雨がやんだ夕方、ふと空を見ると虹が出ている。「わあ、あそこにかかってる」と指をさします。この「かかっている」という言い方が、じつはこの記事のいちばんの出発点です。虹は、空のどこかに置かれた橋ではありません。近づくこともできないし、写真に写る場所と、となりの人が見ている場所もちがいます。虹とは、数えきれないほどの雨つぶが、それぞれ決まった向きへ送り返した光が、たまたまあなたの目にそろって届いたものです。この一行が分かると、「なぜ太陽の反対がわにしか出ないのか」「なぜまるいのか」「なぜ外が赤なのか」が、全部つながって読めるようになります。
先に正直に書いておきます。「虹のしくみ」は、小学校の理科で単元として習いません。光が色に分かれる話をきちんとやるのは中学以上です。それでも記事にしたのは、虹だけはほぼ全員が、習うより何年も早く見てしまっているからです。しかも見たときにはたいてい「きれいだね」で終わってしまい、疑問が残ったまま流れていきます。
とはいえ、何も手がかりがないわけではありません。3年生の「光のせいしつ」で、光はまっすぐ進むこと、鏡ではね返ること、虫めがねで集められることを確かめました。虹の説明に使う道具は、じつはこの三つだけです。新しく覚えることは「光は色の混ざりものである」の一点しかありません。
むずかしい言葉は使わずに進めます。理科の本では「屈折(くっせつ)」「反射(はんしゃ)」と書かれていますが、ここでは「曲がる」「はね返る」で通します。中学でその名前に出会ったとき、この記事の図がそのまま当てはまるようにしてあります。
虹はいつでも出るわけではありません。出る日には、いつも同じ条件がそろっています。
①と②はすぐ納得できると思います。問題は③です。思い出してみてください。虹を見たとき、太陽はどちらにありましたか。虹を見ながら太陽も見える、ということは、ぜったいに起きません。虹は必ず、太陽の反対がわにできます。
だから、朝に虹が出れば西の空、夕方に出れば東の空と決まっています。天気予報を見なくても、虹の位置から「いま雨が降っているのはあっちの方角だ」と分かるくらい、この決まりは正確です。
もうひとつ、あまり知られていない決まりがあります。太陽が空高くにあるときは、地上から虹は見えません。目安として、太陽が地面から40度より高く上がっていると、虹は地面の下がわにできてしまい、かくれて見えなくなります。夏の真昼に虹をほとんど見かけないのは、雨が少ないからではなく、この理由です。虹が朝と夕方に多いのは、そのころ太陽が低いからです。
次に虹を見たら、くるりと後ろを向いてみてください。かならず太陽があります。そして、自分の頭のかげが落ちている場所をさがしてください。その頭のかげの先を中心にして、虹はぐるりと円をえがいています。信じられないくらいぴったり合います。
太陽の光は、見た感じでは色がついていません。白、あるいは少し黄色っぽい光です。ところが、この白く見える光の中には、赤からむらさきまでの色が、ぜんぶ混ざって入っています。
混ざっているのに、なぜ白く見えるのでしょうか。それは、いっぺんに全部が目に入ってくるからです。絵の具をぜんぶ混ぜると黒っぽくなりますが、光は混ぜるほど白に近づきます。絵の具と光では、混ぜたときの結果が逆なのです。
では、混ざったものを分けるにはどうするか。ここで「曲がる」が登場します。光は、空気から水やガラスに入るとき、進む向きが少し曲がります。まっすぐ進むはずの光が、境目のところでカクンと折れるのです。プールの中の足が短く見えたり、水を入れたコップにさしたストローが折れて見えたりするのは、これが起きているからです。
そしてここが決定的なところです。曲がり方は、色によってびみょうにちがいます。赤はいちばん曲がりにくく、むらさきはいちばん大きく曲がります。ほんのわずかなちがいですが、混ざって進んでいた色が、曲がったとたんに少しずつ別々の道へ散らばりはじめます。
虹で起きていることは、これで半分終わりです。残り半分は、「分かれた色が、どうやって空からこちらへ返ってくるのか」という話になります。
ここからは、空にうかぶ雨つぶを1個だけ取り出して、その中を光といっしょに旅してみます。雨つぶは、ほぼまん丸の形をしています。
大事なのは②です。雨つぶのおくがわの面は、内がわから見ると鏡のようにはたらきます。光の一部はそこを通りぬけて外へ出ていきますが、残りははね返されて、来たほうへ引き返します。
つまり、雨つぶに当たった光は、そのまま向こうへ抜けるのではなく、まわれ右をして戻ってくるのです。だから、虹を見るためには太陽を背にしていなければなりません。太陽のほうを向いていたら、戻ってきた光に背を向けることになります。三つ目の条件の正体は、これでした。
そして、入るときと出るときの2回ぶん曲げられているので、色のちがいはしっかり開いています。1個の雨つぶが、小さなプリズムのような仕事をしているわけです。
