つぎの3つを声に出してみてください。ホチキス・コンセント・ノートパソコン。どれも読めますし、どんな物かもすぐ浮かびます。英語の授業で習ったおぼえはないのに、です。ところがこの3つは、英語の国へ持っていくとどれ1つ通じません。「まちがって覚えていた」わけではありません。そもそも、この3つは英語ではないからです。カタカナで書いてあるものを英語だと思ってしまうのは、とても自然なまちがいで、しかも中学・高校とずっとついてくるまちがいです。この記事では、なぜそんなことが起きるのかを1つの理由でつなぎ、さいごには「この言葉は英語で通じるかな」を自分で見当づけられる3つの質問まで持っていきます。
いちばん最初に、思いこみを1つ外します。わたしたちはカタカナを見ると、ほとんど反射で「これは英語だ」と感じます。けれどもカタカナがほんとうに知らせているのは、この言葉は日本の外から来ましたということだけです。どこの国から来たかまでは、書いていません。
身近な言葉で確かめてみましょう。つぎの言葉は、ぜんぶカタカナで書きますが、1つも英語ではありません。
| カタカナ語 | どこから来たか | もとの意味 |
|---|---|---|
| パン | ポルトガル語 pão | パン |
| ランドセル | オランダ語 ransel | 背中に負うかばん |
| アルバイト | ドイツ語 Arbeit | 仕事・労働 |
| カルテ | ドイツ語 Karte | カード・札 |
| コップ | オランダ語 kop | 茶わん・カップ |
| イクラ | ロシア語 икра | 魚のたまご |
| カステラ | ポルトガル語 | スペインの地方の名前から |
パンを英語の国で「パン」と言っても出てきません。英語では bread です。アルバイトも英語ではなく、英語なら part-time job。ランドセルにいたっては、オランダから来たあと日本だけで独自の形に育ったので、いまや日本にしかない物になりました。
ここでもう分かります。カタカナという書き方は、来た国ごとに分かれていません。ポルトガル語もオランダ語もドイツ語もロシア語も、日本語に入るときはみんなカタカナという同じ服を着ます。服がそろっているから、中身も同じに見えてしまう。これが「カタカナ=英語」という感じの正体です。外から来た言葉ぜんたいのことを国語では外来語と呼び、5年の国語でも和語・漢語といっしょに習います。
では、英語から来たものにしぼって考えます。英語から来たのなら、英語で通じてよさそうなものです。それでも通じないことがあるのは、日本語が、借りた言葉をそのまま置いておかないからです。日本語は借りた言葉に手を加えます。加える手は、大きく3つしかありません。
この3つは、上から下へ加工の量がふえていく順にならんでいます。そして大事なのはここです。加工が進むほど、もとの英語から遠くなる。遠くなるほど、英語では通じなくなる。 通じる・通じないは、言葉ごとにばらばらに決まっているのではなく、この1本の物差しの上に乗っているのです。
だからこの記事で覚えることは、単語のリストではありません。加工の跡の見つけ方です。跡が見つかれば、はじめて出会った言葉でも見当がつきます。順番に見ていきましょう。
いちばん手を加えていないのが、音を写しただけのものです。
これらは意味も形もほとんどそのままなので、英語の国でも問題なく通じます。ただし1つだけ注意があります。意味が通じることと、言った音が伝わることは別だということです。
写すときに、日本語は必ず音を作りかえています。日本語はほとんどの音が「子音+母音」のセットでできているので、英語の子音だけの部分にも、そこにない母音をくっつけてしまうのです。
英語では1回で言い切る語が、日本語では5回に分かれています。これは耳や口が悪いのではなく、写すときに日本語のきまりに合わせた結果です。英語のリズムとカタカナのリズムのちがいについては、3年生の記事でくわしく扱っています。ここでは「写しただけの語でも、音はそのままでは届かない」とだけ押さえておけば十分です。
つまり加工①の語は、意味は安心、音だけ直せばよいグループです。いちばん楽な相手だと思ってかまいません。
つぎは、短くしたものです。日本語は長い言葉が苦手で、借りたときに平気で切ります。
| カタカナ語 | 切る前の英語 |
|---|---|
| テレビ | television |
| エアコン | air conditioner |
| スーパー | supermarket |
| コンビニ | convenience store |
| パソコン | personal computer |
| リモコン | remote control |
| デパート | department store |
| アパート | apartment house |
| スマホ | smartphone |
| ビル | building |
| プロ | professional |
| ハンカチ | handkerchief |
表を上から下まで声に出してみると、あることに気づきます。左がわがほとんど3拍か4拍でそろっているのです。テ・レ・ビで3拍、エ・ア・コ・ンで4拍、コ・ン・ビ・ニで4拍、パ・ソ・コ・ンで4拍、リ・モ・コ・ンで4拍。日本語には「このくらいの長さにしたい」という好みがあって、借りた言葉をそこへ押しこんでいるわけです。だから切り方も気まぐれではなく、言いやすい長さになるまで切るという1つのやり方で説明がつきます。
このグループは、英語でそのまま言っても通じません。テレビと言われた相手は何のことか分かりませんし、コンビニも通じません。けれども、このグループには救いがあります。切る前の形にもどせば、そのまま英語になるという点です。新しく別の単語を覚え直す必要はなく、のばすだけで済みます。
