り直さなければならないからです。ねだんが袋の外にあるからこそ、同じ商品を、店ごとに、日ごとに、ちがうねだんで売ることができます。
では、ねだんはどこにあるのでしょうか。店のコンピュータの中です。レジは番号を読み取ると、その番号を持って店のコンピュータに聞きに行きます。「この番号の商品は、いくらですか」。返ってきた数字が、画面に出るねだんです。
バーコードはねだん札ではなく、名ふだです。「わたしは○○番の商品です」としか言っていません。いくらで売るかを決めているのは、いつも店のほうです。
答えは、すでに目の前に印刷されています。バーコードのすぐ下を見てください。数字が並んでいます。あれが中身のすべてです。線は、その数字を機械が読める形に書き直しただけのもので、数字のほかには何ひとつ入っていません。
日本で売られている商品のバーコードは、ふつう13けたです。お菓子の袋を1つ持ってきて、数えてみてください。左はしにぽつんと1けた、線の下に6けた、6けた。合わせて13けたになっているはずです。
この13けたは、ばらばらの数字ではなく、意味のかたまりに分かれています。
| 場所 | けた数 | 意味 |
|---|---|---|
| はじめ | 2けた | どこの国で登録された番号か(日本は45か49) |
| つぎ | 7けた | どの会社の商品か |
| つぎ | 3けた | その会社の、どの商品か |
| いちばん右 | 1けた | 読みまちがいを見つけるための検査の数字 |
お菓子の袋を見て、はじめの2けたが45か49なら、その番号は日本で登録されたものです。輸入されたお菓子だと、ちがう数字で始まっていることがあります。
上の表は、いま新しく番号をかりる会社の分け方です。むかしから番号を使っている会社には、会社5けた+商品5けたという分け方も残っています。国の2けたと検査の1けたをのぞいたまん中の10けたを、どこで区切るかがちがうだけなので、検査の計算はどちらでも同じです。
つまり、袋を見ただけでは、どちらの分け方かは分かりません。だれでも見分けられるのは、はじめの2けた(国)といちばん右の1けた(検査)の2か所だけです。
ここで大事なのは、会社が自分で好きな番号を名乗っているのではない、という点です。番号をまとめている団体があり、会社はそこから自分の番号をかしてもらいます。だから世界中のどの商品も、番号がぶつかりません。ぶつからないからこそ、番号だけで商品を言い当てられるのです。
さっきの表で、いちばん右の1けたを「検査の数字」と書きました。ここがこの記事のいちばん面白いところです。あの1けたは、商品につけられた番号ではありません。残りの12けたから、計算で出した答えです。
計算のしかたは、5年生なら手で追えます。左から順に、×1、×3、×1、×3……と交互にかけて、ぜんぶ足すだけです。
合計が130。10でちょうどわり切れました。これは偶然ではありません。正しいバーコードは、この足し算をすると、かならず10でわり切れる数になります。世界中のどの商品でも、例外なくそうなります。
お菓子の袋を持ってきて、いま自分で確かめてみてください。13けたを書き写して、左から×1、×3と交互にかけて足す。一の位が0になったら、正しく読めています。ならなかったら、どこか書き写しまちがえています。
会社が新しい商品に番号をつけるときは、この計算を逆にたどります。まず左の12けただけで足し算をして、その合計を10でわったあまりを出す。そのあまりを10から引いた数が、いちばん右に置く数字です。
さっきの例なら、左の12けたの合計は 130 - 4 = 126。126 ÷ 10 のあまりは 6。10 - 6 = 4 で、たしかにいちばん右の数字と合います。
(あまりが0のときだけは、10ではなく0を置きます。)
レジは、動いている商品を、ななめから、一瞬で読みます。手がふるえることもあれば、袋にしわが寄っていることもあります。読みまちがいは、実際に起きます。問題は、まちがったまま気づかないことです。1けたちがう番号も、たいていは別の商品としてちゃんと存在しているので、まちがったねだんで会計され、まちがった在庫が減ってしまいます。
そこで、さっきの足し算が効きます。1けただけ読みまちがえると、合計がどうなるか見てみましょう。
×1の場所なら1から9ぶんだけ、×3の場所なら3から27ぶんだけ、合計が動きます。どちらの場合も、動く量が10の倍数になることはありません。もとが10の倍数だったのだから、動いたあとは10の倍数ではなくなります。だからレジは「いま読んだ数字はおかしい」と分かり、ピッと鳴らずに、もう一度読み直します。1けたの読みまちがいは、これで必ず見つかります。
この方法は万能ではありません。となり合う2けたを入れかえてしまったときは、見つからないことがあります。
さきほどの番号のはじめの2けた「4 9」を、うっかり「9 4」と入れかえてみてください。
