雨の 音を ことばに すると、どう なりますか。「ザーザー」なら 強い 雨。「しとしと」なら しずかな 雨。ことばを かえるだけで、雨の ようすまで つたわる。そんな ふしぎな ことばの 話です。
「ワンワン」「ガチャン」「ザーザー」。これらは、じっさいに 耳に 聞こえる 音 を ことばに した ものです。犬は 本当に ほえるし、おさらは 本当に 音を たてて われます。
では「ふわふわ」「きらきら」「ドキドキ」は どうでしょう。わたの「ふわふわ」に 音は ありません。星の「きらきら」も、耳では 聞こえません。これらは 目で 見た ようすや、心の 中の 感じ を、音の ように あらわした ことばです。
| しゅるい | あらわす もの | れい |
|---|---|---|
| 音を あらわす ことば | じっさいに 聞こえる 音 | ワンワン、ザーザー、ガチャン、ピンポーン |
| ようすを あらわす ことば | 見た ようす・さわった 感じ | ふわふわ、きらきら、つるつる、のろのろ |
| 気もちを あらわす ことば | 心の 中の 感じ | ドキドキ、ワクワク、イライラ、しょんぼり |
まとめて「オノマトペ」と よぶ ことも あります。むずかしい 名前ですが、フランス語から きた ことばで、大人の 本にも よく 出て きます。
だいじなのは、音が しない ものまで、音の ように あらわせる という ことです。「ドキドキ」した とき、心ぞうは 本当に 小さな 音を 出して いますが、「ワクワク」に 音は ありません。それでも、この ことばを 聞くと、楽しみに して いる 気もちが すぐ つたわります。
おなじ 雨でも、ことばに よって まったく ちがう 雨に なります。
すごい ことに、日本語を つかう 人なら、この 4つの 雨の ちがいが 説明されなくても 分かります。「ぽつぽつ ふって きた」と 聞けば、だれもが「まだ 弱い 雨だな」と 思う。ことばの 音そのものが、ようすを はこんで いるのです。
歩き方でも ためして みましょう。「すたすた 歩く」「とぼとぼ 歩く」「のしのし 歩く」「ちょこちょこ 歩く」。おなじ「歩く」なのに、いそいで いるのか、元気が ないのか、体が 大きいのか、小さいのか まで つたわって きます。
ここに、かくれた ひみつが あります。にごる 音(が・ざ・だ・ば)に すると、大きくて 重い 感じに なる のです。
| すんだ 音 | にごった 音 | ちがい |
|---|---|---|
| コロコロ(小さい ものが ころがる) | ゴロゴロ(大きい ものが ころがる) | 大きさ |
| サラサラ(かるい すな・かみの毛) | ザラザラ(あらい 手ざわり) | あらさ |
| トントン(かるく たたく) | ドンドン(強く たたく) | 強さ |
| キラキラ(星や 目が ひかる) | ギラギラ(強すぎる ひかり) | まぶしさ |
ビー玉が ころがるのは「コロコロ」、岩が ころがるのは「ゴロゴロ」。てんてん(だく点)が つくだけで、ころがる ものの 大きさが かわって しまう。音の ひびきと、ものの 感じが つながって いる ── これは 日本語の おもしろい しくみで、大学の 先生たちも 研究して いる テーマです。
じぶんでも ためせます。「かたかた」と「がたがた」、どちらの ほうが こわれそうですか。ほとんどの 人が「がたがた」と 答えます。ならった ことが なくても 分かる。ふしぎですね。
だく点の ほかにも、しくみが あります。おなじ ことばでも、くりかえすと「つづいて いる」感じ、「っ」で 止めると「一しゅんで おわる」感じ に なるのです。
かみなりを「ピカピカ 光った」と 書くと、なんだか ずっと 光って いる みたいで へんですね。一しゅんの かみなりなら「ピカッと 光った」。ことばの 形と、時間の 長さが つながって いる のです。
つまり、たった 2文字か 3文字の ことばの 中に、「大きさ」(だく点)と「時間の 長さ」(くりかえしか「っ」か)の 2つの じょうほうが つまって いる ことに なります。小さいのに、はたらきものの ことばです。
犬の 鳴き声は「ワンワン」。あたりまえに 思えますが、じつは くにに よって ぜんぜん ちがいます。
犬は 世界中で だいたい おなじ ように ほえて います。ちがうのは、その 音を どう 聞きとって、どう ことばに するか という、人間の 耳と ことばの ほうなのです。ニワトリも、日本では「コケコッコー」、英語では「コッカドゥードゥルドゥー」。おなじ 鳥とは 思えません。
そして 日本語は、この なかまの ことばの 数が 世界でも トップクラスに 多い 言語だと いわれて います。数千も あると いう 研究者も います。まんがの「シーン」(しずかな ようす)の ように、音の ない ことまで 音で あらわす のは、日本語の とくいわざです。
この ことばたちは、作文で こそ 力を 出します。つぎの 2つの 文を くらべて ください。
①「休み時間に、ボールで あそびました。楽しかったです。」
②「休み時間に、ボールが ポーンと はねて、みんなで キャーキャー いいながら 追いかけました。心ぞうが ドキドキ するくらい 走りました。」
①も まちがいでは ありません。でも ②の ほうが、その 場の 音や うごきが 目に うかびます。「楽しかったです」と 書かなくても、楽しかった ことが つたわる。これが 音や ようすを あらわす ことばの 力です。
つかう ときの コツは 2つ。
にっきを 書く とき、きょう 聞いた 音や 見た ようすを 1つだけ 思い出して、ことばに して みましょう。「せみが ジージー ないて いた」「プールの 水が キラキラ して いた」。それだけで、きのうと ちがう にっきに なります。
オノマトペ(擬音語・擬態語)は、語彙のなかでも子どもが最初に獲得し、最後まで使い続けることばです。低学年の作文指導では「楽しかったです」で終わる文をどう脱するかが定番の課題ですが、オノマトペは最も敷居の低い突破口になります。
おすすめは、日常会話でのクイズです。「今日の雨はザーザー? しとしと?」「このタオル、ふわふわ? ごわごわ?」と選ばせるだけで、感覚とことばを結びつける練習になります。
また、濁点で意味が変わる対比(コロコロ/ゴロゴロ)は、音と意味のつながりを考える言語感覚の入り口です。「どっちが大きい石?」と聞いてみてください。理由を自分のことばで説明できたら、りっぱな国語の学習です。