ローマ字のテストは満点なのに、タブレットで作文を打つと一行に何分もかかる。これは、あなたの覚え方が悪いのではありません。ローマ字は「頭で分かる」ことで、キーボードで文字を打つのは「指がおぼえる」ことで、この二つはまったく別の力だからです。何を練習すれば速くなるのかを、順番に整理します。
打つのがおそい人の画面を横から見ていると、指はほとんど止まっています。動いていないのに時間だけ過ぎる。その止まっている時間の正体は、「つぎの字はどこにあるんだろう」とキーの中から一つを目でさがしている時間です。
たとえば「あさがお」と打つには a・s・a・g・a・o の6回おします。ローマ字を知っていれば、この6文字は一しゅんで頭にうかびます。ところが、1文字ごとに目でさがすと、1回あたり2秒として12秒。頭で分かってから指が届くまでに、何十倍もの時間がかかっている計算になります。おそさの原因は、ローマ字の知識ではなく、さがす作業のほうにあるのです。
ということは、練習でへらすべきものもはっきりします。字のならびを覚えなおすのではなく、さがさなくても指が届く場所を、少しずつ増やしていく。これがキーボードの練習の中身です。
さがさずに打つために、世界中で使われている方法があります。両手の指を、いつも同じ8つのキーの上にもどしておくというやり方です。この定位置をホームポジションといいます。
| 手 | 小指 | くすり指 | 中指 | 人さし指 |
|---|---|---|---|---|
| 左手 | A | S | D | F |
| 右手 | ; | L | K | J |
F と J のキーだけ、表面に小さな出っぱりがついています。さわって確かめてみてください。これは目で見なくても人さし指が定位置に帰れるようにするための、いわば手ざわりの目印です。ここに指をそろえてから打ちはじめ、一文字打つたびに元の8つにもどす。この往復をくり返していると、自分の手のとどく範囲がだんだん体になじんできます。
最初のうちは、この置き方のほうがおそく感じます。人さし指1本でつつくほうが、その日は速いのです。それでも定位置から始めるほうがよいのは、1本指では上限がすぐに来て、そこから先に伸びないからです。10本の指に仕事を分けておけば、練習した分だけ速くなり続けます。1〜2週間はがまんの時期だと分かっていれば、途中でやめずにすみます。
ここが、ローマ字を習った人ほどとまどうところです。学校で習うローマ字の書き方と、キーボードでおす文字は、ぴったり同じではありません。ずれるのは次のような音です。
| 打ちたい字 | おす文字 | おぼえ方 |
|---|---|---|
| ん(本) | n を2回 → nn | 1回だと次の音とくっついてしまう |
| っ(切手) | 次の子音を重ねる → kitte | これはローマ字と同じ |
| ゃゅょ(写真) | sya または sha | y を入れるとねじれた音になる |
| 小さいぁぃぅ | 前に l または x | ぁ=la、ぃ=li |
| ー(ケーキ) | 右上のほうにある長音のキー | マイナスの記号ではない |
とくに「ん」でつまる人が多くいます。「にほん」を n・i・h・o・n と打つと、画面には「にほn」と出て、最後の字が決まりません。次に「が」を打つと、こんどは「にほんが」ではなく「にほなが」のように化けてしまうこともあります。「ん」は nn と2回おす。この一つを覚えるだけで、打ち直しがぐっとへります。
ねじれた音は sya でも sha でも、どちらでも「しゃ」が出ます。ローマ字の授業で習った訓令式が使えないわけではなく、キーボードのほうが受け入れの幅を広くとってくれている、と考えてください。自分の打ちやすいほうに決めて、いつも同じやり方で打つのがこつです。
打ち方の次は、変かんです。キーボードには漢字のキーがありません。では画面の漢字はどこから来るのか。ひらがなで打ったあと、コンピュータが出してくる候補の中から、自分で正しいものをえらんでいるのです。
手順は3つです。①漢字にしたい言葉をひらがなで打つ。②スペースキーを1回おす。③出てきた候補を見て、正しければ Enter で決める。ちがえばもう一度スペースをおして、次の候補に進む。
