方言はまちがった言葉ではありません。むしろ、その土地が育ててきた宝物です。
日本語には、大きく分けて二つの姿があります。
たとえば「捨てる」を表す言葉を見てみましょう。
同じ意味なのに、これだけちがいます。
ここで大事なのは、どれかが正しくて、他がまちがっているのではないということです。それぞれの地域で、長い時間をかけて育ってきた言葉なのです。
昔は、人がかんたんに移動できませんでした。山や川を越えるのは大変で、隣の地域とも交流が少なかったのです。
だから、それぞれの土地で言葉が独自に変化していきました。
面白いのは、古い言葉が地方に残っていることがある点です。
つまり、方言は言葉の歴史の記録でもあるのです。方言を調べると、昔の日本語の姿が見えてきます。
方言のちがいは、言葉だけではありません。アクセント(音の高低)も地域で変わります。
方言がすばらしいなら、共通語はいらないのでしょうか。そうではありません。
今は、人が日本中を移動します。テレビもインターネットも全国に届きます。地域を越えて通じる言葉がないと、困る場面が出てきます。
とくに災害のときの情報は、全員に正確に伝わらなければなりません。ここで方言だけを使ったら、命に関わることもあります。
だから、共通語は「みんなで決めた共通のものさし」のようなものです。方言より偉いのではなく、役割がちがうのです。
4年生で学ぶいちばん大事なことは、使い分ける力です。
| 場面 | ふさわしい言葉 |
|---|---|
| 家族との会話 | 方言でよい |
| 地域の友だちと | 方言でよい |
| 全校集会での発表 | 共通語 |
| 他県の人との会話 | 共通語 |
| 作文・レポート | 共通語 |
これは、服を場面で着替えるのと同じです。運動するときは体操服、式のときは制服。どちらが偉いということはなく、場面に合わせているだけです。
言葉も同じ。相手と場面を考えて選ぶ。それが言葉を使いこなすということです。
共通語はどこでも通じますが、方言にしか表せない気持ちもあります。
「なおす」(片づける・西日本)、「えらい」(疲れた・中部)、「なんくるないさ」(なんとかなる・沖縄)。
共通語に直すと、少しちがう感じになってしまう言葉があるのです。
方言は、その土地の文化や考え方をふくんでいます。方言を大切にすることは、自分の育った土地を大切にすることでもあります。
自分の住む地域の方言を調べると、いろいろな発見があります。
とくにお年寄りに聞くのがおすすめです。若い世代ほど共通語に近づいているため、昔ながらの方言を知っているのは年上の世代なのです。
実は今、方言は少しずつ消えつつあります。テレビやインターネットの影響で、若い人が方言を使わなくなっているからです。
言葉が消えるということは、その土地の文化の一部が消えるということでもあります。だから今、方言を記録して残そうという取り組みが各地で行われています。
調べたことを発表するとき、方言そのものは方言のまま伝えます。でも説明は共通語で書く。ここでも使い分けが必要になります。
物語や小説を読んでいると、登場人物が方言で話す場面があります。
これには理由があります。方言で話させると、その人がどこの人か、どんな暮らしをしてきたかが一瞬で伝わるのです。
説明を書かずに人物像を伝えられる。これは書き手にとって便利な方法です。
さらに、方言には温かみや親しみが感じられることもあります。おじいさんやおばあさんが方言で語ると、その言葉に長い人生がにじみます。
ただし、地の文(会話以外の部分)は共通語で書かれるのがふつうです。会話だけ方言、説明は共通語。この使い分けにも意味があります。誰にでも読めるようにしつつ、人物の個性は残しているのです。
物語を読むとき、登場人物の言葉づかいに注目してみてください。言葉そのものが、その人を語っていることに気づけます。
方言を使うことをはずかしがる。
方言は、その土地で長い時間をかけて育った正当な日本語です。おとっているわけではなく、場面に応じて使えばよいだけです。
共通語だと思って使っていたら、他県で通じなかった。
これはよくあることです。他の地域の人と話すと気づけます。気づいたら、共通語の言い方も覚えておきます。
会話文以外でも方言で書く。
作文は共通語で書くのが原則です。ただし、会話文の中なら方言を使ってよく、かえって人物らしさが出ます。
Q1 方言と共通語、どちらが正しい言葉ですか。
A どちらも正しい言葉です。役割がちがうだけで、場面によって使い分けます。
Q2 共通語が必要なのはどんな場面ですか。
A ニュース、教科書、全国の人との会話、災害時の情報など。全員に正確に伝える必要がある場面です。
Q3 なぜ地方に古い言葉が残っているのですか。
A 新しい言葉が中心から広がるため、遠い地域ほど古い形が残るからです。
Q4 家族に「昔使っていた方言」を聞いてみましょう。
A おじいさん・おばあさんに聞くと、今は使われていない言葉が出てくるかもしれません。
この単元で最も伝えたいのは、「方言は劣った言葉ではない」という価値観です。かつて学校で方言を禁じた時代もありましたが、現在の国語教育では方言の価値を認めたうえで、共通語との使い分けを教えます。
お子さんが方言を恥ずかしがるようなら、「それはこの土地の言葉だよ」と伝えてあげてください。自分の言葉に誇りを持つことは、自分の育った場所を肯定することにつながります。
方言の調査は、家庭でこそできる学習です。祖父母がいらっしゃれば、ぜひ話を聞く機会を作ってください。世代間の交流にもなり、消えつつある言葉の記録にもなります。
引っ越し経験のあるご家庭なら、二つの地域の言葉を比べるだけで生きた教材になります。