5年 算数 速さ

車は、見えてからすぐには止まれない ── 速さが2倍になると、止まるまでの長さは約3倍になる

横断歩道をわたろうとして、近づいてくる車の運転している人と目が合った。気づいてくれたから、止まってくれる。そう思ってわたり始めた人は、ここでひとつ大事なことを飛ばしています。気づくことと止まることは、別のできごとです。気づいた人がブレーキをふんでも、車はそこから何十メートルも進みます。時速60kmなら、止まるまでに進むのはおよそ32.5m。25mプールを1本ぶんこえる長さです。しかもこの長さは、速さが2倍になっても2倍にはならず、3倍近くまでふくらみます。理由は魔法でもむずかしい物理でもなく、5年でならった速さを秒速に直すわり算と、同じ数を2回かけるかけ算だけで出てきます。自分の身を守る数を、自分の手で出してみましょう。

「止まるまで」は、2つの長さの足し算になっている

車が止まるまでを1本の長さで考えると、いつも短く見積もってしまいます。ここは2つに分けて数えるのが正しいやり方です。

① 空走距離(くうそうきょり) 危ないと気づいてから、 ブレーキがきき始めるまでに進む長さ ② 制動距離(せいどうきょり) ブレーキがきき始めてから、 止まるまでに進む長さ 止まるまでの長さ = ① + ②

①のあいだ、車はまったく減速していません。気づいた人の足がブレーキに届くまで、車はそれまでと同じ速さのまま走っています。ここがいちばん見落とされるところです。「目が合った」は①の入口にすぎず、車の速さはまだ1も減っていないのです。

②に入ると、やっと速さが減り始めます。①は「人の話」、②は「タイヤと道路の話」で、性質がまったくちがいます。だから合わせて考えるときも、別々に計算してから足します。

①空走距離は、秒速に直せばすぐ出る

危ないと気づいてからブレーキがきき始めるまでの時間は、自動車の教習でよく0.75秒ほどという目安が使われます。人によって、体の調子によって変わる数ですが、まずはこの目安で計算します。ここで必要なのは、時速を秒速に直すことです。

時速60km を 秒速に直す 60km = 60000m 1時間 = 3600秒 60000 ÷ 3600 = 16.666…(m) → 秒速 約16.7m

1秒で16.7mも動きます。教室の横の長さが8mくらいだとすると、1秒で教室2つ分です。この速さで0.75秒進むと、

16.666… × 0.75 = 12.5(m)

ぴったり12.5mになりました。わり切れない数が出てきても、最後まで通して計算すればきれいな数になることがあります。とちゅうで四捨五入しないほうが、答えがきれいになるという体験も、ここでしておくとよいところです。

もうひとつの出し方でも確かめておきます。1時間に60km進むのなら、0.75秒は1時間を4800でわった時間です。

3600 ÷ 0.75 = 4800 60000 ÷ 4800 = 12.5(m)

別の道を通っても12.5mになりました。2通りで同じ数が出たら、その数は信用してよい、というのが算数の確かめ方です。

②制動距離は、同じ数を2回かける

ブレーキがきき始めてから止まるまでの長さは、かわいたアスファルトの道で、およそ次の式で見積もれます。

制動距離の目安(m) =(時速の数)×(時速の数)÷ 180

時速60kmなら、

60 × 60 = 3600 3600 ÷ 180 = 20(m)

20mです。①の12.5mと合わせると、

12.5 + 20 = 32.5(m)

これが最初に書いた32.5mです。ここで式のかたちをよく見てください。①は速さを1回だけ使っていますが、②は速さを2回かけています。この「1回か2回か」のちがいが、このあとの話のすべてを決めます。

なぜ2回かけるのかを、5年生の言葉で言うとこうなります。速さが2倍になると、止まるまでにかかる時間も2倍になり、そのあいだに動いている速さも2倍です。長くかかる時間の間を、速い速さで動くのですから、進む長さは2倍の2倍になります。時間と速さの両方がのびるので、かけ算が2回出てくるのです。

表にすると、2倍のところで何が起きているか見える

0.75秒と÷180の目安で、速さだけを変えて計算した表です。わり切れないところは小数第1位までにまとめました。

速さ秒速①空走距離②制動距離止まるまで
時速20km約5.6m約4.2m約2.2m約6.4m
時速30km約8.3m6.25m5m約11.3m
時速40km約11.1m約8.3m約8.9m約17.2m
時速50km約13.9m約10.4m約13.9m約24.3m
時速60km約16.7m12.5m20m32.5m
時速80km約22.2m約16.7m約35.6m約52.2m

