感想文は自分の気持ちを書く文章。意見文は主張の正しさを示す文章。推薦文は、そのどちらとも違う第三の文種です。
5年生では「推薦文」という新しい文種が出てきます。似たものと並べて整理しましょう。
| 文種 | 中心になる人 | 成功の目印 |
|---|---|---|
| 感想文 | 自分 | 自分の気持ちが書けている |
| 意見文 | 根拠の強さ | 主張が正しいと納得される |
| 推薦文 | 読み手 | 読み手が実際に行動する(読む・見る・行く) |
感想文と意見文は、自分の中にある気持ちや考えを正しく伝えることがゴールです。
ところが推薦文は、伝えた先に相手が動くかどうかまでが成功の目印になります。「よく書けている」だけでは足りません。相手が本を手に取らなければ、推薦文としては成功していないのです。
推薦文を書くとき、いちばん最初につまずくのがこの一文です。
この文はうそではありません。でも、読み手を動かす力がほとんどありません。なぜでしょうか。
「おもしろかった」は、あなたの中だけで起きた出来事だからです。どれだけ強い言葉で書いても、それを読んだ人の中で同じことが起きる保証はありません。読み手は心の中で、こう思っています。
必要なのは、自分に起きたことが、相手にも起きそうだと考えられる理由です。それが推薦文の本体になります。
推薦文には、感想文にはない部品があります。
この4つがそろうと、「おもしろかった」の一文が、読み手が判断できる材料に変わります。
とくに②は、感想文にも意見文にも出てこない推薦文だけの部品です。次の節で、この②を詳しく見ていきます。
本を例に説明していますが、この4部品は映画・ゲーム・行ってよかった場所など、何を人に勧めるときにも同じ形で使えます。対象を変えても、骨組みは変わりません。
ある学級で、32人に「どんな読み物が好きか」を聞いたとします。
| 好きな読み物のタイプ | 人数 |
|---|---|
| ぼうけん・どきどきする話 | 8人 |
| どうぶつが出てくる話 | 8人 |
| ことばのリズムや言い回し | 8人 |
| なぞとき・推理 | 8人 |
ここで、理由を1つしか用意しない推薦文を書くとどうなるか計算してみます。
「おもしろかった」だけの推薦文は、たまたま自分と同じタイプの読み手にしか届かないことが、数で見えてきます。
では、4タイプそれぞれに向けた理由を1つずつ、合計4つ用意するとどうなるでしょうか。
もちろん、4つ書いたからといって全員が実際に読みたくなるわけではありません。ここで言う100%は、「判断できる入り口がある人の割合」です。自分と違うタイプの読み手の分まで、理由を考えてあるかどうかが差になります。
大事なのは理由の数を増やすこと自体ではなく、「自分と同じタイプ」以外の読み手を1人でも想像することです。
ここまでの計算を見て、「4タイプ分の理由を、全部1つの推薦文に詰め込めばいい」と思うかもしれません。でも、それはちがいます。
大事なのは全部書くことではなく、4タイプを一度は想像したうえで、いちばん自信のある理由を1つか2つに絞ることです。
順番が大切です。先に4タイプ全部を思い浮かべてから、1つに絞るのと、はじめから自分のタイプしか考えずに1つを選ぶのは、書くときの手の動きはそっくりでも、できあがる文はまったく別物になります。後者は、前の節で見た「25%」のままなのです。
同じ本について、感想文のまま書いた推薦文と、部品をそろえた推薦文を比べます。
「ねこが主人公の本を読みました。知らない街で生きていくねこの話で、とてもおもしろかったです。どきどきしました。ぜひ読んでみてください。」
この文には、①の対象は少しだけありますが、②だれにおすすめか、③具体的な場面、④自分の理由、がどれもありません。「おもしろかった」「どきどきした」は全部、自分の中だけの出来事です。
①「知らない街に放り出されたねこが、言葉を覚えて生きのびていく話です。」
②「引っ越しなどで、知らない場所に行った経験がある人におすすめです。」
③「主人公が漢字を覚えたことで、命の危険から救われる場面があります。」
④「わたしは漢字を覚えるのがめんどうだと思っていましたが、この場面を読んで、知っていることが自分の力になるのだと感じました。」
「知らない場所で、自分の力をどう見つけるか。それを考えたい人に読んでほしい一冊です。」
After では、「おもしろかった」という言葉を一度も使っていません。それでも、Before より強く読み手に届きます。気持ちの強さではなく、読み手が自分に当てはめられる材料の多さが、推薦文の説得力を決めるのです。
③は意外に思うかもしれませんが、たとえば「展開がゆっくりなので、はやい話が好きな人には合わないかもしれません」と正直に書いたほうが、残りのおすすめ部分が信じてもらえます。良いところだけを並べた文は、読み手から見ると「宣伝くさい」と感じられてしまうのです。
これは、テレビの通信販売と似ています。「いいところしか言わない人」の話は、半分くらい聞かなくなった経験があるはずです。合わない人の情報を1つ入れるだけで、残りの言葉の信用がぐっと上がります。
感想文のつもりで書いてしまう。
推薦文は読み手が判断できる理由が本体です。自分の気持ちは最後に少し添える程度でよいのです。
親切のつもりで結末まで説明する。
刺さる場面を1つだけ見せ、残りは読んで確かめてもらいます。
自分が好きだった理由だけを書く。
自分とは違う好みの読み手を1人思い浮かべ、その人に向けた理由を1つ足します。
思いついた理由を全部、順番も考えずに書き連ねる。
想像する読み手は複数でよいですが、実際に書く理由は1つか2つに絞るほうが、1つ1つの説明が深くなり、結局は強く伝わります。
Q1 推薦文の成功の目印は何ですか。
A 読み手が実際に行動することです。よく書けているだけでは足りません。
Q2 「おもしろかった」だけの推薦文が伝わりにくいのはなぜですか。
A 自分の中だけで起きた出来事で、読み手にそのまま伝わる保証がないからです。
Q3 推薦文の4つの部品を言ってみましょう。
A 対象をひとことで/だれにおすすめか/具体的な場面/自分の体験からの理由です。
Q4 ある学級32人を4タイプに8人ずつ分けたとき、理由を1つしか用意しないと、何人に届く可能性がありますか。
A 8人(25%)です。残りの24人には判断材料がありません。
Q5 好きな本やマンガについて、だれにおすすめかを1行で書いてみましょう。
A 「〇〇な経験がある人」「〇〇が好きな人」のように、自分とは違う読み手も想像して書けると上達します。
推薦文は、感想文・意見文に続く5年生の新しい文種です。3つの違いは「だれのために書くか」にあります。感想文は自分のため、意見文は主張を正しいと示すため、推薦文は読み手のためです。
お子さんが「おもしろかったから、ぜひ読んで」としか言えないときは、「どんな人に合うと思う?」「あなたと同じ気持ちになる場面はどこ?」と聞いてみてください。それが②だれにおすすめか、③具体的な場面につながります。
家庭では、好きなゲームやアニメを家族に勧める場面が練習になります。「おもしろいから」で終わらせず、「〇〇が好きなお父さんには合うと思う、△△の場面があるから」と言えたら、もう推薦文の形です。
良い点だけでなく「合わない人もいる」と正直に言える姿勢も、誠実さとして育てたい力です。
もし理由が1つしか出てこないときは、「クラスの中で、あなたと好みがちがいそうな人を1人思い浮かべてみて」と声をかけてあげてください。その1人のために理由を考える練習が、読み手を広げる力につながります。