「きれかった」とは言えない ── 様子を表す言葉には、二つの組がある

この単元について

3年生の国語には、「様子を表す言葉」をあつめる勉強があります。うれしい、高い、しずかだ、きれいだ。人やものが「どんな」であるかをつたえる言葉たちです。

言葉あつめの単元に見えますが、ほんとうの中身はもう一歩先にあります。それは、様子を表す言葉が、じつは二つの組に分かれているということ。この組分けを知らないままだと、「きれかった」「ちがくて」のような、言いたいことは伝わるのにどこかへんな言い方を、気づかずに使い続けることになります。

2年生で「うごきをあらわすことば」を勉強したとき、見分けのカギは意味ではなく言葉の形にありました。今回もまったく同じ作戦でいきます。

様子を表す言葉のしごとは「どんな」

文の中の言葉には、それぞれ受け持ちがあります。「犬」「学校」のようなものの名前は「なにが」を、「走る」「食べる」のようなうごきの言葉は「どうする」を受け持ちます。そして様子を表す言葉の受け持ちが、「どんな」です。

立てる場所は二つあります。一つは名前の前。「赤い花がさいた」のように、名前をかざる場所です。もう一つは文のおわり。「この花は赤い」のように、文をしめくくる場所です。名前の前に立ったときのはたらきは、修飾語の勉強でならった「くわしくする言葉」そのものです。

二つの組 ── 「赤い」の組と「しずかだ」の組

ここからが本題です。様子を表す言葉を言い切りの形でならべると、おわり方が二種類あることに気づきます。

組言い切り「ない」にするときのうの話にすると
「い」の組赤い赤くない赤かった
「い」の組高い高くない高かった
「い」の組楽しい楽しくない楽しかった
「だ」の組しずかだしずかではないしずかだった
「だ」の組げんきだげんきではないげんきだった

「い」でおわる組は、しっぽが「くない」「かった」と変わります。「だ」でおわる組は、「ではない」「だった」と変わります。組がちがうと、形の変え方がまるごとちがうのです。かたちの変え方は、その言葉がどちらの家に生まれたかで決まっていて、とちゅうで乗りかえることはできません。

「きれかった」と言えないわけ

花火を見た次の日、「きのうの花火、きれかった!」と言ったことはないでしょうか。あるいは「この絵、きれいくない?」。聞いた人にはちゃんと伝わりますが、教科書や辞書は、この形を正しいとはしていません。

なぞをとくカギは、さっきの二つの組にあります。「きれい」は、最後が「い」の音でおわっています。だから「赤い」や「高い」の仲間に見える。ところが正体は「きれいだ」、つまり「だ」の組なのです。

ためしに、きのうの話にしてみましょう。「赤い」の組なら「かった」に変わるはずです。赤かった、高かった、楽しかった。ここに「きれい」を入れると「きれかった」。声に出すと、はっきりへんだと分かります。「だ」の組として変えれば「きれいだった」。こちらはすっとなじみます。「ない」も同じで、「きれいくない」ではなく「きれいではない」、話し言葉なら「きれいじゃない」が正しい形です。

同じわなを持つ言葉は、ほかにもあります。

言葉つい言いがちな形ほんとうの形正体
きれいきれかったきれいだったきれいだ(「だ」の組)
きらいきらくないきらいではないきらいだ(「だ」の組)
ゆうめいゆうめいくないゆうめいではないゆうめいだ(「だ」の組)
とくいとくかったとくいだったとくいだ(「だ」の組)

きれい、きらい、ゆうめい、とくい。どれも最後が「い」の音なのに、「だ」の組の言葉です。2年生のうごきの言葉では「最後の音がウの段なら、うごきの言葉」という見分けがつかえました。でも様子を表す言葉では、最後の音だけを見て組を決めると、この4つにだまされます。たよりになるのは音ではなく、形を変えてみたときのなじみ方です。

逆向きのわな ── 「ちがかった」

もう一つ、反対向きのまちがいもあります。「答えがちがくて、書き直した」「思ってたのとちがかった」。こちらもよく耳にする言い方です。

「ちがう」は、意味だけ考えると様子の言葉に思えます。「同じではない様子」をつたえているからです。ところが言い切りの形を見ると、最後は「う」、つまりウの段。「ちがう」は、走る・笑うと同じ、うごきの言葉なのです。だから形の変え方もうごきの言葉のやり方にしたがって、「ちがくない」ではなく「ちがわない」、「ちがかった」ではなく「ちがった」、「ちがくて」ではなく「ちがって」となります。

