アルファベットは、エーからゼットまで言えるようになりました。ところが教科書に cat と書いてあると、なぜか読めません。エー・シー・ティーと一文字ずつ言ってみても、「キャット」にはぜんぜん近づきません。これは、おぼえ方が足りなかったのでも、英語が気まぐれなのでもありません。学校でおぼえたのは文字の「名前」で、単語を読むのに要るのは文字の「音」という、べつのものだからです。この記事では、その足りていないほうを、26文字ぶん一気にうめます。
3年生で、アルファベットの大文字と小文字を習いました。4年生になると、教科書には単語がどんどん出てきます。apple、dog、blue、Monday。先生のあとについて声に出して言うので、そのときは言えます。ところが、その日に習っていない単語がプリントに出てくると、とたんに手が止まります。読めないからです。
ここで多くの人が、こう思ってしまいます。「英語は、おぼえるしかないんだ」。じつは、そうではありません。英語を使う国の小学校では、この「はじめて見た単語を自分で読む」ための時間が、1年生からたっぷりとられています。日本の小学校の英語は、聞く・話すが中心なので、そこがすっぽりぬけているだけなのです。この記事であつかう英語の文字と音のきまりは、そのぬけているところにあたります。
英語の文字には、「名前」と「音」の2つがあります。A の名前は「エー」、A の音は「ア」。おぼえたのは名前のほうだけです。単語の中で使われているのは、ぜんぶ音のほうです。だから、名前しか知らない状態で単語を見ると、一文字も手がかりがない ── そういう状態になっていました。
ためしに、cat を名前のほうで読んでみます。
ぜんぜんちがいます。では、音のほうで読むとどうなるでしょうか。
今度は、ちゃんと近づきました。英語の単語は、文字の名前ではなく、文字の音を順番につなげて読むものだったのです。これが分かれば、あとはその音を26文字ぶん手に入れるだけ、という話になります。そして次の章がこの記事でいちばんおいしいところなのですが、その26文字のうち14文字ぶんの音は、すでに知っている「名前」の中にかくれています。まるごと新しくおぼえ直す必要はありません。
母音(a・e・i・o・u)をのぞいた21文字を、3つのグループに分けてみます。分け方は「名前のどこに音があるか」です。
グループ1:名前の「はじめ」が、そのまま音(8文字)
| 文字 | 名前 | 音 | 単語の例 |
|---|---|---|---|
| B | ビー | ブ | bag(ふくろ) |
| D | ディー | ドゥ | dog(いぬ) |
| J | ジェイ | ジュ | jump(とぶ) |
| K | ケイ | ク | key(かぎ) |
| P | ピー | プ | pen(ペン) |
| T | ティー | トゥ | ten(10) |
| V | ヴィー | ヴ | van(バン) |
| Z | ズィー | ズ | zoo(どうぶつ園) |
名前の頭をちょっとだけ言って、あとを飲みこむ。それが音です。「ビー」の「ビ」だけ、「ピー」の「ピ」だけ。つまり、うしろの「イー」を切りすてるだけです。
グループ2:名前の「おわり」が音(6文字)
| 文字 | 名前 | 音 | 単語の例 |
|---|---|---|---|
| F | エフ | フ | fish(さかな) |
| L | エル | ル | leg(あし) |
| M | エム | ム | map(ちず) |
| N | エヌ | ヌ | net(あみ) |
| S | エス | ス | sun(たいよう) |
| X | エックス | クス | box(はこ) |
こちらは反対で、名前のあたまの「エ」を切りすてると音になります。エフ→フ、エス→ス。X だけは「クス」と2つぶんの音がくっついていて、そのため単語のおしまいによく出てきます(box、six、fox)。
グループ3:名前から音が見つけにくい(7文字)
| 文字 | 名前 | 音 | 単語の例 |
|---|---|---|---|
| C | シー | ク | cup(コップ) |
| G | ジー | グ | go(行く) |
| H | エイチ | ハ | hat(ぼうし) |
| Q | キュー | クヮ | queen(じょおう) |
| R | アール | ㇽ | red(あかい) |