時速30kmと時速60kmの行をならべます。速さはちょうど2倍です。

①空走距離 6.25 → 12.5 12.5 ÷ 6.25 = 2(倍) ②制動距離 5 → 20 20 ÷ 5 = 4(倍) 止まるまで 11.25 → 32.5 32.5 ÷ 11.25 = 2.888…(約2.9倍)

①はきちんと2倍、②はきっちり4倍。そして合計は、2倍でも4倍でもない約2.9倍という中間の数になりました。①と②のまざり方で決まるので、途中の数になるのです。

ほかの組でも見てみます。時速20kmと時速40km(2倍)では 17.2222… ÷ 6.3888… = 2.695…で約2.7倍、時速40kmと時速80km(2倍)では 52.2222… ÷ 17.2222… = 3.032…で約3.0倍。同じ「2倍」なのに、答えが少しずつ大きくなっています。速いところでは②の重みが増すので、4倍のほうへ近づいていくからです。

だから「速さが2倍になれば止まるまでも2倍」という感覚は、どの速さで比べてもまちがいです。実際は2.7倍から3倍ほど。表のいちばん右の列が、上の行の2倍よりいつも大きくなっていることを確かめてみてください。

雨の日は、同じ速さのままで長さが変わる

②はタイヤと道路の話でした。だから道がぬれると数が変わります。ぬれたアスファルトでは、目安のわる数が半分ほどになります。

ぬれた道の制動距離の目安(m) =(時速の数)×(時速の数)÷ 90 時速60km のとき 3600 ÷ 90 = 40(m) 止まるまで 12.5 + 40 = 52.5(m)

わる数が半分になると答えは2倍。②だけが20mから40mへ倍になり、合計は32.5mから52.5mになりました。ここで表をもう一度見てください。かわいた道の時速80kmが約52.2mでした。つまり、

雨の日の時速60km ≒ かわいた日の時速80km

雨の日は、速さを変えていないのに、20km速く走っているのと同じくらい止まれないということです。①は人の話なので雨でも12.5mのまま変わりません。変わったのは②だけなのに、合計はここまで動きます。かさをさして歩いているときに車の音が聞こえにくいことまで重ねると、雨の日の横断は数の上でもはっきり不利です。

「ちょっとよそ見」は、①をまるごと2倍にする

0.75秒は、前を見ていて、危ないと思ったらすぐ足が動く状態の目安です。もし気づくのが0.75秒おくれて、合わせて1.5秒になったら①はどうなるでしょうか。

時速60km・反応が1.5秒 16.666… × 1.5 = 25(m) 止まるまで 25 + 20 = 45(m)

①だけで25m、合計45mです。時間が2倍になると、①はそのまま2倍になります。②は速さの話なので20mのまま動きません。よそ見でのびるのは①だけ、雨でのびるのは②だけ。のびる場所がちがうと覚えておくと、どちらも重なった日がいちばん危ないことがすぐ分かります。

雨の日・反応1.5秒・時速60km 25 + 40 = 65(m)

65mです。晴れて集中しているときの32.5mのちょうど2倍になりました。同じ車、同じ速さ、ちがうのは道のぬれ具合と、前を見ていたかどうかだけです。

32.5mを、体で知っている長さに直す

メートルのままでは、長いのか短いのか分かりません。自分が知っている長さで言いかえます。

25mプール 32.5 ÷ 25 = 1.3(本ぶん) 教室の横8m 32.5 ÷ 8 = 4.06…(約4つ分) 歩幅0.6m 32.5 ÷ 0.6 = 54.1…(約54歩)

プール1本と、さらに3割。歩いて54歩です。54歩ぶん先にいる車は、いま目が合っても、自分のところまで来てからやっと止まるということになります。横断歩道の前で車を見たとき、「あの車はもう止まれない位置にいるかもしれない」と考えられるようになるのが、この計算のねらいです。

反対の向きからも考えられます。自分が横断歩道をわたるのに何秒かかるでしょうか。道幅8mを秒速1mで歩けば8秒です。時速60kmの車は8秒で約133m進みます(16.666… × 8 = 133.33…)。100mより遠くに見える車でも、わたり終わる前に着くのです。遠いから大丈夫、という目の感覚は、秒速に直すと簡単にくずれます。

自転車でも、①は自分で試せる

①は人の反応の話なので、車でなくても同じように出せます。自転車の時速15kmで計算します。

15000 ÷ 3600 = 4.166…(秒速 約4.2m) 4.166… × 0.75 = 3.125(m)

