5年の理科では、メダカのたまごの中や、花のおしべにつく花粉を調べます。どちらも、目をどれだけ近づけても見えません。そこで使うのがけんび鏡です。ところが教室では、のぞいても真っ白、真っ暗、あるいはぼんやりしたまま時間だけが過ぎる、ということがよく起きます。原因のほとんどは、レンズの性能ではなく明るさ・ピント・倍率の順番です。この順番には、ひとつずつ理由があります。
まず、けんび鏡が何をしている道具なのかをはっきりさせます。
「小さいものを大きく見る道具」と説明されることが多いのですが、それだと虫めがねと同じになってしまいます。虫めがねは、小さい字や虫の足のように、もともと目に見えているものを見やすくする道具です。けんび鏡がやっているのはそこではありません。メダカのたまごの中で動いている心ぞうも、花粉のとげのような形も、目ではあることすら分からないものです。
つまり、けんび鏡は「見えているものを大きくする」道具ではなく、見えなかったものを、あるかないかの段階から見つける道具です。ここが分かると、観察の目的も変わります。「大きく見えた」で終わらせず、「何が、いくつ、どんな形であったか」まで書けたときに、はじめて記録になります。
けんび鏡には、目を当てる接眼(せつがん)レンズと、見るものの近くにある対物(たいぶつ)レンズの2つがあります。倍率は、この2つのかけ算で決まります。
ここで気をつけたいのは、400倍というのは長さが400倍に見えるという意味だ、ということです。面積が400倍ではありません。0.1ミリメートルのものは、400倍にすると40ミリメートル=4センチメートルに見えます。指の先ほどの大きさです。この感覚をもっておくと、「見えているこれは、実際には何ミリくらいか」を逆算できるようになります。
そして、倍率を上げると必ず2つのことが同時に起こります。見える範囲がせまくなることと、暗くなることです。これが、あとで出てくる「低い倍率から始める」という決まりの理由になります。
けんび鏡は、うすくて光を通すものしか見られません。光を下から当てて、その光が通りぬけたところを見ているからです。だから、見たいものはガラスにはさんで、うすく平らにしてのせます。これをプレパラートといいます。
| 手順 | やること | 理由 |
|---|---|---|
| ① | スライドガラスに、見たいものを1つのせる | たくさんのせると重なって形が分からない |
| ② | 水を1てき落とす | かわくと形がちぢむ。水があると光も通りやすい |
| ③ | カバーガラスを、はしから静かに下ろす | まっすぐ落とすと空気が入り、あわが黒い丸に見えてしまう |
| ④ | はみ出た水をろ紙で吸う | 水がレンズにつくのを防ぐ |
③の「はしから下ろす」は、面どうくさく見えて実はいちばん効きます。ピンセットでカバーガラスのはしをスライドガラスにつけ、もう一方をゆっくりたおすように置くと、空気が横へ追い出されていきます。のぞいたときに、まわりが黒くふちどられた丸がたくさん見えたら、それは生き物ではなく空気のあわです。作り直せば消えます。
けんび鏡の手順は、丸暗記しようとすると必ず混ざります。次の4段階の順番として覚えます。
1の明るさが先なのは、暗いままでは目当てのものがあっても気づけないからです。反しゃ鏡を動かし、のぞいたときに丸い視野が均一に明るくなる向きをさがします。ここで直射日光を反しゃ鏡に当ててはいけません。光が強すぎて目をいためます。窓から入る明るい光を使い、日光そのものは使わない、と覚えます。
2で低い倍率から始めるのは、さきほどの「倍率を上げると見える範囲がせまくなる」という性質があるからです。いきなり400倍にすると、目当てのものがたまたま視野に入っている確率が低く、何も見つからないまま時間が過ぎます。広く見える倍率でまず見つける、というのが順番の意味です。
3のピントには、けんび鏡でいちばん大事な決まりがあります。
まず、横から見ながら調節ねじを回し、対物レンズとプレパラートをぎりぎりまで近づけます。次に、のぞきながら、今度は遠ざける向きにゆっくり回してピントを合わせます。近づける動きを「見ながら」やる、遠ざける動きを「のぞきながら」やる、という組み合わせです。
なぜこの順番なのか。のぞきながら近づけると、ピントが合う位置を通りすぎたことに気づけず、対物レンズがカバーガラスにぶつかります。ガラスは割れ、レンズにも傷がつきます。遠ざけながら合わせれば、行きすぎても何も当たりません。ぶつかる向きの動きだけは、目で見て確かめる——これがこの手順のすべてです。
