4年 算数 暗算

暗算 ── 頭の中でひっ算をするのではない。道を変えている

暗算が苦手な人の多くは、頭の中に紙を思いうかべようとしています。じつは、そこが分かれ道です。

いますぐ試せる、たった1つの実験

紙も鉛筆も使わず、目をつぶって次の計算をしてみてください。

476 + 358 = ?

まず、学校で習ったひっ算のとおりに、一の位からやってみます。

6 + 8 = 14 →「4を書いて1くり上がり」 7 + 5 = 12、くり上がりの1を足して13 →「3を書いて1くり上がり」 4 + 3 = 7、くり上がりの1を足して8 →「8」

答えは834です。合っています。ただ、ここで思い出してほしいのは途中の気持ちのほうです。「4を書いて」と思ったその4を、最後まで覚えていられたでしょうか。多くの人は、二段目を計算しているうちに一段目の4が消えかけます。

では、同じ計算を大きい位のほうからやってみます。

400 + 300 = 700 700 + 70 = 770、そこに 50 を足して 820 820 + 6 = 826、そこに 8 を足して 834

今度はどうでしょう。覚えておくものがいつでも1つだけだったことに気づくはずです。700、820、834。数がバラバラに散らばらず、ずっと1本にまとまったまま進みました。

暗算ができる人は、頭がいいから紙のひっ算を丸ごと思い出せるのではありません。そもそも通る道が別なのです。

なぜ向きが逆なのか

ひっ算はなぜ右からなのか。理由は単純で、紙は消えないからです。書いた数字はそこに残り続けます。だから、くり上がりの1を小さく書きこんでおいて、あとから拾えばよい。一の位から順に処理するやり方は、書いた答えを直さなくてよいので、紙の上ではいちばん確実です。

ところが暗算では、この前提がひっくり返ります。頭の中に書いたものは、すぐ消えるからです。人が一度に覚えておける数のかたまりは、だいたい3つか4つしかありません。ひっ算の道すじを頭の中でなぞろうとすると、「まだ書いていない答えの数字」と「くり上がり」と「次に足す数」を同時に抱えることになり、あっという間に定員をこえます。

ひっ算 …… 紙が覚えてくれる → 右(小さい位)から 暗算 …… 自分が覚えるしかない → 左(大きい位)から

左から進むと、途中の結果がつねに1つの数にまとまります。700、820、834と、持ち物を1個に保ったまま前へ進める。暗算の第一のコツは、テクニックというより荷物を増やさない進み方を選ぶことなのです。

もう1つおまけがあります。左から進むと、途中でやめてもだいたいの答えが分かります。476+358を「700ぐらい、いや800をこえるな」と最初のひと押しでつかめる。これはがい数の考え方とそのままつながっています。右からのやり方では、最後まで計算しないと答えの大きさすら見えません。

きりのいい数に寄せて、あとで直す

暗算のもう1本の柱は、あつかいやすい数に取りかえることです。

198 + 47 = ?

198はあつかいにくい数です。そこで200だと思って計算し、多く見た分をあとで返します。

200 + 47 = 247 198は200より2小さい → 247 - 2 = 245

ひき算でも同じことができます。

503 - 196 = ? 503 - 200 = 303 200は196より4大きく、引きすぎている → 303 + 4 = 307

ここで大事なのは、足しすぎたら返す・引きすぎたら戻すの向きです。子どもがまちがえるのは計算そのものではなく、この最後の向きであることがほとんどです。向きに迷ったら、数直線の上で自分がどちらへ行きすぎたかを口に出すと、まず迷わなくなります。

かけ算も同じ発想です。

198 × 3 = ? 200 × 3 = 600 2を3回多く見ていた → 600 - 6 = 594

これは計算のきまりで学ぶ分配のしかたを、頭の中でやっているだけです。(200-2)×3=200×3-2×3。式で書くと難しく見えますが、やっていることは「200円の品物が3つ、ただし1つにつき2円安い」という買い物の考え方そのものです。

かけ算は「分けてかける」

2けた×1けたも、左からのやり方が効きます。

36 × 4 = ? 30 × 4 = 120 6 × 4 = 24 120 + 24 = 144

ひっ算では6×4から始めますが、暗算では30×4から始めます。先に大きいほうを確定させておくと、「だいたい120より少し上」という見当がついた状態で残りを足すことになり、答えを取りちがえにくくなります。

