「校門を出て右」と言われたのに、たどりつけなかった。そんな経験はありませんか。悪いのは聞き方ではありません。右と左は、言った人がどっちを向いていたかで、指す方向が反対になってしまう言葉だからです。だから地図では、右・左を使いません。
3年生の社会で習う方位と地図の読み方は、地図記号をおぼえる前に、まずここから始まります。地図の上で場所を言いあらわすのに、なぜ右・左を使わないのか、という話です。
友だちと向かい合って立ち、おたがいに右手をあげてみてください。二本の手は、同じ側にはあがりません。向かい合った相手の右手は、自分から見ると左側にあります。
これが、道案内で行きちがいが起きるしくみです。「その角を右」と言った人は自分の向きで言っています。聞いた人が反対を向いていれば、その「右」は反対側になります。
さらに、歩いている人は向きを変え続けます。角を一つ曲がるたびに、その人にとっての右は、地面の上では別の方向に移っていきます。右・左は、人がどこを向いているかにくっついている言葉なのです。
ところが、方位はちがいます。北は、だれが言っても、どちらを向いて言っても、地面の上の同じ方向を指します。町の反対側にいる人と話していても、「駅の北がわ」は一か所しかありません。だから地図も、道案内も、ニュースの天気予報も、右・左ではなく方位を使うのです。
いちばんのもとになるのが、北・南・東・西の四つ、四方位です。この四つは、人が勝手に決めたわけではありません。もとになっているのは太陽の動きです。
太陽は東からのぼり、南の高いところを通って、西にしずみます。だから、朝いちばんに太陽が見える方が東、夕方にしずんでいく方が西です。この二つが決まると、残りの二つも自動的に決まります。東を右手、西を左手にして立ったとき、正面が北、背中が南です。
もう一つ、かげを使うやり方もあります。理科で習うように、かげは太陽の反対側にできます。昼ごろ、太陽が南の高いところにあるとき、かげは北へのびます。運動場のまん中で自分のかげを見れば、方位じしんがなくても、だいたいの北が分かります。
ただし、太陽もかげも、時こくによって位置が変わります。正確に知りたいときは、いつでも同じ向きを指す道具、方位じしんを使います。方位じしんの使い方は理科でくわしく習いますが、社会でも町を調べるときに必ず持っていく道具です。
四方位だけでは、言いあらわせない場所が出てきます。学校から見て、駅は東でもあり北でもある、というときです。そこで、四方位のちょうどあいだに四つ足したものが八方位です。
| 方位 | どこ | まちがえやすい言い方 |
|---|---|---|
| 北 | もとになる四方位 | ― |
| 北東 | 北と東のあいだ | ×「東北」 |
| 東 | 太陽がのぼる方 | ― |
| 南東 | 南と東のあいだ | ×「東南」 |
| 南 | 昼に太陽が高くなる方 | ― |
| 南西 | 南と西のあいだ | ×「西南」 |
| 西 | 太陽がしずむ方 | ― |
| 北西 | 北と西のあいだ | ×「西北」 |
ここに、おぼえておくと得をするきまりがあります。あいだの方位は、必ず「北」か「南」を先に言うということです。北東・南東・南西・北西。この順番は決まっていて、東北・西南のようには言いません。
「東北」と言ってしまう子が多いのには理由があります。東北地方という地名を先に知っているからです。青森県や岩手県のあたりをまとめて呼ぶ言い方ですね。こちらは地方の名前で、方位の言い方ではありません。方位として言うときは北東。地方の名前として言うときは東北。同じ二文字でも、別のものだと分けておぼえてください。
教科書の地図も、地図帳も、町でみかける案内板も、ほとんどが上を北にしてかかれています。これは自然にそうなったのではなく、世界中で決めた約束です。
上が北と決まっているので、地図の上では下が南、右が東、左が西になります。右上は北東、右下は南東、左下は南西、左上は北西です。この対応さえ入っていれば、地図を見ただけで方位が読めます。
気をつけたいのは、ここでいう「右が東」は、紙の上だけの話だということです。紙を回せば、右は別の方を向きます。それでも、地図にかかれた町の北は北のままです。方位は地面にくっついていて、紙の向きでは動きません。
ときどき、上が北ではない地図もあります。駅前の案内板などで、いま立っている人が向いている方を上にしてあるものです。歩く人には分かりやすいのですが、その代わり方位はずれています。だから、そういう地図には必ずすみに方位記号(矢じるしの「北」のしるし)がついています。地図を読むときは、はじめに方位記号をさがす。これが習慣になると、まちがえません。