もとは 4×1 と 9×3 なので、4 + 27 = 31。入れかえると 9×1 と 4×3 になるので、9 + 12 = 21。合計は10へって 120 です。10へっただけなので、まだ10でわり切れてしまいます。
つまり 9401234567894 も、この検査は通ってしまうのです。はじめが94になっていて、もう日本の番号ではないのに、です。
入れかえた2つの数字の差が5のときに、ちょうどこうなります。4と9、0と5、1と6、2と7、3と8の組み合わせです。
このことを知っておくのは大事です。検査を通ったからといって、正しいとは限りません。「あきらかなまちがいを、安いしくみでふるい落とす」のが、この1けたの役目です。
数字が書いてあるなら、そのまま数字を読ませればよさそうです。実際、人間は下の数字を読めます。それでも線にするのは、機械にとっては、線のほうがずっと読みやすいからです。
数字の形を見分けるのは、機械には難しい仕事です。8と3、1と7、0と6は、少しかすれただけで見分けがつかなくなります。ところがバーコードが聞いているのは、たった一つのことだけです。「いま、明るいか、暗いか」。赤い光を当てて、はね返ってきた光の強さを、はしから順に記録していく。白いところは強く、黒いところは弱くはね返ります。あとは、その明暗の太さの組み合わせを数字にもどすだけです。
もうひとつ、よくできているところがあります。バーコードは、さかさまに通しても正しく読めます。レジで店員さんが商品の向きを気にせずどんどん通していけるのは、そのためです。
これができるのは、左半分と右半分で、同じ数字でも線のもようを変えてあるからです。だから機械は、読んだもようを見ただけで「いま右半分から読み始めたな」と気づき、読んだ順をひっくり返してから数字に直します。どんなもようにしてあるかのくわしい決まりは、この記事では扱いません。ここで知っておいてほしいのは、「向きを気にしなくていい」という便利さが、あらかじめ設計に折りこまれているということです。
ここまで「バーコードにねだんは入っていない」と書いてきました。ところが、ひとつだけはっきりした例外があります。本です。
本を1さつ持ってきて、裏を見てください。バーコードが2段になっているはずです。お菓子の袋は1段なのに、本だけ2段あります。
下の段のうしろのほうに、その本のねだんがそのまま数字で入っています。たとえば本体1200円の本なら、こうなります。
自分の本で確かめてみてください。下の段の数字の後半に、本の裏に書いてあるねだんと同じ数字が並んでいるはずです(消費税をふくまない「本体」のねだんのほうです)。
なぜ本だけ、ねだんを入れてよいのでしょうか。本は、日本中どこの店で買っても同じねだんで売られる決まりになっているからです。お菓子のように店ごとにねだんを変えることがないので、番号にねだんを入れておいても困りません。むしろ、小さな本屋さんでもレジがねだんを言い当てられるので、便利なのです。
本の裏のねだんの書き方を見てください。「1320円」ではなく「本体1200円+税」と書いてあるはずです。これは消費税が変わったときに、カバーを刷り直さなくてすむようにしてあるからです。バーコードの下の段にも、税をふくまない1200のほうが入っています。ねだんを固定するしくみと、税が変わるかもしれない事情の、両方に答えを出した書き方です。
学校の図書室の本には、さらにもう1まい、図書室がはったシールのバーコードがついていることがあります。あれは出版社がつけた番号ではなく、学校が自分のところの本を数えるためにつけた番号です。同じ本が2さつあれば、上の段の番号は同じでも、シールの番号はちがいます。「だれが何のためにつけた番号か」で、意味がまったく変わるのです。
13けたのうち、会社に割りあてられるのは7けた、その会社が商品につけられるのは3けたでした(新しいほうの分け方の場合です)。3けたということは、使える番号は000から999までの1000通りです。
1000種類と聞くと多そうですが、飲み物を作っている会社を思いうかべてください。味ちがい、サイズちがい、期間限定。中身が同じでも、500mLと2Lは別の番号です。ねだんも在庫も別々に数えたいのだから、当然です。そう考えると、1000通りはあっという間に足りなくなります。
ちなみに、13けた全部を自由に使えたとしたら、10を13回かけた数だけ組み合わせが作れることになります。実際はそうなっていません。はじめの2けたは国、次の7けたは会社と、意味で区切ってしまったぶんだけ、使える組み合わせは減ります。その代わり、番号を見ただけで「どこの国の、どの会社か」が分かるようになりました。自由さと分かりやすさを、交かんしたわけです。
最初の話にもどります。ねだんが商品ではなく店のコンピュータにあるおかげで、店にはいくつもできることが生まれました。
| できること | ねだんが商品に入っていたら |
|---|---|
| 夕方から値引きする | できない(袋を刷り直すことになる) |