覚えておくと得をするかけ算の相棒もあります。

×5 …… 10倍して半分(48×5 → 480の半分 → 240) ×25 …… 100倍して4でわる(36×25 → 3600÷4 → 900) ×9 …… 10倍して1つ分を引く(27×9 → 270-27 → 243)

これらは裏ワザではなく、前の節でやったことと同じ仲間です。100や10といったあつかいやすい数にいったん置きかえ、ずれた分をあとから調整しているだけ。覚える項目が増えたのではなく、同じ1つの考え方が姿を変えているだけだと気づけると、暗算はぐっと軽くなります。

暗算を使ってはいけない場面

ここまで暗算のよさを書いてきましたが、暗算には大きな弱点があります。まちがえたとき、どこでまちがえたかが分からないのです。

紙に書いたひっ算なら、あとから見直して「ここでくり下がりを忘れた」と特定できます。暗算は途中が残らないので、答えが合わないときに最初からやり直すしかありません。だから、次の場面ではためらわずに紙を使ってください。

・けたが多い(3けた同士のかけ算など) ・答えが1つに決まらないと困る(テスト・お金の受けわたし) ・途中で別のことを考える必要がある(文章題の式づくり)

逆に、暗算がいちばん役に立つのは答えの見当をつけるときです。ひっ算で3826という答えが出たときに、頭の中で「だいたい4000くらいのはずだ」と先に見積もっておけば、けたを1つ書きまちがえた答えはその場ではじけます。暗算は、ひっ算の代わりではなくひっ算の見張り役として使うのがいちばん強い使い方です。

つまずきやすいところ

その1:速くやろうとして声を出さない。慣れないうちは、途中の数を小さくつぶやいてください。「400足す300で700」と口に出すと、耳がもう一度その数を覚えてくれます。頭だけで抱えるより、耳を味方につけたほうが確実です。

その2:とちゅうの数を作りすぎる。「476は400と70と6、358は300と50と8」と全部ばらしてから足そうとすると、6個の数を抱えることになります。ばらすのは片方だけ。476に300を足し、次に50を足し、最後に8を足す。こうすれば持ち物は最後まで1つです。

その3:直すのを忘れる。200に寄せたまま返すのを忘れて、198+47を247と答えてしまう。これを防ぐには、寄せた瞬間に「2借りた」と言ってしまうことです。借りたという言い方をしておくと、返さないと気持ちが悪くなります。

その4:暗算でやれない自分を責める。暗算が速いことは、算数ができることと同じではありません。暗算は道具のひとつであり、使いどころを選べる人がいちばん強いのです。

やってみよう

Q1 紙を使わずに 385 + 247 を計算しましょう。大きい位から進めてください。

A 385+200=585、585+40=625、625+7=632。持ち物はいつも1つです。

Q2 297 + 68 を、きりのいい数に寄せて計算しましょう。

A 300+68=368。3多く見ていたので368-3=365。

Q3 402 - 195 を、きりのいい数に寄せて計算しましょう。

A 402-200=202。5引きすぎたので202+5=207。ひきすぎた分は戻すのがポイントです。

Q4 48 × 25 を工夫して計算しましょう。

A 48×100=4800、それを4でわって1200。

Q5 ひっ算で 58 × 7 を計算したら 3906 になりました。暗算でおかしいと気づけますか。

A 60×7=420くらいのはずなので、3906はけたが1つ多すぎます。正しくは406。これが見張り役としての暗算です。

まとめ

おうちの方へ

暗算が苦手だというお子さんの多くは、やり方を知らないのではなく、ひっ算の手順をそのまま頭の中で再生しようとして容量オーバーを起こしています。「左から計算していいんだよ」と一言伝えるだけで、その日から変わる子がいます。学校ではひっ算を右からと習うため、自分でこの切りかえに気づける子は多くありません。
ご家庭で試していただきたいのは、この記事の最初にある実験です。同じ計算を右から・左からの両方でやらせて、どちらが楽だったかを本人の口から言わせてください。教えられた結論より、自分で感じた違いのほうがずっと長く残ります。
買い物の場面も絶好の練習台になります。ただし「いくらになる?」と答えを急がせるのではなく、「だいたい何百円くらい?」と見当を聞くようにしてください。答えを当てる遊びにすると暗算は苦役になりますが、見当をつける遊びにすると、まちがえても外れが楽しくなります。
なお、暗算の速さを学力の指標のように扱うのはおすすめしません。暗算が遅くても、式を立てる力や見直す力が高い子はたくさんいます。伸ばしたいのは計算の速度ではなく、答えの大きさを先に予想する習慣のほうです。