1つだけ、気をつける形があります。「ノート」です。ノートは notebook を切ったものなので、英語で note と言うと短い書きつけ・メモのほうになり、あの冊子は出てきません。切ったあとの形が、たまたま英語にある別の語とぶつかってしまった例です。文ぼうぐの英語をあつかった4年の記事でも、同じつまずきが取り上げられています。
ここからが本番です。和製英語と呼ばれるのは、おもにこのグループを指します。英語の部品を借りてきて、日本で新しく組み立てた言葉です。
| カタカナ語 | 使われている部品 | 英語では |
|---|---|---|
| ノートパソコン | note+personal computer | laptop |
| サラリーマン | salary+man | office worker |
| ガソリンスタンド | gasoline+stand | gas station |
| ベビーカー | baby+car | stroller |
| キーホルダー | key+holder | key ring |
| フライドポテト | fried+potato | French fries |
| ペットボトル | PET+bottle | plastic bottle |
| ジェットコースター | jet+coaster | roller coaster |
| ダンボール | 段+board | cardboard |
| モーニングコール | morning+call | wake-up call |
| フリーサイズ | free+size | one size fits all |
| シャープペンシル | sharp+pencil | mechanical pencil |
ここが加工②とちがうのは、もどす先が無いことです。テレビは television にもどせましたが、ノートパソコンをどうのばしても英語にはなりません。英語の国に「note personal computer」という言い方が、はじめから存在しないからです。だからこのグループだけは、別の単語として覚えるしかありません。
ただ、部品の組み方を見ると、日本語がどう考えたかは見えてきます。ベビーカーは「赤ちゃん+車」で、そのまんまです。ガソリンスタンドは「ガソリンを置いてある台」。フライドポテトは「油であげたじゃがいも」。どれも、見たままを英語の部品で言いあらわしている。ですから和製英語は、でたらめに作られたわけではありません。日本語の理くつでは、とても分かりやすくできているのです。
だんだん見えてきたと思いますが、ダンボールの「段」は日本語です。段になったボール紙、で段ボール。日本語の部品と英語の部品を、平気で混ぜているわけです。同じ作り方の言葉はほかにもたくさんあります。電子レンジ(電子+range)、消しゴム(消し+gum)、輪ゴム(輪+gum)。英語だと思ってさえいなかった言葉の中にも、英語の部品がひそんでいます。
ついでに、名前の由来がおもしろいものを2つだけ。ホチキスは、アメリカのホチキス社が作った機械が日本に入ってきて、会社の名前がそのまま道具の名前になったものです(英語では stapler)。ミシンは sewing machine の machine が日本語の耳でなまった形です。シャープペンシルは、日本の発明品に付いていた商品名から広がりました。名前の出どころがばらばらだと分かると、「英語のはずなのに通じない」がふしぎではなくなります。
じつは、いちばん気をつけたいグループがもう1つあります。形は英語をそのまま借りているのに、日本語に入ってから意味が動いてしまった言葉です。
| カタカナ語 | 日本語での意味 | 英語での意味 |
|---|---|---|
| マンション | 集合住宅 | mansion=大きなやしき |
| ナイーブ | 感じやすい・すなお | naive=世間知らず・だまされやすい |
| スマート | やせている | smart=頭がよい |
| クレーム | 苦情 | claim=そうだと主張する |
| バイキング | 食べほうだい | Viking=北の海の海ぞく |
| ストーブ | 暖ぼう器具 | stove=料理に使うコンロ |
| カンニング | テストの不正 | cunning=ずるがしこい |
| テンション | 気分の高さ | tension=はりつめた緊張 |
このグループが、なぜいちばん気をつけたいのか。理由ははっきりしています。通じないのではなく、ちがう意味で通じてしまうからです。
ここは大きな差です。通じなければ、相手は「え?」と聞き返してくれます。聞き返されれば、言い直せます。ところが、ちがう意味で通じてしまうと、相手は聞き返しません。話はそのまま先へ進み、すれちがったことに、どちらも気づかない。「うちはマンションです」と言えば、相手は大きなやしきに住む人だと思ったまま会話が終わります。「彼はナイーブだね」は、ほめたつもりが「世間を知らない子だね」と伝わります。
なぜ意味だけがずれるのでしょうか。よく見ると、このグループには目に見えない物が多いという共通点があります。気持ち・性格・ようす・出来事。ペンやバナナなら、指させば意味は動きません。けれど「ナイーブ」や「テンション」は指させないので、使う人が少しずつ自分の感じで使い、何十年かかけて、もとの意味からずれていくのです。指させない言葉ほど、ずれやすいということになります。
ここまでで道具はそろいました。知らないカタカナ語に出会ったとき、順番に3つ聞いてみてください。
