駅のスロープも、シャンプーのギザギザも、めざしていることは同じ。でも生まれ方がちがいます。そのちがいが、これからのまちを決めます。
駅の入り口を思い出してください。階段のとなりに、ゆるやかな坂やエレベーターがついていませんか。
あの坂は、駅ができたときからあったわけではありません。多くの駅では、階段だけの駅を作ったあとから、坂やエレベーターを足しました。工事のあとが残っていて、坂の部分だけかべの色がちがう駅もあります。
なぜ足したのでしょうか。車いすを使う人が、駅に入れなかったからです。ベビーカーをおす人も、大きな荷物を運ぶ人も、足をけがした人も、階段の前で止まってしまいます。
このように、だれかが通れなくなっているもの(バリア=かべ)を取りのぞくことを、バリアフリーといいます。「バリア」がかべ、「フリー」がない状態、あわせて「かべのない」という意味になります。
バリアは目に見える段差だけではありません。案内が読めない漢字だらけでわからない(情報のバリア)、「車いすの人にはむり」と決めつけられる(気持ちのバリア)なども、りっぱなバリアです。町の中には、見えるバリアと見えないバリアの両方があります。
おふろ場のシャンプーとリンスのボトルを、目をつぶってさわってみてください。シャンプーの方だけ、ボトルの横やポンプの頭に細かいギザギザがついているはずです。
これは、目の不自由な人のためだけに作られた印ではありません。かみを洗っているとき、人はだれでも目をつぶっています。そのとき全員が「見えない状態」になるからです。
このギザギザは日本の会社が1991年に考え出し、そのあと他の会社も同じ形をとり入れました。ひとつの会社だけがやっても、店で別のメーカーを買ったときにわからなくなってしまうからです。今では日本の国のきまり(JIS)にもなっています。
ここが大事なところです。このギザギザは、あとから足したものではなく、ボトルを作る型のときからそうなっている。はじめから、だれがさわってもわかる形にしてあるのです。
このように、年れいも体の状態も関係なく、はじめからできるだけ多くの人が使えるように設計することを、ユニバーサルデザイン(UD)といいます。「ユニバーサル」は「すべての人の」という意味です。
バリアフリーとユニバーサルデザインは、めざす方向が同じです。ちがうのは出発点です。
| くらべる点 | バリアフリー | ユニバーサルデザイン |
|---|---|---|
| いつ考えるか | 作ったあと | 作る前(設計のとき) |
| だれのため | こまっている特定の人 | はじめから全員 |
| やり方 | じゃまなものを取りのぞく | じゃまが生まれない形にする |
| 例 | 階段に後づけしたスロープ | そもそも段差のない入り口 |
| ひようのかかり方 | 工事のたびにかかる | 最初にまとめてかかる |
表のいちばん下の行に注目してください。あとから直すやり方は、工事のたびにお金がかかります。しかも、もとの建物の形にじゃまされて、坂が急になったり、遠回りの入り口になったりすることがあります。
そこで今の日本では、新しく建てるものははじめからユニバーサルデザインで、すでにあるものはバリアフリーで直しながらという2本立てで進めています。町を歩くとこの2つが混ざって見えるのは、そのためです。
次の設備は、どちら寄りでしょうか。「あとから足したように見えるか」「はじめからその形か」で考えてみてください。
| 町で見かけるもの | どちら寄りか | そう考える理由 |
|---|---|---|
| 歩道の黄色い点字ブロック | バリアフリー | できあがった歩道に、あとからはりつけている |
| 自動ドア | ユニバーサルデザイン | 荷物を持った人も小さい子も同じように通れる |
| 駅の後づけエレベーター | バリアフリー | 階段だけの駅にあとから足している |
| トイレの絵の表示(ピクトグラム) | ユニバーサルデザイン | 字が読めなくても外国の人でも意味がわかる |
| 多目的トイレ | 両方 | 車いすのために作られ、赤ちゃん連れも使っている |
| ノンステップバス | ユニバーサルデザイン | ゆかを低くした設計そのもの。乗る人全員が楽になる |
| スーパーの通路のはば | ユニバーサルデザイン | 広くとってあれば車いすもカートもすれちがえる |