| W | ダブリュー | ゥワ | web(クモのす) |
| Y | ワイ | ヤ | yes(はい) |
ここの7文字だけ、名前から音がわかりません。別におぼえるところです。とはいえおぼえ直すのは7文字だけで、しかも C と G は cup、go のように、よく知っている単語の頭についています。ねらいをしぼって練習できます。
8+6+7で21文字。ここに母音5文字を足して26文字です。つまり「名前しか知らない」と思っていたのに、グループ1と2の14文字ぶんの音は、もう手に入っていたことになります。切りすてる場所が「うしろ」か「まえ」かのちがいだけでした。
のこりが a・e・i・o・u の5文字です。この5文字は、1文字でいくつもの音を持っていて、英語がややこしく見えるいちばんの原因になっています。ただ、まず1つだけおぼえればいい音があります。「みじかい音」と呼ばれるものです。
| 文字 | 名前 | みじかい音 | 単語の例 |
|---|---|---|---|
| a | エー | ア(口を横に大きく) | cat / bag / hat |
| e | イー | エ | pen / bed / egg |
| i | アイ | イ | pig / sit / big |
| o | オー | オ | dog / box / hot |
| u | ユー | ア(口はあけずのどのおく) | cup / sun / bus |
表を見て、おどろいたところがあるはずです。i の名前は「アイ」なのに、音は「イ」。u の名前は「ユー」なのに、音は「ア」。名前と音がこれだけちがうので、名前だけ知っている状態では、pig を「ピーアイジー」、sun を「エスユーエヌ」と読んでしまい、どうやっても正解にたどりつけませんでした。
a と u が両方「ア」に聞こえるのも、つまずきやすいところです。a は口を横に広げて「エとアのあいだ」、u はあまり口を開けずにのどのおくで「ア」。cat と cut は、この口の形だけで区別されている、べつの単語です。
道具はそろいました。あとは、つなげるだけです。英語では、この作業のことをブレンディング(blending、まぜること)と呼びます。
大事なのは、ゆっくり3つ言ってから、だんだん速くしていくことです。速くすると、まんなかの母音にまえとうしろがくっついて、ひとかたまりの単語になります。この「くっつける」感覚さえつかめば、はじめて見る単語でも、とりあえず読んでみることができるようになります。
これが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。テストに出るからではありません。読める単語が「習った単語」だけから「見たことのない単語」まで広がる、その一歩だからです。
ここからが、この記事のいちばんおもしろいところです。次の2つを見くらべてください。
| e なし | 読み方 | e つき | 読み方 |
|---|---|---|---|
| cap(ぼうし) | キャップ | cape(マント) | ケイプ |
| kit(道具セット) | キット | kite(たこ) | カイト |
| not(〜でない) | ノット | note(メモ) | ノウト |
| cut(切る) | カット | cute(かわいい) | キュート |
| hug(だきしめる) | ハグ | huge(きょだいな) | ヒュージ |
右の列の単語は、どれもおしまいの e を読んでいません。読まないのに、わざわざ書いてある。しかも、その e がついたとたんに、まんなかの母音の読み方が変わっています。
変わったあとの読み方を、よく見てください。
右はしの列は、この記事のいちばんはじめに出てきた文字の「名前」そのものです。つまり、こういうきまりになっています。
うしろに読まない e がつくと、まんなかの母音は「自分の名前」を言う。英語を使う国の子どもたちは、これをマジック e(magic e)、またはサイレント e(silent e、しずかな e)と呼んで習います。読まない e は、書きまちがいでも、かざりでもありません。前の文字に「名前で読め」と合図を送るための道具でした。
この1つのきまりが分かるだけで、読める単語がどっと増えます。name(ネイム)、make(メイク)、time(タイム)、like(ライク)、home(ホウム)、nose(ノウズ)、game(ゲイム)、five(ファイヴ)。どれも、まんなかの母音が自分の名前を言っています。教科書のはじめのほうに出てくる単語ばかりです。