気づいてからブレーキがきき始めるまでに、3mちょっと進んでいます。自分の自転車の前に3mの線をひいてみると、「見えたときにはもうそこまで行っている」長さが目で分かります。②は自転車のブレーキやタイヤ、荷物の重さで大きく変わるので、車の÷180の目安はそのままでは使えません。ここでは①だけを出しておいて、「ブレーキをかける前にも進んでいる」ことを確かめるのに使ってください。

曲がり角で出会いがしらにぶつかる事故が多いのも、①で説明できます。角のかげから何かが出てきたとき、すでに3m進んでいるなら、角の手前3mのところではもう手おくれです。だから角では、気づいてから止まるのではなく、気づく前に速さを落としておくのが答えになります。速さを半分の時速7.5kmにすれば①も半分の約1.6mになり、②はもっと短くなります。

やってみよう

Q1 時速36kmを秒速に直しなさい。また、0.75秒で進む長さを求めなさい。

A 36km = 36000m、36000 ÷ 3600 = 秒速10m。10 × 0.75 = 7.5mです。時速36kmはちょうど秒速10mになる、覚えておくと便利な数です。

Q2 時速36kmの制動距離を、÷180の目安で求めなさい。止まるまでの長さも出しなさい。

A 36 × 36 = 1296、1296 ÷ 180 = 7.2m。止まるまでは 7.5 + 7.2 = 14.7mです。時速36kmでも、教室の横(8m)の2つ分近く進みます。

Q3 時速30kmと時速90kmでは、制動距離は何倍ちがいますか。速さは3倍です。

A 30 × 30 ÷ 180 = 5m、90 × 90 ÷ 180 = 45m。45 ÷ 5 = 9倍です。速さが3倍なら 3 × 3 = 9 で9倍。②は同じ数を2回かけるところなので、速さの倍数もそのまま2回かかります。

Q4 時速90kmで止まるまでの長さを求めなさい。空走は0.75秒とします。

A 90000 ÷ 3600 = 秒速25m、25 × 0.75 = 18.75m。制動は45m。合わせて 63.75mです。時速30kmの11.25mとくらべると 63.75 ÷ 11.25 = 5.666…で約5.7倍。速さ3倍で、止まるまでは3倍でも9倍でもない数になります。

Q5 ぬれた道を時速40kmで走るとき、止まるまでの長さは何mですか。かわいた道の時速40kmとくらべなさい。

A 空走は 40000 ÷ 3600 = 11.111…、11.111… × 0.75 = 8.333…で約8.3m。ぬれた制動は 1600 ÷ 90 = 17.777…で約17.8m。合計は約26.1m。かわいた道の約17.2mより約8.9m長いです。のびた分は、ちょうどかわいた道の制動距離とほぼ同じ長さになります。

Q6 「時速40kmは時速20kmの2倍だから、止まるまでも2倍で足りる」と考えた人がいます。どこがちがいますか。

A ①は2倍で正しいのですが、②は 2 × 2 = 4 で4倍になります。実際は 6.3888… → 17.2222… なので約2.7倍。2倍と思って残しておいた長さでは足りません。「速さに比例する」と言えるのは①だけです。

Q7 時速60kmの車が、止まるまでに進む32.5mを走りぬけるのに何秒かかりますか(速さが減ることは考えず、ずっと秒速16.666…mとして計算しなさい)。

A 32.5 ÷ 16.666… = 1.95秒。実際にはブレーキで速さが減るのでもう少し長くかかりますが、2秒ほどで起きてしまうできごとだと分かります。「危ない」と思ってから声を出すまでの時間と、ほとんど変わりません。

まとめ

おうちの方へ

5年の「速さ」は、道のり・時間・速さの3つを行き来する練習で終わってしまいがちな単元です。公式を3つ覚えるより、時速を秒速に直すわり算が自分でできるようになることのほうが、あとまでずっと役に立ちます。この記事は交通安全の話に見えますが、やっていることは単位の変換と、比例するもの(空走距離)と比例しないもの(制動距離)の見分けだけです。0.75秒や÷180は目安の数で、車種・タイヤ・荷物・路面で変わります。数そのものを覚えるのではなく、2つに分けて足すという組み立てのほうを持ち帰っていただければ十分です。

お子さんと確かめるなら、道路ではなく安全な場所で「32.5m」を歩数で測るのがおすすめです。歩幅60cmなら約54歩。歩いてみると、車1台ぶんや2台ぶんではないことが体で分かります。また、雨の日に窓から車を見ながら「いまの速さなら止まるまで何m?」と声に出して計算する遊びも、秒速の練習になります。なお、実際の交通場面では「計算したから大丈夫」ではなく、車が完全に止まってからわたるのが唯一の正解です。計算は、止まってから動くという判断を自分で納得するために使ってください。