5年 国語 枕詞

枕詞 ── 「あしひきの」の次は、山としか言えない

古い和歌を読むと「あしひきの山」「ひさかたの光」という言い方がよく出てきます。なぜいつも同じ組み合わせなのでしょうか。

枕詞とは何か

短歌・俳句の学習で季語は知っていても、もう一つの古い約束は意外と知られていません。それが枕詞です。

あしひきの → 山 ひさかたの → 光・空・月・雨 たらちねの → 母 「あしひきの」が出たら 次に来る言葉は、ほぼ必ず「山」 他の言葉が続くことはない

枕詞とは、特定の1つの言葉の前に必ず置かれる、決まった言い回しのことです。『万葉集』の時代(今から千三百年以上前)から使われてきました。

季語は「季節」を示す言葉で、春なら桜、夏なら蛍といろいろな言葉から選べます。枕詞はそれとは正反対で、相手の言葉が1つに決まっているのです。「あしひきの」の次に「海」が来ることはありません。

代表的な枕詞

よく出てくる枕詞を、組み合わせる言葉とともに見てみましょう。

枕詞続く言葉もとの意味・由来
あしひきの山足を引きながら登る、険しい山のようす
ひさかたの光・空・月・雨久しく変わらない、天にかかわるものを示す
たらちねの母乳が足りている、子を育てる母のようす
しきしまの大和(やまと)国の古い呼び名に添える、由来がはっきりしない古語
あをによし奈良青(あを)や丹(に)の美しい都、奈良をたたえる言葉
くさまくら旅草を枕に野宿する、旅の苦労を表す
ちはやぶる神勢いが激しい、神のおそろしい力を表す
からたちの花からたちという木にかかる、古い言い回し

表を見ると、枕詞はその言葉の性質やようすを、遠回しに言い表していることが多いと分かります。「山」をいきなり出すのではなく、「足を引きながら登る」という山らしさを先に言ってから「山」へつなぐ、という作りです。

由来がはっきりしないものも多い

「しきしまの」のように、なぜその組み合わせなのか、今の研究でもよく分かっていない枕詞もあります。千年以上前の言葉なので、当時の人には自然に分かった感覚が、今では伝わりにくくなっているのです。「分からないものがある」ことも、古文の正直な姿です。

なぜこんな決まりがあるのか

枕詞には、大きく2つの役目があったと考えられています。

役目① 調子を整える 短歌は 五・七・五・七・七 最初の五音がなかなか決まらないとき 「あしひきの」(五音)を置けば → それだけで最初の一句が完成する 役目② 言葉に重みを持たせる 「山」と言うより 「あしひきの山」と言うほうが → 古くからの伝統を感じさせ、歌らしくなる

『万葉集』の時代は、今のように紙に書いて何度も直すのではなく、口で詠み、口で伝えることが中心でした。決まった言い回しをいくつも覚えておけば、とっさに歌を詠むときの助けになります。これは、物語を覚えて語り伝えた昔の人たちの工夫と同じ考え方です。

つまり枕詞は、歌を作る人のための「型」だったのです。型があることで、初めて歌を詠む人でも、歌らしい歌が作れました。

季語とのちがい

枕詞は季語と似ているように見えて、役目がまったくちがいます。整理してみましょう。

季語枕詞
示すもの季節(春・夏・秋・冬)特定の1つの言葉
選び方季節に合えば色々選べる相手の言葉で完全に1つに決まる
主に使われる場所俳句・近代以降の短歌『万葉集』など古い時代の和歌
抜いたら季節が分からなくなる文の意味は変わらない

特に注目したいのは最後の行です。季語を抜くと「いつの話か」が分からなくなり、俳句として成り立ちません。ところが枕詞は抜いても、文の意味そのものは変わりません。次の章で、実際の和歌で確かめてみます。

実際の和歌で見てみる

百人一首にも入っている、柿本人麻呂の有名な歌で確かめましょう。

あしひきの 山鳥の尾の しだり尾の 長々し夜を ひとりかも寝む (柿本人麻呂) 意味:山鳥の、長く垂れ下がった尾のように 長い長い秋の夜を、私はひとりで 寝ることになるのだろうか

この歌から「あしひきの」を抜いてみます。

山鳥の尾の しだり尾の 長々し夜を ひとりかも寝む → 五音が1つ減って字数は足りないが 「言っている内容」は変わらない → やはり山鳥の尾の長さの話のまま

「あしひきの」は、山鳥という言葉の前につく音のかざりであって、意味を運んでいるのは「山鳥の尾の、しだり尾の」から先です。実際、山鳥の尾の長さを使って「長々し夜」を導く、という歌の組み立ては枕詞の有無に関係なく成立しています。

この「抜いても意味が変わらない」という点が、枕詞を普通の修飾語(「大きい山」の「大きい」など)と分ける、いちばんの特ちょうです。普通の修飾語を抜くと説明が減りますが、枕詞を抜いても説明はもともと増えていないのです。

もう1首、「たらちねの」を使った歌で確かめてみます。

たらちねの 母がてづから 植えしまつ ……………(防人の歌・万葉集より、一部) 意味:母が自分の手で植えた松…… 「たらちねの」を抜いても → 「母がてづから植えしまつ」で 意味は完全に伝わる

「たらちねの」の後に来るのは必ず「母」です。ここでも枕詞は、母という言葉の前に置かれる合図のようなものであって、文の骨組みを作っているのは枕詞の後ろの部分だと分かります。

つまずきやすいところ

その1 季語と混同する

「季節を表す言葉」という理解で枕詞も同じに考えてしまう。
枕詞が示すのは季節ではなく、決まった1つの言葉です。季節とは関係ありません。

その2 枕詞自体の意味を深読みする

「あしひきの」をそのまま現代語訳に入れてしまう。
多くの枕詞は訳のときは省略してよい決まりです。音を整え、歌らしさを添える役目が中心だからです。

その3 どの言葉にも自由に付けられると思う

好きな枕詞をどの言葉にも付けてよいと考えてしまう。
枕詞と続く言葉の組み合わせはほぼ固定です。「あしひきの」は山(や山にかかわる言葉)専用です。

やってみよう

Q1 枕詞とはどのようなものですか。

A 特定の1つの言葉の前に必ず置かれる、決まった言い回しです。

Q2 「あしひきの」の次には、どんな言葉が来ますか。

A 山(や山にかかわる言葉)です。

Q3 季語と枕詞の、いちばん大きなちがいは何ですか。

A 季語は季節を示し、色々な言葉から選べるのに対し、枕詞は相手の言葉が1つに固定されている点です。

Q4 「ひさかたの」の後に続く言葉を、表から2つ探しましょう。

A 光・空・月・雨のうち2つです。

まとめ

おうちの方へ

枕詞は中学・高校の古文でも繰り返し出てくる基本事項ですが、小学校では「季語」ほど丁寧に扱われないため、見落とされがちです。
この記事で紹介した「あしひきの→山」「ひさかたの→光」のような決まった組み合わせを、2〜3個覚えておくだけで、百人一首や教科書の古い和歌に出会ったときの心の構えが変わります。
「この言葉、次に何が来るか当てられる?」とクイズ形式にすると、楽しく覚えられます。
短歌・俳句(季語の学習)と古文に親しむ(昔の言葉のリズム)の両方を学んだあとに読むと、「約束の種類がいくつもあるんだ」という発見につながります。
中学以降は「序詞(じょことば)」という、枕詞をさらに長くしたような技法も登場します。考え方の土台は同じなので、ここで枕詞のしくみに慣れておくと、その先の学習がぐっと楽になります。