サイレンが聞こえて、赤い車が走っていく。見えているのはそこだけです。けれどその数分の間に、まちのあちこちで別々の人が同時に動いています。その全体像をたどるのが、4年生で学ぶ「消防のはたらき」という単元です。
まず、多くの人が勘ちがいしているところから始めます。119番をかけたとき、電話が鳴るのは近所の消防署ではありません。市や県にひとつある通信指令室(つうしんしれいしつ)という部屋につながります。
ここには大きな地図の画面と、たくさんの電話が並んでいます。かけてきた人の話を聞きながら、係の人は同時に別の作業をしています。話を聞き終わってから動き出すのでは、遅いからです。
指令室の人が最初に聞くのは「火事ですか、救急ですか」です。次に住所。この2つが分かった時点で、もう出動の指令はとんでいます。けが人がいるかどうかや、燃えているものの種類は、消防車が走り出したあとに聞いて、無線で追加で伝えます。
聞き終わってから出発するのではなく、聞きながら出発する。ここが指令室のいちばん大事な工夫です。
指令室は、いちばん近い消防署だけを呼ぶわけではありません。ふつうは複数の署から、種類のちがう車をまとめて向かわせます。
| 車の種類 | 役わり |
|---|---|
| ポンプ車 | 水をくみ上げて放水する。いちばん基本になる車 |
| タンク車 | 水そうを積んでいて、着いてすぐ放水を始められる |
| はしご車 | 高い階の人を助けたり、上から放水したりする |
| 救助工作車 | とじこめられた人を助ける道具を積んでいる |
| 救急車 | けが人を運ぶ。火事の現場にもいっしょに来る |
ここで考えてほしいのは、なぜ最初からまとめて呼ぶのかです。「行ってみて足りなかったら追加で呼べばいい」ではいけないのでしょうか。
理由は時間です。火は、燃えるものが増えるほど勢いが強くなります。だから最初の数分と、その5分後とでは、必要な水の量がまるでちがいます。あとから呼んで到着を待つと、そのあいだに手のつけられない大きさになってしまいます。
逆に、行ってみたら小さな火で、車が余ることもあります。それでも消防は多めに呼びます。足りない失敗は取り返せませんが、多すぎた失敗は帰ればすむからです。
ポンプ車やタンク車が積んでいる水は、車の大きさにもよりますが、だいたい1500リットルから2000リットルほどです。数字だけ見ると多そうですが、放水を始めるとどうなるでしょうか。
たったの4分ほどです。つまり消防車が積んできた水だけでは火は消せません。ここが、この単元でいちばん意外なところだと思います。
ではどうするか。着いてすぐ、別の隊員が道路のふたを開けて消火栓(しょうかせん)につなぎます。消火栓は水道管につながっている取り出し口で、まちじゅうの道路の下にうまっています。黄色い印や四角いふたを、通学路でも見たことがあるはずです。
水道が使えない場所や、地震で水道管がこわれたときのために、防火水そうという水をためておく設備も置かれています。学校の校庭のすみにあることが多いので、探してみてください。
つまり、消火の水は「消防車が持ってくるもの」ではなく、まちにあらかじめ用意してあるものなのです。車は、その水を火に届けるための道具だと考えると分かりやすくなります。
ここも大事な問いです。火事は毎日起きるわけではありません。では、そのあいだ何をしているのでしょうか。
| 時間帯 | していること |
|---|---|
| 朝 | 車と道具の点検。ホースやボンベを一つずつ確かめる |
| 日中 | 訓練。建物への立入検査。学校や地域での防火指導 |
| 夜 | 交代で仮眠。ただし通報があればすぐに出発する |
点検は毎日行います。ホースに小さな穴がひとつ空いているだけで、現場で水の勢いが落ちてしまうからです。使うときに確かめるのでは遅いので、使わない日に確かめておきます。
そして仮眠。消防署では、寝るときも服をたたまずに、すぐ着られる形にして枕もとに置いておきます。長ぐつも、ズボンを上からかぶせた状態で立ててあります。足を入れて引き上げるだけで、上下がいっぺんに着られる仕組みです。
