3年の理科で、太陽とかげの動きを調べるときに使うのが方位じしんです。ところが、はじめて手に持った人のほとんどが、同じことをします。針をつまんで「北」の字に合わせようとするのです。気持ちはよく分かります。でも、これだけは逆です。針は自分で北を向きます。わたしたちが合わせるのは、文字ばんのほうです。ここが入れかわっているあいだ、方位じしんはずっと使えません。
まず、なぜ針が北を向くのかという話からです。
方位じしんの中に入っている細い針は、じつは小さなじしゃくです。針はとても軽く、まん中の一点だけで支えられていて、ほとんど力をかけずにくるくる回れるようになっています。
そして地球そのものが、大きなじしゃくのはたらきをしています。だから、自由に回れる小さなじしゃくを置くと、かならず決まった向き ── 北と南を結ぶ向き ── で止まります。じしゃくと電気(3年)で「じしゃくのN極とS極は引き合う」と習ったことが、そのままここで起きています。
だから、方位じしんは「はかる道具」ではなく「勝手に向く道具」です。使う人の仕事は、向かせることではありません。じゃまをせずに、止まるまで待つことです。これが分かると、あとの決まりはぜんぶ理由つきで分かります。
針は細い棒のような形で、両はしがとがっています。多くの方位じしんでは、片方だけに色がついています。赤や青、または黒くぬってあります。
この色のついたほうの先が、北を指しています。反対のはしは南です。ここを逆に読むと、方位がまるごと反対になり、東と西も入れかわります。調べたことが全部さかさまになるので、使う前に必ず「色つき=北」と口に出して確かめてください。
色のつけ方は、方位じしんの種類によってちがいます。学校で配られたものを最初に一度、外に持って出て、太陽が出ている昼間にためすのがいちばんです。かげのできる向きと合っているかを見れば、どちらが北かはすぐ分かります(やり方はこの記事の後ろで説明します)。
順番どおりにやれば、だれでも同じ結果になります。
| じゅんばん | やること | 理由 |
|---|---|---|
| ① | 方位じしんを手のひらにのせ、地面と平らになるように持つ | かたむくと針がケースにこすれて、とちゅうで止まってしまう |
| ② | 鉄や磁石から3歩ほど離れる | 近くの鉄に引かれて、北ではない方を向いてしまう |
| ③ | 針が動かなくなるまで待つ | ゆれているあいだの向きは、まだ北ではない |
| ④ | 文字ばんを回して、「北」の字を色のついた針先に合わせる | これで、文字ばんの東・南・西も正しい向きになる |
④が、この記事のいちばんの中心です。①〜③までは、多くの人がちゃんとできます。最後に文字ばんを回さずに読んでしまうために、東や南だけまちがえるのです。針が止まったら、文字ばんを回す。この一手間を入れるかどうかで、記録の正しさが決まります。
方位じしんがうまくはたらかないときは、たいてい原因が3つのどれかです。
いちばん多いのがこれです。針はまん中の一点で支えられているだけなので、板をかたむけると針の先がケースの底やふたにあたって、そこで止まります。手のひらにのせて、水を入れてもこぼれないくらい平らにしてください。歩きながら見るとかならずかたむくので、立ち止まって読みます。
針は小さなじしゃくですから、大きな鉄のものが近くにあると、そちらに引かれます。教室のスチール机、げた箱、鉄のフェンス、ランドセルの金具、はさみやものさしの金属部分、そしてスマートフォンやタブレットも原因になります。3歩ほど離れて、机の上ではなく手のひらの上で使うのが確実です。友だちのすぐとなりで使うと、相手の持っている方位じしんの針どうしが引き合ってずれることもあります。
置いた直後の針は、行き過ぎては戻り、を何度もくり返します。動かなくなってから読む、という点は温度計の使い方(3年)とまったく同じです。「止まったかな」と思ったら10数えて、それでも同じ向きにいたら止まっています。
北さえ決まれば、東・南・西は考えなくても出てきます。北を向いて立ったとき、右が東、後ろが南、左が西です。
