テストが返ってくる。×のところを見て、思わず声が出る。「これ、分かってたのに」。おうちの人からは「もっと気をつけなさい」。そして次のテストでも、同じことが起こる。──何年も同じ場面がくり返されるのは、あなたの注意が足りないからではありません。「気をつける」という言葉が、そもそもやり方になっていないからです。
「もっと速く走りなさい」と言われて、次の日から速く走れる人はいません。足の動かし方や、うでのふり方を教えてもらって、はじめて変わります。「気をつけなさい」も、これとまったく同じ形をしています。行き先だけを言っていて、道順を言っていないのです。
ミスを減らしたいなら、まずミスを見えるものに変える必要があります。「わたしはうっかりしている」と考えるのをやめて、かわりにこう考えます。「わたしは、どこで落ちているか」。
ここで大事な事実があります。まちがいは、ノートの上に平等には散らばっていません。集めてみると、同じ人は、同じ場所で、同じ落ち方をします。場所が決まっているなら、そこだけ守ればいい。これが、この記事でやろうとしていることです。
計算をしているとき、あなたは2つのことを交ごにやっています。頭の中で答えを出すことと、それを紙に書くこと。この行ったり来たりのつなぎ目こそが、落とし穴の正体です。
ためしに、つなぎ目の数を数えてみましょう。わり算のひっ算は「たてる・かける・ひく・おろす」の4つでできています。948÷4 のように商が3けたになる問題なら、この4つを3回くり返すので、つなぎ目は12か所です。
ここからが本題です。あなたが1つのつなぎ目をぶじに通れる割合が99%だとしましょう。100回に1回しか落ちない、かなり上手な人です。では、12か所すべてを通りきれるのは、どれくらいでしょうか。
99%のつなぎ目を12か所、続けてぶじに通れる割合は?
0.99を12回かけて、約89%。つまり10回に1回くらいは、どこかで落ちる
1か所ずつ見れば99%の腕前なのに、1問まるごとで見ると1割ちかくが×になる。これが「分かっているのにまちがえる」の中身です。あなたの実力ではなく、通る回数のせいで起きています。
ということは、やることは2つしかありません。つなぎ目の数をへらすか、1か所あたりの割合を上げるか。気持ちを強く持つ、という選択肢は、ここには出てきません。
では、つなぎ目のどこで落ちるのか。小学校の計算にかぎると、ほとんどが次の5つにおさまります。
| 落ちる場所 | 紙の上で起きていること | 打つ手 |
|---|---|---|
| ①くり上がり・くり下がり | 頭の中に数を置いたまま次の位へ進み、そのうち消える | 置き場所を決めて、必ず書く |
| ②位(けた)のたて | 縦がずれて、ちがう位どうしを計算している | 方眼に1文字1マスで書く |
| ③記号の見まちがい | +を×、-を÷として読んでしまう | 式を写すとき、記号から先に書く |
| ④写しまちがい | 問題からノートへ移すあいだに数が変わる | 写した直後に、問題と1回だけ照らす |
| ⑤空いている位の0 | 0のある位をとばして書き、けたがつまる | 0にも1マス使う |
大事なのは、この5つがどれも「手の動かし方」で書かれていることです。「集中する」「ていねいにやる」のような、量をはかれない言葉が1つも入っていません。やったかやらなかったかを、あとから見て確かめられます。
自分がどこで落ちやすいかは、人によってちがいます。1週間だけ、×がついた問題に①〜⑤の番号を書きこんでみてください。たいていの人は、5つのうち2つくらいに集まります。そこだけ直せば、ミスの半分以上が消えます。
①がいちばん多い落とし穴です。ここには3つの流ぎがあります。書かない人、上に小さく書く人、書いてすぐ消す人。
まず「書かない」を考えます。27×4 のひっ算で、7×4=28 の2を頭の中に置いたまま、次の 2×4 を計算する。このとき、あなたの頭は2つの仕事を同時にしています。計算することと、2を落とさないように持っておくこと。つなぎ目を1つ増やしたのと同じです。
次に「書いてすぐ消す」。じつはこれがいちばんもったいないやり方です。消したあとに残るのは答えだけなので、まちがえたときに、自分がどこで落ちたのかを読み返せません。手がかりごと消してしまっています。
残るのは「小さく書いて残す」ですが、ここにもうひとつ条件がつきます。書く位置を毎回変えないことです。あるときは上、あるときは横、あるときは余白のすみ。位置が動くと、たすときにそれを探すぶん目が泳ぎ、そこで落ちます。上の位の数字のすぐ上、と決めてしまいましょう。
「くり上がりを書くのは低学年っぽくてはずかしい」と思って、4年生でやめてしまう人がいます。
あのメモは、幼さのしるしではなく頭の荷物を紙におろす道具です。けたが大きくなるほど荷物は重くなるので、むしろ高学年ほど必要になります。