こうした工夫は、「がんばって速く動く」ためのものではありません。あわてていても、まちがえずに速く動ける形にしておくためのものです。眠っていた人が突然起きて着がえるのですから、頭ははっきりしていません。だから、考えなくてもできる形にしておくのです。
消防の仕事のうち、じつは大きな部分をしめるのが火事を起こさせないための仕事です。これを予防といいます。
デパートや学校、ホテルのような、たくさんの人が集まる建物には、消防署の人が定期的に立入検査に来ます。見るのはこんなところです。
非常口の前の荷物は、毎回のように指てきされるところです。置いた人に悪気はなく、「ちょっとのあいだだけ」のつもりで置きます。けれどけむりが広がった部屋では、前がほとんど見えません。見えない中で、足もとの荷物につまずいた人が出口をふさぐと、うしろの人が全員出られなくなります。
この「一人がつまずくと全員が止まる」という性質が、ひなんのこわいところです。だから消防は、火が出たあとの話ではなく、荷物ひとつの話として注意しに行きます。
消防署の職員のほかに、消防団という仕組みがあります。ふだんは会社員や農家、お店の人として働いていて、火事のときだけ集まって消火やひなんの手助けをする人たちです。
なぜこんな仕組みがあるのでしょうか。理由は2つあります。
ひとつは数です。大きな災害では、消防署の人だけでは足りません。とくに地震のように、あちこちで同時に火が出る場合はそうです。
もうひとつは土地をよく知っていることです。消防団の人はそのまちに住んでいるので、細い路地や、お年寄りが一人で住んでいる家の場所を知っています。地図には出てこないこの知識が、ひなんの手助けでは大きな力になります。
調べ学習でこの単元をやるときは、自分のまちに消防団があるかどうかを調べてみると、教科書だけでは分からない発見があります。
遠くの話に思えるかもしれませんが、みなさんの学校の中にも消防の設備がたくさんあります。教室から出て、次のものを探してみてください。
| 設備 | どこにあるか・何をするか |
|---|---|
| 消火器 | ろうかの角。最初の小さな火を消す |
| 火災報知器の押しボタン | 赤い箱。押すと校内にベルが鳴る |
| けむり感知器 | 天じょうの白い円ばん。けむりを感じて自動で知らせる |
| ひなん経路図 | ろうかのかべ。今いる場所からの出口が書いてある |
| 防火とびら | ろうかのとちゅう。火事のとき閉まってけむりを止める |
防火とびらは、ふだん開いたままなので気づきにくい設備です。かべにくっついている大きな鉄のとびらを探してみてください。火事のときはこれが自動で閉まり、けむりが校舎全体に広がるのを防ぎます。
ひなん訓練で「防火とびらの前に物を置かない」と言われるのは、このためです。閉まるじゃまになると、その先まで一気にけむりが行ってしまいます。
この単元は、見学や聞き取りとセットになることが多いところです。行く前に、聞くことを決めておくと発見が増えます。おすすめの質問はこんな形です。
数を聞く質問と、気持ちを聞く質問をまぜるのがこつです。数だけだと表は作れますが、なぜそうなのかが分かりません。気持ちだけだと、レポートの根きょが弱くなります。
そして帰ってきたら、聞いた話をそのまま書き写さないことです。「〜と教えてもらいました」を並べたレポートは、読んでも何を考えたのかが伝わりません。ひとつでいいので、「聞く前はこう思っていたが、実さいはこうだった」と書ける部分をさがしてください。
この単元は、外出のついでに実物を見られるのが強みです。道路の消火栓のふた、マンションの入口の消火器、駅のひなん経路図。どれも歩いていれば目に入るものばかりです。
もし消防署の見学に行く機会があれば、事前に質問を紙に書かせておくと当日の集中がまるで変わります。書いていないと、その場では何も浮かばないものです。
あわせて、ご家庭の火災警報器の設置と電池切れも一度確かめてみてください。多くの家では10年ほどで交換の時期をむかえます。「うちにもある」を子どもといっしょに確認すること自体が、この単元のいちばん良い復習になります。