なお、e 自身にこのきまりを使う単語(these、theme など)もありますが、数は多くありません。まずは a・i・o・u の4つでじゅうぶんです。
3年生でローマ字を習いました。あれも同じアルファベットを使うので、「じゃあ英語も同じように読めばいい」と思ってしまいます。ところが、ここに大きなワナがあります。
| ローマ字 | 英語 | |
|---|---|---|
| a の読み方 | いつでも「ア」 | cat=ア/name=エイ/all=オー/about=あいまいな音 |
| 文字と音の数 | 1文字に1つの音 | 1文字にいくつもの音 |
| 子音のならび | かならず子音+母音でセット | 子音だけが2つ3つとならぶ(str、nd、sk) |
| 字のとおりか | 書いたとおりに読める | 読まない字がある(マジック e、knight の k) |
とくにきついのが3行目です。ローマ字では、子音のうしろにはかならず母音がついてきます。ka・ki・ku・ke・ko。だから日本語を話す人は、子音だけがならぶのが苦手で、つい母音を足してしまいます。
「ストライク」とカタカナで書いたとき、英語にはない母音をいくつも足しています。だから、そのまま言っても通じにくいのです。これは発音の上手・下手の話ではなく、ローマ字のしくみを、そのまま英語に持ちこんでしまった結果です。ローマ字が悪いのではありません。べつのきまりだと知っておくだけで、混乱はずいぶん減ります。
さきほどの表で、C の音は「ク」、G の音は「グ」としました。ところが、こんな単語があります。
ばらばらに見えますが、右がわだけをならべると、あるものが見えてきます。c や g のすぐうしろにある文字です。
| うしろの文字 | c の音 | g の音 | 例 |
|---|---|---|---|
| a・o・u | ク | グ | cat / cup / go / game |
| e・i・y | ス | ジュ | city / cycle / gym / giant |
うしろに e・i・y が来ると、c と g はやわらかい音になる。このきまりを知っていると、はじめて見た単語でも読み方をねらいうちできます。ただし g のほうには、きまりを守らないものがそこそこあります(get、give、girl は「グ」のまま)。c のきまりはよく当たり、g のきまりはときどき外れる、とおぼえておくとちょうどいいです。
ここまでは1文字=1つの音でしたが、2文字でチームを組んで、まったく別の音を1つ出す組み合わせもあります。よく出る4つだけ見ておきます。
| つづり | 音 | 単語の例 |
|---|---|---|
| sh | シュ | ship(船)/fish(さかな) |
| ch | チュ | chair(いす)/lunch(昼食) |
| th | 舌を軽くはさんで出す音(2種類ある) | this(これ)/three(3) |
| ng | ン(鼻にぬける) | sing(歌う)/king(王) |
ここで気をつけたいのは、s と h を別べつに読んではいけないということです。ship は「ス・ヒ・プ」ではなく「シュ・イ・プ」。2文字で1チームなので、まとめて1つの音として見ます。慣れるまでは、sh・ch・th・ng に指で丸をつけてから読むと、まちがえにくくなります。
正直に書いておきます。ここまでのきまりを全部おぼえても、読めない単語はのこります。
こうした単語は、きまりで解くのをあきらめて、形ごとまるおぼえします。英語を使う国では、これをサイトワード(sight words、見ただけで分かる単語)と呼びます。
ただし、ここには救いがあります。きまりを守らない単語は、the、of、one、two、come のような、いちばんよく使う短い単語にかたよっているのです。よく使うということは、毎日のように目に入るということで、まるおぼえが勝手に進みます。反対に、あまり使わない長い単語ほど、きまりどおりに読めることが多くなります。
ついでに、なぜ英語にはこんな面倒なつづりがあるのでしょうか。knight(ナイト、騎士)の k、light の gh は、今は読みません。ところがむかしは、ちゃんと読んでいたのです。話しことばのほうがだんだん変わっていったのに、書きことばだけが昔の形でのこってしまった ── それが、読まない字の正体です。英語のつづりは、気まぐれなのではなく、古い発音の化石のようなものでした。