| 店ごとにねだんを変える | できない(店ごとに別の袋がいる) |
| 税が変わった日に対応する | できない(全商品を入れかえる) |
| ポイントやクーポンを引く | できない(引いたあとの数字が入っていない) |
| 売れた数をその場で記録する | 番号がないので何が売れたか分からない |
いちばん下の行が、社会科でいうPOSシステムです。レジは、ねだんを聞きに行くついでに「この番号の商品が、いま1つ売れました」と記録しています。会計をする作業が、そのまま調査になっているのです。だからコンビニは、だれかに聞いて回らなくても、何が売れているかを毎日知ることができます。
この便利さのもとをたどると、けっきょく「商品に番号をつけた」という、たったひとつの決断に行きつきます。ねだんを書かずに、番号だけを書いた。書かなかったからこそ、あとからいくらでも変えられるようになりました。何を入れるかと同じくらい、何を入れないかが大事だったということです。
Q1 バーコードにねだんが入っていないことを、お店に行かずに確かめる方法を1つあげてください。
A 値引きシールのはられた商品を見ればわかります。もとのバーコードはそのまま残っているのに、レジでは値引き後のねだんになります。同じ商品がスーパーとコンビニでちがうねだんなのに、袋の番号が同じであることも証拠になります。
Q2 バーコードの13けたが 4912345678904 でした。×1、×3を交互にかけて足すと、いくつになりますか。正しく読めた番号だといえますか。
A 4+27+1+6+3+12+5+18+7+24+9+0+4 = 120。120 ÷ 10 = 12 あまり 0 なので、10でわり切れます。検査は通っているので、正しく読めた番号だといえます。
Q3 ある商品の左の12けたが 490123456789 でした。いちばん右に置く検査の数字はいくつですか。
A ×1、×3を交互にかけて足すと 4+27+0+3+2+9+4+15+6+21+8+27 = 126。126 を10でわったあまりは 6 なので、10 - 6 = 4 を置きます。できあがりは 4901234567894 です。
Q4 1けたの読みまちがいなら必ず見つかるのに、となり合う2けたの入れかえは見つからないことがあるのはなぜですか。
A 1けたまちがえると合計が1から27のあいだのどれかだけ動くので、10の倍数からはずれます。ところが入れかえの場合は、2つの数字の差の2倍だけ動きます。差が5なら動く量は10になり、10の倍数のままなので気づけません。4と9、0と5、1と6、2と7、3と8の組み合わせがこれにあたります。
Q5 本のバーコードだけ、下の段にねだんが入っています。同じことをお菓子でやると、何が困りますか。
A ねだんを変えられなくなります。夕方の値引きも、店ごとのちがうねだんも、税が変わったときの対応も、ぜんぶ袋を刷り直すことになってしまいます。本にねだんを入れてよいのは、本が日本中どこでも同じねだんで売られる決まりになっているからです。
Q1は「ねだんが外にある」こと、Q2とQ3は検査の数字の計算、Q4はそのしくみの限界、Q5は本という例外でした。ばらばらに見えますが、もとにあるのは「バーコードは名ふだであって、ねだん札ではない」という一行だけです。
バーコードそのものは、小学校の社会科では単元になりません(5年生で扱うのはPOSシステムとデータの活用までで、コードの構造は教科書に出てきません)。それでも取り上げたのは、バーコードが教わるよりずっと先に、毎日目に入ってきてしまうものであり、しかも「ねだんが入っている」という、あやしい思いこみつきで広まっているからです。
ご家庭でしていただけると効果が大きいのは、お菓子の袋を1つ持ってきて、13けたを紙に書き写し、×1と×3を交互にかけて足すことです。5分あれば終わります。合計の一の位が0になったときの「本当になった」という驚きが、この記事の残りをぜんぶ運んでくれます。うまくいかないときは、書き写しまちがいか、13けたではない短いバーコード(小さな商品に使われます)である可能性が高いので、別の商品でお試しください。
本の裏の2段目にねだんが入っている話は、実物で確かめられるので反応が良い部分です。答えを先に言わずに「この数字のどこかに、この本のねだんが隠れているよ」と言ってから探してもらうと、見つけたときの手ごたえが大きくなります。
なお本文では、短いバーコードの検査の計算には触れていません。13けたとは×1と×3の並ぶ順番が入れかわるため、同じやり方では合わず、ここで説明すると、読者が自分の手で確かめたときにかえって混乱するからです。「短いものもある」という事実だけを示し、計算のしかたはあえて書いていません。左半分と右半分で線のもようを変えてある具体的な決まりも、同じ理由でここでは扱っていません。仕組みの形を先に持っておくほうが、細かい決まりを先に覚えるよりも、あとの学習につながりやすいと判断したためです。