ここが、虹のいちばん不思議なところだと思います。雨はあちこちに降っているのに、どうして光がアーチの形にそろうのでしょうか。
理由は、雨つぶが光を返す角度が、きっちり決まっているからです。まん丸のつぶに入った光は、どこに当たったかによらず、だいたい同じ角度に集まって出ていきます。その角度は、およそ42度。
ある一つの雨つぶが赤を届けてくれるのは、その雨つぶが「まん中から42度の向き」にいるときだけです。41度の向きにいる雨つぶは赤を届けてくれません。かわりに、そこにいる雨つぶは黄色や緑を届けます。雨つぶは、自分がどの向きにいるかで、担当する色が決まっているのです。
「まん中から同じ角度」を満たす場所をぜんぶ集めると、どうしても円になります。虹がアーチに見えるのは、下半分が地面にじゃまされて欠けているからで、本当はまるい輪です。飛行機の窓から下に見える虹や、高い山の上から見る虹は、ちゃんと丸くつながって見えることがあります。
色の順番がここで決まります。むらさきはいちばん大きく曲げられるぶん、雨つぶの中で深く回りこみ、まん中に近い40度あたりに返ってきます。赤はあまり曲がらないので、少し外がわの42度に返ってきます。だから外がわが赤、内がわがむらさき。「大きく曲がる色ほど内がわ」という、少し意外な関係になっています。ここを取りちがえると順番が逆になるので、覚えるなら「赤は外」の四文字で十分です。
さて、はじめの話にもどります。虹に近づこうとして歩いたことはありませんか。虹はいつまでたっても同じ遠さにあり、しまいには消えてしまいます。虹の足もとにたどり着いたという話は、世界じゅうどこにもありません。
理由は、もう分かるはずです。虹は物ではなく、「あなたの目に、その向きから光が届いている」という出来事だからです。あなたが1歩動けば、「まん中から42度」の向きも1歩ぶん動きます。すると、さっきまで赤を届けていた雨つぶは担当からはずれ、別の雨つぶが新しく赤の担当になります。虹はいつも、あなたから見て同じ角度に作りなおされ続けます。
同じ場所で同じ虹を見上げていても、あなたの目に赤を届けている雨つぶと、となりの人の目に赤を届けている雨つぶは、別のつぶです。二人は同じものを指さしていますが、見ているのは一人ひとり別の虹です。写真も同じで、カメラの位置に作られた虹がうつっています。「虹を見た人の数だけ、虹がある」というのは、詩的な言い回しではなく、そのままの事実です。
ついでに、虹は片目をつぶっても消えません。左目の虹と右目の虹は、ほんのわずかにずれた位置に、別々にできています。
強い雨のあと、運がいいと虹が二本ならんで見えることがあります。外がわのうすいほうを「副虹(ふくこう)」といいます。このとき、よく見てください。
| 内がわの虹(主虹) | 外がわの虹(副虹) | |
|---|---|---|
| まん中からの角度 | およそ40〜42度 | およそ50〜53度 |
| 雨つぶの中ではね返る回数 | 1回 | 2回 |
| 色の並び | 外が赤、内がむらさき | 外がむらさき、内が赤 |
| 明るさ | はっきり明るい | うすい |
色の順が逆になっているのは、雨つぶの中で2回はね返っているからです。もう一度はね返るぶん道が長くなり、出てくる向きも外がわにずれ、色の並びも裏返ります。そして、はね返るたびに光は少しずつ外へもれるので、副虹は主虹よりかなりうすくなります。二重の虹は、ねらって見るというより「出ていたら気づける人だけが得をする」種類のものです。
もうひとつ、知っていると自慢できることがあります。二本の虹にはさまれた部分の空は、まわりより暗く見えます。理由は、その角度には、どちらの虹の担当でもない光しか返ってこないからです。雨つぶは光を「決まった角度に集める」ので、集めていない角度がぽっかり空くわけです。二重の虹を見たら、あいだの空の色に目をやってみてください。
虹は7色、と習います。数えたことはあるでしょうか。実物の虹を見ながら「あい色」と「青」を見分けられた人は、たぶんそう多くありません。
じつは、虹の色は切れ目なく、少しずつ変わり続けています。赤とだいだいのあいだに線はなく、境目は色が混ざったままつながっています。ここから何色を取り出すかは、人が決めたことです。7という数は、イギリスのニュートンという人が、音楽のドレミが7つであることになぞらえて選んだと伝えられています。
国や時代によって数え方はちがいます。6色と教える国も、5色や、もっと少なく数えていた地域もあります。どれも間違いではありません。虹の側に「7本の帯」があるのではなく、見る人の言葉のほうに区切りがあるからです。