「きれい」は様子の言葉なのに「い」の組にまちがえられ、「ちがう」はうごきの言葉なのに様子の言葉あつかいされる。どちらのわなも、意味や音の見た目で組を決めたせいで起こります。決め手はいつも、形の変わり方のほうにあります。

組の見分け方 ── 三つの手順

ここまでの話を、いつでも使える手順にまとめます。

手順やること分かること
1言い切りの形にもどすくらべる土俵がそろう
2きのうの話にしてみる「かった」がなじめば「い」の組
3「だった」もためすこちらがなじめば「だ」の組

手順1の「言い切りの形」は、国語辞典の見出しと同じ形です。まよったら辞書を引けば、言い切りの形のほうから教えてくれます。手順2と3は、声に出すのがこつです。「きれかった」「とくかった」のようななじまない形は、目で見るより耳で聞くほうがずっと早く見つかります。

まちがえやすいところ

1. 「楽しいだった」 ── 逆にまぜてしまう

「だ」の組の変え方を「い」の組に持ちこむと、今度は「楽しいだった」「おいしいだった」が生まれます。正しくは「楽しかった」「おいしかった」。低学年の作文にとても多い形ですが、しくみは「きれかった」と同じで、組をとりちがえただけです。

2. 「ふわふわ」「ざらざら」はどっちの組?

さわった感じや音のひびきをうつしとる言葉は、じつはどちらの組でもない、また別の仲間です。「ふわふわかった」とも「ふわふわだった」とも言い切れないのは、そのせいです。この仲間のくわしい話は、2年生の「音やようすをあらわすことば」の記事にゆずります。

3. 話し言葉では聞くのに、なぜだめ?

「ちがくて」「きれかった」は、友だちとの会話では毎日のように飛びかっています。言葉はいつも変わり続けるので、遠い将来、これが正しい形になる日が来るかもしれません。ただ、いまの教科書・辞書・テストは、二つの組の変え方を正しい形としています。作文やテストでは組にしたがった形を使い、会話とのちがいに気づけていれば十分です。

作文が変わる ── 「楽しかったです」から出発する

遠足の作文が「楽しかったです。またいきたいです」でおわってしまう。だれもが通る道ですが、様子を表す言葉のもちごまがふえると、ここから抜け出せます。

気持ちをつたえる言葉には、「い」の組(うれしい・くやしい・こわい)、「だ」の組(むちゅうだ・ざんねんだ・ふしぎだ)、そしてうごきの言葉(どきどきする・むねがおどる)まで、いろいろな仲間がいます。「楽しかった」の一語でまとめていた気持ちを、どの組の、どの言葉なら一番近いかとさがし直す。それだけで、作文は読む人にとどく文に変わります。組分けは、言葉のコレクションを整理するたなでもあるのです。

他の学びとのつながり

国語辞典 ── 見出しは言い切りの形

辞書の見出しは、どの言葉も言い切りの形でならんでいます。「きれい」を引くと、意味だけでなく、この言葉がどう形を変えるかの手がかりものっています。組にまよったときのしんぱん役として、辞書はいつでも使えます。

英語 ── 組分けは国ごとにちがう

英語にも様子を表す言葉はありますが、big や red は、日本語とちがって形がほとんど変わりません。そのかわり、立てる場所のほうにきびしい決まりがあります。また、日本語の「すきだ」は「だ」の組の様子の言葉なのに、英語の like はうごきの言葉としてあつかわれます。同じ意味でも、どの組に入れるかは言葉の国ごとにちがう。この見くらべは、英語の勉強の大きな武器になります。

この先の学年へ

中学校に行くと、「い」の組は形容詞、「だ」の組は形容動詞という正式な名前でよばれ、形の変わり方を表にして勉強します。そのとき今日の二つの組を思い出せれば、新しい用語は名札が付いただけだと分かるはずです。

まとめ

言葉のまちがいは、でたらめに起こるのではありません。「きれかった」も「ちがくて」も、組のしくみを体が半分知っているからこそ起こる、おしいまちがいです。どこがおしかったのかが説明できたら、この単元は合格です。