鉄のクリップは、水に入れるとすぐしずみます。ところが、同じ鉄でできた大きな船はうきます。この矛盾を解くのが、この記事のねらいです。
うくかしずむかを聞かれると、多くの人が「重いものはしずむ」と答えます。ところが、その説明では次の事実が説明できません。
クリップはたった1g、木のいたは2000gです。重さだけで決まるなら、逆の結果になるはずでした。
つまり、「重い・軽い」をそのままくらべても、うきしずみは説明できないということです。ではどこを見ればよいのでしょうか。
答えは、大きさ(体積)をそろえてから重さをくらべることです。もののうきしずみは、この一点で決まります。
体積とは、そのものが場所をどれだけ占めているかの量です。同じ1cm³の立方体を、いろいろな材料で作ってみます。
| 材料 | 1cm³あたりの重さ | 水では |
|---|---|---|
| 発ぽうスチロール | 約0.03g | うく |
| 木(すぎ) | 約0.4g | うく |
| 氷 | 約0.92g | うく |
| 水 | 1.0g | ─ |
| アルミニウム | 約2.7g | しずむ |
| 鉄 | 約7.9g | しずむ |
表をよく見ると、境目がはっきりしています。水の1.0gより軽いものはうき、重いものはしずんでいます。
ここが大事なところです。くらべる相手は、ほかのものではなく水そのものでした。うくかしずむかは、そのものと水との勝負なのです。
この「1cm³あたりの重さ」という考え方は、5年の算数で学ぶ単位量あたりの大きさとまったく同じ形をしています。混みぐあいを1㎡あたりの人数でくらべたのと同じように、材料を1cm³あたりの重さでくらべているわけです。
では最初の疑問にもどります。鉄は1cm³あたり約7.9g、水の8倍近くもあります。それなのに、なぜ鉄の船はうくのでしょうか。
秘密は、船の中が空どうになっていることです。
船を「鉄」とだけ見るのではなく、鉄と空気を合わせたひとかたまりとして見るのがコツです。そう見た瞬間、船は軽い材料に変わります。
だから船は、水が入ってくるとしずみます。中の空気が水に入れかわると、全体の1cm³あたりの重さが増えて、水より重くなってしまうからです。
アルミホイルを20cm四方に切り、2つ用意します。
① 1枚はぎゅっと丸めて小さなたまにする
② もう1枚は、ふちを立てて小さな箱の形にする
洗面器の水にそっと置くと、同じ重さ・同じ材料なのに、たまはしずみ、箱はうきます。
ちがうのは形だけ、つまり「中に空気を抱えているかどうか」だけです。箱の中に一円玉を少しずつ入れていくと、あるところで急にしずみます。その一円玉の枚数が、その船の限界です。
くらべる相手が水なら、水を変えれば結果も変わるはずです。実際そうなります。
生たまごは水道水に入れるとしずみますが、塩を大さじ数杯とかした食塩水では立ち上がるようにうきます。たまごは変わっていません。変わったのは、くらべる相手のほうです。
死海という湖で人が体をうかせたまま本を読める写真を見たことがあるかもしれません。あれは特別な体をしているからではなく、湖の水の塩分がとても濃いからです。ここでは、とけたものが液を重くするという知識がそのまま効いてきます。
逆に、油は1cm³あたり約0.9gで水より軽いので、水の上に層になって広がります。ドレッシングを置いておくと油が上に分かれるのは、この差が原因です。
うきしずみは実験しやすい題材ですが、条件を混ぜるとすぐ分からなくなります。
変える条件を一つだけにするのは、5年の理科でくり返し出てくる基本の作法です。うきしずみでは、材料を調べたいのか形を調べたいのかを、実験の前にはっきりさせておきます。
記録のしかたも決めておきます。「ういた・しずんだ」の二つだけでなく、「半分ほどしずんでとまった」という中間の状態も書き残してください。水とほぼ同じ重さのものは、この状態になります。
| しずみ方 | 水とくらべると |
|---|---|
| ほとんど水面の上 | ずっと軽い |
| 半分ほどしずむ | やや軽い |
| 中でとまって動かない | ほぼ同じ |
| 底まで落ちる | 重い |
しずみ方の深さそのものが情報になっています。うくかしずむかの二択ではなく、どのくらいうくかまで見ると、材料のちがいが読み取れます。
この考え方が分かると、日常の見え方が変わります。
| できごと | 理由 |
|---|---|
| 氷が飲み物にうかぶ | 氷は水よりわずかに軽い |
| ペットボトルがうく | 中の空気を合わせると軽い |
| うきわで体がうく | 体+空気で全体が軽くなる |
| じゃがいもが塩水でうく | 液のほうが重くなった |
| スープの油が上に来る | 油は水より軽い |
とくに氷は面白い例です。ふつう、ものは冷やすと小さくなって1cm³あたりが重くなりますが、水は氷になるとき体積が増えます。だから氷は水にうきます。もし氷がしずむ性質だったら、池は底から凍って魚は冬をこせなかったはずです。
うきわやライフジャケットも同じ理屈です。人の体は水とほぼ同じくらいの重さなので、少し空気を足すだけで水面に出ていられます。プールで体の力をぬくとうきやすくなるのは、息をすって胸に空気を入れているからです。
魚も同じしくみを体の中に持っています。うきぶくろという空気の入った袋をふくらませたりしぼませたりして、体全体の重さを水と同じくらいに調節し、ひれを動かさなくても同じ深さにとどまれるのです。潜水艦がタンクに水や空気を出し入れして深さを変えるのも、まったく同じ発想です。
この内容でよくある勘ちがいを、先に整理しておきます。
①から③は、どれもくらべる条件がそろっていないことが原因です。大きさか材料か、どちらかを固定してから話すくせをつけると、混乱しなくなります。
④は理由まで言えると強くなります。穴そのものが悪いのではなく、穴から水が入って空気と入れかわり、全体が重くなるからしずむのです。
中学では、この内容は密度と浮力という言葉で学び直します。今のうちに「同じ体積で重さをくらべる」という見方を体にしみこませておくと、そこで急に難しくなることがありません。
この内容は、台所と洗面器だけで確かめられるのが強みです。まずは「これはうくと思う? しずむと思う?」と予想を言わせてから水に入れてみてください。予想が外れたときほど、記憶に残ります。
アルミホイルのたまと箱の実験は、材料も重さも同じなのに結果が分かれるため、「形=中の空気」という見えない要素に気づかせる力があります。所要時間は5分ほどです。
お子さんが「軽いからうく」と言ったときは、否定せずに「じゃあ、この大きな木のいたはどうしてうくの?」と一つだけ反例を返してみてください。自分で条件のそろえ方に気づくことが、ここでのいちばんの収穫です。
食塩水で生たまごをうかせる実験は失敗が少なくおすすめですが、使ったたまごは実験後に加熱して食べるか処分してください。
中学理科の密度・浮力に直結する内容なので、言葉を覚えさせるより「体積をそろえてくらべる」という手つきを身につけさせることを優先すると、あとが楽になります。