天気予報は毎日「湿度60%」と言います。その数字を、多くの人が空気の中の水の量をはかったものだと思っています。ちがいます。湿度の60%は、「その日のその温度で入る上限のうち、何%までうまっているか」という割合です。しかも、この「上限」のほうが毎日動きます。だから、夏の30℃の60%と、冬の10℃の60%では、じっさいに入っている水の量が3倍以上ちがいます。さらに言えば、水を1てきも足さず、1てきも取らなくても、気温が変わるだけで湿度の数字は大きく上下します。この記事では、その仕組みを、わり算だけで最後まで自分の手で出します。
5年生の理科「天気の変化」では、雲の動きや気温、風、雨のふり方を調べて、日本の天気が西から東へ動いていくことを学びます。このとき観測カードに書く欄として、気温といっしょに湿度が出てくることがよくあります。テレビやアプリの天気予報にも、必ずと言っていいほどこの数字がならんでいます。
ところが、その数字が何を何で割ったものなのかは、小学校の教科書ではほとんど説明されません。正面から出てくるのは中学2年生で、そのときに「飽和水蒸気量(ほうわすいじょうきりょう)」という長い名前といっしょに登場します。つまり多くの人は、意味を習わないまま、毎日その数字だけを見ていることになります。
もったいない話です。湿度の中身は、5年生の算数でならう割合そのものだからです。必要なのはかけ算とわり算だけで、むずかしい式は1つも出てきません。そして分かった瞬間に、「冬になぜ加湿器を出すのか」「なぜ夜のほうが湿度が高いのか」「なぜ同じ気温でも今日は洗たく物がかわかないのか」が、いっぺんに説明できるようになります。
紙と鉛筆だけです。使う計算は、2けた×小数のかけ算と、わり算だけ。家に温度と湿度が両方出る時計(温湿度計)があれば、最後の「やってみよう」で自分の家の空気を計算できます。なくても読み進められます。
「湿度=空気の中の水の量」だと思っていると、説明がつかなくなる出来事が身のまわりにあります。3つならべます。どれも、そのへんで実際に起きていることです。
①は、外から入ってきた空気の水が、玄関でどこかへ消えたわけではありません。②の夜も、空気に水がわいて出たわけではありません。③にいたっては、まったく同じ「70%」という数字が、正反対の感じ方になっています。
この3つは、湿度を「量」だと思っているかぎり、ずっと変な話のままです。ところが湿度は割合だと分かったとたん、3つとも同じ1つの理由で説明がついてしまいます。
5年生の算数では、割合をこう習います。くらべる量 ÷ もとにする量。テストの点でいえば、80点 ÷ 100点満点 = 0.8 で80%です。このとき満点のほうが「もとにする量」で、ふつうは動きません。
湿度も、形はまったく同じです。
ここまでなら、消費税やテストの点と変わりません。ところが湿度には、ほかの割合にはない特別なところが1つあります。満点にあたる「上限」が、気温によって毎日変わってしまうのです。
テストでたとえるなら、きのうは100点満点で、今日は30点満点というようなもの。同じ「60%」でも、きのうの60%は60点、今日の60%は18点です。点数だけ聞いても、満点を聞かないかぎり、どれくらいできたのかは分かりません。湿度でまったく同じことが起きています。気温を聞かずに湿度だけを聞いても、空気にどれだけ水が入っているかは決められないのです。
空気が持てる水じょう気の量には上限があり、あたたかい空気ほど大きくなります。雲のでき方でも出てきた考え方です。上限のおよその値は、温度ごとに次のように決まっています。1立方メートル(1辺1mの箱いっぱい分)の空気に入る、水のグラム数です。
| 気温 | 0℃ | 5℃ | 10℃ | 15℃ | 20℃ | 25℃ | 30℃ |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 上限(満点) | 約5g | 約7g | 約9g | 約13g | 約17g | 約23g | 約30g |
表をよく見てください。気温が10℃上がるごとに、上限はおよそ2倍になっています。0℃の約5gから30℃の約30gまで、6倍にもひらきます。これが、湿度という数字をふりまわしている正体です。