それでもピントが合わないときは、たいていプレパラートが分あつすぎるか、見たいものが視野の外にあります。倍率を1段下げてやり直すほうが早いことが多いです。
けんび鏡で見える像は、実物と上下も左右も逆になっています。これは知らないと必ずつまずきます。
視野のすみに見つけたものを真ん中へもってこようとして、思ったのと反対に逃げていく、という経験はここから来ています。「逆に動かす」と覚えるより、いちど逆に動いてしまったら、そのままもう一方の向きへ倍もどすと考えたほうが、手が早く慣れます。
倍率を上げるのは、目当てのものを視野の真ん中に置いてからです。すみに置いたまま上げると、せまくなった視野から外れて消えます。
観察したら記録します。けんび鏡のスケッチには、絵の上手さとは別のきまりがあります。
| きまり | やり方 |
|---|---|
| 線でかく | かげをつけたり、ぬりつぶしたりしない。細い線1本で形を表す |
| 見えたものだけかく | 知っている図を思い出してかき足さない |
| 倍率を書く | 「100倍」など。大きさを他の人が判断できるようにするため |
| 気づきを文で書く | 「丸い形が2つならんでいた」など、絵の横に言葉で残す |
とくに2つめが大切です。教科書で見た花粉の図を思い出しながらかくと、それは自分が観察した記録ではなくなります。ぼんやりしていたならぼんやりしたまま、数がはっきりしないなら「3つか4つ」と書きます。あとで見返したとき、本当に見えたことだけが書いてある記録が、いちばん役に立ちます。
なお、けんび鏡以外の器具(メスシリンダー・電子てんびんなど)の使い方は、6年の「実験器具の使い方」の記事にまとめてあります。
| やってはいけないこと | 理由 |
|---|---|
| 反しゃ鏡に直射日光を当てる | 光が強すぎて目をいためる |
| のぞきながら対物レンズを近づける | 行きすぎに気づけず、ガラスとレンズがこわれる |
| レンズを服やティッシュでふく | 細かい傷がつく。専用の紙を使う |
| 片手で持って運ぶ | 接眼レンズが落ちる。アームと台座を両手で持つ |
片づけるときは、いちばん低い倍率にもどしてから、レンズを外して箱にしまいます。次に使う人が、また「低い倍率から」始められるようにするためです。
明るさは足りているのにピントが合っていない状態です。対物レンズを低い倍率にもどし、横から見て近づけてから、のぞきながらゆっくり遠ざけます。プレパラートに何ものっていない(水だけ)ということも実際によくあるので、いちど外して、うすい色がついているか目で確かめます。
空気のあわです。生き物ではありません。カバーガラスをはしから静かに下ろすところからやり直します。ふちがくっきり黒くて、まん丸なものは、まず空気だと思って間違いありません。
見たいものが視野のすみにあったためです。低い倍率にもどし、プレパラートを逆向きに動かして真ん中に置いてから、もう一度上げます。倍率を上げるとピントも少しずれるので、微調節のねじで合わせ直します。
Q1 接眼レンズ10倍、対物レンズ40倍のとき、倍率は何倍?
A 400倍(10 × 40 = 400)。長さが400倍に見えるという意味。
Q2 ピントを合わせるとき、対物レンズを近づける動きはどう見る?
A 横から見ながら。のぞきながら近づけると、ぶつかったことに気づけない。
Q3 見たいものを視野の右へ動かしたい。プレパラートはどちらへずらす?
A 左。上下左右が逆に見えているため。
Q4 倍率を上げる前に、必ずやっておくことは?
A 見たいものを視野の真ん中に動かすこと。すみのままだと視野から外れて消える。
Q5 黒いふちのついたまん丸がたくさん見えた。これは何?
A 空気のあわ。カバーガラスをはしから下ろし、作り直す。
5年は、目で見えるものを調べる段階から、道具を通してしか分からないものを調べる段階へ移る学年です。ここでうまくいかないお子さんの多くは、手先が不器用なのではなく、手順のひとつひとつが何のためにあるのかが結びついていません。「なぜ低い倍率から始めるのか」「なぜ遠ざけながら合わせるのか」を一度言葉にできると、順番を忘れても自分で組み立て直せるようになります。ご家庭で器具を用意する必要はありません。虫めがねで新聞の字を見て、近づけたり遠ざけたりしながら「いちばんはっきり見える距離がある」ことを体感するだけでも、ピント調節の意味は十分に伝わります。「メダカのたんじょう(5年)」「花のつくりと実(5年)」とあわせて読むと、けんび鏡で何を見つけることになるのかが先に分かり、観察の日の集中がまるで変わります。