ここで大事なのは、②で出てくる一番目の候補が、いつも正しいとはかぎらないということです。「はやい」と打てば「早い」と「速い」が、「あつい」と打てば「暑い」「熱い」「厚い」が並びます。コンピュータは、あなたがどちらの意味で使いたいのかまでは分かりません。決めるのは打った本人です。だからこそ、変かんは国語の力そのものだといえます。同じ読みでちがう漢字を知っていればすぐ選べるし、知らなければそこで止まってしまいます。
もう一つのこつは、区切って変かんすることです。「きょうはあさからあめでした」と一息に打ってからスペースをおすと、思わぬ場所で区切られて直すのが大変になります。「今日は」「朝から」「雨でした」と、意味のまとまりごとに変かんしていけば、まちがいはその場で一つずつ直せます。
タイピングの練習というと、何秒で何文字打てるかを競うものを思いうかべるかもしれません。けれど学校で文章を書くときに効いてくるのは、じつは速さより打ちまちがいの少なさです。
1分間に60字打てても、5字まちがえて、そのたびに手を止めて消して打ち直せば、直しに20秒かかります。40字しか打てなくても、まちがいがゼロなら、そのまま書き進められます。作文の1ページを仕上げる時間で比べると、後者のほうが先に終わることがよくあります。
だから練習するときは、まず「まちがえずに最後まで打つ」を目あてにしてください。それができるようになってから、少しずつ速さを上げます。逆の順番――速さを先に上げてしまうと、まちがった指づかいのまま固まってしまい、あとから直すのに何倍も苦労します。
ときどき画面をたしかめる習慣も持っておきましょう。指もとばかり見ていると、一文まるごと変な字のまま進んでいた、ということが起こります。一文打ち終わったら顔を上げて画面を読む。この小さな区切りが、直しの手間を減らしてくれます。
端末を使う学習は、ノートに書くときとちがって、同じしせいのまま長く続いてしまいがちです。気づいたら30分たっていた、ということも起こります。
いすには深くこしかけて、背中をまっすぐに。画面は目から30センチ以上はなす。ひじは軽く曲げ、手首を机につけっぱなしにしないで、少しうかせます。そして20分ほど続けたら、いったん手を止めて、まどの外など遠くを20秒ながめる。目のピントを合わせる筋肉は、近くを見続けるとこりかたまってしまうので、遠くを見ることでゆるめてあげるのです。
これらは、はやく打てるようになるためというより、これから何年も端末を使い続けるための約束ごとです。今のうちに身につけておくと、あとがずいぶん楽になります。
n を1回しかおしていないのが原因です。
「ほん」は h・o・n・n の4回。ん は nn と覚えます。
候補の1番目は「よく使われる字」であって、「正しい字」ではありません。
意味を考えて、自分でえらんでから Enter をおします。
その日は速くても、数か月後に伸びなくなります。
おそくても、8つの定位置から指を出す打ち方に切りかえるほうが早く上達します。
Q1 打つのがおそい一番の原因は何でしたか。
A キーを目でさがしている時間(ローマ字を知らないからではない)
Q2 手ざわりの目印がついているキーは、どれとどれ?
A F と J(両手の人さし指の定位置)
Q3 「にほん」と打つには、どうおしますか。
A n・i・h・o・n・n(最後の「ん」は n を2回)
Q4 「あつい お茶」の「あつい」は、どの漢字をえらびますか。
A 熱い(暑い=気温、厚い=あつみ)
Q5 練習で先に目あてにするのは、速さと正しさのどちらですか。
A 正しさ(打ちまちがいが多いと、直す時間で結局おそくなる)
ローマ字の学習と、端末で日本語を入力する技能は、地続きのようでいて別のものです。ローマ字が書けるお子さんが入力でつまずいていると、覚えていないように見えてしまいますが、実際には指の運動をまだ習得していないだけ、という場合がほとんどです。まずそこを切り分けてあげてください。ご家庭でできることとしては、買い物のメモや家族への短い伝言など、目的のある短文を端末で打ってもらうのがおすすめです。練習用の課題文より、相手のいる文章のほうが、漢字の選び方まで自然と考えるようになります。速さを測るソフトは意欲が続きやすい一方、正確さを置き去りにして自己流の指づかいが固まることもあるため、はじめの1か月ほどは記録より「打ち直しの回数」に目を向けてあげると、その後の伸びがちがってきます。姿勢と目の休けい(20分ごとに遠くを見る)も、この時期に習慣にしておきたい点です。「ローマ字」の記事を先に読んでおくと、この記事の内容がつながります。