この表の数字は、なぜこうなるのかを小学校で求める必要はありません。体温計の目もりのように、決まっているものとして読んでかまいません。大事なのは、上限が「温度で決まっていて、自分では動かせない」という一点だけです。
では、記事の題名にした計算をします。夏の30℃で湿度60%の空気と、冬の10℃で湿度60%の空気。どちらも同じ「60%」です。中に入っている水は、それぞれ何gでしょうか。
予報で読み上げられる数字はどちらも60%ですが、中身は18gと5.4g。3倍以上のひらきがあります。同じ「60%」と言われても、夏の空気にはビー玉ほどの水が入っていて、冬の空気にはスプーン1ぱい分しか入っていない、というくらいのちがいです。
さっきの③のなぞは、これで解けました。夏のむしむしと冬のかさかさは、同じ数字が正反対に見えたのではありません。はじめから、まったくちがう量の水を、同じ数字で呼んでいただけです。
次は①の冬の朝です。外の空気は0℃で湿度70%だとします。この空気が家の中に入り、暖ぼうで20℃まであたためられました。水を足してはいません。窓もしめてあります。それでも湿度はどうなるでしょうか。
70%が21%になりました。空気の中の水は、3.5gからまったく動いていません。変わったのは分母(上限)だけです。5gだった満点が17gに広がったので、同じ3.5gがとても少なく見えるようになった、というだけのことです。
冬にのどがかわき、くちびるが切れ、加湿器を出すことになる理由が、この1行のわり算に全部入っています。冬の部屋が乾くのは、部屋のどこかから水がにげているからではなく、あたためたせいで満点だけが大きくなったからです。だから、水を足す(加湿する)か、温度を上げすぎないか、対策はこの2つしかありません。
ついでに言うと、この計算は夏の冷ぼうでは逆向きに働きます。部屋を冷やすと上限が小さくなるので、水を足していないのに湿度の数字は上がります。エアコンが水をぽたぽた外に出しているのは、上限からあふれた分を強引に水にもどして、すてているからです。
②の夜のなぞも、同じ表で解けます。昼すぎ、気温20℃で湿度50%だった空気が、夜になって10℃まで冷えたとします。
50%が94%になりました。だれも水をまいていません。雨もふっていません。満点が17gから9gへ小さくなったので、同じ8.5gが満タン近くに見えるようになっただけです。夜や明け方に湿度が高くなるのは、日本中どこでも毎日起きている、ただのわり算です。
では、もう少し冷えて、上限が8.5gを下回ったらどうなるでしょうか。湿度は100%より上に行けません。入りきらない分は、空気の中にとどまっていられず、水のつぶになって出てきます。朝、草の葉に水玉がついているのは、これです。理科ではこれを結ろ(けつろ)といい、水があふれ出す温度のことを露点(ろてん)と呼びます。
つまり、霧・朝つゆ・まどのくもり・氷水を入れたコップの表面・そして空にうかぶ雲は、全部この「100%に届いた」という同じ出来事です。何に冷やされたかがちがうだけで、起きていることは1つしかありません。ここから先は雲のでき方と、自然の中の水のゆくえにくわしく書いてあります。
ここで、まちがえやすいところを1つつぶしておきます。「湿度100%」と聞くと、空気がぎっしり水でうまっている、水の中にいるような状態を思いうかべるかもしれません。じっさいはまるでちがいます。
満タンになっても、水は空気全体の重さの2%ほどしかありません。残りの98%は、ちっ素や酸素など、水ではない気体です。湿度100%というのは「空気が水でいっぱい」という意味ではなく、「この温度で受け入れられるぶんだけは受け入れ終わった」という意味です。
この2%という小ささを知っておくと、湿度が100%でも息ができるのはなぜか、という当たり前のことがきちんと説明できます。空気は、思っているよりずっと水を持てません。持てないからこそ、少し冷えただけであふれて、雲になったり露になったりするのです。
湿度をもう一歩使えるようにします。大事なのは%そのものより、上限まであと何g残っているか、つまり「すきま」です。洗たく物がかわくのも、汗が引くのも、このすきまに水が入っていく現象だからです。
気温はどちらも25℃で同じです。それでも、受け入れられる水の量は2倍以上ちがいます。同じ気温、同じ風でも、湿度が高い日は洗たく物がかわかないのは、干した服から水が出ていこうとしても、行き先のすきまがもう残っていないからです。
