5年の理科でつまずく子の多くは、内容が分からないのではありません。実験のやり方の決まりごとを知らないまま実験しているのです。
3年・4年の理科は、観察が中心でした。虫を見る、かげの動きを見る、水のすがたが変わるのを見る。見たままを書けば、それが記録になりました。
5年から、ここが変わります。5年の理科でくり返し出てくるのは、こういう問いです。
どれも「何によって決まるか」を聞いています。原因をつきとめる問いです。そして原因をつきとめるには、見ているだけでは足りません。自分で条件を変えて、結果のちがいを見る必要があります。
このやり方を条件を制御するといいます。5年の理科の見方・考え方の中心にあるのが、これです。教科書では単元ごとにばらばらに出てきますが、中身はどの単元でも同じです。ここで一度まとめて理解しておくと、あとの単元がずっと楽になります。
実験のきまりは、たった一文で言えます。
なぜでしょうか。二つ以上を同時に変えてしまった場合を考えてみます。
ふりこの実験で、Aは「糸の長さ30cm・おもり10g」、Bは「糸の長さ60cm・おもり20g」にしたとします。やってみると、Bのほうが1往復に時間がかかりました。
ここで「糸を長くすると時間が長くなる」と言えるでしょうか。言えません。おもりも同時に重くしているからです。時間が長くなった原因が、糸の長さなのか、おもりの重さなのか、その両方なのか、この実験では区別がつきません。
結果は出ているのに、何も言えない実験になってしまうのです。これがいちばんもったいない失敗です。
正しくはこうします。糸の長さだけを30cmと60cmに変え、おもりはどちらも10g、ふり幅もどちらも20度にそろえます。これで差が出れば、原因は糸の長さしかありません。
頭の中だけで考えると、そろえ忘れが必ず出ます。紙に二つの欄を書いてから始めるのが確実です。
コツは、「そろえる条件」を思いつくかぎり書き出すことです。多すぎて困ることはありません。書き出しておけば、実験中に「あれ、これそろえたっけ」と迷わずにすみます。
発芽の実験なら、変える条件が「水をやるかどうか」、そろえる条件は「種の種類・種の数・置く場所・温度・空気・容器の大きさ」となります。日光を調べたいなら、変えるのは日光の有無だけ。箱をかぶせて暗くする側も、水と温度は明るい側とまったく同じにします。
ここでよくある失敗が、暗くするために冷蔵庫に入れてしまうことです。冷蔵庫は暗いですが、同時に冷たい。日光と温度の二つが変わってしまい、また「何も言えない実験」になります。暗くしたいなら、同じ部屋に置いたまま箱をかぶせます。
条件を一つだけ変えて二つ用意するとき、くらべる相手のほうを対照といいます。何もしない、ふつうの状態のほうです。
「水をやったら芽が出た」だけでは、水のおかげだとは言えません。水をやらなかったほうでも芽が出るかもしれないからです。水をやらない側を並べて置き、そちらでは芽が出ないことを確かめて、はじめて「発芽には水が必要だ」と言えます。
くらべる相手がないと結論が出せない。これは理科だけの話ではありません。「この勉強法をしたら点が上がった」も、同じ形をしています。上がったのは勉強法のおかげか、時間をかけたからか、単にテストが簡単だったのか。区別するには、そろえる条件を考える必要があります。理科の実験の作法は、そのまま考え方の作法になります。
もう一つ、忘れられがちな決まりがあります。同じ実験を何回かくり返すことです。
ふりこの時間をストップウォッチではかると、押すタイミングが少しずれます。1往復だけをはかると、そのずれがそのまま誤差になります。だから10往復の時間をはかって10でわる、という方法をとります。ずれが10分の1にうすまるからです。
さらに、それを3回やって平均します。3回の結果がばらばらなら、はかり方かそろえ方のどこかがおかしいというサインです。値がそろっていれば、その結果は信用してよいということになります。
「1回やって出た数字」と「3回やって同じだった数字」は、同じ数字でも重みがちがいます。理科は、結果を出すことよりもその結果をどれだけ信じてよいかを大事にする教科です。
ノートの書き方でも、5年から変わることがあります。予想・結果・考察を分けて書くことです。この三つは役わりがちがいます。
とくに大切なのが、予想は実験の前に書くことです。あとから書くと、結果に合わせて書いてしまい、意味がなくなります。予想が外れることは失敗ではありません。外れたときこそ「なぜ思っていたのとちがったのか」という、いちばん面白い考察が書けます。
結果の欄に「おもしろかった」「うまくいった」と書いてしまう子は多いのですが、これは結果ではなく感想です。結果に書くのは、だれが見ても同じになることだけ。何秒だったか、色が何色に変わったか、芽が何本出たか。感じたことは考察やふり返りに回します。
頭では分かっていても、実験中に片方だけ日なたに移してしまう、といったことが起きます。紙に書き出してから始めるだけで、この失敗はほとんど防げます。
冷蔵庫、押し入れ、屋外の日かげ。暗いところは、たいてい温度もちがいます。変えたい条件だけを変えられる場所を選びます。
1回だけの結果は、たまたまかもしれません。くり返して同じになるかを確かめてから結論を書きます。
「予想と合わないから、はかりまちがいにしておこう」は、いちばんやってはいけないことです。外れた結果は、そのまま書いて、なぜ外れたかを考えます。
Q1 実験でいちばん大事なきまりは何ですか。
A 調べたい条件だけを変え、ほかの条件はすべて同じにすることです。
Q2 ふりこで「おもりの重さ」を調べたいとき、変える条件とそろえる条件は何ですか。
A 変えるのはおもりの重さだけ。糸の長さ・ふり幅・はかり方はそろえます。
Q3 発芽に日光が必要かを調べます。暗くするのに冷蔵庫を使ってよいですか。
A いけません。温度も変わってしまい、原因が日光か温度か分からなくなります。同じ部屋で箱をかぶせます。
Q4 ふりこの1往復の時間を、正確にはかるにはどうしますか。
A 10往復の時間をはかって10でわり、それを何回かくり返して平均します。
Q5 「実験がおもしろかった」は、予想・結果・考察のどこに書きますか。
A 結果ではありません。ふり返りや考察に書きます。結果にはだれが見ても同じになることだけを書きます。
この記事は特定の単元の記事ではなく、5年理科のすべての実験単元に共通する「作法」をまとめたものです。ふりこ・発芽・もののとけ方・電磁石など、どの単元でつまずいていても、原因がここにあることが少なくありません。
お子さんが実験の結果を話してくれたときは、「そろえた条件は何だった?」と一言たずねてみてください。答えられれば、その実験は理解できています。答えに詰まるようなら、内容ではなく計画の立て方のほうを一緒に見直すと早く解決します。
自由研究にも、そのまま使える考え方です。テーマが決まったら、実験を始める前に「変える条件」と「そろえる条件」を紙に書き出す。この一手間があるかないかで、まとめの説得力が大きく変わります。
「くらべる相手がないと何も言えない」という考え方は、大人になってからも役に立つ判断の道具です。広告の「使った人の8割が実感」といった表現を見たときに、使わなかった人はどうだったのかと考えられるようになります。理科の実験は、その練習の場でもあります。