Q1 アルファベットは全部言えるのに、はじめて見た単語が読めません。何が足りないのでしょう。
A 文字の「音」です。おぼえたのは文字の「名前」(エー・ビー・シー)で、単語の中で使われているのは「音」(ア・ブ・ク)のほうです。cat をエー・シー・ティーと読んでも「キャット」に近づかないのは、そもそも別のものを読んでいたからです。名前と音は、漢字でいえば「形だけおぼえて、読み方をおぼえていない」のに近い状態でした。
Q2 cap は「キャップ」なのに、cape は「ケイプ」になります。うしろの e は読まないのに、どうして読み方が変わるのでしょう。
A うしろの読まない e が、前の母音に「名前で読め」と合図を送っているからです(マジック e)。a の名前は「エー(エイ)」なので、cap の「ア」が cape では「エイ」に変わります。同じことが kit→kite(イ→アイ、I の名前)、not→note(オ→オウ、O の名前)、cut→cute(ア→ユー、U の名前)でも起きています。読まない e は、かざりではなく道具です。
Q3 bike という単語を、はじめて見たとします。どう考えれば読めますか。
A まず、おしまいに e があるのでマジック eだと気づきます。すると、まんなかの i は名前の「アイ」。あとは音をつなげます。b(ブ)+ i(アイ)+ k(ク)で「バイク」。おしまいの e は読みません。もし e がなければ bik で「ビック」に近い読みになるはずです。e があるかないかだけで、ここまで変わります。
Q4 cat の c は「ク」なのに、city の c は「ス」です。どちらか区別するコツはありますか。
A c のすぐうしろの文字を見ます。a・o・u が来ていれば「ク」(cat、cup、cop)、e・i・y が来ていれば「ス」(city、cent、cycle)。city は c のうしろが i なので「ス」です。同じきまりが g にもあって、うしろが e・i・y なら「ジュ」になります(gym、giant)。ただし g のほうは get・give・girl のように守らないものもあるので、c ほどあてにはできません。
Q5 ローマ字が得意な友だちのほうが、英語の読みでつまずいていました。なぜそんなことが起きるのでしょう。
A ローマ字のきまりを、そのまま英語に当てはめてしまうからです。ローマ字は1文字に1つの音で、子音のうしろにはかならず母音がつきます。英語は1文字にいくつもの音があり、子音だけが2つ3つならびます。だから strike を「ス・ト・ラ・イ・ク」と、英語にはない母音を足して読んでしまいます。ローマ字を知っていること自体は強みです。べつのきまりだと知るだけで、その強みがじゃまをしなくなります。
日本の小学校の外国語活動・外国語科は「聞く・話す」が中心で、文字と音を結びつける学習(フォニックス)は中心には置かれていません。一方、英語を使う国の小学校では1年生から数年かけてあつかう土台の部分です。中学で単語テストにつまずくお子さんの多くは、暗記の努力が足りないのではなく、この土台がないまま丸暗記で押し切ろうとしていることが原因です。
ご家庭でしていただくと効果が大きいのは、「うしろに e があるかないか」だけを見るクイズです。cap/cape、kit/kite、not/note、cut/cute、hug/huge を紙に書いて、どちらがどちらかを当ててもらいます。2分で終わりますし、「読まない字がわざわざ書いてある理由がある」と気づいた瞬間の反応は、たいてい劇的です。
また、お子さんが「ストライク」のようにカタカナで母音を足してしまっても、その場で直さないであげてください。これは発音の良し悪しではなく、日本語のしくみをそのまま使っているだけで、ローマ字を正しく身につけた証拠でもあります。「日本語のきまりと英語のきまりは別」と言葉で伝えるほうが、お子さんの自信を折らずに済みます。
なお、この記事では発音記号は一度も使っていません。小学生の段階では記号そのものが新しい負担になるためで、カタカナはあくまで近い音の目安として添えています。ほんとうの音は、教科書の音声やタブレットの読み上げで聞くのがいちばん確実です。