英語の文には「だれが」を入れる箱がかならずある。日本語とちがって、そこを省くことはできない ── そう習ったはずです。ところが英語の授業で毎日聞いている Stand up. にも、道案内で出てくる Go straight. にも、「だれが」がどこにもありません。習ったきまりが、いきなり破られているように見えます。じつはこれ、きまりが破れているのではなく、たった1つだけ用意されている例外の形です。ここを知ると、教室の英語も、道案内も、町の標識の英語も、同じ1本の線でつながります。
まず、よく似た3つの文をならべます。使われている単語は、ほとんど同じです。
3つとも正しい英語です。けれど意味はまったくちがいます。上の2つは「だれかが立つ」というようすの報告で、いちばん下だけが目の前の相手に向けた声かけです。
ここでつまずく人は、Stand up. を「You stand up. の you を書きわすれた文」だと思ってしまいます。そうではありません。you を消したこと自体に意味があるのです。消えた場所が、そのまま「これはあなたへの声かけですよ」という合図になっています。
この形を、中学校では命令文と呼びます。「命令」というと強い言葉に聞こえますが、英語の命令文は日本語の「立って」「見て」「がんばって」くらいの軽さで、毎日ふつうに使われています。先生が言う Look at me. も、友だちが言う Try again. も、料理の本に書いてある Mix well. も、ぜんぶ同じ仲間です。
英語の文は「だれが → どうする → なにを」の順に箱がならんでいます。ふだん、この1つ目の箱を空にすることはできません。空にしたら、だれの話なのか分からなくなるからです。
ところが1つだけ、空にしても困らない場合があります。今、目の前にいる相手に直接言うときです。このとき1つ目の箱に入るのは you 以外にありえません。だれに言っているかは、声と顔の向きで、もう分かっているからです。分かりきっているものは消してよい ── それがこの形の正体です。
| 文 | 1つ目の箱 | だれの話か | 使う場面 |
|---|---|---|---|
| I open the door. | I | 自分 | 自分のしていることを言う |
| You open the door. | you | 相手 | 相手のようすを説明する |
| He opens the door. | he | その場にいない人 | ほかの人の話をする |
| Open the door. | (空) | 目の前の相手 | その相手に声をかける |
表のいちばん下だけ、1つ目の箱が空になっています。そして空なのに、だれのことか分からなくなっていません。むしろ空だからこそ「これはあなたに言っているんだ」と伝わります。
日本語は「立って」「見て」だけでなく、「宿題やった?」「もう食べた」のように、主語をしょっちゅう省きます。ですから日本語で育った人にとって、主語のない文はめずらしくもなんともありません。
おどろくべきなのは、じつは逆のほうです。英語は主語を省けない言葉なのに、ここ1か所だけ省ける。めずらしいのは Stand up. ではなく、ほかのすべての文で you や I を必ず書かなければならないことのほうだ ── そう考えると、この形の特別さがはっきりします。
ここが、6年生で習う「動きの言葉につく s」とつながる大事なところです。
英語では、主語が自分でも相手でもない1人のとき、動きの言葉に s がつきます。He opens the door. の opens がそれです。この s は主語がちょうど1人だという印でした。
では、主語のないこの形ではどうなるでしょうか。1つ目の箱は空です。数える相手がいないのですから、数の印をつける理由もありません。だから動きの言葉は、なにもくっついていない、もとのままの形で立ちます。これを動詞の原形といいます。
道案内で出てくる Go straight. の go が、自己紹介で使う I go to school. の go とまったく同じ形をしているのは、そのためです。形が同じで役目だけがちがうので、読むときは文のいちばん前に「だれが」がいるかどうかを先に見ます。いなければ、それは自分に向けられた声かけです。
1つだけ気をつける言葉があります。「〜です」を表す am・is・are です。この3つはもともと be という1つの言葉が姿を変えたもので、もとの形は be でした。ですから、この形では be が顔を出します。
| ようすを説明する文 | 声かけの形 | 意味 |
|---|---|---|
| You are quiet. | Be quiet. | しずかにして。 |
| You are careful. | Be careful. | 気をつけて。 |
| You are kind to him. | Be kind to him. | かれにやさしくして。 |
Are quiet. とは言いません。are は「主語が you のときの形」ですから、you が消えればいっしょに消えて、もとの be にもどります。Be quiet. の be を落として Quiet! とだけ言うこともありますが、それは日本語の「しずかに!」と同じで、文というより合図です。
この形は、言い方によってはきつく聞こえることがあります。やわらげたいときは please を足します。置く場所は2か所あります。
意味は同じです。後ろに置くときだけコンマが必要なのは、文がいったん終わってから付けたしているからです。Stand up please. とコンマなしで書くと、そこが1つながりの文に見えてしまいます。
ただし、please をつければいつでもていねいになるわけではありません。友だちどうしの Try again.(もう1回やってみて)に please をつけると、かえってよそよそしくなります。道案内の Go straight. にも please は要りません。相手に手間をかけてもらうときに足す、と覚えておくと、ちょうどよい使い方になります。
やめてほしいことを伝えるときは、文の前に don't を置きます。
この don't は do と not がくっついたものです。「〜しない」と言うために do という助っ人を前に呼んでくるやり方は、6年生で習う He doesn't play soccer. と同じしくみです。ちがうのは、ここでは doesn't にならないこと。does は「主語が1人」の印でしたが、この形には数えるべき主語がいないので、相手がだれであっても don't のままです。
| 言いたいこと | 正しい形 | やりがちなまちがい |
|---|---|---|
| 走らないで | Don't run. | Don't runs. / Doesn't run. |
| さわらないで | Don't touch. | Not touch. |
