原こう用紙の前で三十分止まってしまうのは、読む力がないからではありません。書く材料を、読み終わってから探しているからです。
読書感想文でつまずいた子の原こう用紙を見ると、たいてい前半はすらすら埋まっています。
「この本は、主人公の男の子が犬をひろうところから始まります。男の子は犬にポチという名前をつけて、いっしょに学校へ行きます。ある日、ポチがいなくなってしまいます。男の子はさがしまわって……」
そして、三枚目のとちゅうで手が止まる。最後に「とてもおもしろかったです。またこんな本を読みたいです」と書いて終わり。──これは、ほぼ全員が一度は通る道です。
何が起きているかというと、本の内容を順番に説明していただけで、感想はまだ一文も書けていないのです。あらすじは書けば書くほど字数が増えるので、書いている本人は「進んでいる」と感じています。だから途中で気づけません。
ここをはっきりさせておきます。読書感想文で先生が読みたいのは、本に何が書いてあったかではありません。それを読んだあなたの中で、何が動いたかです。本の説明は、読み手にその場面を思い出してもらうための最小限でよいのです。
原こう用紙3枚(1200字)の感想文なら、あらすじにあてるのは3〜4行で足ります。それ以上書いていたら、感想の場所を食べてしまっています。
読み終わってから「どこが心に残った?」と聞かれても、答えられないのがふつうです。心が動いた瞬間は、その場で記録しないと消えてしまうからです。
だから、読書感想文でいちばん大事な作業は、書く日ではなく読んでいる最中にあります。用意するものは、ふせん一つだけです。
ポイントは、いいことが書いてある場所を探さないことです。感動した場所でなくてかまいません。むしろ「自分ならそうしない」と反発した場所のほうが、書くことがたくさん出てきます。
ふせんが5枚も貼れれば、材料としては十分すぎるくらいです。0枚のまま読み終わってしまったら、それは本が合っていない合図かもしれません。
ここが分かれ道です。多くの子は、貼った5枚を全部書こうとします。すると1か所あたり200字ずつしか使えず、どれも「〜だと思いました」で終わる浅い文の行列になります。
正しいのは逆です。1枚だけ選んで、残りは捨てる。選んだ1か所について、なぜそう思ったのかを掘り下げていきます。
| 書き方 | 1か所あたりの字数 | 読んだ人の印象 |
|---|---|---|
| 5か所を平等に書く | 約200字 | 本の説明が並んでいる |
| 2か所にしぼる | 約450字 | 理由まで書けている |
| 1か所を掘り下げる | 約900字 | この子にしか書けない |
どの1枚を選ぶかの目安は、自分の話をくっつけられるかどうかです。「主人公がうそをついた場面」を選べるのは、自分にもうそをついた経験があるからです。そこに自分の体験を並べられる場所が、いちばん深く書けます。
選ぶことが難しいのは、読書感想文にかぎった話ではありません。調べて発表するでも、集める作業より選ぶ作業のほうが難しいのは同じです。
材料が決まったら、置く順番を決めます。前から書き始めるのではなく、四つのかたまりに分けると迷いません。
③がいちばん長いことに注目してください。ここが感想文の本体です。①②はそこへ入るための助走にすぎません。
「表紙の犬がうちの犬に似ていたから」「うすくてすぐ読めそうだったから」──こういう理由で構いません。むしろ、そのほうがあとの話につながります。無理に「感動する本だと聞いたので」と書く必要はありません。
ここが感想文の心臓です。本の場面と、自分に起きたことを並べます。
「主人公はポチがいなくなったことを、家の人に言えなかった。わたしも三年生のとき、学校で花びんを割ったのに手を挙げられなかった。だまっていれば終わると思ったのに、家に帰ってからのほうが、ずっと重かった。」
本の話だけなら、だれが書いても同じ文になります。自分の話が入ったとたん、その一文は世界にひとつになります。読書感想文が「あなたにしか書けない文章」と言われるのは、この部分があるからです。
終わりは「おもしろかったです」ではなく、読む前と後のちがいを書きます。「これからは、こまったことがあったら早く言おうと思う」でも十分です。大げさな決意はいりません。
書き上げたら、原こう用紙を見返して「思いました」に鉛筆で丸をつけます。5個以上あったら、感想文は薄くなっています。
「思いました」は、理由を書かなくても文が終わってしまう便利な言葉です。便利すぎるので、そこで考えが止まります。
丸をつけた「思いました」のうち、いくつかを「なぜなら」「でも」でつなぎ直すだけで、文章は目に見えて深くなります。この、主張に理由をくっつける感覚は意見文を書くとまったく同じものです。
「うれしい・かなしい・すごい」だけで書こうとすると行きづまります。くやしい、ほっとした、いらいらした、はずかしい、うらやましい──気持ちの名前を知っているほど、細かく書けます。物語の中で登場人物の気持ちがどう表されているかは、物語の心情で確かめられます。
足りないときに増やすのは、あらすじではなく自分の話です。「そのとき、どこにいた?」「だれがいた?」「そのあとどうなった?」と自分に質問すると、書くことが出てきます。場所や時間を具体的に書くだけで、100字は自然に増えます。
最後まで読んでいないと、③に書ける「変化」が見つかりません。読み終わっていないなら、感想文を書く前に読み切るほうが結局は早く終わります。
厚い本を選べばよい感想文になるわけではありません。ふせんが1枚も貼れなかったら、それは本が合っていないということです。1〜2学年下の本でも、心が動けば感想文は書けます。図書館で最初の3ページを読んでから決めるのが確実です。
Q1 次の一文は、感想文として直すならどうしますか。「主人公はとてもかわいそうだと思いました。」
A 理由をくっつけます。「主人公はかわいそうだと思った。なぜなら、だまっていたのは自分を守るためではなく、家の人を心配させたくなかったからだ。」──「なぜなら」を足すだけで、考えたことが見えるようになります。
Q2 原こう用紙3枚のうち、2枚があらすじで埋まっていました。何を減らして、何を増やしますか。
A あらすじを3〜4行まで減らし、その分を「自分の体験」にあてます。あらすじは、選んだ1か所を分かってもらうために必要な最小限だけ残します。
Q3 ふせんを5枚貼りました。次にすることは何ですか。
A 1枚を選びます。選ぶ基準は「自分の体験をくっつけられるか」。残りの4枚は使いません。
読書感想文は、家庭でもっとも手伝いにくい宿題の一つです。手伝うと親の文章になり、放っておくと最終日に泣くことになります。
おすすめは、書かせる前に聞き役になることです。「どこがいちばん心に残った?」ではなく、「読んでて、いやだなと思ったところある?」と聞くほうが答えが返ってきます。話せたことは、そのまま書けます。話す前に書かせようとするから止まるのです。
ふせんを貼りながら読む方法は、感想文のためだけの技ではありません。中学・高校の読書、大人になってからの資料読みでもそのまま使えます。
そして、書き上がったものに赤を入れすぎないでください。直したくなるのは分かりますが、「自分の話を書いたら、たくさん直された」という記憶は、次の年の感想文をもっと書けなくします。ほめる場所は、その子にしか書けなかった一文です。