上手な作家は「うれしい」とは書きません。別のもので気持ちを見せるのです。
物語を読んでいて、「主人公の気持ちを答えなさい」という問題が出ます。ところが本文を探しても、「うれしかった」とは書いていない。
これは作者がわざとそうしているのです。
どちらが心に残るでしょうか。ほとんどの人が、後のほうだと感じるはずです。
「うれしい」と書かれると、読者は説明されただけになります。でも行動を見せられると、読者は自分で「うれしいんだな」と気づきます。自分で気づいたことのほうが、強く心に残るのです。
だから作者は、気持ちを直接書かずに、別のもので表します。読者はそれを読み取る──これが物語を読むということです。
では、どこを見れば気持ちが分かるのでしょうか。大きく四つあります。
行動は、気持ちがそのまま体に出たものです。動作を表す言葉に注目します。
何を言ったかだけでなく、どう言ったかが大事です。
同じ「うん」でも、点や記号のちがいで気持ちが変わります。会話文の前後の書き方も見逃せません。
体は、心より正直です。体の描写があったら要注意です。
これがいちばん難しく、いちばん面白いところです。
情景描写とは、まわりの風景や天気を描いた部分です。一見、気持ちとは関係なさそうに見えます。
でも、物語では景色が心を映す鏡になっています。
ここで大事なのは、同じ景色でも、心によって見え方が変わるということです。
作者は、登場人物の心を通した景色を書いています。だから景色を読めば、心が分かるのです。
物語の中で、急に景色の話が出てくるところがあります。
「そのとき、桜の花びらが一枚、ひらりと落ちた」
ストーリーの進行には関係ないのに、なぜ書いてあるのか。
意味があるから書いてあるのです。物語には無駄な文がありません。
景色の描写を見つけたら、線を引いて「これは何の気持ち?」と考えてみましょう。
物語の問題では、気持ちの変化がよく問われます。「はじめはどう思っていたか」「どこで変わったか」「最後はどうなったか」。
気持ちが変わるときには、きっかけが必ずあります。
この流れをつかむには、物語を場面に区切るとよいです。時・場所・登場人物のどれかが変われば、場面が変わります。
そして、場面ごとに「主人公はどんな気持ちか」を書き出してみます。並べてみると、変化がはっきり見えてきます。
とくに注目すべきは、変化のきっかけとなった出来事です。テストでは「なぜ気持ちが変わったのですか」と問われます。答えは必ず本文の中にあります。
気持ちを読み取ったら、なぜそう思ったのかを言えることが大切です。
物語の読み取りは、想像ではなく根拠に基づく推理です。本文のどこを手がかりにしたのかを、必ず示せるようにします。
テストの答え方も同じです。
気持ちを表す言葉だけでなく、その理由となる出来事もセットで書く。これが4年生以降の答え方です。
また、気持ちを表す言葉のレパートリーも増やしておきましょう。「うれしい・悲しい・楽しい」だけでは足りません。「ほっとした」「くやしい」「ほこらしい」「もどかしい」「せつない」──言葉を知っているほど、細かく読み取れます。
4年生からは、もう一段むずかしい読み取りが求められます。気持ちは一つとは限らないということです。
こういう気持ちを、そのまま一語で表すことはできません。だから作者は、矛盾する行動を書いて表します。
笑うことと泣くこと。手をふることと進めないこと。反対の動きが同時に書かれていたら、複雑な気持ちのサインです。
こういう場面では、「うれしい気持ち」とだけ答えると不十分になります。「別れはさびしいが、新しい生活への期待もある気持ち」というように、両方を書く必要があります。
人の心は単純ではありません。物語は、その複雑さを描くものです。単純な言葉に押しこめようとしないことが、深い読み取りへの入り口になります。
本文と関係なく想像で書く。
答えるのは登場人物の気持ちです。自分の感想ではありません。本文に根拠を探します。
景色の話を「関係ない」と思って飛ばす。
物語に無駄な文はありません。景色が出てきたら、心を映していないか考えます。
いつも「うれしい」「悲しい」で終わる。
気持ちを表す言葉を集めておくとよいです。読んだ本から拾って、ノートに書きためると語彙が増えます。
Q1 なぜ作者は「うれしい」と直接書かないのですか。
A 読者が自分で気づいたほうが心に残るからです。だから行動や景色で表します。
Q2 気持ちが表れる場所を四つ言いましょう。
A 行動・会話・表情や体の様子・情景です。
Q3 「雨がしとしと降っていた」は、どんな気持ちを表していそうですか。
A 悲しみや重い気持ちです。ただし前後の場面によって変わるので、必ず文脈を確かめます。
Q4 今読んでいる本から、気持ちを表す言葉を5つ集めてみましょう。
A 「ほっとした」「もどかしい」など。知っている言葉が増えるほど、細かく読み取れます。
物語の読み取りは、感性の問題だと思われがちですが、実際には技術です。どこを見れば気持ちが分かるかを知っていれば、誰でも読めるようになります。
お子さんが「なんとなく」で答えるときは、「どこにそう書いてあった?」と聞いてあげてください。根拠を探す習慣が、読解力の土台になります。
情景描写は、多くの子が読み飛ばします。「この景色、なんで書いてあると思う?」という問いかけが効果的です。
気持ちを表す言葉の語彙は、読書量に比例します。たくさん読むほど細かく読み取れるようになるので、好きなジャンルから読書量を増やしていくのが結局は近道です。