虹を数えるなら、外がわから「赤・だいだい・黄・緑・青・むらさき」の6つを先に見つけるのがおすすめです。この6つははっきり見分けられます。そのうえで青とむらさきのあいだをじっと見ると、少し深い青の帯があります。それが「あい色」と呼ばれてきたところです。見えなくても気にしなくて大丈夫です。
虹は待たなくても作れます。条件はさっきの三つだけなので、そろえればよいのです。
うまくいくと、きりの中にはっきりした虹が立ちます。ここで、記事の内容をその場で確かめられます。一歩右へ動いてみてください。虹も一歩ぶん右へついてきます。ホースの水は同じ場所にまいているのに、です。虹が水しぶきに貼りついた模様ではないことが、これで体で分かります。
晴れていない日は、光が強い部屋でもできます。水を入れたとうめいなコップを窓ぎわに置き、白い紙を下に置くと、紙の上に色の帯が出ることがあります。これは雨つぶのかわりにコップの水が光を曲げたもので、虹の前半部分だけを取り出した実験です。
虹をさがすときも、実験をするときも、太陽を直接見てはいけません。目をいためます。虹はいつも太陽と反対がわなので、太陽に背を向けていれば自然と安全な向きになります。また、CDやDVDを光にかざすと虹のような色が出ますが、あれは雨つぶとはちがう仕組み(細いみぞが光を分けている)で起きています。きれいですが、同じ話ではないので混ぜないほうがすっきりします。
Q1 友だちが「東の空に虹が出てるよ」と教えてくれました。このとき、太陽はどちらの空にありますか。時間帯は朝と夕方のどちらだと考えられますか。
A 太陽は西にあります。虹は必ず太陽の反対がわにできるからです。太陽が西にあるのは夕方なので、答えは夕方。ついでに、いま雨が降っているのは東の方角だと分かります。
Q2 虹に向かって歩いていくと、どうなりますか。理由もあわせて答えましょう。
A いつまでも近づけません。虹は空に置かれた物ではなく、「自分から見て42度の向きから光が届いている」という出来事だからです。自分が動けば42度の向きも動き、別の雨つぶが新しく担当になります。虹は、自分との位置関係で作りなおされ続けます。
Q3 虹の外がわが赤で、内がわがむらさきになるのはなぜですか。
A 水の中に入ったとき、むらさきがいちばん大きく曲がり、赤がいちばん曲がりにくいからです。大きく曲がるむらさきは雨つぶの中で深く回りこみ、まん中に近い40度あたりへ返ってきます。あまり曲がらない赤は、その外がわの42度へ返ってきます。結果として赤が外になります。
Q4 二重に虹が出たとき、外がわの虹は色の順が逆でした。何がちがうと、順番が逆になるのでしょう。
A 雨つぶの中ではね返る回数です。内がわの虹は1回、外がわの虹は2回はね返っています。1回多く回るぶん、出てくる向きが外へずれ、色の並びも裏返ります。はね返るたびに光がもれるので、外がわの虹はうすくなります。
Q5 夏のよく晴れた昼に、にわか雨が降ってすぐやみました。太陽もすぐに出ましたが、虹は見えませんでした。雨つぶも太陽もあったのに、なぜでしょう。
A 太陽が高すぎたからです。虹は頭のかげの先を中心に、およそ42度はなれた輪としてできます。太陽が高いと、その輪は地面より下がわにできてしまい、地上に立っている人からはかくれて見えません。同じ雨でも、夕方なら見えた可能性があります。
Q1は太陽との位置関係、Q2は「虹は物ではない」、Q3とQ4は雨つぶ1個の中の道すじ、Q5は高さの話でした。ばらばらに見えて、使っている考えは「雨つぶは、決まった角度へ光を送り返す」という一本だけです。
虹のしくみは、小学校の理科の単元には入っていません。光が色に分かれる話は中学以降です。それでも記事にしたのは、虹が「習う前に必ず見てしまうもの」の代表だからです。説明のないまま「きれいだね」で通り過ぎた経験は、あとで習うときに「知っているつもり」として残り、かえってじゃまになることがあります。
ご家庭でしていただけると効果が大きいのは、虹を見たときに、いっしょに後ろを向いて太陽をさがすことです。道具も時間もいりません。「いつも反対がわだね」と一度でも体で確かめておくと、この記事の残りはすべてそこからつながります。頭のかげの先が虹の円の中心である、というところまで見られたら十分です。
晴れた日の水まきも、ぜひ一度やってみてください。お子さんに一歩横へ動いてもらうところが山場です。水は動かしていないのに虹がついてくる ── ここで「あれ?」という顔になったら、虹が物ではないことが伝わったサインです。
なお本文では、理科の用語である「屈折」「反射」「プリズム」「対日点」といった言葉をあえて使わず、「曲がる」「はね返る」「頭のかげの先」で通しました。言葉を先に覚えるより、起きていることの形を先に持っておくほうが、中学での学習につながりやすいと判断したためです。角度の数値(42度・50度)も、正確な導き方は高校の内容になるため、ここでは「決まった角度がある」という事実の提示にとどめています。