やってみるとわかりますが、きれいに分けられないものがあります。多目的トイレがそうです。もともとは車いすの人のために作られましたが、今ではおむつがえ、着がえ、おなかの調子が悪い人など、たくさんの人が使っています。
だれか一人のために作ったものが、結果として全員の役に立つ。これが、この単元でいちばん覚えてほしいことです。
歩道の黄色いブロックは、1965年に岡山県の三宅精一さんという人が考え出しました。目の不自由な友人が車道に近づいてあぶない思いをしたのを見たことが、きっかけだったと伝えられています。世界のあちこちの国で使われている今の形の出発点は、日本にあります。
ブロックには2種類あります。線がならんだブロックは「この向きに進んでよい」、点がならんだブロックは「ここで止まって注意」を表します。階段の手前や、曲がり角の手前が点のブロックになっているのは、そのためです。
色が黄色いのにも理由があります。まったく見えない人だけでなく、少しだけ見える人がたくさんいて、その人たちには灰色の歩道の上の黄色がとてもよく目立つからです。
ただし、このブロックは上に自転車がとめてあると、まったく役に立ちません。設備を作るだけでは足りず、使う人がじゃまをしないことまでがセットになっています。ここが、次の話につながります。
スロープを作るにも、エレベーターをつけるにも、何百万円、何千万円というお金がかかります。市役所はそのお金を、住んでいる人が納めた税金から出しています。だから、いっぺんには進みません。
でも、お金がまったくかからないバリアフリーもあります。
最後のひとつを「心のバリアフリー」といいます。手伝うかどうかを勝手に決めず、まず本人に聞くのがこつです。手伝いが必要ないときもあるからです。聞いてから動けば、まちがえません。
市役所の仕事にも、この考えは入っています。多くの市には、こまっている場所を住んでいる人が知らせる窓口があり、「この横断歩道は音が出ない」「この段差でつまずく人が多い」といった声が、次の工事の順番を決める材料になっています。
この単元は、教科書を読むより外に出た方が早い単元です。学校から家までの道を、いつもと同じ速さではなく、ゆっくり歩いてみてください。
Q1 何を持って出ればいいですか。
A 紙とえんぴつだけで十分です。地図に「見つけた場所」と「見つけたもの」を書きこんでいきます。写真をとるときは、人が写らないように気をつけましょう。
Q2 見つけたものを、どう整理しますか。
A この記事の表と同じように、「あとから足したもの」と「はじめからそうなっているもの」の2つに分けます。分けにくいものは「両方」のらんを作ってかまいません。分けにくかった理由を書いておくと、発表のときの強い材料になります。
Q3 「まだ足りない場所」も探すべきですか。
A ぜひ探してください。段差のある店の入り口、点字ブロックがとちゅうでとぎれている交差点、せまくて車いすが通れない歩道。ないものを見つけるのは、あるものを数えるよりむずかしく、そのぶん良い研究になります。
Q4 市役所に聞いてもいいですか。
A 福祉の担当課やまちづくりの担当課が答えてくれます。聞く前に質問を3つにしぼりましょう。「市内でいちばん新しく直した場所はどこか」「どうやって順番を決めているか」「子どもにもできることは何か」あたりが、答えやすい質問です。
この単元は、家の中だけで完結させるともったいない単元です。買い物や通院のついでに、いつも通る道を「今日はバリアフリーを探しながら歩こう」と声をかけるだけで、そのまま学習になります。
おすすめは、シャンプーボトルのギザギザを実際に目をつぶってさわらせることです。知識として聞くのと、指先でわかるのとでは残り方がまるでちがいます。牛乳パックの上部にある半円の切りかきも同じ発想で、こちらは他の紙パック飲料と区別するための印です。台所ですぐ確かめられます。
接し方について迷われる場合は、「手伝う前に聞く」を家庭の合言葉にしておくと、子どもは実際の場面で動けるようになります。よかれと思って急に車いすをおすと、かえってあぶないことがあります。
お住まいの市区町村のホームページには、バリアフリーマップや福祉のまちづくり計画が公開されていることが多く、身近な地名が出てくるぶん子どもの食いつきが良い資料です。