| 質問 | はい なら | やること |
|---|---|---|
| ①短く切った形っぽいか (言い切るのが3〜4拍) | 加工② | 切る前の長い形を1回調べる |
| ②2つの言葉がくっついているか (○○+△△) | 加工③ | まったく別の英語を覚える |
| ③指でさせない言葉か (気持ち・性格・ようす) | 番外 | 英語での意味を必ず確かめる |
3つとも「いいえ」で、短くて、指させる物の名前なら、それは加工①のなかまです。だいたいそのまま通じます。ペン、バナナ、バス、テーブル、カメラ、ピアノ。安心して使ってよいグループです。
試しに、表に出していない言葉でやってみましょう。「コンセント」。①3〜4拍だが、切る前の長い英語がぱっと浮かばない。②2つの言葉がくっついているようにも見えない。③壁にあって指させるので、ようすの言葉ではない。── どれもはっきりしません。こういう3つとも決め手が出ない言葉は、じつは日本で独自に育った古い言葉であることが多く、コンセントもそうです。英語では outlet や socket と言い、コンセントでは通じません。質問で白黒つかないときは「あやしい」と考えて調べる、これでじゅうぶんです。
大事なのは、正解を毎回当てることではありません。「これは確かめたほうがいい」と自分で思えることです。通じない言葉のこわさは、通じないこと自体ではなく、通じると思いこんだまま使ってしまうことにあります。
ここまで読むと「日本語は英語をずいぶん勝手にあつかっているな」と感じるかもしれません。でも、それはおたがいさまです。言葉の貸し借りは、一方通行ではありません。
これらは英語の辞書に、ふつうの英単語としてのっています。karaoke は「空(から)+オーケストラ」で、これも日本で組み立てた言葉です。つまり和製英語が、そのまま英語になったことになります。emoji(絵文字)も同じで、いまや世界中で使われています。
そして英語自身も、ほかの国からたくさん借りています。piano はイタリア語、restaurant はフランス語、kindergarten はドイツ語、robot はチェコ語から来ました。どの言語も、必要になったら外から借りてきて、自分の都合に合わせて作りかえる。日本語だけが変わっているわけではないのです。
ですから、最後にこれだけは伝えておきたいと思います。和製英語は、まちがった英語ではありません。日本語が日本語のために作った、れっきとした日本語です。ノートパソコンもペットボトルも、日本語の中ではこれ以上ないくらい正確に通じています。まちがいになるのは、たった1つの場面だけ ── それを英語のつもりで使ったときです。
だから「使ってはいけない言葉」として覚える必要はまったくありません。覚えるのは、ここは日本語、ここからは英語、という線がどこにあるか。線さえ見えていれば、どちらの側でも堂々と使えます。
Q1 「エアコン」を英語の人に伝えたいとき、どうすればよいですか。
A 切る前の形にもどして air conditioner と言います。エアコンは長い英語を短くしただけの形なので、新しい単語を覚える必要はなく、のばすだけで英語になります。
Q2 「ノートパソコン」はなぜ、のばしても英語にならないのですか。
A のばす先がないからです。これは英語の部品を借りて日本で組み立てた言葉で、英語の国にもとの形が存在しません。英語では laptop(ひざの上、という意味)と言います。
Q3 友だちを「スマートだね」とほめたつもりが、英語ではどう伝わりますか。
A 「頭がいいね」と伝わります。英語の smart は頭のよさを指す語で、体つきのことではありません。やせているようすを言うなら slim などを使います。
Q4 「パン」「ランドセル」「アルバイト」に共通していることは何ですか。
A カタカナで書くのに、英語ではないことです。順にポルトガル語・オランダ語・ドイツ語から来ています。カタカナは「外から来た」印であって、「英語」の印ではありません。
Q5 「マンション」と「コンビニ」では、どちらのほうが危ないと言えますか。
A マンションです。コンビニは通じないので相手が聞き返してくれますが、マンションは英語にもある語なので「大きなやしき」という別の意味で通じてしまい、まちがいに気づけないまま会話が進みます。
Q6 はじめて見るカタカナ語が英語で通じるか、どう見当をつけますか。
A 3つ聞きます。①短く切った形か(→のばす) ②2つの言葉がくっついているか(→別の英語を覚える) ③指でさせない、気持ちやようすの言葉か(→意味を確かめる)。3つとも「いいえ」で、短い物の名前なら、だいたいそのまま通じます。
「和製英語だから使ってはいけない」という教え方は、あまりおすすめできません。子どもにとってカタカナ語は毎日使う生活語で、禁止されると言葉そのものが窮屈になってしまいます。それに、ノートパソコンもペットボトルも、日本語としては完全に正しく機能しています。問題は語そのものではなく、日本語と英語の境目が見えていないことのほうにあります。
ご家庭で効くのは、買い物や外出のついでに1語だけ聞いてみるやり方です。「このペットボトル、英語ではなんて言うと思う?」の1問で足ります。当てさせるのが目的ではなく、「これは英語じゃないかもしれない」と立ち止まる回数を増やすのが目的だからです。答えが出なくてもかまいませんし、その場で調べれば1つ増えます。中学に入ると英単語は一気に増えますが、このとき「カタカナで知っているから大丈夫」と流した語ほど、あとでテストに出て困ります。小学生のうちに立ち止まるくせが付いていると、その差がそのまま貯金になります。