②の「位をそろえなさい」も、じつは「気をつけなさい」と同じ仲間です。そろえようという気持ちは、手が動いているうちに消えます。かわりに、そろえなくてもそろってしまう紙を使います。方眼ノートに、1マス1文字です。
4年生でここが急にむずかしくなる理由があります。そろえる基準が、とちゅうで変わるからです。整数のたし算では右はしをそろえれば自然に位が合いますが、小数のたし算では右はしではなく小数点をそろえます。3年生までのやり方を続けていると、ここでいっせいにくずれます。
同じ2つの数なのに、答えが 12.60 と 15.75 に分かれました。まちがえたほうの人は、計算そのものは1か所もまちがえていません。正しい計算を、ちがう位どうしでやっただけです。だから本人には「ちゃんとやった」感じが残り、見直しても気づけません。
小数点も、数字と同じように1マス使ってください。数字のすみに小さく打つと、けたが半分ずれます。⑤の0も同じで、108 の真ん中の0を書かずにつめると、答えは18になってしまいます。0は「何もない」ではなく「ここには何もない、という位がある」というしるしです。
「見直したのに見つからなかった」。これもよく聞きます。理由ははっきりしています。同じ道を同じ向きに歩けば、同じ場所で同じようにつまずくからです。頭は前と同じ手順を再生するので、さっき落ちたつなぎ目で、またすなおに落ちます。
だから見直しでは、行きとちがう道を通ります。使える道は3本あります。
3つめは一瞬で終わるのに、よく効きます。一の位は、上のけたのどんな計算ともつながっていないので、本体をやり直さずに、そこだけ切りはなして確かめられるのです。たし算でもかけ算でも使えます。
3本の道は、どれも行きとは別の方向から答えにさわっています。だから、行きで落ちたところを、そのまま素通りしません。見直しの善し悪しは、かけた時間ではなく、道がちがうかどうかで決まります。
最後にまとめて見直そうとすると、たいてい時間切れになります。
1問終わるごとに、一の位だけ5秒。これなら20問でも100秒です。あとでまとめてやるより早く、しかも記おくが新しいうちに確かめられます。
「今日も計算ミスをした」で終わると、明日も同じ場所で落ちます。
ノートのすみに①〜⑤を並べて、正の字で数をつけてください。1週間で自分のくせが目に見えます。数えられるものだけが、減らせます。
速くやろうとして、とちゅうの式を書かずに頭の中で進める。これはつなぎ目を減らしているつもりで、増やしています。紙に置けば0の負担だったものを、ぜんぶ頭で持つことになるからです。急ぎたいときほど、書いたほうが速く着きます。
Q1 12.25 + 3.5 を、右はしをそろえて筆算しました。答えはいくつになってしまう?
A 12.60 です。3.5 を 0.35 として計算したことになります。正しくは小数点をそろえて 15.75。
Q2 48×52 の答えとして 2496 と書きました。全部計算し直さずに確かめる方法は?
A 一の位だけ見ます。8×2=16 なので一の位は6。2496 の一の位も6なので通ります。
Q3 348÷4=87 を、わり算をやり直さずに確かめるには?
A 87×4 を計算します。348 にもどれば正解です。行きとちがう向きなので、同じミスを再生しません。
Q4 1つのつなぎ目を通れる割合が99%のとき、12か所を続けて通れる割合は?
A 約89%。上手な人でも1割ちかくはどこかで落ちる、という意味です。だから手順のほうを変えます。
Q1は、計算を1つもまちがえていないのに×になる例です。「まちがえた」と「ずれていた」はちがうと覚えておくと、直す場所を見つけやすくなります。
「ケアレスミスだから大丈夫」と流すのも、「なんで気をつけられないの」と責めるのも、残念ながら次のテストを変えません。前者は手を打っておらず、後者は打つ手を示していないからです。どちらの場合も本人には「自分はうっかりした人間だ」という結論だけが残ります。
おすすめは、×のついた問題を一緒に見ながら、①〜⑤のどれかに番号をふるだけの時間を1週間だけ取ることです。丸をつけ直す必要も、その場で解き直させる必要もありません。番号をふるだけで、お子さんは自分のまちがいに種類があることを知ります。「毎回ちがう失敗をしている」と思っていたものが、実は2種類しかなかったと分かるだけで、手の届く問題に変わります。
そのうえで、直すのは1つだけにしてください。5つ全部を同時に意識するのは大人でも無理です。いちばん本数の多かった1つを1か月かけて減らすほうが、結果的に速く進みます。
なお、方眼ノートとくり上がりのメモは、学年が上がるほど効きます。「高学年なのにまだ書くの」とは言わないであげてください。書いて頭の荷物をおろすのは、手をぬいているのではなく、けたの大きい計算に対する正しい技術です。