八方位でいちばん大事なのは、「どこから見て」を先に決めることです。方位は、二つの場所の関係を言う言葉だからです。
たとえば、学校から見て駅が北東にあるとします。では、駅から見た学校はどちらでしょうか。北東の反対側、つまり南西です。同じ二つの場所なのに、どちらを中心にするかで言い方が入れかわります。
だから、町のようすを調べて発表するときは、必ず「学校から見て」「駅から見て」と中心を言ってから方位を言います。これを言わないと、聞いている人は地図のどこに目をやればよいか分かりません。
白地図に調べたことを書きこむときも同じです。まず学校に印をつけ、そこを中心にして「北がわには田が広がっている」「南西には工場が集まっている」とまとめていきます。中心を決めて、方位で分けて書く。これだけで、絵をならべただけの地図が、人に伝わる地図に変わります。
八方位は、テレビの天気予報でも毎日使われています。「あすは北西の風」というあれです。ここに、おとなでもまちがえる落とし穴があります。
「北西の風」は、北西へふく風ではありません。北西からふいてくる風です。風は、どちらから来たかで名前をつけます。だから北西の風は、地面の上では北西から南東へ向かって流れています。
反対に、川の流れや道の向きは「北へ向かう」と、行く先で言います。風だけが来た方で呼ばれると分けておぼえると、まざりません。
この呼び方が役に立つのは、冬です。日本では冬になると北西の風がふき続けます。冷たい風がどこから来るのかが分かると、5年生で習う日本の気候の話が、ぐっと分かりやすくなります。
自分の進む方を上にしたくて、地図をくるくる回す子がいます。歩くときだけならかまいませんが、そのくせがつくと「上が北」が身につきません。
調べ学習で地図に書きこむときは、地図は机に置いたまま動かさず、自分のほうが位置を変えるようにします。回してよいのは、道を歩いているときだけ、と決めておくとよいでしょう。
紙の上では正しいのですが、外に出るとつかえなくなります。運動場で「北東を指して」と言われて、右上を指しても意味がありません。
外では、まず北を見つけてから考える。太陽・かげ・方位じしんのどれかで北を決め、そこから時計まわりに北東・東……とたどります。紙の上と地面の上をつなぐのは、いつでも「北はどっちか」の一点です。
地方の名前と方位の名前がぶつかっているだけなので、しくみを知れば直ります。方位のときは南北が先。この一つのきまりだけで、北東・南東・南西・北西の四つ全部が言えます。
「西南」も同じです。方位としては南西。歴史で出てくる西南戦争は、地方をさす言い方のほうです。
Q1 学校から見て、家はどの方位にありますか。八方位で答えましょう。
A 地図で学校に印をつけ、上が北であることをたしかめてから読みます。まっすぐ上なら北、右ななめ上なら北東です。答えられたら、そのまま「では家から見た学校は?」と考えてみましょう。反対の方位になります。
Q2 「南東」は、どの四方位とどの四方位のあいだですか。
A 南と東のあいだです。地図の上では右下にあたります。「東南」とは言わないことも、あわせて確かめましょう。
Q3 天気予報で「北の風」と言っていました。風はどちらからどちらへふいていますか。
A 北からふいてきて、南へ向かって流れています。風の名前は、行く先ではなく来た方でつけます。
Q4 晴れた日の昼ごろ、運動場に立って自分のかげを見ました。かげはどちらへのびていますか。
A 北へのびています。昼ごろの太陽は南の高いところにあり、かげは太陽の反対側にできるからです。方位じしんがなくても、これでおおよその北が分かります。
この単元でつまずく子の多くは、八方位の名前を覚えられないのではなく、「方位が地面に固定されている」という感覚がまだ育っていません。名前は10分で覚えられますが、感覚は場数でしか入りません。
効くのは、家の中で方位を使って話す時間を少しだけ作ることです。「テレビは部屋の北がわだね」「ベランダは南向きだから昼にあたたかい」といった一言で十分です。とくに窓の向きと日当たりの関係は、方位が生活と結びついている実例として分かりやすく、6年生の太陽の学習や、中学以降の地理にもつながります。
お出かけのときに、駅前の案内板で方位記号をいっしょに探すのもおすすめです。「この地図、上が北じゃないね」と気づけたら、地図の読み方としてはかなり上の段階に立っています。方位じしんは百円ショップのものでもかまいません。持たせて外を歩き、「いま北はどっち?」と一度聞くだけで、教室で覚えた八方位が現実の町とつながります。