順番の覚え方は、時計回りに「北・東・南・西(ほく・とう・なん・ざい)」です。この並びは学校でも地図でも同じで、地図記号と方位(3年)で出てくる地図の上が北、という決まりもここにつながります。地図は「上が北」と決めて作ってあるので、方位じしんで北を見つけたら、その向きに地図の上を合わせれば、地図と目の前の景色が同じ向きに並びます。
ここでよくあるまちがいが、地図の左右をそのまま「東・西」だと思って、体の向きを変えたのに東も一緒に動くと考えてしまうことです。方位は、自分がどちらを向いていても変わりません。自分が南を向けば、東は自分の左側になります。方位は自分ではなく、地球のほうについている向きだからです。
方位じしんが正しく使えているかどうかは、太陽とかげで確かめられます。
太陽は東からのぼり、南の空を通って西にしずみます。かげは太陽の反対側にできるので、太陽とかげ(3年)で調べたとおり、かげの向きは1日のなかで決まった動き方をします。
| 時こく | 太陽のいる方位 | かげがのびる方位 |
|---|---|---|
| 朝(午前9時ごろ) | 東のほう | 西のほう |
| 正午ごろ | 南(いちばん高い) | 北(いちばん短い) |
| 夕方(午後3時ごろ) | 西のほう | 東のほう |
だから、晴れた日の正午ごろに運動場に立ってみてください。自分のかげがのびている向きが、だいたい北です。そこで方位じしんを出して、色のついた針先が同じ方を指していれば、その方位じしんは正しくはたらいています。ずれていたら、近くに鉄があるか、かたむいているかのどちらかです。
道具を、別の方法で確かめる。これは理科の大事なやり方の一つです。「方位じしんが北と言ったから北」ではなく、「かげも同じ方を指したから北」と言えたとき、その記録は強くなります。
| やってはいけないこと | 理由 |
|---|---|
| 針を指やピンセットでつまんで回す | 支えている一点がいたむと、二度と正しく止まらなくなる |
| じしゃくを近づけてためす | 針のじしゃくの力が弱まったり、北と南が入れかわったりする |
| ふる・落とす | 針の支えがずれて、いつも同じ向きで止まらなくなる |
| スマートフォンの上に置く | 中の金属や磁石に引かれて、まったくちがう向きを指す |
| ポケットに入れたまま読む | かたむいているので針が止まりきらない。必ず手のひらの上で |
とくに1つめは覚えておいてください。針をつまんで回したくなる気持ちは自然なものですが、そこをがまんできるかどうかが、方位じしんを大事にできるかどうかの分かれ目です。回すのは文字ばん。針にはさわらない。
Q1 方位じしんを使うとき、人が回すのは針と文字ばんのどちら?
A 文字ばん。針は自分で北を向くので、さわらない。
Q2 針の色のついたほうの先は、どの方位を指している?
A 北。反対のはしが南。
Q3 北を向いて立ったとき、右手の側はどの方位?
A 東。後ろが南、左が西。
Q4 針がゆらゆらして止まらない。まず何をたしかめる?
A 平らに持てているか。かたむくと針がケースにあたって止まらない。次に、鉄や磁石が近くにないかを見る。
Q5 晴れた日の正午ごろ、自分のかげはどの方位にのびる?
A 北。太陽が南にあるので、かげは反対の北にのび、いちばん短くなる。
方位じしんは、3年の理科と社会の両方で登場する数少ない道具です。つまずくお子さんの多くは、方位そのものが分からないのではなく、「針を合わせるのか、文字ばんを合わせるのか」がひっくり返ったまま止まっています。もし使い方に迷っている様子でしたら、正解を教える前に「針はだれが回してるの?」と一度たずねてみてください。針が自分で動いていることに気づいた瞬間に、手順のほうは自然に直ります。ご家庭では、まず自宅のベランダや玄関で北を確かめ、「うちのリビングは南向きなんだね」と生活の中の方位に結びつけるのがおすすめです。地図アプリの向きと見くらべるのも効果的ですが、そのときは端末から離して針を読ませてください。端末に近づけると必ずずれるという経験そのものが、鉄や磁石から離すという決まりを体で覚えることにつながります。「太陽とかげ(3年)」「じしゃくと電気(3年)」とあわせて読むと、なぜ北を向くのかまで一続きで理解できます。