| うるさくしないで | Don't be noisy. | Don't noisy. |
| 心配しないで | Don't worry. | Don't worried. |
3つ目に注目してください。noisy は「うるさい」というようすの言葉で、動きの言葉ではありません。Be quiet. のときと同じで、ようすを言うには be が要ります。don't のうしろにはかならず動きの言葉か be が来る、と決めてしまうと迷いません。
町の中で見かける英語も、ほとんどがこの形です。Don't touch.(さわらないで)、Don't enter.(入らないで)、Don't feed the animals.(動物にえさをあげないで)。標識に主語がないのは、読んだ人みんなが「あなた」だからです。
形が似ていて、よく取りちがえられるのが Let's 〜 です。
Let's は Let us が短くなったもので、us は「わたしたち」です。つまり Let's の中には言った本人がすでに入っています。だから Let's 〜 は指示ではなく、さそいになります。
| 形 | やるのはだれ | 日本語 |
|---|---|---|
| I play soccer. | 自分だけ | わたしはサッカーをします |
| Play soccer. | 相手だけ | サッカーをやって |
| Let's play soccer. | 相手と自分 | サッカーをやろう |
答え方も、Yes/No でたずねられたときとはちがいます。さそわれたら Yes, let's.(そうしよう)や Sorry, I can't.(ごめん、できない)と返します。Yes, I do. とは言いません。相手は「するかどうか」をたずねたのではなく、いっしょにやろうと声をかけているからです。
この形は、大きな単元として取り上げられないまま、あちこちに顔を出します。5年生・6年生の教科書で出会う場所をまとめておきます。
| 場面 | 出てくる英語 |
|---|---|
| 教室での指示 | Stand up. / Sit down. / Open your book. / Look at me. |
| 道案内 | Go straight. / Turn left. / Turn right. |
| ゲームやペア活動 | Take one card. / Ask your partner. / Don't look. |
| 作り方の説明 | Cut the carrot. / Mix well. / Put it in the pan. |
| はげましの言葉 | Try again. / Don't worry. / Be careful. |
どれも主語がありません。逆にいえば、主語のない英語を見かけたら、それは自分に向けられた声かけだと判断してよい、ということです。読むときの手がかりとして、とても役に立ちます。
この形でよく起きるまちがいは、原因ごとに分けると6つです。
「あなたに言うのだから you が要るはず」と考えて You stand up. と言ってしまう例です。文としては正しいのですが、意味が「あなたは立ちます」という説明に変わってしまいます。声かけにしたいなら you は消します。
Goes straight. / Going straight. のパターンです。s は主語が1人であることの印、ing は今その最中であることの印で、どちらもこの形とは関係ありません。裸の形が正解です。
Quiet. や Don't noisy. のように、ようすの言葉だけで済ませてしまう例です。ようすを伝えるときは Be quiet. / Don't be noisy. と be が要ります。
6年生で三人称の s を習った直後に増えます。数えるべき主語がいないので、この形の否定はいつでも don't です。
Let's clean the classroom. と言われて、自分だけが掃除を始めてしまう例です。Let's には、言った本人も入っています。
Turn right. を見て「だれが曲がるの?」と考えこんでしまう例です。書き手はあなたに言っています。1つ目の箱が空の文を見たら、そこに自分を入れて読めば通じます。
Q1 You sit down. と Sit down. のちがいを説明してください。
A You sit down. は「あなたは座ります」という説明、Sit down. は「座って」という目の前の相手への声かけです。主語を消したこと自体が、声かけであるという合図になっています。
Q2 「まっすぐ行って」と言うとき、go・goes・going のどれを使いますか。
A go です。s は主語が1人だという印ですが、この形には主語がいないので印もつきません。Go straight. となります。
Q3 「うるさくしないで」を Don't noisy. と書いたら、どこを直しますか。
A Don't be noisy. と be を入れます。noisy はようすを表す言葉なので、動きの言葉のかわりに be が必要です。
Q4 Stand up, please. のコンマは、なぜ必要ですか。
A please を文の後ろに付けたしているからです。前に置く Please stand up. のときは、コンマは要りません。
Q5 Let's go to the park. と言われました。行けないとき、どう答えますか。
A Sorry, I can't. と答えます。さそいなので、行けるときは Yes, let's. です。Yes, I do. は質問への答え方なので、ここでは使いません。
この形は、小学校の外国語では文法として教えられないまま、1年生のころから浴び続けている言い方です。Stand up. も Look at me. も、意味はフレーズとして丸ごと覚えています。そのため子どもは困っていないように見えますが、中学生になって自分で文を組み立てる段になると、急に手が止まります。「知っているのに作れない」が起きるのは、なぜ you がないのかを一度も考えたことがないからです。
ご家庭では、正しい形を覚えさせるより「この文、だれに言っているんだろうね」と聞いてあげてください。答えが「わたしに」であれば、主語が消える条件を子どもは自分の言葉で言い当てられます。
もう一点。「命令」という名前から、きつい言い方だと感じる子がいます。実際には Try again.(もう1回やってみよう)や Don't worry.(心配しないで)のような、やさしい声かけのほうが日常でははるかに多く使われます。名前のほうが中身より強いだけだと伝えておくと、使うことをためらわなくなります。
町なかの英語の標識や、外国のお菓子の箱に書かれた作り方も、ほとんどがこの形です。見かけたときに「主語がないね」と一言いっしょに気づくだけで、教科書の外にも同じきまりが生きていることが実感できます。