3年生になると、国語で「ローマ字」を、英語で「アルファベット」を、だいたい同じころに習います。使う文字はどちらも a・b・c ……で、見た目はまったく同じです。ところが読み方はちがいます。ローマ字で「ka」と書けば「か」と読めるのに、英語の「cat」を「ちゃっと」と読んでも通じません。ここでつまずく人はとても多いのですが、理由が分かればこわくありません。二つは「同じ文字を借りている、別のしくみ」なのです。
まず、ローマ字が何のためにあるのかをはっきりさせておきましょう。
ローマ字は、日本語をアルファベットの文字で書き表すためのしくみです。書いてある言葉は、あくまで日本語です。「さくら」を「sakura」と書いても、読み上げれば「さくら」という日本語のままです。外国の人がローマ字の看板を見て「サクラ」と発音できるように、日本語の音を文字にうつしかえているだけなのです。
だから、ローマ字には大きな決まりがあります。母音(a・i・u・e・o)が、かならず「あ・い・う・え・お」と読めるということです。そして子音と母音がセットになって、「か・き・く・け・こ」のような一つの音を作ります。ka・ki・ku・ke・ko と並べれば、そのまま「か・き・く・け・こ」。とても規則正しく、一度おぼえれば、ほとんど例外なく読めます。国語のローマ字の学習が「表をおぼえれば書ける」と感じられるのは、このためです。
いっぽう、英語のつづりは、英語という別の言葉の音を書き表すためのものです。日本語の音を写しているのではありません。
英語には、日本語にない音がたくさんあります。しかも、アルファベットは26文字しかないのに、英語で使う音は40以上あるといわれます。文字が足りないので、同じ文字でも、場所や組み合わせによって読み方が変わることになりました。ここがローマ字と決定的にちがうところです。
三つとも a という同じ文字ですが、読み方は三通りです。ローマ字なら a はいつでも「あ」でしたから、この時点でルールがちがうと分かります。英語のつづりは「表をおぼえれば全部読める」ようにはできていません。少しずつ、言葉ごとに音とセットでおぼえていくものなのです。
ローマ字と英語のちがいは、ならべて見ると頭の中が整理されます。
| くらべるところ | ローマ字 | 英語 |
|---|---|---|
| 何を書いている? | 日本語 | 英語 |
| 習う教科 | 国語 | 英語(外国語活動) |
| a の読み方 | いつも「あ」 | 言葉によって変わる |
| 読み方のきまり | ほぼ例外なし | 例外が多い |
| おぼえ方 | 表でおぼえる | 言葉ごとに音でおぼえる |
大事なのは、どちらが正しいかではないということです。ローマ字は日本語用、英語のつづりは英語用。目的がちがう二つの道具が、たまたま同じ形の文字を使っている、というだけなのです。ドライバーとスプーンが、どちらも「にぎる棒の先に平たいものがついた道具」なのに、使いみちが全然ちがうのと同じです。
もう一つ、英語でつまずきやすいのが、文字の名前と、その文字が言葉の中で出す音がちがう、ということです。
ABCの歌でおぼえるのは、文字の「名前」のほうです。名前を知っているだけでは、言葉は読めません。c という文字は「シー」と名のるけれど、cat の中では「ク」と働く。この「名前」と「音」の二つを持っていることが分かると、「cat をシーエーティーと読んでも意味にならない」理由が納得できます。アルファベットの学習をした人は、まず名前を全部言えるようにして、そのあとで一文字ずつ「言葉の中でどんな音になるか」を足していくと、順番よく身につきます。
実さいに、ローマ字のつもりで読むと大きくずれてしまう言葉を見てみましょう。
| 英語 | ローマ字読みだと | 本当の読み方 |
|---|---|---|
| cat | ちゃっと/かと | キャット |
| like | りけ | ライク |
| name | なめ | ネイム |
| this | ちす | ジス |
| school | すちょおる | スクール |
とくにやっかいなのが、name や like のように、最後に e がついていて、その e は読まない形です。読まない代わりに、前の母音を「名前のほうの読み方(エイ・アイ)」に変えるはたらきをしています。これは英語だけのしくみで、ローマ字にはありません。「読まない文字がある」というだけでも、ローマ字とはまったく別ものだと分かります。
では、どうすれば頭の中で混ざらずにすむでしょうか。おすすめのやり方が三つあります。
その1 書く前に「今どっち?」と口に出す。ノートを開いたら、「これは国語のローマ字」「これは英語」と一言たしかめます。教科で切りかえると決めてしまうのが、いちばん簡単です。
その2 英語は、耳で聞いた音といっしょにおぼえる。英語の言葉は、つづりだけを目で見ておぼえようとすると、どうしてもローマ字読みをしてしまいます。先生の声や音声を聞いて、「音」を先に、「文字」をあとに入れると、まちがった読み方がしみつきません。
その3 自分の名前で両方をためす。たとえば「ゆうた」なら、ローマ字では Yuta と書きます。これは日本語です。英語の授業で「My name is Yuta.」と言うときも同じつづりを使いますが、まわりの英語の部分は英語のきまりで読みます。名前だけはローマ字のまま、まわりは英語。この一文があると、二つが同時に使われる場面がイメージしやすくなります。
ローマ字は日本語用、英語のつづりは英語用の道具です。
英語は「見て読む」より先に「聞いておぼえる」と直りやすくなります。
c は名前が「シー」でも、cat の中では「ク」の音です。
名前と音は別ものだと分けて考えましょう。
ローマ字は日本語を書くための正しいしくみです。
どちらもまちがっていません。使う場面がちがうだけです。
Q1 ローマ字は、何という言葉を書き表すためのしくみですか。
A 日本語(アルファベットの文字を借りて日本語を書いている)
Q2 cat・cake・car の a は、同じ読み方ですか。
A ちがう(英語では同じ文字でも読み方が変わる)
Q3 c という文字の「名前」と、cat の中での「音」を答えましょう。
A 名前はシー、cat の中の音は「ク」に近い音
Q4 name の最後の e は、どう読みますか。
A 読まない(代わりに前の a を「エイ」に変えている)
Q5 「ゆうた」をローマ字で書くとどうなりますか。
A Yuta(英語の文の中でも、名前はこのつづりのまま使う)
小学3年は、国語のローマ字と外国語活動のアルファベットを同時期に学ぶ、日本の教育課程ならではの学年です。文字の形が完全に一致しているため、子どもが「ローマ字読み」を英語に持ちこむのは、うっかりではなく、むしろ論理的にとても自然な反応です。ここで「ちがうでしょう」と否定してしまうと、せっかく身についたローマ字の規則性まで自信をなくしかねません。「ローマ字は日本語を書く道具、英語のつづりは英語を書く道具。どちらも正しくて、使う場面がちがうだけ」という言い方で切り分けてあげてください。ローマ字読みのくせは、中学以降の英語で発音とつづりの両方に長く影響することが知られていますので、この段階で「英語は音を先に、文字をあとに」という順番を家庭でも守るだけで、かなり予防できます。具体的には、教科書の音声やアニメの英語を流し、聞こえた通りにまねしてから文字を見る、という順番です。また、ご家族の名前をローマ字で書き、そのまま英語の自己紹介文に入れてみると、二つのしくみが同居する場面を実感できます。「アルファベットを言おう」の記事で文字の名前を、国語の「ローマ字」の記事で日本語側のきまりをそれぞれ確認しておくと、この記事の内容が両側からつながって定着します。読めない英単語が出てきたときは、無理に文字から音を推理させず、音を教えてしまってかまいません。英語のつづりは推理で解くものではなく、音とセットで少しずつ蓄えていくものだからです。