人の体でも同じことが起きます。汗は、皮ふの上で蒸発するときに体から熱をうばい、体温を下げてくれます。ところが、すきまが小さいと汗は蒸発できず、ただ流れ落ちるだけになります。そうなると、せっかくかいた汗が体温を下げる仕事をしてくれません。夏の天気予報が、気温だけでなく湿度を合わせた「暑さ指数」を出すのは、このためです。気温が同じ31℃でも、湿度が高い日のほうが体にはきびしくなります。暑い日は、気温の数字だけで判断しないでください。
| よくある思いこみ | ほんとうは |
|---|---|
| 湿度が高い=空気の中の水が多い | 上限に対する割合。上限は温度で変わるので、水の量は湿度だけでは決まらない |
| 湿度100%=空気がほとんど水 | 満タンでも空気の重さの2%ほど。残りは水ではない気体 |
| 夜に湿度が上がるのは、水がふえたから | 水は同じ。気温が下がって上限が小さくなっただけ |
| 外が70%なら、家の中も70% | あたためると上限が大きくなる。同じ空気でも20%台まで落ちる |
| 湿度の数字だけ見れば、かわき具合が分かる | 気温とセットでなければ、水の量もすきまも計算できない |
| 結ろは、コップや窓から水がしみ出したもの | まわりの空気が冷やされ、入りきらなくなった水が外に出たもの |
6つならべましたが、根は1つです。湿度を「量」だと思うか、「割合」だと思うか。そこだけ入れかえれば、あとは表とわり算で全部つながります。
ここからは、自分の家の空気で確かめる番です。温度と湿度が出る温湿度計があればいちばんですが、ないときは天気予報アプリの「今の気温・湿度」でも代わりになります。
① 1日の水の量を追いかける(3日間)
同じ場所で、朝・昼・夜の3回、気温と湿度をメモします。そのつど、上の表から上限を読み、上限 × 湿度 = 入っている水の量を計算して書きたします。%は大きく動くのに、gはあまり動かない日が見つかれば、この記事の中心が自分の手で確かめられたことになります。
② 暖ぼうの前と後をはかる(冬なら10分で終わる)
寒い部屋で気温と湿度をメモし、暖ぼうをつけて30分待ってから、もう一度メモします。水を1てきも足していないのに湿度が落ちていれば、計算2で出した「分母だけが大きくなった」が目の前で起きています。
③ ぬれタオルのかわく時間をくらべる
同じぬれ方のタオルを、湿度の高い日と低い日に、同じ場所・同じ時間帯に干して、さわった感じがかわくまでの時間をはかります。気温がなるべく近い2日を選ぶのがコツです。すきまの計算どおりの差が出るはずです。
④ 表を使って、逆から考えてみる
「20℃で湿度60%の部屋の空気を冷やしていくと、何℃くらいで水てきが出はじめるか」を考えてみてください。まず17×0.6を計算し、その答えが上限になる温度を表からさがします。計算に必要なものは、すべてこの記事の中にそろっています。
湿度は小学校では定義まで踏みこまず、中学2年の「飽和水蒸気量」で初めて正面から扱われます。そのため、毎日目にしている数字でありながら、意味を知らないまま通り過ぎてしまう代表格です。本文では、正式名称である相対湿度という語を前面に出さず、5年生の算数で学ぶ「くらべる量 ÷ もとにする量」の形にそろえて説明しました。湿度が難しく感じられる原因は、水蒸気の性質ではなく、割合の分母が毎日動くという一点にあると考えたためです。
ご家庭でしていただけると効果が大きいのは、温湿度計の数字を読むときに、湿度だけでなく必ず気温も声に出すことです。「今60%」ではなく「今20℃で60%」と言う習慣がつくだけで、分母を意識するくせがつきます。暖房をつける前と後で読み上げてみるのも、10分ほどでできて手ごたえがあります。
なお本文では、上限の値がなぜその数になるのかは扱っていません。温度と気体の性質を同時に追う必要があり、小学校の範囲では追いきれないためです。表の数値は計算しやすいように丸めた概数を示しています(実際は0℃で約4.8g、20℃で約17.3gなど)。また、暑さ指数については「気温だけで判断しない」という一点にとどめ、具体的な数値基準は書いていません。判断の基準は年齢や体調、活動の内容で変わり、記事の数字をそのまま当てはめるとかえって危険になりうると判断したためです。暑い日の行動については、お住まいの地域の発表と学校の指示に従ってください。